境界の錬金術師 ー 私、どうやら『人造人間』らしいー 作:女にだって二言はないぜ?
☆
「おーい、起きろーおチビちゃん」
まだ重たい瞼を擦りながら起き上がる。昨日エンヴィーに起こして欲しいとお願いしておいてよかった。寝過ごすところだったかもしれない。
「おはようエンヴィー……」
「アリスは本当に朝ダメだよねぇ。国家錬金術師は基本自由らしいけど、今日は行かなきゃなの?」
「ラースが…大総統から軍全体に知らせがあるらしいからね。それに初日なのに顔出さないのも良くないでしょ」
「ふーん」
エンヴィーは何か知ってる風だけど教える気はないみたいだ。いつもそうなんだよなぁ…
支給された制服に着替える。と言っても、いつもの服__長袖のブラウスにコルセット風のショートパンツ__の上から軍服の上着を着るだけなんだけどね。
身長がちっさ……年齢的に軍服が大きすぎるから上だけで良いってさ!!
指定された中央司令部の中庭につくと、既に人だかりができていた。その後、上司らしき人が台の上に上がり、口を開く。その口から発せられたのは以下の内容。
『イシュヴァール殲滅戦開始』
あぁ、きっとエンヴィーはこのことを知っていたんだろうな。
周りがざわつく。 当たり前だろう。 誰も好き好んで人を殺したいわけがない。 けれど、この人達は軍の命令に従うことを承諾して入ってしまった。そして、私も。
__人の命を奪う覚悟を、しなければならない。
★
1909年、イシュヴァール殲滅戦は終戦した。多くのイシュヴァール人の命が軍に奪われ、生き残ったイシュヴァール人は国内外へ散り散りになり、差別や迫害に苦しむ過酷な逃亡生活を余儀なくされた。
1908年から国家錬金術師が投入され、戦況は一気にアメストリス軍の圧倒的優位へと傾いた。
「人間兵器」として前線に立たされた国家錬金術師らの圧倒的な破壊力の前に、イシュヴァール側の防衛線は次々と崩壊。わずか数か月のうちに主要な拠点はすべて壊滅し、凄惨な
これにより、1901年から足掛け7年も続いた内乱は、アメストリス軍による事実上の「殲滅」という最悪の形で幕を閉じた。
活躍した国家錬金術師達はそれぞれ、
その中の一人、中佐に上り詰めた人物。
境界の錬金術師、『アイリス・ブラッドレイ』
わずか10歳であり、一年前に国家錬金術師の資格を得たばかりの新人の少女。
昇格後、同じく中佐に昇格したロイ・マスタングと共に
★
着任して間もない、二人しかいない部屋は静かだった。ロイ・マスタングは気まずくなってきたのか、一度手を止め口を開く。
「……ブラッドレイ中佐、どれぐらい終わりました?」
「あと一割ほど。マスタング中佐はどうですか?」
「一割…!? 私は後三割ほどです」
「そうですか」
再び無言。ロイ・マスタングには彼女の心情は良くわからない。彼女は何を思っているのか。
アイマスクをしているため口元と発言や行動で判断するしかないのだが、口元は横に線を引いただけかのように上がりも下がりもしないし話しかけられなければ無言。
生憎終戦後の事務処理で忙しくお互いにまともな自己紹介もできていない。
ブラッドレイという名前からして娘かなにかなのだろうか。イシュヴァール殲滅戦では担当した地区が違うため彼女の戦いを直接見たわけではないが、どれほどの強さなのか。何故この幼さで軍に入ろうと思ったのか。その他諸々聞きたいこと、気になることは山ほどある。
マスタングにとって彼女は将来、大総統の地位を奪い合う相手になるかもしれないのだから。
それに、(別にマスタングはロリコンではないと思われるが)アイリスは目が隠れていても美しい。いや、幼さもあるため可愛らしい、の方があっているのかもしれない。だが、とても子供とは思えないほどの要領、頭の良さに静かさを持ち合わせた不思議な少女にマスタングは興味を持ってしまっていた。
いつも通りアイリスが先に書類仕事を終わらせ、帰ろうとする。以前、マスタングの残りのものをやり始めようとして止められたので終らせたら先に帰って良いということにしたのだ。
だが、荷物をまとめて部屋から出ていこうとしたアイリスの手を止めた。
アイリスが驚きつつも「どうかしましたか?」と言うとマスタングは「美味しい店があるのですが、一緒に行きませんか?」と食事に誘ったのである。
アイリスが承諾したため少し待ってもらい、書類仕事を終らせてから二人でイーストシティのレストランへ向かった。
☆
私達国家錬金術師がイシュヴァール殲滅戦に投入されてから一年が経過した。私はイシュヴァール殲滅戦で活躍し、中佐に昇格。そこで、同じく中佐に昇格した『ロイ・マスタング』さんと東方司令部着任となった。
着任して1ヶ月ほどが経っただろうか。山盛りの書類をいつも通り片付け、お先に失礼しようとしたとき、マスタング中佐にご飯に誘われた。おすすめのお店があるとかなんとか。まぁご飯は誰かと一緒に食べた方が美味しいし、今日は夫人からも誘われていないので行かせてもらうことにした。
正直マスタング中佐のことはよく知らない。イシュヴァール殲滅戦では担当地区が違うかったので、『焔の錬金術師』の名の通り焔を扱う凄い人としかわかんない。
気まずいんだよなぁ…ここ数年は地下に引きこもっててホムンクルス達と夫人ぐらいしか会ってなかったし、人見知りになってしまったようである。
なんでマスタング中佐と一緒に着任なの?とラースに聞いたらお前のような少女が1人で東方司令部をまとめられるのか?って。
まぁ簡単に言えばガキ1人は舐められるだろって話。
と、言うわけで。マスタング中佐とイーストシティの街中を車で通り、ついたのはおしゃれなカフェ。少し高級な感じもするかな。
一応プライベートのお出掛けだからか、マスタング中佐にエスコートされながら店に入る。2人席に座り、文字がずらりと並んでいるメニューを見る。結構種類があるんだなぁ、と思いながら一通り見ていくと『店長おすすめ!昔ながらのシチュー』という文字を見つけた。
「決まりましたか?」
「はい。この一番下の…」
「シチューですか。わかりました」
マスタング中佐が店員さんを呼び、注文してくれた。あ、あと飴ちゃんもらった。嬉しい。
微笑ましそうな表情の店員さん……端から見たら年の離れた兄妹だとでも思われているのだろうか?仕事仲間ですよお姉さん。
「マスタング中佐は普段この店に来るのですか?」
「何回か。色々な料理を頼んでみているのですがどれも美味しいので」
「結構グルメなんですね」
「美味しいものは好きですよ。ブラッドレイ中佐は…」
年上に堅苦しくされるのなんかこそばゆい…。ブラッドレイは借りてる名前だし、アイリスの方がいいな。
「アイリスでいいです。堅苦しくしなくて大丈夫ですよ」
「では私のこともロイと__」
「年上の方を呼び捨てはちょっと…」
「ですが同じ階級ですし、これから共に働いていくのですから」
「そう…ですね。では、ロイ中佐と呼ばせていただきます」
「了解しました。私もアイリス中佐と」
名前呼びになっただけでも一歩前進。一歩どころか百歩ぐらい進んだ気分だ。まだ口調は堅いけどそこはお互いに慣れていくしかなさそうだなぁ。
料理が来るまで色々な話をした。世間話から始まり、錬金術について話していくうちに盛り上がっていった。
「そういえば、アイリス中佐は何故錬金術を?」
「父から習っていたので」
「お父さんが…。そういえばブラッドレイ大総統とはどういう関係なのですか?」
「遠い親戚にあたります。国家錬金術師に推薦してもらったりと、色々お世話になっています」
「なるほど、親戚ですか」
しばらく話していると料理が運ばれてきた。
匂いは、間違いなくシチュー…!お母さんのシチューが好きなんだよね。あの牛乳が入ってるとは思えないぐらい美味しくて…。また食べたいなぁ~、いつか食べれるかな。
ロイ中佐はラントブローテンというおしゃれな料理を頼んでいた。手を合わせていただきますをしてから一口食べる。ゴロっとした野菜とまろやかなスープの旨味がふわりと広がって…
「…シチュー、お好きなんですか?」
「好きですけど、何故?」
「いえ、あまりにも美味しそうに食べるので…」
そんなに顔に出てた?アイマスクしてるから分かりにくいと思うんだけど…
その後食べ終ってから少し仕事の話をした。なんだか仲良く(?)なれた気がする。脱いでいた軍の上着を羽織り、店員さんにごちそうさまでしたと伝えると何故か驚いていた。
あ、ただのガキだと思われてたのか。
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