界渡りの不確定な切り札 作:アルフレッド
「ねえ、キョウスケ。あと何があれば国家になるの?」
「…………」
答えられなかった。
いや、正確には答えは分かっている。
「……宣言か」
「正解♪」
「嬉しそうに言うな」
レモンが満足そうに笑う。
「領土がある。住民がいる。軍がある。行政組織も整いつつある。これから通貨を作って銀行まで設立する。おまけに他世界との外交や貿易まで考えている」
「…………」
「これで国家じゃありません、はさすがに無理があるでしょう?」
「分かっている」
必要なものを一つずつ揃えていただけなのだが。
いつの間にこうなった。
「なら国家設立ということでいいのね?」
「待て」
「まだ何かあるの?」
「俺だけで決めることじゃない」
俺は周囲を見渡した。
レモン、レオナ、クスハ、クエルボ。
ヤンロン、テュッティ、セニア、ウェンディ。
そしてシャインをはじめとするリクセントの者たち。
俺たちは元々、同じ国の人間ですらなかった。
シャドウミラー。
ベーオウルブズ。
リクセント公国。
ラ・ギアス。
Wシリーズ。
それが今では同じ場所で生活している。
「俺たちだけでなく、住民の意思も確認するべきだ」
「そうね」
レモンも今度は茶化さずに頷いた。
「国を作るというなら、そこに住む人たちの国でもあるものね」
「シャイン」
「はい」
「リクセントの住民たちにはお前から説明してもらえるか?」
「承知しましたわ」
「ただし強制はするな。リクセント公国を再建したいという者もいるかもしれない」
するとシャインは少しだけ目を伏せた。
「……キョウスケさま」
「なんだ?」
「わたくしは、リクセント公国をそのまま再建するべきではないと思っております」
「いいのか?」
「寂しくないと言えば嘘になりますわ」
シャインは静かに微笑んだ。
「ですが、ここにいるのはリクセントの民だけではありません」
その視線がヤンロンたちへ向けられる。
「故郷を失った方。帰る道を失った方。そして、これから新たに出会うかもしれない方々」
「…………」
「ここが皆の新しい故郷になるのでしたら、それはリクセントではなく――新しい国であるべきですわ」
「シャイン……」
「それに」
少しだけ、いつものシャインらしい笑顔が戻った。
「国とは土地の名前ではなく、そこに生きる人々のためにあるものだと学びましたから」
「……そうか」
◇ ◇ ◇
シャインから住民たちに通達が出され、国名の募集が始まった。
そして数日後。
「それじゃあ、候補を見ていきましょうか」
レモンが端末を操作する。
「まず――『αナンバーズ』」
「却下」
「早っ!?」
「次」
「……『マーチウィンド』」
「却下」
「だから早いって!」
「次」
「『ロンド・ベル』」
「絶対に却下だ」
「絶対!?」
レモンが怪訝そうな顔で俺を見る。
「何でさっきからそんなに自信満々なのよ」
「……勘だ」
「またそれ?」
「次」
「じゃあ――『鋼龍戦隊』」
「それはもっと駄目だ」
「何でよ!?」
「駄目なものは駄目だ」
「説明になってないわよ!」
説明できるわけがない。
いずれ俺たちが辿り着くかもしれない世界に、同じ名前の部隊が存在する――などと。
ましてや、
『俺の前世ではゲームに出てきた』
などとは口が裂けても言えない。
「次は『プリベンター』」
「却下」
「『ZEUTH』」
「却下」
「『ZEXIS』」
「却下」
「『Z-BLUE』」
「却下」
「……キョウスケ」
「なんだ?」
「あなた、国名を決める気ある?」
「ある」
「今のところ全部却下してるんだけど?」
「仕方ないだろう」
地雷しかない。
「じゃあ、これは?」
レモンが次の候補を表示した。
『ヴェルト』
「…………」
初めて、俺の記憶に引っ掛からない名前が出てきた。
「どう?」
「……悪くない」
「ようやく通った!?」
「ドイツ語で世界という意味か。今はこのユニクロンが俺たちの世界だしな」
「そうね」
レモンも改めてその名前を見る。
「故郷を失った者もいれば、帰る道を失った者もいる。生まれた世界だって違う」
「これから別の世界へ行けば、さらに違う世界の人間が加わるかもしれん」
「さっきは気のせいって言ってなかった?」
「可能性の話だ」
「はいはい」
シャインも端末に表示された名前を見つめていた。
「ヴェルト……わたくしも良いと思いますわ」
「リクセントにこだわらなくていいのか?」
「はい。ここはリクセント公国を再建するための場所ではありませんもの」
シャインは微笑んだ。
「皆が新しく生きていくための世界――そう考えれば、とても相応しい名前だと思いますわ」
「なら候補には残すか」
「決定じゃないの?」
「国名を公募したんだ。最後は住民に決めてもらう」
「こういうところは本当に真面目ねぇ」
「自分たちが住む国の名前だからな」
◇ ◇ ◇
???side
『おかしいなぁ僕が投稿した国名が一個も残ってない。不思議不思議』
どこかで笑い声が響いたような気がした
◇ ◇ ◇
国名はヴェルトに決まった。
あのふざけた名前を投稿した人間は、結局見つからなかった。
「では国家元首を決めましょう」
いつからレモンが議長になったんだ?
「キョウスケ・ナンブが国家元首でいいと思う人」
全員の手が上がった。
「…………」
お前ら、裏で示し合わせていただろう。
「全会一致ね♪」
「待て。俺は手を挙げていない」
「候補者本人は除外よ」
「今決めたルールだろう」
「細かいことは気にしないの」
「気にする」
その時だった。
バンッ!
突然、会議室の扉が開いた。
「はい! わたしもダーリンが国家元首がいいと思います!」
「エクセレン! お前まだ寝てたんじゃ!」
「ついさっき目が覚めたのよん♪」
「起きて早々何をやってるんだ……」
「いいじゃない。ダーリンが国家元首なんて素敵よ?」
「……分かってるのか?」
「何が?」
「俺が国王になるなら――」
嫌な予感しかしなかったが、言ってやる。
「お前が王妃になるんだぞ?」
「…………」
エクセレンが目を瞬かせた。
そして――
「あら?」
にんまりと笑った。
「それってプロポーズ?」
「…………」
「ダーリンったら、みんなの前で大胆~♪」
「違う! 今のはそういう意味じゃない!」
「でも『俺が王様になるから、お前は王妃になれ』ってことでしょ?」
「言い方を変えるな!」
「意味は同じじゃない♪」
「…………」
まずい。
完全に墓穴を掘った。
「皆さん聞きました~? 今ダーリンから公開プロポーズされちゃいました♪」
「されてない!」
「おめでとうございます、キョウスケさま!」
「シャイン!?」
「おめでとうございます」
「ウェンディまで!?」
「めでたいな」
「ヤンロン! お前は止める側だろう!」
「何を止める必要がある?」
「…………」
味方がいない。
「それじゃあ、国家元首も王妃も決まったところで――」
「レモン、勝手に進めるな!」
「あら? エクセレンは嫌なの?」
「そんなわけないでしょ♪」
「ほら」
「俺の意思を確認しろ!」
さっきまでふざけていたエクセレンが、少しだけ柔らかく笑う。
「お待たせ、キョウスケ」
「…………」
「ただいま」
「……ああ」
その言葉を、どれほど待っていただろう。
「おかえり、エクセレン」
俺はそっと抱きしめた。
「ところでダーリン」
「なんだ」
「さっきのプロポーズ、冗談だったの?」
「…………」
「冗談だったの?」
「二度聞くな」
「大事なことだもの♪」
「……エクセレン」
「はい♪」
「俺と結婚してくれ」
「――!」
一瞬、会議室が静まり返った。
「これなら文句ないだろう」
「もう一回!」
「断る」
「なんでよー!」
「おめでとうございます!」
シャインが真っ先に拍手を始めた。
それを皮切りに、会議室中から拍手が巻き起こる。
「…………」
そうだった。
ここには全員いた。
「ダーリン、顔赤くない?」
「気のせいだ」
「照れてる?」
「気のせいだ」
「じゃあ皆さん、もう一度聞きたいそうでーす♪」
「誰も言っていない!」
「もう一回!」
セニアが便乗した。
「セニア!」
「もう一回!」
「シャインまで!?」
「もう一回!」
「ヤンロン、お前まで言うな!!」
「私は言っていない」
「……そうか」
「だが、もう一度くらい言ってもいいのではないか?」
「お前も同類だ!」
「それじゃ、結婚については後でゆっくり決めてもらうとして」
「……そうしてくれ」
「国家元首についてはキョウスケで決定ね」
「待て」
「まだ何かあるの?」
「さっきから国王だの王妃だの言っているが、政治体制を決めていないだろう」
「あら」
「俺は専制君主になるつもりはないぞ」
「でしょうね」
「議会を作る」
「いきなりそこ?」
「行政をシャインたちだけに任せ続けるわけにもいかん。住民の代表を選んで政治に参加してもらう」
「つまり立憲君主制?」
「……国家元首が必要だというなら、それでいい」
「じゃあ皇帝ね♪」
「なぜそうなる」
「国家元首で立憲君主制なんでしょ?」
「国王でも成立する」
「でもこの星全部が領土なんでしょう?」
「…………」
「しかも将来、別世界とも繋がるのよね?」
「…………」
「皇帝でいいんじゃない?」
「その理屈はおかしい」
リクセントのような旧国家を継承した王国ではない。
ラ・ギアス人、リクセント人、Wシリーズ――出自の異なる者たちを一つにまとめる、新しい国家だ。
理屈は分かる。
皇帝という呼称を選ぶ理由も理解できる。
だが――
俺が皇帝になる、という部分だけはどうにも実感が湧かなかった。
「……キョウスケ?」
「なんだ」
「ものすごく嫌そうな顔してるわよ?」
「嫌だからな」
「でも断らないのね」
「必要ならやる」
「そこがあなたよねぇ」
レモンが肩をすくめる。
「じゃあ正式に決定ね。ヴェルト初代皇帝――キョウスケ・ナンブ」
「…………」
「そして皇妃エクセレン・ブロウニング♪」
「はーい♪」
「なぜお前の方が返事がいい」
「だって皇妃よ? 響きがいいじゃない♪」
「俺は響きで決めてない」
「じゃあダーリンは?」
「できれば普通の軍人でいたかった」
「手遅れね」
「……分かっている」
◇ ◇ ◇
その日の夜……。
ふたりはベッドで寄り添いながら、久しぶりに静かな時間を過ごしていた。
「エクセレン……話しておきたいことがある」
「何?」
いつもの軽い返事。
だが俺が黙ったままでいると、エクセレンがこちらを見上げた。
「……大事な話?」
「ああ」
「分かった」
エクセレンの表情から笑みが消える。
俺は少し迷ってから口を開いた。
「俺には――前世の記憶がある」
「…………」
「正確には、前の人生の記憶だ」
エクセレンは何も言わなかった。
驚いているのだろう。
当然だ。
いきなりこんな話をされて、信じろという方が無理がある。
「子供の頃から覚えていたわけじゃない。あの事故だ」
「……事故?」
「ああ。俺たちが巻き込まれた、あの飛行機事故」
エクセレンの身体が僅かに強張った。
俺たち二人の人生を変えた事故。
あの時――俺は思い出した。
自分が一度、別の世界で生きていたことを。
「事故を境に、前の人生の記憶が戻った」
「…………」
「その世界にはパーソナルトルーパーもなかった。異星人との戦争も、アインストもなかった」
「じゃあ……普通の世界?」
「少なくとも、俺が生きていた間はな」
「へぇ……」
エクセレンが小さく息を吐く。
「それで?」
「……それだけじゃない」
ここからだ。
俺が今まで誰にも話せなかった理由は。
「その世界では――俺たちの世界が、物語として存在していた」
「…………」
エクセレンが瞬きをする。
「もう一回言って?」
「俺たちの世界を題材にしたゲームがあった」
「…………」
「…………」
「えーっと」
エクセレンが自分を指差した。
「わたしも?」
「ああ」
「キョウスケも?」
「ああ」
「レモンも?」
「ああ」
「アクセルも?」
「ああ」
「ヴィンデルも?」
「……ああ」
しばらく沈黙。
そして。
「何それ!?」
「そうなるだろうな」
エクセレンが勢いよく身体を起こした。
「ちょっと待って! じゃあキョウスケ、未来を知ってたってこと!?」
「完全に、ではない」
「どういうこと?」
「俺の知っている物語と、この世界は違いすぎる」
エクセレンが黙る。
「俺が知っていたキョウスケ・ナンブと、俺は同じ人生を歩んでいない。お前もそうだ。死ぬはずのなかった人間が死に、死ぬはずだった人間が生きている」
アヤ。
リュウセイ。
ライ。
そして――これまで出会った者たち。
「最初は知っている未来だと思った」
「でも違った?」
「ああ」
俺は天井を見る。
「だから、前世の知識を未来予知だと思ったことはない。参考にはした。警戒もした。だが、それで人の生死まで決めるつもりはなかった」
「…………」
「それに……言えるわけがなかった」
「どうして?」
俺はエクセレンを見る。
「『お前たちは前世ではゲームの登場人物だった』なんて言われて、お前なら信じたか?」
「…………」
エクセレンは数秒考えた。
「キョウスケが言うなら信じたかも?」
「…………」
「なによ、その顔」
「俺が何年悩んだと思っている」
「あらら」
力が抜けた。
もっと疑われると思っていた。
頭がおかしくなったと思われても仕方がないと思っていた。
なのに――
「でも」
エクセレンが俺の胸に手を置いた。
「一つだけ確認」
「なんだ?」
「今ここにいるキョウスケは、ゲームのキョウスケなの?」
「違う」
即答した。
「俺は俺だ」
「うん」
エクセレンが笑う。
「じゃあ、それでいいんじゃない?」
「……それだけか?」
「それだけよ」
「…………」
「前の人生があって、そこで私たちのことを知ってたとしても――今まで一緒にいたキョウスケが偽物になるわけじゃないでしょ?」
「それは……そうだが」
「それに」
嫌な予感がした。
エクセレンの口元がいつもの形に戻っている。
「つまりキョウスケ君は、前の人生でもムッツリだったわけね?」
「なぜそうなる」
「だってゲームで私のこと知ってたんでしょ?」
「…………」
「もしかして昔からわたしのファンだったとか?」
「違う」
「即答!?」
「そういう意味で知っていたわけじゃない」
「じゃあ好きなキャラクターは誰だったの?」
「…………」
「ねえねえ♪」
「話す相手を間違えたかもしれん」
「あら残念」
エクセレンが俺の腕に抱きつく。
「今さら返品不可でーす♪」
「……そうだったな」
「それに――」
声が少しだけ柔らかくなる。
「話してくれて、ありがと」
「…………」
「ずっと一人で抱えてたんでしょ?」
「ああ」
「じゃあ、これからは二人ね」
「……ああ」
俺はエクセレンを抱き寄せた。
初めてだった。
前世の記憶を誰かに話したのは。
そして――
話した相手がエクセレンで良かった。
心から、そう思った。
◇ ◇ ◇
翌日。
昨夜エクセレンに前世のことを話した俺は、再び会議室にいた。
……昨日もここにいた気がする。
「気がするんじゃなくて、いたのよ」
「心を読むな」
「顔に書いてあるわよん♪」
「病み上がりなんだから休んでいろ」
「やーよ。今日は記念すべき建国宣言なんでしょ?」
「昨日まで寝ていた人間が一番元気なのはどういうことだ」
「愛の力?」
「クスハ。診察を頼む」
「ひどーい!」
シャインが作ってくれた建国宣言草稿を読むが……。
「……長い」
「正式な建国宣言ですもの」
「住民に伝わらなければ意味がない。もっと簡潔にしよう」
◇ ◇ ◇
そして俺は、シロガネの甲板から建国宣言という前代未聞のことを行うことになった。
眼下には集まった住民たち。
リクセントの民。
俺たちと共に戦ってきた兵士たち。
ラ・ギアスから流れ着いた者たち。
そしてWシリーズ。
生まれた場所も、生きてきた世界も違う。
だが今は、全員がこの星で生きている。
なら――言うべきことは一つだけだ。
『今日、この日をもって、俺たちは新国家ヴェルトの建国を宣言する』
『ここにいる者の生まれた世界も、国も、種族も違う。だが、今ここで共に生きていることに違いはない』
一度、眼下の人々を見渡す。
『ヴェルトは――ここで生きようとする、すべての者の国だ』
一瞬の静寂。
そして――
大きな歓声が居住区に響き渡った。
◇ ◇ ◇
再び会議室
「……これで建国は終わりだな」
「まだ始まったばかりよ」
「言い方の問題だ」
「じゃあ次の議題ね」
「ああ」
「それでは次。最初の異世界探索についてね」
「その前に一つある」
「何?」
俺は会議室を見回した。
昨日までなら話すつもりはなかった。
だが状況が変わった。
俺はヴェルトの国家元首となった。
これから未知の世界へ向かい、場合によってはこの国そのものを危険に晒す判断をすることになる。
ならば――俺が何をできるのか。
少なくとも、ここにいる者たちには知っておいてもらう必要がある。
「俺の能力について、全て話しておく」
「……全て?」
レモンの表情が変わった。
「ああ」
「つまり、今まで隠していたものも?」
「そうだ」
「…………」
「まず――俺にはアインストの力がある」
アインストの力について説明。
飛行機事故でアインストの種を植え付けられたが、取り込まれるのではなく逆に自分の力として支配した。
そして精神コマンド。
「集中、加速、必中、熱血……」
「待って」
セニアが手を挙げた。
「何だ?」
「それって魔法?」
「違う」
「超能力?」
「それも違うと思う」
「じゃあ何なのよ!?」
「俺にも分からん」
「分からない能力を使ってたの!?」
まあ、そうなるな。前世の記憶から精神コマンドは精神コマンドだったからな。
「…………」
エクセレンと一瞬だけ目が合った。
昨夜の話を知っている彼女だけは、何か察したようだった。
だが何も言わず、いつものように笑っている。
次に『ストレージ』。
「つまり、物体を別空間へ収納できるの?」
「そうだ」
「容量は?」
「正確には分からん」
「どれくらい入れたことがあるの?」
「…………」
「キョウスケ?」
「かなりだ」
「かなりじゃ分からないわよ!」
「問題なく入る」
「だから容量を聞いてるの!」
「俺にも分からんと言っただろう」
レモン、セニア、ウェンディが顔を見合わせた。
……嫌な予感がする。
「あとで実験しましょう」
「断る」
「まだ何も言ってないじゃない!」
「今言っただろう」
特殊技能についても説明した。
もっとも、こちらは精神コマンドやストレージほど不可思議なものではない。
『見切り』なら相手の動きを見抜く能力。
『インファイト』と『ガンファイト』は、それぞれ近接戦闘と射撃戦闘の技量。
『カウンター』は相手より先に攻撃へ移る反応能力。
『底力』に至っては、追い詰められた時に発揮される集中力や生命力と言ってしまえばそれまでだ。
念動力についても、この世界では既に確認されている能力だ。
不思議なのは――
「それが『特殊技能』として俺には認識できることだ」
「つまり?」
レモンが尋ねる。
「能力そのものを何者かから与えられたわけじゃない。俺が元々持っている力や身につけた技術が、特殊技能という形で可視化されているだけだと思っている」
「自分の能力が分かるということ?」
「そうだ」
「便利ねぇ」
「そうでもない」
「どうして?」
「分かったところで鍛えなければ強くならん」
「ああ、そこは普通なのね」
「当たり前だ」
ゲームのように、何かのポイントを割り振れば突然技術が身につくわけではない。
『インファイト』を伸ばしたければ近接戦闘の技量を磨く必要があるし、『ガンファイト』なら射撃技術を鍛えなければならない。
『見切り』にしても同じだ。
俺の場合はリシュウ先生から教わった『観の目』を身につけたことで、以前より明らかに精度が上がっている。
つまり、特殊技能とは俺を強くする力ではない。
俺がどのような力を持っているのかを、分かりやすい形で示しているだけだ。
「なるほどね。能力を与えるものじゃなくて、能力を表示するものなのね」
「そう考えている」
「じゃあ『底力』を鍛えたいからって――」
「わざと追い詰めるような真似はするな」
「まだ何も言ってないじゃない」
「言うつもりだっただろう」
「…………」
「なぜ目を逸らす」
「さあ、次に行きましょう♪」
「以上が、俺自身が把握している能力だ」
「把握している?」
レモンがそこに食いついた。
「まだ何かあるの?」
「分からん」
「……それが一番怖いんだけど」
「俺もそう思う」
事実俺はもともと念動力は持っていなかった。
継承によって力を受け継いだに過ぎない。
これからもそれがないとも限らないからな。
「で、ここまで話した理由だが――」
「異世界探索ね」
「ああ。最初に向かうのは俺とエクセレンの二人だけにする」
「…………」
「…………」
「…………」
「二人だけ?」
レオナが聞き返した。
「そうだ」
「待ちなさい。あなたはともかく、エクセレンは昨日目を覚ましたばかりでしょう?」
「だからよ♪」
「だから?」
「ダーリンと一緒にリハビリを兼ねて異世界旅行♪」
「却下」
「キョウスケ!?」
「遊びに行くんじゃない」
「新婚旅行じゃないの?」
「まだ結婚していない」
「婚前旅行?」
「もっと悪くなったぞ」
「エクセレン」
クスハが困ったように声をかける。
「本当に無理はしないでくださいね。目を覚ましたばかりなんですから」
「はーい♪」
「……信用できん」
「ダーリンひどーい」
「それについては私もキョウスケに同意するわ」
「レモン姉さんまで!?」
「エクセレンを戦わせるつもりはない」
「では、なぜ同行させる?」
ヤンロンの問いに答える。
「俺一人では、未知の世界の人間と接触するには向いていない」
「…………」
「…………」
「なんだ?」
「いや」
「自覚していたのだな」
「ヤンロン?」
「事実だろう」
「否定はせん」
「ダーリン、そこは否定しようよ」
「できんものはできん」
「潔いわねぇ……」
そして二人だけにする最大の理由。
「それに、今回は探索だ。戦争をしに行くわけじゃない」
俺は全員を見渡した。
「未知の世界へ大人数で現れれば、それだけで相手に警戒される。まして俺たちは軍事組織を持っている」
「少人数の方が接触しやすいということか」
「ああ」
「でも危険よ」
「だから俺が行く」
レオナが何か言おうとして――止まった。
先ほど説明した能力を思い出したのだろう。
「……さっき能力を全部説明したの、この反論を封じるためじゃないでしょうね?」
「違う」
「本当に?」
「必要だから話しただけだ」
「…………」
「なんだ?」
「反論しづらくなったのは事実なのよね……」
「なら問題ない」
「あるわよ」
ここでアンカーの説明へうつる。
「問題は帰還方法ね」
レモンが端末を操作した。
「今回持っていってもらうのは、昨日説明したアンカー」
「世界座標を固定する装置か」
「ええ。ただし一つ重要な制限があるわ」
「設置場所だな」
「そう。アンカーは大地に固定しなければ機能しない」
「宇宙空間では?」
「無理」
「艦の中は?」
「駄目」
「つまり転移した場所によっては、すぐには設置できない」
「その通り」
「転移先が宇宙だった場合は?」
「大地に辿り着くまで頑張って♪」
「…………」
「…………」
「レモン」
「何?」
「もう少し言い方はなかったのか」
「でも事実よ?」
「否定はできん」
「でしょ♪」