例の動画シリーズリスペクトです。
ぼざろ放送当時にちょっとだけ書いたものの供養になります。
ボーカルを探す。そんな『使命』を背負っていたはずの私は現在、階段下のスペースで一人食事をとっていた。
私の名前は『後藤ひとり』。天下不滅の陰キャ女子。ひょんなことから『結束バンド』という素敵ネーミングなバンドに加入した私は、バンドの完成のために残された最後のピース──バンドの華である『ボーカル』を務められる人材を学校で探していた。
しかし私は前述の通り『陰キャ』であり更には『コミュ障』なのである。そんな私がバンドの勧誘なんてできるハズもなく、こうしてこの学校という狭い世界の端っこにうずくまっているのである。
嗚呼、バンドに入ってバイトまでしても結局私は変わることができず、メンバーの足を引っ張っていき、荷物となった私は捨てられてしまうのか。いやもう既に荷物か。
そんなことを考えながら空になった弁当を眺めていると、頭上から楽し気な声が聞こえてきた。
「昨日カラオケ楽しかったね~」
「喜多ちゃんやっぱり
「それで
か、からおけ……ともだちと、からおけ……階段上の廊下に、私が焦がれてやまない世界の様相が見えるのだろう。
いや待て、今は光に焼かれている場合じゃあない。今、
その『喜多』なる人ならば『結束バンド』の穴を埋めてくれるんじゃあないか?
よ、よしとりあえず様子を見てみよう……と、椅子を積み上げて上階を覗き込む。
そこには三人のキラキラした女子生徒がいて、その中でも一際輝きを纏っているように見える少女がいた。もしかしてあの子が『喜多』さん?か、かわいい……。
「はっはっは、まあ色々あってね」
渋い声だった。
えっ今の誰の声???反対……には誰もいないよね?というか音源があの三人のいる方だし推定『喜多』さんが口を開いたと同時に聞こえてきたし、え、嘘。
「
「ね~」
目の前の女子たちはワイワイキャッキャと歩いていく。私の脳は未だに情報を整理しきれていない。だって──
「そんなに渋いかな?私としては普通くらいだと思っているのだが」
推定『喜多』さんの正体は、めちゃくちゃかわいくてギターが弾けて歌がうまく、その顔に反してありえない程にダンディーな声をした超人だったのだから。
(私のアイデンティティと脳が崩壊する──!)
パアン、と風船が割れたような音が廊下に響くのだった。
「──なんだ?」
「喜多ちゃん?どうしたの?」
「……いや、なんでもないよ。じゃあ、行こうか」
(あっいる……普通に座ってる……)
一旦回復した私は、とりあえず喜多さんの後をつけて彼女(もしかしたら彼?)が入っていった教室の中を覗き込んだ。
そこには次の授業の準備でもしているのだろうか、喜多さんが席に座っていた。いやそりゃそうだよね、声はすごい渋いけど華の陽キャ女子高生(多分)。超人さんも普通に授業受けるよね。
さて、声の特殊性はともかく歌がうまくてギターも弾ける、しかも歌はあの声からかわいい声にもなるとのこと。
正直想像もできないが、『ガールズバンド』である結束バンドの心強い戦力になってくれるだろう。
きっとこんな機会はもう訪れない、目の前にある『チャンス』をものにするのだ。「バンドのギターボーカルを探していてうちのバンドに興味ないですか!」、これだ、これで行くぞ!
「──君、一人かね?」
ハッと我に返ると、怪訝そうな顔で喜多さんがこちらを見ていた。しまった、バレてしまった。
いや好都合だ。『陰キャ』の私にとって会話のとっかかりとは最大の難関。それを向こう側から突破してくれたのだ、さあいくぞ。
バンドのギターボーカルを!
「バッ!!ギッ!!!ボッ!!!!」
「んなッ!?」
あっダメだ気合を入れすぎて奇声へと変わってしまった。これ以上ここにいたくない。
「ごっごめんなさい!」
「なっ、何を──!」
喜多さんが私を呼び止めている気がしたが、私はそのまま走って逃げた。
(一日で二つも黒歴史を更新してしまった)
逃げた先で私はギターを弾いていた。作ってしまった黒歴史を歌にすると、その落ち着いたメロディーはへなへなになった私の心をいくらか癒してくれた。
ちなみに二つと言ったが、一つはさっき喜多さんの前で奇声を披露してしまったことで、もう一つは音楽の話をしていたクラスメイトに話しかけようとして奇声を披露してしまったことである。
愚者は愚行を繰り返すから愚者なのである。
(はあ……ギタボどうしよう)
一通り弾き終わってため息をつく。ああホントにどうしよう。やっぱり無理でしたと二人に報告しなきゃいけないのか。
「──素晴らしい」
「ギャ!!」
油断しているところで後ろから声をかけられてまたもや奇声が出てしまった。愚者は以下略。
声のしたほうを振り向くと、喜多さんが私に拍手していた。
「さっき見たときは肥溜めで溺れかけてるネズミみたいに絶望した顔をしていると思ったが──感動したよ、君は二組の『後藤』くんだろう?敬意を表するよ、大した奴だ」
めちゃくちゃカッコいい声でめちゃくちゃ褒めてくれてる。この人いい人!
「もっと君の演奏が聴きたいな、他には何が弾けるんだい?」
「う゛あ゛っ」
うおっ眩し。めっちゃグイグイ来る。喜多さんの背中に光輝く何かを見た気がする。この陽キャ力の前では私など吹けば飛ぶ一枚の葉に等しい。
「と、言いたいところだが──私に何か用があるんだろう?」
「えっあっ自分のバンドでギタボを探しててその喜多さんギター弾けるって聞いたので」
我ながらすごい早口だ。ちゃんと伝わるか心配だけどとりあえずよく言えたぞ私。
「なるほど。しかしすまない、実の所を言うと私はギターが弾けなくてね」
「えっ?」
それから語られた衝撃の真実。なんと喜多さんはギターが弾けないらしく、バンドに入ったのもそこにいた先輩が目当てでギターを弾けると噓をついていたらしい。
弾けないというのも本当に何も知らないらしく、コードが何かもわからないとのこと。ぶっ飛んだ行動をする人だ。
「そういうわけだから──」
「あっでっでも、ここで諦めちゃったらずっと後悔しませんか」
うわなに説教みたいなこと言ってるんだ私。謝った方がいいなこれ。
「……なら、後藤くんが教えてくれないか?」
「えっ」
それから流れで私が喜多さんにギターを教えることになり、今日の放課後からライブハウスでバイトの後にレッスンを行うことになった。
なんか喜多さん、悪い人じゃないと思うんだけど圧がある気がして怖い、断れない。声が渋いからそう感じるのかな。
「──ああ、そういえば自己紹介をしていなかったね」
「うえ?い、いえ、喜多さ──」
喜多さんですよねと言おうとする私を遮り、喜多さんは自分の胸に手を当てる。
「私の名は『吉良吉影』。よろしく頼むよ、後藤くん」
偽名ってコト???
「……この辺なのかい、君のバイト先は」
「あっ来た事あるんですか?」
「私が前に入っていたバンドが『下北系』だったからね」
あっすごい偶然。バッタリ鉢合わせちゃったりして?流石にないか。
「それで後藤くん。君が前を歩いてくれないと困るんだが」
「あっこの街まだ慣れなくて恥ずかしくて」
「この状態を恥ずかしいとは思わんのかね。まるでケンタウロスじゃあないか」
大丈夫、喜……吉良さんの陽キャオーラに隠れて私はいないも同然だから。恥ずかしくないです。
「あっ場所は『スターリー』ってとこで、『虹夏ちゃん』と『リョウさん』がもういるはずぐぇっ!」
吉良さんの足が急に止まる。背中にぴったりくっついていたから思いっきり鼻がぶつかった。痛い。
「……なんて言った?」
「えっあっばばばば場所は『スターリー』ってとこでにににに『虹夏ちゃん』と『リョウさん』がボウッ!?」
鬼気迫る表情の吉良さんに私がビビり散らかしながら同じことを言うと、今度は頬をムギュっと掴まれる。痛……くはない。力加減してくれてる。
「すまないがやはり私は行けない。先輩方には──」
「『ぼっちちゃーん』!よくわかんないけど『エナドリ』たくさん買ってきたよ~」
あ、『虹夏ちゃん』がエナドリ抱えて走ってきた。友達たくさんの陽キャである吉良さんがバンド入りしやすいように、事前に私が「エナドリ片手に踊り狂いながらバイトしててください」と頼んでいたのでその為だろう。
「……ってあっ!!!」
「……ッ!!」
笑顔で私に駆け寄って来てくれていた虹夏ちゃんの表情が、吉良さんを見て驚愕に染まる。吉良さんも冷や汗がダラダラだ。ど、どういうこと?
「『
えっ逃げたギターって……。
「はわああああああっ!?ひ、人違いですぅ!!わ、私はしがない会社員です!これはギターではなく資料が入ったアタッシュケースですぅ!!!」
「いやどう見ても『喜多ちゃん」でしょ!?」
まずい、目の前の状況についていけない。私と同じくらい情けない声を出した後黙りこくった吉良さ……喜多さん?は、一瞬何かを考え込み。
「うおおおおおおおーーーっ!!!」
「あっこら逃げるなーーっ!!!」
ものすごい気迫の籠った声を上げながら駅の方に全力疾走した。喜多さん足速っ。
──と思ったら、
「何ィッ!?」
「……え?」
こけるにしてもあまりにも不自然なこけかただった。
まるで、
転倒というよりも喜多さんが
「
「さて」
困惑しながらも何故か立ち上がらない喜多さんに、虹夏ちゃんは腕を組みながらゆっくりと歩み寄る。
虹夏ちゃんの方をチラリと見た喜多さんは、今度は驚いた顔で……虹夏ちゃんをというより、虹夏ちゃんの横の何もない空間を見ているようだった。
「『話』、訊かせてくれるよね?」
「ぐっ……」
虹夏ちゃんが何やら喜多さんに詰め寄っていると、虹夏ちゃんの後ろから見慣れた顔がひょっこりと顔を出す。
リョウさんだ。
「あれ」
「……ッ!!リョ、リョウ先輩……!」
リョウさんを見た喜多さんがその綺麗な目を見開く。そして、堪らないと言った風に口元を抑えて、呟いた。
「──相変わらず美しい手と顔をした女だ……ッ!!」
「言ってる場合かァーーーっ!!!」
苦しそうながらも恍惚とした表情をする喜多さんに、虹夏ちゃんが盛大にツッコむのだった。
以上になります。続きません。ありがとうございました。