そんなエピローグです。
OK。
じゃあ一度だけ説明しよう。
今度こそ、本当に。
僕はベル・パーカー。
放射性の蜘蛛に
あとは知ってるでしょ?
友だちは増えて、多くの人を救った。
恋もした。
『あなたの受精卵は私が生まれる前に作られたわけでしょ?つまりは私の年上ってわけだし合法よ』
『…まじかよ』
『そもそも命がけであなたの反抗期を止めた悪の組織のマッドな科学者よこちとら。いまさら年齢なんて気にしないしあなたの悩みも全部受け止めるわ』
『……シェリー…しりもむのやめて』
『あらごめんなさい、ついうっかり』
『しっかりして』
…なんでこの人のこと好きなんだろうと思うほど、たまに倫理観があれだけど、普通のデートもした。
街も救った。
救いすぎるくらい救った。
脱獄してくるヴィランを叩きのめして、新しく生まれる犯罪者にドン引きして。
…たまに、メイおばさんと食事に行ったりして。
『あら、もう一人の母親を忘れてるんではなくて?』
『…はんざいしゃ』
『ふふ、あなたも業の深い生まれよね』
『わらいごとじゃねーんだわ』
それを見かけたらしい名付け親になぜか買い物に連れ回されたりして。
ついこの間。
ちょっと早めの反抗期と言うか、働き過ぎで我ながら自己認識があやふやになることもあったけど。
それも、支えてくれる皆のおかげで乗り越えることができた。
僕はスパイダーマン。
ちょっぴり蜘蛛っぽくなかったりするけれど、それでも。
───今は胸を張ってそう言える。
もし、誰も僕のことを理解してくれないなんて思ったときは。
ちっぽけな僕を、それでも愛してくれる人たちを思い出す。
「─────っ!」
くるり、と世界が裏返って、普通に生きてるだけでは味わえない浮遊感に身体の芯が震える。
…いつだって、スパイダーマン稼業は恐怖の連続だ。
怖くなかったことなんて一つもない。
毎回不必要なくらい痛みを伴うし、苦しいことだらけだ。
何度も地面にたたきつけられ、壁にめり込んで、火の中で悶えて、砂の中で溺れて、毒の見せる幻と踊ってきた。
それでも。
「あーいいね、きょうももスパイダーマンってさいこう」
───少年に、立ち上がらないという選択肢はなかった。
『大いなる力には、大いなる責任が伴う』
何度も口にしてきて、時に疑問に覚えて、新しく胸に刻みこんだ。
そんな、言葉を噛み締めながら。
今日も今日とて、少年は空に向かって落ちていく。
恐怖はある。
でもそれ以上に、誇らしさが少年の胸の内に芽生えていた。
●
事の始まりは数時間前。
先日の大脱獄事件を受けて。
ついでに増加する犯罪者とヴィランを捕縛しておくためにも、新たに建造された刑務所へと何人もの暴徒たちと合わせて、とあるヴィランを護送しようとしていたのが始まりだった。
「あーあー…ぼく、このさきどうなるかしってるかも」
ヘリで護送中のコンテナが大きく揺れる。
それを見て浮かんだ嫌な予感を裏付けるように、そのヘリは傾いて地上へと落下を始めていた。
「HAHAHAHAHAHAHAHAHA!!」
「あいかわらずうるさい…」
ため息をつきながら少年は自分をパチンコのように射出して、制御を失い不自然な旋回を始めたヘリコプターに向かって
状況はシンプルだ。
コンテナの中で暴れるライノの衝撃に耐えきれずに、着陸を選んだヘリコプターと、その周りで笑い声を響かせるグリーンゴブリン。
下の道路では厳戒態勢のもと多くのアウトローたちが護送車で運ばれている。
なんて米花町でありふれた光景だろう。
もはや日常風景とすら表現できるかもしれない。
「というかあたりまえのようにでてこないで!」
「なに!?」
二本の蜘蛛糸がグリーンゴブリンのグライダーへと接着し、腕にとんでもない負荷がかかる。
だが、その負荷を利用して、少年はグリーンゴブリンをビルの壁へと叩きつけた。
「おねんねしてて!!」
そこに追い打ちをかけるように、加速したスパイダーマンが飛びかかり、両足を揃えた蹴りを叩き込み打ちのめしたことでグリーンゴブリンを完全に無力化する。
『hnnnnnn…つまらん!』
「
『ミンチ!ひき肉!滅多刺し!!血が足りないぞ!!』
「もー!すぐわがままいう!」
脳内に響き渡るもう一つの声と会話しながら、落下を始めたヘリを追いかける。
『お…なんだ、面白そうなことになりそうだな!!』
「…さいあく!」
ガン、と。
コンテナに穴が空き、そこからライノが顔を出す。
そもそもどうして麻酔で眠らせたり、もっと頑丈な檻とヘリを用意しないのか。
怠慢じゃないのか。
そんな不満は後回しだ。
あとで死ぬほど風見さんと降谷さんにぶつけてやる、と少年は心に決めて飛ぶ。
自分が上空にいることを理解し、しばらく何かを考えた様子のライノはしかし。
特に躊躇することなく地面に向かって飛び降りた。
「あいついかれてる!!やばすぎ!!」
『なんだと?俺たちにだってできる!!』
「こないだあれしてしにかけてたくせに!!!」
『回復したんだから問題なしだ!ミンチになろうがな!』
張り合わないでほしい。
「はっはー!俺は自由だぁ゙!!」
地上ではしゃぐ犀に追いすがるように、少年もまた頭を地面へと向け、加速する。
「よォ゙おチビな蜘蛛さん!!お前をもう一度ぶちのめしてやれるのをずっと待っていたぞ!!!」
『あいつ記憶喪失か?もう一度血みどろにしてやらないと…』
「すぷらったきんし!」
…空中から真っ直ぐ飛んでくる少年を迎え撃とうと拳を構えるライノの予測を裏切るように、少年は脇に張ったシンビオートの膜で減速し、豪腕をふわりと身を翻すことでやり過ごす。
そのまま地面へと転がり落ち、背後を取る。
視界がシェイクされて、上下左右が目まぐるしく入れ替わった。
「──────!!」
「ここでしんわざ!!」
「ぬぐ…!」
『Hooooooo!ストライクだ!!!』
腕が痺れる感覚に思わず歯を食いしばりつつ、少年は吹き飛んだライノを糸で拘束していく。
そして、頭上を見上げる。
「──────!」
操縦士が必死にレバーにしがみつくヘリが地面とキスする、なんて未来は許されない。
下には千人近くの街の人達。
必死に警察官たちが避難誘導しているが、たくさんの人達を巻き込むことになってしまう。
『やるのか?』
「まよってるひまなんてないでしょ!」
『前はあんなに嫌がってたくせに!』
「またすねてる?まぁそうだけど…」
少年は頭を少しかいてから、笑う。
「おまえもせおうって、きめたから」
『わかってるならいい…』
少年の赤いスーツを覆い隠すように、黒い触手が少年を覆っていく。
非生物的な光沢と、生物的な脈動。
隆起した筋肉と、鋭い爪。
にたりと歪む口から歪な牙が見えている。
まさに怪物。
悪意の権化とすら思われる凶悪な見た目を惜しげもなく晒しながら、少年とシンビオートは吠えた。
「『We are ─── Venom!!』」
地面がひび割れるほどの脚力で飛び上がった少年は空中で身を捻り、空に向かって黒い蜘蛛の巣を重ねていく。
回転する羽を巨大な鉈に変化させた少年が切り離し、ヘリの重さを軽くする。
羽根の次は、テールローター。
車輪。
そうやって順番に空中で解体されながら、ヘリは落下する。
何重にも糸を重ねた蜘蛛の巣が、ヘリを減速させ、2つ目へと衝突。
一瞬の停滞の隙にヘリへと蜘蛛糸を巻き付け、ビルと繋いでヘリの重さを分散する。
ぶちり、と無慈悲な音を立てながら3つ目の巣がヘリを受け止めた衝撃で悲鳴を上げるが、そこでついにヘリの勢いが完全に停止する。
そして───
●
「……くん…コナンくん?」
「駄目ですね、完全に固まってます」
「それよりやっぱすげえよな、スパイダーマンは!!」
「そうね」
「………え?」
元太の大声にようやく意識の焦点があったコナンは、慌てて周りを見渡す。
周りでは写真を撮ったり、騒いだり。
米花町ではもはや見慣れた光景が広がっていた。
「わ、わりぃわりい…」
ようやく耳が街の喧騒を拾うようになり、コナンはそっと胸をなで下ろした。
「大丈夫?」
「おう、大丈夫だよ!ちょっと現実感がなさすぎる光景だったからつい、な」
「そうですか?スパイダーマンの現場って最近いつもこんな感じな気もしますけど…特に赤いスーツになってからはより一層激しいような」
「ね、白いスーツも似合ってたけど赤いのもいいよね!黒い姿も可愛いし!」
「えー?可愛いかぁ?」
「元太くんセンスないー」
「えぇ!?俺かよ!?変なのは歩美だろ!」
子どもたちがはしゃいだような声で囃し立てる様子をみながら、コナンは噂のスパイダーマンの変化に胸がすくような思いをしていた。
コナンの前では、警察によって交通整理が行われ、少なくとも表面上はいつも通りを取り戻している。
だが少し視線を上げれば、ビルとビルの間に張られた巨大なクモの巣にヘリコプターが絡め取られていた。
…なんて現実感のない光景だろう。
人の命が奪われてから動く探偵とはまったく正反対な、人の命が失われる前に懸命に手を伸ばすヒーロー。
そんなヒーローが自分のクラスメイトなことこそが、一番現実感を失わせてるわけだが。
「あの子、使いこなしてるわね」
「ああ、そうだな…」
「あれが、あなたの言ってたたった一つの真実ってこと?」
感傷に浸るコナンの隣で、横顔を覗き込んでくる灰原の言葉に、コナンは苦笑する。
「そもそもさ、加虐性を強めるって話はどこだよ。その対策に幼い情緒になるように設計されたなら、スパイダーマンの時の口調はなんだよ。…なぁ、怖くて泣くだけの子どもが、すごいことしすぎてただけでさ」
今日は晴天。
夏休み最終日としては、これ以上ないくらいの朝だ。
「あいつらは元から二人で一人だったのさ」
そう考えると、すべての辻褄が合うのだ。
素の口調でないにしては、スパイダーマン中の口調の模倣がうますぎた。
そして、少年の内側には擬態の得意な寄生生物がいて。
なら、きっと。
「そうね…とんだ兄貴分がいたものだわ」
「まさに
少なくとも、シンビオートは少年の恐怖にずっと寄り添ってきたのだろう。
故にこそ少年の疲弊と精神の摩耗に合わせて破壊者として振る舞っていたのだろうし。
それでいながら、ミステリオに始まり、すべての犯罪者が致命傷手前で放置されていたことを考えれば自ずと、答えは導き出される。
「あ、ベルくん!どこ行ってたの?」
「そうですよ!せっかくスパイダーマンの活躍が見れるところだったのに!」
「うんこ」
コナンは、相変わらず言い訳が下手くそな少年に吹き出しながら、その足を向けて近付いていく。
「ベル」
「なに?」
「───おかえり」
ヒーローは失われるかもしれない命のために危険を顧みずに飛び込んで救いの糸を伸ばす。
探偵は命を奪われた声なき死者たちの代わりに謎を暴いて殺人者に真実を突きつける。
悪党を許さない。
その一点以外真反対の二人は、しかしかけがえのない友人になった。
これは、訳あり小学1年生のうすほそ少年が不完全なスーパーヒーローとして陽気なフリして懸命に足掻く話。
少年スパイダーマンは悪党が蔓延る米花町で戦い続ける。
大いなる力に伴った、大いなる責任を果たすために。
Fin.
これにて完結です。
本当に、なんて自己満足な小説なのか。
全てはブランニューデイを見て中途半端になった過去作を書き直したくなったから始めたのですが、やってよかったと勝手に満足しております。
こんだけ好き勝手やったんだから当たり前ですけど。
…これだけの設定を考えてたのに全部無駄にした過去作があるってマジ?
もともとお気に入り登録100人を目指していたにもかかわらず、予想よりもはるかに多くの方の目にとまったこと、とても嬉しくおもいます。
お気に入り登録や感想や評価、ここすきまでくださった皆様、そして、こんな作品を最後まで読んでくださったとんでもなく寛大な皆々様。
本当にありがとうございました。
皆様にとって一夏の暇つぶしくらいには慣れてたなら幸いです。
…でもシリアス系作品はもう一旦お腹いっぱいだなって感じなので、もしまた何か書くことあったら下ネタいっぱい書きたいです。
ていうかちんちんはマストで出したいですね。