アンケート投票ありがとうございました。
「いる」と回答した人しかいなかったので、こちらの話も"挟み"ます。
尚読まなくてもOK!主人公がシロちゃんを舐め回すのには無関係です!二人で一生ややこい話をしてるだけですからね。
次話からはちゃんと展開色々進みますので、それまで暫しお待ちを。
王途川と藍染は、王途川家の屋敷で庭園を眺めながら水墨画——所謂文人画を描いており、互いの休日を有意義に使っていた。
王途川はいつもより上機嫌ですらすらと筆を動かしながら、饒舌に語る。
「竹は地から芽吹いたその時から、抜き身の剣のように真っ直ぐ伸びた成竹に至るまで、生まれながらにして節と葉を備えている」
「……」
「例えば、普通に竹を描こうとすれば、節を節として作り、葉を葉として重ねていくよね」
「………」
「私が思うに竹を描くなら、先ず出来上がった竹の姿を胸中に思い描き、心のままに手を動かして、一息に描きあげてしまうのが良い。ほらみて、どうかな——藍染?」
王途川は藍染を覗き込む。いつもなら彼女のくだらない理論にも返事をしてくれる彼は、どこか心ここに在らずといった様子で川の流れを描いている。
石組の間を縫って流れる水は、藍染の筆先によって細い墨の濃淡へと変わっていく。庭師によって定められた流路を通る水でありながら、その流れそのものには一つとして同じ形がない。
「……王途川」
「ん?」
「君は五大貴族の次期当主だろう? 家の、蔵書に触れた事はあるかい?」
「……加々美、人払いを」
「はい、お嬢様」
藍染の一言にピンと来た王途川は、二人の居る部屋はもちろん、庭園から二人の姿を窺える範囲に至るまで、使用人に人払いを命じる。これで二人の会話が誰かに漏れることもなく、使用人の中にも、それに何ら疑問を持つ者はいない。
「……で、うちの蔵書を読んだことがあるか、だったね——あるよ、全部ね」
「……っ、なら」
「うん、知っているよ、五大貴族の成り立ちから霊王の姿まで、ね」
王途川は墨を足すように、固形墨を硯で磨っていく。静かな空間に、墨を磨る音だけがやけに響いた。
「君はどこで、それを知ったの」
「……志波家で、だ。この際だから君には言ってしまおう、僕の鏡花水月は流水系などではない。完全催眠だ。流魂街にある志波家本家は侵入が容易かったからそう時間は掛からなかったよ、僕がそれら全てを知るまでに」
「志波家ねぇ……てっきり瀞霊廷内の宗家の方にそういった文書は保管してあるのかと思ってたよ」
「…………驚かないのか、僕の鏡花水月に」
「ある程度、予想はしていた」
「っはは、僕は君が恐ろしいよ」
「どうだか、五大貴族の当主でもないのにそれを知る君の方がよっぽど、私は怖いよ」
二人とも、相変わらず視線は目の前の和紙と筆先にのみ注いでおり、時折、庭園へ目を遣る程度だった。
その時、藍染は筆を止めた。
「僕は、この世界を在るべき姿に変える。君はどうする」
庭園では変わらず水が流れている。置かれた石にぶつかって二つに割れ、また交わり、次の石へと流れていく。
王途川はそれを一瞥してから、自分の描きかけの竹へ視線を戻した。
「…………その答えは、君が1番よく分かってるでしょう」
「そうかい、残念だ」
「だけどね、私も現状を是としている訳じゃない。薄氷の上に辛うじて成り立つ三界は、とても見ていられるものではないからね。だがそれらを踏まえても私は現状維持を望む。そこでだ藍染、賭けをしよう」
「賭け、か」
王途川は竹の傍らに咲く花菖蒲へと筆を移す。庭園と和紙を交互に見遣りながら、細い花弁を一枚ずつ描き加えていく。
「藍染が護廷十三隊をはじめとする尸魂界の全戦力をねじ伏せ霊王宮に辿り着けば、私は君が天に立ち得る人物だとして従うよ。その時は私を改造でも何でもしてくれて構わない」
「試されているようで癪なのだが」
「ふふ。でも、新世界に本当の意味での仲間はいた方がいいでしょ?」
藍染は僅かに口元を緩める。庭園を流れる水へ一度だけ目を遣ると、静かに筆を置いた。
「 …いいだろう。証明して見せようじゃないか、僕の理想を」
王途川は藍染の描いた川へ目を落とす。紙の上の流れは庭園を写したものである以上、その先までは描かれていない。
「楽しみにしているね。——藍染の川が、海にたどり着けるように」
藍染は僅かに目を細めた。そして今度は、王途川の描いた竹を見る。
「君の竹も、折れることなきよう」
【補足】
冒頭の竹と川は、一応王途川と藍染それぞれの思想を表しています。
王途川の「竹」は、最初から完成形を胸中に思い描き、そこへ現実を近づけていくもの。原作知識によって未来を知り、理想の結末を先に定めて行動する王途川自身と重ねています。
対して藍染の「川」は、現在地から自ら道を切り拓き、世界の形すら変えながら海へ辿り着くもの。定められた世界を受け入れず、自ら「天」へ至ろうとする藍染自身です。
なので最後の
「藍染の川が、海にたどり着けるように」
「君の竹も、折れることなきよう」
は、お互いに「自分とは違うお前の生き方が、最後まで貫けるといいな」と言っているようなものです。
……というのを二人で水墨画描きながらやってました。
師匠みたいにオサレなの書きてぇ〜!と書き始めたのが今回の内容だったのですが、如何せん二次創作としてはややこしすぎるし、求められている物とは違うかなと思っていたので投稿を迷っていました。
ちなみに竹云々の話は、蘇軾『文与可画篔簹谷偃竹記』に記された「胸有成竹」の思想を下敷きにしました。