最新話の方書き上がりましたので投稿させていただきます。
アレから数日程経った本日の、長い長い午前の授業をなんとか乗り越えた昼休み。僕は教室の自席にて昼食に手を伸ばしていた。
「今日は何食べてんの?」
「
同性のクラスメイトこと大沼
「いつもそんな感じだよな」
「まあ、ね。一番手軽だなと思いまして。そっちは何食べんの?」
「カロリー○イト」
「大沼も大概じゃん」
何食べてるのか聞き返したらバランス栄養食のお名前が飛んできました。うーん、君の食事も結構簡単なやつだよな? 摂取エネルギーに関しては僕のよりも良いかもしれないけど。
「結構うまいんだこれが。因みに今日のこれはバニラ味」
「昨日のは?」
「フルーツ」
「そうか……」
昨日も食べていたなとか思って聞いてみたら、味違いを昨日も食べていたそうで……あれ、大沼ってカロ○ーメイトジャンキーな節あったかな……?
「前の人、席借りるねー」
どこかへ行ってしまっている僕の前の座席の人に断りを入れながら椅子を借りる大沼。うん、それ多分聞こえてないよ。まあ今は空いてるし大丈夫か。大沼も他人の物盗ったりとか絶対しないし。
「変なこと聞いても良い?」
「なんだ?」
「推しから認知されるって、どう思う?」
懐から取り出した箱を開ける大沼へと問うてみる。敢えてアイドルの追っかけをしている彼に聞いてみることで、僕の現状がどうであるかを洗おうって魂胆です。さあどうなるかな。
「えー、場合にもよるよな。とりあえず、大罪で良いんじゃね?」
「だよなー……」
彼の解答に項垂れつつ同調していく。うん、やっぱそうだよね。大罪だよね。汝、罪ありきってことだよね。
「なんかあったん?」
「んにゃ……ただSNSでそんな書き込みしてる奴がいたからどうなんかなって思って」
「なるほどね」
納得したように頷く彼から視線を手元へと戻し、おにぎりを頬張る。これは鮭フレークを包み込んだだけの簡単おにぎり。いい感じにしょっぱくて美味しいですね。
とか何とか思ってたら、卓上に置いてあった携帯の画面が灯り、通知を知らせてくる。
「メッセ……?」
普段はあまり入ってこない通知に訝しみながら携帯を手に取り、メッセージを開いてみる。なになに……『今日カフェで会えないかな?』と、カフェで待ち合わせできないかとの連絡みたいですね。誰から?
徐ろにルームの名前を見て驚愕する。そこには四文字、『三角初華』の表記が。推しからの連絡じゃんこれぇ!?
「どったん八雲?」
「いや、何でもない……」
目の前の大沼から問いかけられ咄嗟に首を横に振る。こんなん口が裂けても言えないよ。しかもあの問いを投げた直後なんだから……あー、何て返事しよう。推しに対しては『はい』か『YES』しかないだろ。詰まるところ、今日の放課後はあのカフェに赴いて三角さんと対面するしかないってこと……? 死ぬしかないじゃない!
「そう。もし、なんか悩んでるならいつでも聞くぞ?」
「……大沼って、良く人たらし言われない?」
彼の返しを聞き、ふと脳裏を過った事柄を口に出す。何気なく人に優しくできてるのは間違いなく才能だろうけど、同時にコロッと落ちる人も多そうだよなって思っちゃって……今更になって悪いことを言ったなとは思う。
「いや、全然。なんなら八雲に初めて言われたけど」
「そうか……いや、なんかマジでごめん。変なこと言ったわ」
「気にせんよ。それよか早く食わんと時間なくなるんじゃない?」
「確かに」
時計を示しながらの大沼の言葉に頷きながら食事の続きをする。さて、今日の放課後はいよいよ僕の墓石が立つことになるか、はたまた磔にされるのか……個人的には第三の択として断頭台送りにして欲しいけども。
そんなことを考えているうちに、昼休みは過ぎていくのだった——
放課後。件のカフェに足を運んだ僕は、通された窓際の席で外の様子を眺めていた。あまり人の往来が無くて静かだなこの道。そこそこ広いのに。なんか学校の近くにもそんな道あったよな……何て言ったっけ、早大通りだったか?
「お待たせ響夜君」
考え事をしている最中、名前を呼ばれたことで意識を現実へと引っ張られ、顔を上げた。するとそこには麗しき我が推しのお姿が。はぁ……また推しとプライベートで会ったよ僕。良い加減に誰か僕のことを処してくれないかな。これ以上罪を重ねる前に、さ。
「三角さん……いえ、僕も今し方来たところなので」
首を横に振りながら応答していく。長々と待ちましたとかね、推しに対しては口が裂けても言えないね。大沼とかだったら言ってるかも。ごめん大沼……。
内心にて本日二度目の友人への謝罪をしていく僕の手前、鞄を下ろした三角さんが対面の座席に腰を下ろす。こっからSAN値がゴリゴリ削れていくお時間かなこれは。というか三角さん制服姿だね。推しの制服姿とか見ちゃって良いのかな? 普通に目潰し案件だと思うけども。あれ、というか三角さんの着てる制服って……え?
「どうかした?」
「あ、いや……その制服って確か、花咲川でしたっけ……?」
とてもとても見覚えのある制服を目にして、思わず問いかけてしまう。個人情報だからあまり聞いてはいけないのでしょうけども、聞いちゃった……好奇心なんとやらだよ。それはさておき八雲ぉ、極刑ZOY☆
「そうだよ。良く知ってるね」
「あー、えと、近隣の学校に通ってるので……」
「そうなんだ。どこの学校通ってるの?」
知ってる理由を答えたら、どこに通ってるかを尋ねられました。知ってしまった以上、こちらも教えねば無作法と言うもの……情報の開示を行って、出力の底上げをしなきゃ。
「あ、えと、音羽学院ってところなんですけど……」
「音羽なんだ。本当に近くだね」
僕の返答を聞き納得した様子の三角さん。どうやらご存知だったようだ。良かったと言うべきか、そうでは無いというべきか。そして。図らずも推しの通う学校を知ってしまったわけでして。本当にどうしましょう。
「どこかのタイミングで会ってたりしてね」
「無きにしも非ず、じゃないですかね……ハハハ」
位置関係を理解してしまった結果、無いと断定出来なくなってしまい曖昧な返答をしてしまう。一般オタクにその台詞は荷が重いって……否定材料も奪われちゃってる状況だから余計にね。
「それで、その……今日はどう言ったご用件で?」
「あ、そうそう」
恐る恐る尋ねてみると、何かを思い出した様に三角さんが鞄の中を漁り始める。な、なんか出てくるの? 何が出るの? 何だろうこの、胸が騒つく感じは……。
固唾を飲みつつその様を眺めていると、鞄から取り出したものをこちらの前に差し出してきた。ふぇぇ……?
「これ、は……?」
彼女が差し出してきたのは、一枚の長方形の用紙。
「今度やる知り合いのライブの関係者席のチケット」
「三角さんの知り合いのライブですか……何故それがここに?」
状況がよくわかっていない僕は率直な疑問を三角さんへと投げた。物の正体は分かった。では何故それが僕の目の前に置かれているのだろうか。これが分からない。
「私の代わりに行ってもらえないかなと思って」
「代わりに、ですか?」
三角さんの口から飛び出した言葉を繰り返す。代わりってどいうことぉ……三角さんの代わりが務まるような人間じゃ無いのですが一体……。
「私この日用事があって行けないんだよね……」
「そうなんですか。でも、三角さんが頂いたものですし……」
理由を示してくれた三角さんに対してそれっぽい理由で食い下がる。流石にね、おいそれと受け取るわけには行かないっすよ。ええ。だって今の話聞いてる限り、三角さんのお知り合いが三角さん宛に渡して来たチケットじゃん? それを第三者兼一般人類が受け取るなんて
「そこは大丈夫だよ。チケットくれた人に相談したら、私の知り合いを呼んで良いって了承を貰ったから」
「そう、でしたか」
謎の自問自答をしていたら、反論の余地のない返しが来ました。サレンダーします。勝てません。これはもう、さ……大人しく誘いを受けるしかないよね。はい。
「ということなんだけど、どうかな?」
「折角の三角さんからのお誘いですから、行かせていただきます」
「本当? ありがとう」
そう言って笑みを返してくれる三角さん。それを見て僕は心臓を掴まれたような感覚に陥る。死にそう……いや死んだ。間違いなく今一回乙った。あと二回乙ったらクエスト失敗だね。まずいまずい。気を取り直して……推しの前で気を取り直すってどうしたら良いの? 教えて偉い人。
「じゃあその日、宜しくね」
「はい……何頼もうかな」
三角さんの言葉に頷き差し出されたチケットを厳重に仕舞い込んだ僕は、卓の端に置かれたメニューに手を伸ばす。実はまだなんの注文していなくて……お店には悪いと思いつつ、三角さんが来るよりも前に何かを頼むって気にもなれなかったんですよ。
「まだ頼んでなかったの?」
「ええ。三角さんがいらしてからの方が良いかなと思って」
「そっか。あ、私にもメニュー見せて?」
「はい」
そう言われて手にしたメニューを互いが見えるよう、二人のちょうど真ん中位の位置で開く。その結果、三角さんと引っ付きそうな所まで距離が縮まる。ヒィンッ……か弱いオタクには火力が高すぎるよ……あ、なんか甘い香りが……誰かー、コイツ処刑してー!
「この前響夜君が頼んでた紅茶にしようかな。アッサムだったっけ?」
「アッサムですね。僕はカフェ・オ・レと……このハニートーストを頂いてみようかな」
「いいね、ハニートースト。じゃあ注文しちゃおうか。すいませーん」
推しとの距離の近さに困惑している間に注文するものが決まっちゃいました。あまりにも早い決定、色々見逃した。そしてまた推しに店員さんを呼んでもらってしまった。はいはい
「お伺いします」
「アッサムティーをホットで一つと、カフェ・オ・レと、あとハニートーストください」
「アッサムティーのホットがお一つと、カフェ・オ・レがお一つと、ハニートーストがお一つでお間違い無かったでしょうか?」
注文を繰り返してくれた店員さんに対して頷き返す僕達。あれ、これ前回もやらなかった? 気のせいじゃないよね? こういうのを天丼って言うのかな?
そんなことを思っていると、「少々お待ちくださいませ」と言い、これまた前回同様に綺麗なお辞儀を店員さんが見せてくれて……ああ、やっぱ前回も見たなこれ。このお辞儀に魅入ったの覚えてるもん。
「甘いの好きなの?」
「そうですね。辛党より甘党かなって感じで」
「そっか」
こちらの言葉に頷いてから窓の外へ視線を向ける三角さん。はす向いた位置から眺める御尊顔……国宝級だね。そしてなんだろう、こう……心なしか、三角さんの表情が楽しそうに見えるんですよね。
「何か、良いことでもありました?」
「へっ?! そう、見える……?」
「なんか、少し、上機嫌というか……そんな風に見えました」
自身の感じた物を正直に述べていく。普段イベントで目にする時よりも、楽しそうだなって思っちゃったんですよね。ええ。ただのオタクの戯言ですね。失礼致しました。
「最近、さきちゃん……昔の知り合いから連絡があってね。その子と会う機会が増えたからかも」
「そうだったんですか。良かったですね」
返答してくれた三角さんの瞳は、時たま感じる憂いは鳴りを顰め、反対に嬉しさが湧き出していた。三角さんは余程、今お話に上がった知り合いの方とのやりとりが嬉しいのだろう。推しにそんな感情を抱かせ、目の前にある眩い表情をさせる人物がどんな人なのか気になってしまったよ。もっとも、推しのプライペートの話になってしまうから、深入りするつもりもないけどね。
「お待たせ致しました」
思考の最中、この卓へとやってきた店員さんの声で現実へと引き戻される。そんなに時間経ってないと思うんだけど早くないでしょうか? しごでき過ぎませんか?
「アッサムティーのホットと、カフェ・オ・レ、ハニートーストになります。ご注文以上でよろしかったでしょうか?」
「「はい」」
僕らが頷いた後、「ごゆっくりどうぞ」と言い残して卓の前から去っていく店員さん。うん、所作に無駄がないね。すごいよ。目に入れても痛くないとはこういうことを言うのだろうか? 違うか。
「アッサムティー、とても良い香り」
店員さんを見送った僕が視線を前に戻すと、ポットからカップに紅茶を注ぐ三角さんの姿が。紅茶を注ぐ三角さん、とても
ここのは厚切りにした食パンをベースに作ったものらしく、バニラアイスと蜂蜜を添えた分厚いハニトーがお皿の上に二切れ乗っている。いざ、実食といきましょうか。
飲み物などと一緒に運ばれてきた入れ物からナイフとフォークを取り出した僕は、左に持ったフォークでハニトーの一切れを抑え、右手に持ったナイフで切り込んでいく。
すると、端の方である耳の部分はサクッ、という音を立てたかと思えば、中心部ではモチモチとした感覚になっていくではないか。ああ、これは絶対に美味いやつだな。
ほぼ確信に近い感想を持ちつつ、切り分けたハニトーにアイスを
途端口の中に広がるハチミツとバニラアイスの甘さと、芳醇なバターの香り。そしてそれらに遅れてやってくるトースト本体の柔らかな食感と、耳のサクサクとした食感。ああ……控えめに言って美味い。何だこれ。考えついた人は天才か? 何でもいいから賞を贈ってあげたいレベルだよ。
「ハニートーストそんなに美味しいの?」
ハニートーストの余韻に浸っていると、対面の三角さんから問いかけられる。どうやら表情にまで滲んでいたようです。いや本当それぐらい美味しいのよこれ。
「とても美味しいです……いや、下手したら美味しいなんて言葉では収まりきらないかもしれない。それぐらい、美味しいです」
三角さんへ返答を投げた僕。返答してから思うけど、言ってること無茶苦茶だなぁ。『美味しい』で表現できないって言ってるのに締めの言葉が『美味しい』の時点で矛盾していないだろうか? やはり語彙力を磨かねば……。
「へー。少し貰ってもいい?」
「構いませんよ……あ」
三角さんの言葉に頷き返したところで、フォークが無い事に気が付く。ヤバイヤバイヤバイ。三角さんに渡す方法がナイナイしちゃってる。どうしましょうこれ。店員さんに頼んでフォークもう一つ貰うか……。
「フォーク頼みますね……」
「あ、全然それでいいよ?」
「え゛っ?」
フォークを貰おうと思ったらトンデも無い発言を貰いました。僕が今使ってるこのフォークで良いって言ったんですかこのお方? 嘘でしょ? 嘘だと言ってよバーニィ……。
「貸して?」
「え、あ、はい、どうぞ……」
戸惑いながらもフォークを手渡してしまった僕。馬鹿野郎ーッ! 八雲ぉ、何をやっている……ふざけるなぁ! 粉バナナと叫びたいよ本当……。
とか何とか思っていると、向かい側の三角さんがこちらの渡したフォークを使ってハニートーストを食しに掛かってました。
「あ、本当だ。凄く美味しいね!」
「甘くて美味しいですよね」
彼女の言葉に頷きながら応答していく。三角さんの方からも美味しいのお言葉いただきました。ありがとうございます。推しの口から絶賛の声いただけましたのでね、僕の味覚が狂っていないことも証明していただけましたよ。ええ。だから何って話なんだけども……さて、と。アレ、どうしようか。そのまま使う? そんなことできないが?
これは、ほぼ確で、詰んだもん。困りました。本当に困りました。取り敢えず一旦回収した方がいいかな?
「もう一切れ……貰っても、いいかな?」
「え、ああ、全然全然」
「ありがとう!」
フォークを回収するかどうかを考えていたら、三角さんがまだ食べて良いかと尋ねて来ました。あ〜、ちょっと上目遣いみたいな聞き方されちゃって僕は死にました。なしてそんなことをするんですか。正直なところ、本当にありがとうございます。
「はい、響夜君」
感謝の念に駆られていると、使い終わったフォークがこちらへと差し出されていた。返ってきたね。どうしよっか……これで食すのは普通に自害案件。本当にどうしようかな。
受け取ったフォークを暫し弄びつつ、どうするかを考えていたところ、不意に手元が狂ってフォークが手からすっぽ抜け、床へと落ちてしまう。何やってんだお前ー!?
「あー……失礼しました。お見苦しいところ」
「ううん。それより大丈夫? 新しいの貰おうか」
対面の三角さんに謝罪したたころ、とんでもイケメンムーブが返ってまいりました。ああ三角さん……麗しや。じゃないのよ。もっと恥じろよ。これだから八雲君は……三角さん本当に気配りが上手だよ。もう店員さんに新しいフォーク頼んじゃってるもん。
「すみません。ありがとうございます」
「気にしないで」
首を横に振りながら応答してくれる三角さん。推しの心遣いが染み渡る。叫びたいよ、僕の推しはこんなにも優しい人なんだって。本人がそれを望んでいなかったら迷惑にあたるのでやめましょう。
なんて考えている内に店員さんが新しいフォークを持ってきてくださったので、ハニートーストの続きを堪能することにした。推しと、談笑しながら——
今日も今日とて生きた心地のしなかったカフェでの時間を終えた僕は、三角さんと別れ自宅を目指していた。そして今は自宅の最寄駅から出た所です。
「どうやって自害いたしましょ……」
己の処し方を考えつつ歩みを進める僕であったが、ふと貰ったチケットのことで確認していないことがあったのを思い出し、鞄の中を漁っていく。
「この辺りに……あったあった」
厳重に仕舞い込んでいたそれを取り出した僕は、評価されている事柄に視線を落としていく。……実はアーティストのお名前を確認していなかったんですよね。おバカ。一番最初に見るべきところだろうが。最も、推しの前で正常な思考判断ができていなかったって所もあるんだけどさ。それで、アーティスト名は……あったあった。何々……?
「Ave……Mujica……?」
アーティスト名を読み上げた僕は、思わず固唾を飲んだ。歯車と三日月を組み合わせたようなどこかおどろおどろしい雰囲気の紋様と共に記された『Ave Mujica』の文字に気圧されるように。