僕がゴールキーパーな理由?一人で勝つのに最適だからですよ。 作:いすとんでぃーに
ブルーロックとの試合開始時刻が迫ってくる中、冴がふとなにかを思い出して、僕にこう言い放ちました。
「みかん。お前、前半戦は出なくていいぞ。というか出す気ねぇから。」
はい?
聞き間違いでなければ、前半戦に出るなと言われた気がするのですが⋯。
さすがに聞き間違いじゃ…ないみたいですねぇ。
「文句があるんなら、コイツラに言え。俺の意見じゃねぇしな。」
そう言って指さすのは、U20のメンバーたち。
彼らの表情はいくらか引き締まっていて、それっぽい雰囲気を感じさせる。
「まぁ、別に構いませんよ。たぶんU20の意地を見せたいとかそんなことを考えているんでしょう?後半から出してもらえるのならばそれで良いです。」
「ありがとな、天才ちゃん。」
「礼を言われるほどのことでもありません。まぁせいぜい立ち止まらずに、死ぬ気で追いかけることです。でないと、すぐに見えなくなってしまいますからね。」
───*───
すぐに見えなくなる。
その言葉の意味を、彼らはあまりにも軽く見ていたのだと僕は思います。
前半戦終了時の電光掲示板が示していた数字は4−1。
ブルーロックが四点で、僕らチームが一点です。
まぁ想定の範囲内といえる結果でしょう。
冴が想像以上にアシストに回っていましたし⋯。
冴がもう少しでいいから積極的にゴールを狙ってくれていれば、点差はもう少し縮まるかなくなっていたと思うんですけど。
……僕が出るからって、絶対手を抜いてますよね。
「まっ、たったの三点差ですから良いですけど。」
ブルーロックが安全に勝ちたいのなら、この二倍は点差を広げるべきでしたね。
「とはいえ先ほどまでのを見てると、こちらが食われる可能性も少しはありそうですね。」
とくに、得点を奪った二人。
潔世一くんとやらと冴の弟くん。
「あの二人が上手く噛み合ってしまえば、僕でも危険かもしれません。」
純度の高いエゴイスト同士の化学反応ほど、サッカーにおいて未知にあふれているものはない。
ブルーロックにわずかながらの脅威を感じていた僕へと、シャワーを浴びたばかりの冴が近づいてくる。
「お前もアイツラみたいにナーバスになったのか?」
アイツラというのが誰を指しているのか、それは分かりきっています。
僕と冴二人以外のチームメンバーたちです。
まぁ負けたら居場所を奪われるんですから、ナーバスに陥りかけるのは当然と言えるかもしれませんが。
「いえ。そういうわけではありませんが⋯⋯もしかして弱気に見えましたか?」
「いつものお前を知ってたらな。」
「そうですか。なら勘違いですのでお気になさらず。それと⋯⋯人の心配をするのなら、自分の心配をしたほうが良いと思いますよ?」
「あ?」
意味がわからないといった感じの表情を浮かべる冴。
「僕はとりあえず、全力で点を獲ることにするので⋯。」
「なるほどな。つまりノエル・ノアも超えるそのスペックをすべて、ストライカーとしての役目に注ぎ込むってことか。」
「えぇ、そういうことです。まぁ何が言いたいのかというと─────貴方はようやく、世界最高のストライカーにパスを出せるというわけです。」
「ハッ、大口を叩くならシュートを決めてからにしろ。それと⋯お前こそ最高のパスを受け取る準備はできてんのか?」
冴にしてはめずらしく死んだ眼の中に火を宿して、僕に挑発的な視線を向けてくる。
「ふふっ、これは良いパスが期待できそうですね。で、愛空さん⋯そちらも腹はくくれました?僕が出るからもう安心などと思われていたら、今すぐここから去ったほうが良いと思いますけど。」
「そうだな。だがこの熱にあてられて、そんなことを考えれるヤツはウチにいないんだよ。」
「それなら、これだけ言っておきましょうか。置いてかれないよう、死ぬ気で追ってきてください。追いつけたら、その時にはシュートチャンスでもあげましょう。」
そう言って、僕はピッチへと向かっていくのでした。
───*───
ブルーロック側が三点リードで、ついに始まろうとしていた後半戦。
大差をつけて勝っているのにも関わらず、ピッチの上に立っているブルーロックの選手たちはその身を嫌な緊張で包んでいた。
それもこれも後半となってスタメンと交換された一人の選手⋯月羽みかんのせいである。
なぜか前半戦には少しも出てこなかったが、後半からはさすがに出てくるらしい。
それも当初の絵心のしていた予想のキーパーではなく、FWとして。
「んー⋯冴よりは多く決めたいですし、十分でとりあえず二点といったところですかね?」
とくに深く考えられることもなく、みかんの口から放たれたその一言。
それを耳に入れたのは、近くにいた冴とチームブルーロックのフォワード三人のみ。
冴はその無自覚な煽りにため息をつき、潔世一と糸師凛は敵意に満ちたその瞳をギラつかせる。
そんな空気の中で、能天気なつぶやきを漏らせた凪誠士郎はさすがというべきか。
「決めました。一点目は三十秒以内で獲りましょう。そういうわけですから、くれぐれも変なことをしてボールは奪われないでくださいね?」
「そんなことするわけないだろ、アホ。俺を誰だと思ってんだ?」
「四十五分で一点しか獲れてない天才と言ったら?」
「殺すぞ、カス。」
「場を和ませるためのちょっとしたジョークじゃないですか。というか、そんなマジトーンで殺すぞって言われるとさすがに怖いです。」
「知るかボケ。」
前半では誰とも馴れ合おうと、ろくに会話をしようとしなかった糸師冴の雑談をする様子。
その光景があまりにも現実味を帯びておらず、潔どころか凪までもが驚きの表情を浮かべた。
「それじゃあ行くぞ。おいヘボストライカー、ソレを俺に寄越せ。これくらいなら、お前程度にもできるだろ。」
冴はすぐ近くにいた閃堂へとそう告げる。
「お、おう。」
もはや冴の暴言にも慣れたのか、閃堂は微妙そうな顔をしてボールをパスする。
ボールが冴へと渡ったその瞬間、みかんは敵ゴールの方に向かって駆け出す。
その爆発的加速はブルーロックの面々に、世界選抜戦で戦ったジュリアン・ロキを彷彿とさせるほどのもの。
みかんの動きに誰しもが呆気に取られたその時、冴だけは冷静に状況を判断していた。
みかんがシュート射程圏内へ入ると同時、冴の超合理的思考はどこにボールを出すのが最適かを導き出す。
「俺たちが組めば、ゴールまで三十秒も必要ねぇよ…アホ。」
ボソリとそうつぶやく。
ボールは高軌道の弧を描きながら、いまだフリーとなっているみかんのもとへと向かう。
「やらせるかよッ!!」
みかんへと向かうボールの軌道上に、ブルーロック最速の韋駄天…千切豹馬が入り込んだ。
(この位置なら奪える!!)
千切は向かってくるボールを見て、そんな確信を抱く。
「貴方は脚が速いんですね。」
が、そんな確信は実に呆気なく砕かれた。
みかんがいるはずの位置の真反対から、みかんの声が響いてきたのである。
「は?」
つい先ほどまで左にいたのにも関わらず、なぜか右側にいるみかん。
千切はたしかに、みかんよりも先にボールに触れられる位置にいた。
だから、みかんは千切よりも先にボールに触れられる地点へと入り込んだ。
実に分かりやすくて、単純明快な理論。
千切の視線が完全に自分のいない左へと向けられた瞬間に、千切にいったん追い越されて、右側を陣取ってからまた追いつく。
やったことはただそれだけのことである。
それを千切相手に出来るヤツがどれだけいるのかは置いといて。
みかんは身体を大きく跳ねさせ跳躍し、飛んできたボールをそのまま蹴り抜く。
閃光のように宙を駆けたボールは、キーパーである臥牙丸吟に反応させることすら許さず、大きくゴールネットを揺らした。
静寂。
そして前半戦の時とは比にならないほど大きな大歓声がドーム中を包み込む。
が、それを気に止めることすらせずにみかんはボソリとつぶやいた。
「三十秒というタイムリミットはさすがに長かったですね。まぁ久しぶりでしたし、少なからず読み違いが発生しているのでしょうか?」
汗一つかいた様子も見せずに、みかんは自陣へとゆっくり戻っていく。
『決めたのは月羽みかんッッッ!!!!ほとんどがついていけないような糸師冴とのコンビネーション!!後半開始十秒と少しで、さっそく日本の双星がその圧倒的な存在感をピッチの選手たちに叩きつけてきた!!』
「相変わらずイカれた身体能力してんな、お前は。」
褒めているのか貶しているのかよくわからない言葉をみかんへと告げるのは、当然ながら冴。
まぁゴールした人にこんなことを言えるのは、この場には冴くらいしかいないだろう。
「そうですかね?そこまでのものじゃあないと思うんですけど…。」
「まぁシュートを決めたから、俺は別にお前がイカれてようがなんだっていいが。」
「だから僕はイカれてませんよ。そこまで化け物染みた身体能力なわけではありませんし。」
「速度のギアを100から0まで一瞬で上げ下げできるどころか、100から-100にまでできるようなヤツがイカれてないわけねぇだろ。」
「それは……そうなのでしょうか?やろうと思えば誰にでもできることだと思うんですけど…。」
「そういう思考を持ってやがるからイカれてるって言われんだよ、お前は。」
少なくとも自身か褒められるどころか、呆れられていることはすぐに分かった。
そのことをみかんが問い詰めようとするよりも早く、冴は強制的に話をすげ替える。
「次はお前一人でゴールを決めろ。俺がボールを持ったら、お前に即パスする。一対十一はお前の得意分野だろ?」
「そうですが……いいんですか?冴は活躍しなくて。」
「お前が暴れた後にするからいい。」
「分かりました。では最後に一つだけ。……万が一にもあり得ないとは思いますが、弟くんには呑まれないよう、くれぐれも気をつけてくださいね?」
「………お互い様だ。」
「ふふっ、そうですか。」
日本の頂にて光り輝く双星たちは盤上に揃い、強大な嵐をもたらす。
が、しょせんそれはまだ厄災の序章にすぎなかった。