悪夢回避RTA(ライダー不在)inキヴォトス 作:紙になった男
明晰夢の中でその夢主である百合園セイアと出会って早一か月。彼女と偶然の会合以降、この身体が持つエージェントの素養、即ち夢潜入能力にも慣れて来た。
俺がこのキヴォトスで生きていけるのか不安があったが、それも杞憂であったようだ。というのも、この肉体はキヴォトス人には劣るものの、腐っても高い実力を持っていた原作スリーの能力に勝るとも劣らないスペックをしていることが発覚したからだ。
まず、射撃戦や近接戦闘技術。これは絶海の孤島で対人戦の訓練しようが無かったから、現状俺(あとセイア)のみができる特殊な方法で確認することにした。
「ぐ、がっ、やべ……で……ぐれ……っ、だの、む……っ」
「……そうか。キヴォトス人の中でも生徒は特に固いが、やはり気管支や五感の作りは人間と同じか」
「淡々と首絞めや窒息をさせて制圧するの、止めた方がいいんじゃないのかい……? 率直に言って怖いよ……」
「ああ。一対多の戦いではこの戦法は不適切だからな。人数差がある時恐ろしいのは分かる。そこは今後考えておこう」
(駄目だこの大人。目を離すとエライことしそう……)
軽犯罪を起こしたスケバンやヘルメット団たちの夢の中に潜入し、戦闘訓練を繰り返すうちに対キヴォトス人の無力化の方法は大体覚えることができた。一緒に着いて来たセイアは何故かドン引きしていたが。そこらへんにある水溜まりや噴水に生徒の頭突っ込んで溺死にならないように気を使っているのだが、絵面が酷すぎたか……。でも生徒相手だと現状これ以外、有効打が無いんだよな、俺。ヘイロー防御で銃弾も効きづらいし。
ちなみに住人が寝静まった目撃者が誰もいない夜中、ヴァルキューレ警察の門前にボコボコにされたスケバンやヘルメット団員が両手両足を縛られて出現する、という
次に、情報処理能力や計算能力、計画立案能力などの頭脳労働の適性だが……。
「……いやワンオペでここまで出来るのは凄まじいな。組織経営の案がスラスラ出て来るとかどうなっている」
生前も頭は良い部類だったけど、異常なレベルにスペックが引き上がっていた。このCODEという組織を運営するためだけに造られた器とか言われても違和感ないぞ。おまけに眠っていても夢の中での活動に切り替えれば、ブラックケースを用いて夢の中で書いた書類やデータは現実に反映させられるし、やっぱり便利だな明晰夢の力。
「まぁ、頭の出来の良さは学生が国家運営してるようなキヴォトスだし、そんなこともあるのか……」
そして最後に、一週間に一回できる十連カプセムガチャの結果である。精神力が一定以上ならば引ける原典と同じ仕様だが、俺の場合はどうやら制約があるらしい。この一か月で出たものはこんな感じ。
★★★エクストラカプセム×3(凸強化済)
★★★アドバンスカプセム×1(NEW)
★★ショックカプセム×4(NEW・凸強化済)
★★パニックカプセム×5(凸強化済)
★★クリアカプセム×6(凸強化済)
★★イレイスカプセム×5(凸強化済)
★ブレイクカプセム×17(凸強化済)
★コードカプセム×19(凸強化済)
インパクトとかのベーシックタイプは別のゼッツピックアップガチャかよ……。渋いな。おのれ乱数の女神。
「だが、凸強化した後に残るこのヴォイドカプセム。これは夢の力を封じ込める機能がある。今度生徒の夢に潜入した時には、神秘か恐怖のエッセンスが手に入るかも試してみるか?」
空になったカプセムを机の上で転がして、考える。上手くいけば、ゼッツ系列のカプセムに似た力も確保できるんじゃないか?
「……それに見たこともないカプセムも出たしな。これ、本来はパニッシュのカプセムじゃなかったか?」
ここ一ヶ月でも一個しかゲットできなかったソレ、『アドバンスカプセム』。エクストラカプセムなどのインヴォークシステム用の武骨な外見のカプセムに、内部のドット絵の亜人もロード系。このアドバンスカプセムとやらはどんな夢の力を司っているのだろう。コードフォン(独自改造済)のカプセムリーダーを使って……と。
『アドバンス。使用者の能力を拡張するカプセムだ』
うーん、封入された概念が漠然としているなぁ。排出率と比べて使い勝手悪い……か?
「……このカプセムについては後回しだ。今の問題は俺がコレを使って何処まで戦えるかだ」
俺は、片手に『ナイトインヴォーカー』を持って、地下にある特設戦闘シミュレーションルームへと歩を進めた。
だだっぴろい空間に辿り着くと、近くにある柱にコードフォンを引っ掛け、ダブったエクストラカプセムの内一つを装填する。特設と頭に付くのは、この部屋で戦闘シミュレーションができるような設備はないからだ。
【エクストラ】
その為、戦闘訓練用仮想敵を呼び出す必要があるのだが。俺は実体のある立体映像を投影できるプロジェクションカプセムなぞ持っちゃいない。ましてやカプセムぶっ壊して中に封じられた怪物を解き放つのも無駄だ。ではどうすれば良いのか。
当初はこのことで頭を捻っていたが、TVでロードスリーがロードスリーブースターに変化した時のことを思い出した。アレはエクストラカプセムにノクスの反骨精神を吸収して変化させたと説明されていたが、もしかして本質は違うんじゃねーのか? と思い至った。
エクストラカプセムの判明している能力は、『エネルギービーム状の矢を放つ』能力。『光の矢で殺害した人間の遺体を現実からも液体化させて消滅させる』能力、そして『エクストラカプセムがロードブースターカプセムに変化させる』能力……。
……これ、もしかしてだが。俺の使うエクストラカプセムは、その特別な夢を司るという特殊性から、
そう思った俺は、テクノロム系精神エネルギーを幾らか夢の中の生徒から拝借し、ダブったが凸強化しなかったエクストラカプセムにちまちま注ぎ込んでみた。
【エクストラ!】
俺の目の前に、仮想敵となる実体保有映像『エクストラメタマテリアム』が出現した。
「……神秘の濃度もそのままに再現できるのは恐ろしいな。流石は夢の力だ、何でもありか」
トリニティ総合学園、アビドス高等学校の桃色髪の生徒達を模した『エクストラメタマテリアム』が、俺に銃を向けて来る。
【ナイトインヴォーカー】
戦闘訓練相手としては最上位だが、十分だ。
【エクストラ!】
それくらいでなければ、特訓の意味がない。
【オ・オ・オンユアマーク オンユアマーク】
「擬装」
【インヴォークナイトシステム】
身体能力や夢の能力が過剰に強化され、紫色の炎が身体から立ち昇る。
【エクストラ】
擬装完了。今の俺の姿はノクスナイトに近しい。分かりやすく言うならば、ナイトインヴォーカーを装備し、肩アーマーとマントの無いロードスリーだ。
「ノクスナイトエクストラ……いや、ナイトスリー。これより実地戦闘の検証実験を始める」
ZZZ
(……ここは?)
百合園セイアは、またもや明晰夢の中に潜入してしまっていた。だが、今日見る夢は何処か違う。
(空が、赤い……いや違う。これはキヴォトスの空じゃない。ここは、月……か?)
欠けた赤い月の大地の上を歩くセイア。月面の所々に、何処へと繋がるかもわからない扉が置かれていた。扉だけが佇む異様な空間に、さしもの百合園セイアとはいえ、思わず二の足を踏んでしまう。
スプーンで抉られたかのような月の地表に足を取られた。
(うっ……、しまった!)
躓いた彼女が赤い地表を滑り落ちていく。
「うぐぐっ……。この歳になってでんぐり返りで目を回すとは……む?」
尻もちをついたセイアは、周囲を見渡した。そこは、七つの歪んだ座席が鎮座する奈落の底。
「これは……一体」
邪悪な七玉座の奥には、同じ数の白い扉が付き従うように置かれている。女が胸を抑えた彫像がドアに備え付けられた、奇妙で不気味な白い扉だった。
「!」
ぎぃぃぃぃ……とひどく軋んだ音がする。突然、扉が開いたことで、セイアは咄嗟に赤い岩肌の影に隠れた。
『フフフフフ……』
『あははっ!』
『チッ……』
『ふん……』
『ククク……』
『あらあら……』
其処から現れたのはキヴォトスには存在しえない、
彼女らは、円を描くように対面する玉座に腰を下ろした。七つある椅子の内、一つを残して。
『……おい。
『クヒッ、
『……意外だな、
『勘違いするなよ、
『あら……でしたら、次にここから消えるのは
『へっ?
『簡単なことですよ、ねぇ
デス、イグノランス、ルナティック、リベリオン、アドバンスと呼ばれた異形の怪人たち。そして……。
『ええ。過去を否定したキヴォトスは、次にすべての者が辿り着く未来……死を否定する。永遠に醒めない青い春を続ける為に。滑稽な話ね。そんなものは私の裡にある幻影に過ぎないというのに』
ファントム。
『……ねぇ、貴女もそう思うでしょう。セイアさん』
女道化師のような桃色の怪物は、どこか
……そして、百合園セイアは悪夢から醒める。
「……、あの怪物。まさか」
ZZZ
(あの夢は、予知夢ではない……だが、だとすると明晰夢か? いや、何か……あの夢は何かが違っていた)
花園の中にある茶会の場。百合の花の間を、何匹もの紫の蝶が飛んでいる。
「おっまたせ~、セイアちゃんナギちゃん♪」
慌ただし気に卓に付く桃色髪の天使の生徒を尻目に、百合園セイアは口元を押さえながら思考を巡らせていた。
「あら、どうかしましたかセイアさん。顔色が優れないようですが……」
「————ああ。少し夢見が悪くてね」
セイアの向かいに座った、薄緑の髪色をした少女がカップをソーサーに置いて、口を開いた。
「そうですか。ご自愛くださいね。ではセイアさんを引き留めるわけにはいきません。この度のお茶会はミカさんとさせていただきます。それでは……
「……そうだね。ではまた会おう、
「え~、セイアちゃんっていっつもそうだよね」
ぶーぶーと頬を膨らませるミカと呼ばれた少女への対応もそこそこに、百合園セイアは歩きだす。
「……ああこれは、なんとも。悍ましいほどの、惨酷な悪夢だね……」
ユメが永い眠りに就く時、
セイアに声をかけて来た怪人、一体何者なのだろうか……。
???「どうも、安堂サユリです」
スリー「CODEにいました?」