天から降り注ぐ太陽の光が、大聖堂の巨大なステンドグラスを透過し、荘厳な大理石の床に色鮮やかな光の絨毯を描き出していた。
重厚なパイプオルガンの音色と、天地を揺るがす聖なる鐘の音。
のちの中央大陸全土と北部・南部大陸の大部分を統一し、歴史にその名を刻む『統一王朝』の礎が打ち立てられる、まさにその歴史的瞬間に立ち会うために、王国の最高権力と武力が一堂に会していた。
中央の玉座側には、すでに最愛の王妃を亡くし、深く刻まれた皺に威厳と万感を漂わせ、病魔に蝕まれながらも佇む国王陛下。
その傍らには、どこか緊張した面持ちで佇む弟の大公夫妻が臨席している。
文官の頂点たる国務大臣、軍務大臣ら家臣団、そして、絢爛な正装で居並ぶ王立騎士団。
さらに、本来ならば祝典になど姿を現すことすら稀な、死臭と強大な魔力を漂わせる「人狼騎士団」の隊長のうち三人が、急遽この祝宴に参列していた。
漆黒に赤い側線があしらわれた礼装を纏った『死の軍団』である彼らの威容は、王国軍の諸将に息を呑ませるほど圧巻の光景であった。
権力と武力だけではない。
王国の精神と真理を司る者たちもまた、重々しく並び立っていた。
聖杖法院の長である威厳に満ちた老法院長。
そして、その背後には世界でただ三人しか存在しない最高峰の存在――「三大魔法使い」のうち、冷徹な眼差しを向けている『全能』たるゼーリエと『寡黙』たるミーヌスが異彩を放っている。
本来ならば、三大魔法使いの最後の一人であるミリアルデもまた、あの神聖な雛壇の上に並ばなければならないはずであった。
しかし――。
ミリアルデが収まっていたのは、聖杖法院の席ではなく、人狼騎士団の列――白銀と濃紺の絢爛な礼装を完璧に着こなした、「人狼の騎士」アルフレッド・ベルンハルトの真隣であった。
ロザリアから贈られた淡く繊細なドレスに身を包み、朝の光を受けて光り輝くエルフの大魔法使い。
アルフレッドの白手袋の腕にそっと手を添え、凛として立つ彼女の佇まいは、参列した貴族や家臣たちの誰もが息を呑むほど幻想的で美しかった。
そして、僧会を統べる大僧正の老人が、ゆっくりと女神の聖典を掲げる。
その前には、眩いばかりの正装を纏った皇太子コンラートと、真珠と銀糸が煌めく純白のウェディングドレスに身を包んだ王女ロザリアが並んでいた。
「――女神と、この地に集いし諸卿の御前において、誓いは立てられた」
大僧正の低く響き渡る声が大聖堂の静寂を切り裂く。
「ここに、皇太子コンラート殿下と、ロザリア王女殿下が、永遠の契りを結びし夫婦であることを宣言する!」
その瞬間、大聖堂を包んでいた緊張の糸がはじけ飛んだ。
「「「花婿に祝福を! 花嫁に祝福を!!」」」
地鳴りのような大歓声が巻き起こる。
頭上から降り注ぐ無数の白い花びら。
参列者たちが挙って惜しみない拍手と祝福の声を上げ、王立騎士たちも、人狼騎士団の猛者たちも、剣の柄を叩いてその歓喜に応えた。
歴史が、激しく音を立てて動き出した瞬間であった。
熱狂と祝福の中、コンラートの手を取った皇太子妃ロザリアは、ふっと優雅に視線を巡らせた。
彼女の透き通るような瞳が捉えたのは、家臣の少し後ろで、並んで立ち尽くす二つの超然とした影。
無数の勲章を胸に輝かせ、静かに己を見つめ返すアルフレッド。
そして、その隣で少し照れくさそうに、けれど誇らしげに微笑んでいるミリアルデ。
ロザリアは、可憐な唇を優美に綻ばせた。
その微笑には、昨日までの迷いや未練は欠片も存在しなかった。
自らの魂の最も深い場所を人狼に捧げたまま、世界で最も気高き『皇后』として生きていく覚悟。
そして、自分に永遠の傷を残していった愛おしい狼が、いま隣に立つ光のような存在に心を惹かれていることに対する、心からの温かな祝福。
絶世の美しさを誇る皇太子妃のその極上の笑みに、アルフレッドは胸に白手袋の手を当て、静かに、そして深々と頭を下げた。
隣のミリアルデもまた、眩い笑みを返し、優雅に礼を捧げる。
大聖堂を包み込む祝福の鐘の音は、どこまでも高く、澄み渡る青空へと響き渡っていた。
(第11話に続く)
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