日常は永遠には続かない……それは突然、終わるものだ。

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リトーノ・インプロッヴィサメンテ

「……延着か」

 俺―――綾坂壮介は駅の電光掲示板に表示されている赤文字の延着という字を見た途端にさっきまで学校へ行く気満々だったのがガクッと行く気がなくなってしまった。

 何の因果かは知らんが進学する場所に選んだ高校がなんと大阪にあるものを選んでしまい、泣く泣く俺はそこに入学して毎日、2時間かけて学校へ電車で行っている。

 数分電車が遅れるだけで学校へ着くのが10分以上遅くなってしまう。

「……別に休んでもいい回数だし……休むかっと、すみません」

 そう決めて振り返ろうとした時に人とぶつかってしまい、一言謝るが相手は俺の方など一瞬も見ずに何かに怯えた様子でフードで顔を隠しながら階段を下りていった。

 なんだ? 何であんなにキョドってんだ……ま、関係ないか。

 そう思い、近くのファーストフード店に入り、空いている席にカバンを置き、ドリンクだけを頼んでそれを受け取り、席に座るとなんか罪悪感のようなものが出てきた。

 初めてのサボりか……ま、両親は学校に関しては全くの放任だし、サボっても面白くもなさそうに聞き流す人だからまあ、連絡が行っても特に問題はない……問題は自分自身か。

 チュ~っとジュースを吸いながらボケ~っと窓から外の様子を眺めるがさっきからスーツを着たサラリーマンやら学生、犬の散歩をしているおじいちゃんくらいしか人間はいなかった。

 変わらない毎日……朝の5時30分に起きて朝飯食って歯磨いて服着替えて、それで財布とスマホ、定期をポケットに突っこんで学校指定のカバンを持ち、ガラガラの快速電車に乗って乗り換え……ま、面白くないっちゃ面白くないんだろうけど平和なだけマシか。

「せめて彼女いれば180度変わるんだろうな~」

 ふと、窓に薄く映る自分の顔を見てみる。

 ……そんなにブサイクじゃないよな。むしろ上の……やめとこ。ナルシストみたいだ。

『リトーノ・インプロッヴィサメンテまで残り10秒』

「は? 何の音……な、なんだこれ」

 カバンから聞き覚えのない音声が聞こえ、慌ててカバンを探るとサイド部分にある収納スペースから一丁の自動拳銃が入っているのが見え、そこのグリップ部分が緑色に光っていた。

 な、なんだよこの銃! 俺こんなの持ってねえぞ!

『1・リトーノ・インプロッヴィサメンメ・コネクト』

「うわっ!」

 カバンの銃から目を覆いたくなるほどの眩い光が放たれ、慌てて腕で両目を覆った。

 な、なんだよ一体! 何が起きてるんだよ!

 頭がごちゃごちゃになっていくのを感じながら腕を少しずらすとさっきまでの眩い光を感じなかったのでゆっくりと目を開けるとさっきまでいた店の店員の姿は全く見えず、慌てて周囲を見渡すが外にも誰の姿も見えない。

 ど、どうなってんだよこれ!

『正常完了を確認。生き残ったらまた会いましょう』

 その音声を最後に銃のグリップの輝きは消えた。

「い、意味わかんねえよ……なんなんだよこれはわぁ!?」

 その時、窓ガラスが割れたような音が響いた。

 慌てて音がした方向を向くと紫色の液体を無理やり人型にしたような今にも崩れそうな怪物が窓ガラスを拳で割った姿で立っていた。

「い、意味わかんねえよ!」

 叫びながら鞄を握り、銃を手に持って入り口から飛び出して店の外へ出るとあちこちにさっき窓ガラスを割ったような怪物がうようよそこらを歩き回っていた。

 叫びそうになるのをどうにかして我慢し、怪物たちから離れるように全速力で駆け出した。

 意味わかんねえ意味わかんねえ! なんなんだよあの怪物どもは! さっきまで普通に店でまったりしてたってのに何でいきなり、しかも突然にこんなおかしなこと始まるんだよ!

「うわっ!」

 泣きそうになりながら駆け出していると何かに躓き、カバンの中身をぶちまけながら盛大にコケてしまい、慌てて立ち上がろうとした時に地面に大きな影が映り、心臓が一瞬止まるかと思うくらいに恐怖し、ガタガタ震えながらゆっくりと後ろを向くとさっきの人型の怪物が立っていた。

 あ……あぁ……俺、死んだかも。

 怪物がゆっくりと腕を上げるのを見ながら今まで生きてきた様が走馬灯として脳裏を駆け巡っていく。

 ふと、腕をずらしたときにポケットに入っている物に当たった。

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 ポケットから銃を取り出した瞬間に怪物が腕を振り下ろし、恐怖のあまり叫びをあげながら両手で強く握った銃を相手に向け、そして引き金を引くと辺りに銃声が響いた。

 ……あ、あれ?

 何も痛みが来ないことに疑問を抱き、閉じた目をゆっくりとあけて目の前を見てみると頭に小さな穴をあけた怪物が腕を振り下ろしたまま動きを止めており、それを見てこの場から逃げようとした時に怪物の体がドロッと溶け出し、液体になって消滅した。

「ハァ……ハァ……こ、これでいいのか?」

 額から嫌な汗を大量に流しながらそう言うと視界に黒い点のようなものが大量に見え、慌てて顔を上げてみると前方に10体ほどの怪物どもが俺に向かってゆっくり歩いてきていた。

「う、うあぁぁぁぁ!」

 叫びをあげながら引き金をもう一度引くと相手の胸に穴が開き、今さっき倒した奴と同じようにドロッと溶けて液体となって消滅した。

「くそっ! くそっ! くそっ!」

 相手に銃口を向け、引き金を引き続け、向かってくる怪物どもを倒していく。

 なんなんだよ! 俺を元の世界に戻してくれよ!

「くそぉぉぉぉぉぉぉぉっぉ!」

 俺に近づいてきていた最後の一体を弾丸が貫通し、液体となって消滅した。

『Level up。曲弾』

「は、はぁ? な、なんなんだよ一体……なんなんだよぉぉぉぉぉぉ!」

「……壮介?」

 後ろから俺の名を呼ばれ、振り返るとそこにはノースリーブに黒のショートパンツをはいた女性が立っていてその眼には涙が浮かんでいた。

「う、嘘……何であなたが」

「だ、誰だよ。なあ、ここはなんなんだよ!」

「もしかして記憶が……ううん。生きてるだけでいい。とりあえずこっちに来て」

 女性に引っ張られ、建物の後ろへと隠れた。

「いい? あいつらはベード。突然現れた未確認生命体よ。で、今貴方が握っている銃は対ベード用装備の1つであるガン・ベラッタ。その銃が打ち出す弾は鉛じゃない。貴方の想いよ」

「お、想い?」

「そう。奴らを倒すという想いを弾にして打ち出す。そして自己進化機能が備わっているわ。奴らを倒すたびに銃は進化し続ける……そしてこの世界はベードによってほとんど占領されたわ。残す拠点は……東京のみ」

「……ちょっと待て。ここは東京なのか?」

 俺がそう言うと彼女は首を縦に振った。

 ……あの一瞬で和歌山から東京に移動したのかよ……どうなってんだ一体。

「東京は今、壁を建てて近づくベータを片っ端から倒すことで何とか存続しているけどそれもいつまで続くか……だから私達殲滅部隊が作られ、東京近郊へ派遣された……でも、そこで貴方は……消失した」

「……い、いやいや。俺は今こうしてここに」

「いいえ。貴方は過去から来た。ここは……2025年、8月6日の日本よ」

 2025年って言えば10年後! つまり俺は2015年から一気に2025年までタイムスリップしたっていうのかよ! んなばかな! たった10年でそこまで技術レベルが上がるか普通!

「この世界で生きたければ……戦いなさい。壮介。でないと奴らに食われるだけよ」

 その時、地鳴りのようなものが周辺に響き、瓦礫の山に隠れながら前方を見ると大量の人型のベータが1か所に集まって結集したのか人間の5倍ほどの大きさにまで巨大化してこっちにめがけて近づいていた。

「良い? 壮介。こいつを倒すわよ。こいつを倒して1度、拠点に戻るわ」

 そう言うと女性は建物の陰から飛び出すと腰のあたりにあるホルスターから2丁の拳銃を取り出し、銃口を相手に向けて連続で引き金を引くと巨大化したベータの全身に次々と小さな穴が開いていく。

 ふ、ふざけるなよ……いきなり戦えって言われても戦えるわけねえだろ! 現代にいるかと思えばいきなり10年後の未来に飛ばされるしよ! こんな状況で戦えるわけねえだろ!

「何してるの壮介! 早く立って戦いなさい!」

「ふざけるなよ! 何も知らない俺が闘えるか! いきなりこんな世界に呼ばれていきなり銃で怪物どもと戦えなんて言われてはい、分かりましたって言えるかよ!」

「分かってるわよ! でも、貴方がこの10年後の世界に飛ばされてきたのにも何か理由があるはず! そして元の世界に帰るのにもこいつらを倒すしか方法はないわ! 戦いなさい! 壮介!」

『-----なさい! 壮介!』

 そう叫ばれた瞬間、頭の中でモザイクがかかったような映像が一瞬だけ出てまた消えた。

 ……今の……昔の記憶……なのか? 似ていた……あいつと。

「戦わなきゃ戻れない……くそ! 戦ってやるよ! こいつら全部ぶっ倒して俺は元の世界に戻る!」

「壮介! あいつの弱点は両耳よ! でも、2つ同時に潰さないとだめよ!」

「2つ同時!? んなもんどうやって」

『Stag・曲弾』

 その時、そんな音声が銃から聞こえてきた。

 今、スタッグって言ったよな……確かクワガタムシの単語の前半部分……ええい! そんな理論的なこと考えても分からねえんだからなすがままにしてやる!

「食らえぇぇぇぇぇぇぇ!」

 引き金を2回連続で引くと2発の弾丸が放たれ、外側に向けて弧を描くような軌道で突き進んでき、同時に左右の耳に着弾した瞬間、巨大なベータの頭が破裂して全身が液体となって消滅した。

「や、やったのか?」

「……確かに2つ同時に潰せって言ったけど……まさかその銃にそんな能力があったなんて」

「こ、これでいいんだよな」

「ええ、奴は死んだわ」

「なあ、ベータって何なんだよ」

「……あくまでこれは推察でしかないんだけど奴らはもともとただの液体だったそうよ。その液体に未確認のウイルスがばら撒かれたことで奴らが生まれた……それと同時にそのウイルスに感染している水に触れた人間はすべて奇病を発して死んだわ……そのせいで世界の人口は5000万人にまで減少したって言われてる」

 5、5000万!? 5000万って言ったら10年前の人口の70億の100分の1以下の人数じゃねえか……もう世界には人間はほとんど残ってないっていうのか。

「この世界で生きるには戦うしかない……貴方が10年前に戻る方法も戦うことでしか見つけることができないかもしれない……どうする?」

 ……戦うことでしか戻る方法を見つけられないっていうんだったら……戦うしかねえだろ。

「……戦う……元の世界に戻るために俺も」

 そう言うと女性が手を挿しのばしてきたのでそれを握った。

「お帰りなさい……いや、招待するわ。壮介」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――過去に戻るための戦いが今始まった。


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