専用機限定タッグマッチの翌日、美春は学園近くにある大きな病院での処置を受けることになった。学園の医務室でも救急医療レベルの治療設備は整っているのだが、美春の場合怪我が腹部を貫通するほどの大きな刺し傷であるため、改めて専門的な治療を受けることになった。
医者の見立てでは表面の傷が塞がるのに2週間、完全に内部まで傷が塞がるまでは1か月程度かかるとのことだった。傷が塞がるまでは医務室での絶対安静、その後も1か月程度はISに乗ることや激しい運動は厳禁と通告を受けた。
また、美春の今回の戦闘実績は教師陣と生徒会にのみ全貌を公開することとなり、一般生徒には教師陣と協力して襲撃者を撃墜した体で話を通すことになった。
(2週間寝たきり状態か…今まで訓練ばっかりやってきたから暇になっちゃうな…)
美春の想像に反して療養期間中は忙しない日々を送っていた。
一般生徒の面会が許可された瞬間、美春の元にはなだれ込むように様々な人々が見舞いに訪れた。
まずは、美春が親しくしている専用機持ち達。
一夏やラウラ達には称賛され、鈴やセシリアには戦闘実績を羨ましがられたりした。
一夏は特に気を遣ってくれたようで美春に授業のノートのコピーを持ってきてくれたり、実践授業でやったことを楽し気に話してくれたりした。
後で聞いた話だが、今回の実績に鑑みてISの実践科目については大幅に加点してくれるようだ。
次にクララ先輩をはじめとする整備チームのメンバー達。彼女たちの調整のお陰で勝利を得られたと報告するとみんな美春の心配はしながらもどこか嬉しそうな顔をしていた。
こちらの面々には主にISの座学科目の補助をお願いしていた。
透子や沙苗のノートは美春のそれの何倍もきれいにまとめられており、美春が参考書と見間違えるほどであった。
そして最後に生徒会のメンバーだ。彼女たちは事の全貌を知っているためやや気まずい空間が流れたが、楯無がウッキウキでついに私の後継者が現れたと語って見せて虚がそれを制止するといういつもの生徒会のやり取りを見ることができた。
ちなみに11月の初頭に開催を控えている文化祭については基本的に3人で取りまとめを行っているらしく、美春は周辺警護という名目で全日程自由時間を与えることになったらしい。
さすがにそれでは生徒副会長の名折れだと美春が抗議するも、3人からもう十分すぎるくらいに役目は果たしてくれたと説得され、美春はその提案を渋々受け入れた。
そんな騒がしい日々がひと段落したある日の夕方、美春が寝転がっているととある生徒が美春の部屋を訪れた。
「お久しぶりね。副会長さん」
「エミリー先輩…!お久しぶりです」
エミリー先輩はお見舞いにと持ってきた茶菓子を脇に置くと静かにベッド横の椅子に腰かける。
「こうして話すのは何か月ぶりかしらね」
「一学期の中頃からずっと武装開発やら訓練やらしてましたからね。3か月ぶりくらいじゃないですか?」
「もうそんなに経ったのね。1年本当にあっという間だわ」
エミリー先輩は時の流れの残酷さにため息をつく。
ただ、彼女の性格を知っている美春はこう話を切り出した。
「今日来てくださったのは、ただのお見舞いだけじゃないですよね?」
「あら、随分と鋭くなったじゃない。そうねその通りよ。ただ、その前に一つ確認させて頂戴。襲撃者を撃墜したのはあなたね?」
「ええ、教師陣と協力して…」
「それは表向きの嘘。本当のところはあなたが単独で倒したか、中心人物として対応に当たったかのどちらかね」
美春は背中に冷や汗をかく。彼女の視線はまるで犯人を追い詰める刑事のように美春に突き刺さる。
「…根拠を聞いても?」
「単純よ。あなたがこんなに安静にしていないといけない怪我を負ったのはどうして?先生方は軽傷だって聞いてるのに」
エミリー先輩は素朴でありながら核心を突いた質問を美春に投げかける。
しかしながら、いくら親しい先輩と言えど真実を語ることは許されない。
「それは…俺の口からは言えないです」
「…わかった。これ以上深くは聞かないわ。だけど、一個面白そうな情報を見つけたから教えてあげる」
そう言ってエミリー先輩は美春の携帯端末にURLを送ってくる。そのURLが示すページを開くと馴染みのない言語の羅列と謎の赤い物体が空中を飛行している写真が表示された。
「先輩、これは…?」
「東欧のとある国で撮影された写真よ。この赤い物体、なんだかISに似てないかしら?」
写真をよく見ると、女性のようなスラっとしたシルエットに肩部にある大きなパーツが目を引いており、美春が戦闘したゴーレムⅢとよく似ている。
美春が写真を真剣に眺めているとエミリー先輩が続ける。
「その反応を見るに、写真に写っているものに心当たりがありそうね。あなたの口からは何も言えないでしょうから、ここからは私の独り言よ」
エミリー先輩は医務室の外に人の気配がないことを確認すると、一人口を開いた。
「今回学園を襲撃しようとしたのは恐らくその赤いIS。そして遠藤君は一人、もしくは教員と協力してそれを撃退してみせた。あなたの怪我を見るに相手はISの絶対防御を貫通してくるようね。そんな研究をしている企業はいないし、技術的にも現状は不可能とされている。可能性として挙げられるのはISの生みの親、篠ノ之束博士。彼女ならISの仕組みについて誰よりも詳しいはずだし、絶対防御を破る方法も恐らく知っている。そしてヨーロッパで今回の襲撃者の写真が撮られたということは、彼女は今、ヨーロッパのどこかに潜んでいる。若しくはIS学園を襲撃する理由がある誰かが篠ノ之博士からそのISを供給してもらったか。どちらにせよヨーロッパがきな臭い雰囲気なのは確かね」
美春は一言も発さずにエミリー先輩の独り言を聞いている。
「それと遠藤君についても調べてみたけど、特に目ぼしいものはなかったわ。出てきたのは中学の水泳大会の記録とISに乗れる事実だけ。あなたのことだから何かしらのコンクールで賞を取ってるもんだと思ったけど」
自分のことだけは自由に語れるため、美春は長い間閉じていた口を開く。
「あんまり人前に出たり、目立つの好きじゃなかったんで。ただ本を読むのが好きだっただけのごく普通の高校生ですよ、俺は」
美春がそういうとエミリー先輩はいたずらっぽく笑いこう言い返す。
「でも陰で色々と動くのは好きみたいね。今回の学園の防衛プラン、あなたが先導して策定したらしいじゃない」
「それは副会長として仕事を任されていたからで…」
「なら、そのポジションがあなたの天職って訳ね。会長の審美眼に狂いはなかったようね。私も頼りにしているわ、副会長さん」
エミリー先輩は美春に微笑みかけるとスッと椅子から立ち上がった。
「私からの話はこれで終わり。ゆっくり休んで万全な状態で戻ってきてくれるのを願っているわ」
「先輩、色々とありがとうございました。これで久しぶりに探偵ごっこの続きができそうです」
「それならよかったわ。ただし無理はしないようにね。それじゃあまたね」
エミリー先輩は医務室から去っていった。
美春は沈む夕日を眺めながら一人物思いに耽るのであった。