ルーデウスに無為転変みたいなのを使える妹が増えたら 作:りんごりら
トマ視点
首都ミリシオンへ向かう馬車の中、御者をやっているタルハンド以外のわたし達は、互いに向き合って雑談を楽しんでいた。
さっきまでは。
いや本当になんだ?
エリナリーゼの好きな人を振り向かせる15の方法やロキシー先生の冒険者時代の武勇伝を楽しく聞いていたのに、「改まって、話があります。」と、言われてからエリナリーゼも姿勢を正して真剣モードだ。
いまいち状況が掴めないまま、この雰囲気をどう乗りきろうか手をこまねいていると、ロキシー先生に耳打ちされた。
(貴女の力のこと、エリナリーゼさんとタルハンドさんにバレてます。)
嘘じゃん。
ちゃんとストックしたやつも暇潰しに弄らず、自身の体も変形させずに不便を受け入れて我慢してたのに!
思い当たるのは…改造竜かな?
アイツ最近全然役にたってない。
空を飛べるのが最大の魅力なのにそれが禁止されてる上、体も小さく戦闘能力も損なわれてるかわいそうなやつだ。
なんかちいさくてかわいそうなやつ。
アイツは今も馬車の上に張り付いてる。
(お2人とも力の事を国へ報告しないそうです。それならいっそ話してみるのはどうでしょう?)
確かに。
どうせバレてるなら、詳しく術式を知って貰った方が互いに気を使わなくて済む。
返事をするためにロキシー先生の耳に顔を近づけ………………ふーー
「ひゃあ!」
「うふふ、どうしましたのロキシー。」
「ちょっと!トマさんやめてください!」
「えへへ、ごめんなさい。」
エリナリーゼはくすくすと笑い、ロキシー先生は耳を赤くしてぷりぷり怒ってる。
先生の耳がやたら無防備だったからイタズラしたくなった。
「エリナリーゼ、わたしが神子って事知ってるんだよね?」
「えぇ、そうですわ。」
「どうして分かったの?」
「勘ですわ。」
えっ勘!?
わたしが戦慄しわなわな震えると、エリナリーゼは上品にクスッと笑って、本当の理由を話し始めた。
「ふふっ冗談でしてよ。わたくし洞察力には長けている方でして、行動の一つ一つに小さな違和感がありましたの。例えば、人を見る時の視線の揺れや怪我をしたときの動揺のなさ、極めつけは召喚獣が竜ということですわ。」
「でもそれだけじゃ神子って決めつけられないんじゃないの?」
「……神子、と断定したというよりも、呪子かもしれないと思いましたの。あなたの雰囲気が……何というか、自分の体に頓着していないようでして。呪いに心を病んでいるかもしれないと……。」
彼女はこちらを気遣うような表情を見せ、そして目を伏せた。
怪我しても治せるし痛みも感じにくいからね。
心の傷は別だけど。
それにしても呪子っていうのは発想が飛躍してないかな?
呪子の知り合いでもいるだろうか。
「そっか…心配してくれてありがとう。でもエリナリーゼが思うような代償はないよ。」
「ならいいんですのよ。」
やっぱり、エリナリーゼもタルハンドもしっかりとした大人で、いい人だ。
この人達なら、話してもいいかな。
「わたしの力について話すね。まずはこのポケットから出したこれ、何だと思う?」
それは掌サイズの大きさで、生温かく固い干しぶどうのような感触をしている。
中心よりやや上に存在する3つの穴は、シュミクラ効果で顔のような印象を与える。
顔なんだけどね。
「…………腐った干し肉?それにしては臭いもしないですわね。」
「これはね、魔獣だよ。ほら。」
それがグニャリと膨らみ粘土細工のように元の魔物の顔へ変形した。
顔だけ戻った魔獣は口をパクパクと動かす。
「これがわたしの力、無為転変。体に刻まれた術式に魔力を流すと発動して、魂の形状を自由に弄ることができる。自分含めてね。そして肉体は魂に引っ張られるからこうなったの。」
エリナリーゼは一瞬唖然としたが、すぐにいつもの上品な空気を身に纏い、こちらに体を近づけてきた。
「それだけの力、本当に代償はありませんの?」
エリナリーゼは眉間にしわを寄せ、心配そうに言った。
「ないよ。」
「それならいいんですの。話してくれて感謝いたしますわ。」
彼女は港町で買った酒をこくりと飲み、心底安心したように深く座った。
ふぅ、と汗を拭うのはロキシー先生。
この会話に全神経を尖らせていたっぽい。
そして恐らくだが、タルハンドも聞き耳を立てているだろう。彼の様子は分からないが、港町で色々奢ってくれたいい人だから心配しなくていい。
この3人に力を話して分かったことが1つある。
それは……この力は、初見の印象が悪い!
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「さて、あともうすぐでミリシオンへ着きます。南側の冒険者区から入りますので、持ち物点検をしてください。」
「はーい。」
馬車移動の休憩中、ロキシー先生に言われた通りに持ち物を一つ一つ確認する。
わたし達が入るミリシオンは、東西南北で4つの地区に分けられていて、
北側は貴族と一般人が住む居住区
東側は鍛冶場や競売状がある商業区
南側は冒険者ギルド本部のある冒険者区
西側はミリス教団本部の大聖堂がある神聖区だ。
ミリシオンは排他的な町で、外部の人間が冒険者区以外から出入りすると疑われるらしい。
よって、南側から入るわけだ。
「ついに家族に会えますね!」
ロキシー先生が口角を上げ嬉しそうな顔で言ってきた。
その顔にはまだ憂いは感じず、その事にほっとした。
「うん!会ったらまず抱き締めて貰うの!それからロキシー先生のおかげでここまで来れたんだよって伝える!」
「ふふ、照れますね……それにしても、家族ですか……。」
「……?どうしたの?」
「ああいや、何でもありません。」
誤魔化されてしまった。
先生が話したくないなら、無理に問い詰める必要もないか。
そう考えていると、エリナリーゼとタルハンドが深い溜め息をついた。
「とうとう来ましたわね、この時が。」
「あぁ、出来れば来んで欲しかったのう。」
2人はとおさまにいい印象はないみたい。
直接口に出すことはないけれど、かなりとおさまが悪い事をやったようだ。
とおさまは前言ってた、「父さんも間違えることがある」って。
これがそうなんだろう。
わたしとしてはこの2人ととおさまが仲良くして欲しい。
2人はわたしを港からここまで連れてきてくれた恩人で、この後も家族を探してくれる。
それに感謝してるけど、とおさまの事を悪く……いや、嫌いにならないで欲しい。
会えたら仲直りしてくれないかな。
そんな願いを胸に抱きながら、点検を終えた。
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「入っていいぞ、次!」
首都ミリシオンの外門、行列の先では兵士が検問を行っている。
わたしは馬車の外にでて、その隣で歩く。
改造竜は犬の形で誤魔化す。
順番が来るまで馬車の中にいていいとエリナリーゼに言われたが、わたしにはやることがある。
地形や建物の情報収集のためだ。
もし魔族差別をしてくるやつがいても、その場では殺さない。たぶん。
みんなに迷惑をかけたくない。
よって、改造魔獣で追手を付けて、夜に殺す。
その為に地形は把握しとかないと。
脳内に焼き付けるようにまじまじと周囲を見る。
そうしている間にわたし達の番になった。
「よし、次!……うん?魔族か?」
兵士がロキシー先生の姿を見て一瞬止まる。
わたしは鋭い目付きで兵士をにらみつけ、威嚇する。
こいつ…まだ推定無罪だが、差別をしたのなら、即!始末してやる……。
「あなた達の身分を証明するものは?」
「どうぞ、皆のギルドカードですわ」
「…ふむ、ではこのミリシオンに入る目的は?」
「この子をパウロへ送り届ける為ですわ。」
「…その凄く俺を睨み付けるてくる子か……まぁいい、通行料を。」
「どうぞ。」
兵士は片手で受け取ると、ぶっきらぼうに通してくれた。
あの兵士はまだロキシー先生をじっとり見ただけだから無罪にしてやる。
警戒を抱きつつ首都ミリシオンに入る。
遠目から見たミリシオンは、純白の建物と湖が見事に調和した円形の美しい町だった。
中央の純白のホワイトパレスは高貴な威厳を備えていて、世界で最も美しい都市であると言われるのも納得であった。
が、その美しさで圧倒される気持ちとは裏腹に、わたしの怒りは腹の底で唸っていた。
門から進み石橋を渡る。
ロキシー先生は車箱の中にいる。
彼女曰く、西側の神聖区以外はそれほど差別されないと言ってたが、それほどではダメなのだ。
……でも、このきれいな町を自分の足で歩きたいという気持ちを押し潰すのもよくないよね。
ということで、差別されやすい(勝手な値段を上げられる)買い物の時はわたしたちが買うことにして、それ以外は彼女の意思を尊重することになった。
「トマ、そう力を入れるな。お主は父親との再会を喜ぶだけでいいんじゃ。あと前が見えんわい。」
御者をやっているタルハンドの膝の上に乗っていると、彼が気を遣ってきた。
「……心配しなくてもいいよ。」
「じゃが…」
「いいから。」
わたしは彼の思いを一蹴し、術式に自己補完に収まらない量の魔力を流しこむ。つまり、無為転変を他に使える状態にした。
さらに体に魔力を流し、身体強化を行う。
両手と体全体に力が入る。
そんな時、ロキシー先生が車箱から顔を出してきた。
「トマさん、車箱の中に入りませんか?その、気を遣ってくれるのはありがたいのですが、わたしはあなたがパウロさんと喜んで再開することを一番に望んでいるんです。そんな怖い顔してたら、パウロさん、きっとびっくりしてしまいますよ。」
彼女の主張が胸に突き刺さる。
完全に正論だ、でも、わたしはロキシー先生に傷ついて欲しくない。
いや、でも、こんな気持ちでいることこそ、ロキシー先生が一番望んでないことじゃないか?
さっきまで周りの地形と人を射貫かんばかりに見つめていた目線が、今度は力なく視界の左端に固定される。
「うーん……ならこうしましょう!パウロさんに会った後、わたしを気遣ってください。それならわたし達2人の望みが叶います!」
ゆっくりと視界の端から彼女に目を向ける。
彼女は困ったように、薄く微笑んでいた。
違う、わたしは、こんな顔をさせたいんじゃない。
彼女に満面の笑みでいてほしくて、それで…………故郷みたいに、いなくならないでほしい……なくならないでほしい……それだけなのだ。
「…そんな顔しないでください。笑顔ですよ、笑顔、こんな風に。」
両の頬を人差し指で押し上げて、優しい笑顔のお手本を見せてくれた。
……わたしは、その顔を見るだけで、心がポカポカした。
腹の怒りが収まっていく。
あれは、旅の途中何度も心を救われた、笑顔だ。
わたしのこれは、もはや意地なのか?
ロキシー先生はわたしが、わたしが守らなくちゃいけない。
そう、思っていたのかも。
守られて、救われているのは、わたしだというのに。
「ふふ、表情が柔らかくなってきましたね。その調子です。」
さらにロキシー先生が車箱から身を乗り出して、わたしの頭をヨシヨシと撫でる。
怒りが、力が抜けていく。
「よしよし…トマさんはこれが好きですよね。」
撫でられ続けて、敵意が、怒りがさらに抜ける。
「さっ、中に入りましょう?」
「……うん。」
なぜか涙が出そうになって、みんなに見せないように下を向きながら車箱に入った。
これはたぶん、自分勝手なわたしへの、自己嫌悪だ。
「えっトマさん!?どうしたんですか!?どこか痛いですか?」
「あら……。」
「どっどうしましょう!?えっえと…エリナリーゼさん!わたしが治癒魔術をかけるのですぐに凄腕の治癒魔術師を呼んでください!母なる慈愛の女神よ、彼の者の傷を塞ぎ、健やかなる体を」
「落ち着きなさいロキシー、魔術は必要ありませんわ。まずトマを抱き締めてあげなさいな。」
「えっはい…わかりました。」
彼女はわたしをそっと抱き締めて、その体で包んでくれた。
「どうでしょうか……」
木製の床を見ていた視界は、彼女の茶色のローブだけになった。
全身が彼女に包まれて、力が抜ける。
耳を寄せると、かすかな鼓動が耳に届いた。
おもむろに腕を彼女の背中へ回し、胸元へ顔を埋める。
安心する匂いに包まれて、ずっと張り詰めていたものが切れた。そして、いつしかわたしは、深い眠りの中へ沈んでいった。
---
「───さん、──てください、──マさん」
「……………………ぅ…………ん…………?」
ゆっくりと意識が浮上する。
回らない頭でうっすら目を開けると、みんなの荷物とわたしの大剣……車箱の中のようだ。
未だうつらうつらとしながら、体を起き上がらせようとすると、ロキシー先生の膝枕で寝ていたことが判明した。
ふぅん、いつもは抱き合って寝てるけど、昨日は膝枕だったのか。
立ち上がって両手を組み、天に向かって腕を伸ばす。
「んぅーーー。」
背骨がぺきぺきっと鳴った。
ふぅ、と一息ついて後ろを振り返る。
ロキシー先生が立っている。
「おはようございます、トマさん。」
「おはよー、ロキシー先生……えっと、今どこだっけ?」
「ミリシオンの冒険者ギルドに着きましたよ。」
「……あれ?」
瞬間 わたしの脳内にあふれ出した 存在する記憶
「あ……ぇ……えっと………その……。」
「気持ちがスッキリしたのなら、わたしは満足です。さぁ行きましょう!」
手を引かれて馬車から連れ出される。
おそらく、顔は真っ赤に染まっているだろう。
しかしその反面、わたしの心は雲一つない晴れやかな青空のように澄みきっていた。
エリナリーゼとタルハンドはギルドの前で待っていた。
2人とも、嬉しそうなそうでないような、微妙な表情に見えた。
しかし、わたしを見た瞬間に温かな笑みを向けてくれた。
「あなたはそれでいいんですのよ。」
「思いっきり父親に抱きつきに行くんじゃよ。」
「っうん!」
わたしは、ロキシー先生の手を握りながら冒険者ギルドへ入った。
「るっせぇぞ!てめぇ!!!ふざけんな!!」
「ああ!?てめぇこそなんだ!!!突っかかりやがって!!!表出ろやてめぇ!!!」
うるさっ
空気読んでよ。
感無量な気持ちが引っ込んでしまった。
いやそうか……ギルドって騒がしいよね……それが当たり前だ。
「上等だコラ!?剣抜けよ腰抜け!!!」
「あぁ!?やってやるよボケナス!!!」
あーあー剣まで取り出して、ロキシー先生達に当たったら殺すからな?
そうイライラしていたその時、奥で話し合っている緑のマントを着た、後ろ髪を一つにまとめた茶髪の男が振り返った。
「お前ら!喧嘩なら外でやれ!」
その時、時間が止まったような気がした。
その人は、わたしが知ってる声をしていた。
その人は、無精髭が生え、目に隈ができていた。
その人は、やつれていたが、わたしの知ってる緑色の目をしていた。
その人は、わたしが今まで見たことのない、殺伐とした表情をしていた。
その人は、側に4歳くらいの金髪の女の子を連れていた。
その人は、その人は、その人は─────
「ったく……ノルンが怪我を……………………あ?」
その人は、入り口に立つわたし達を、わたしを見て、目を見開いた。
そして、わたしは──────
「とおさま!!!!!」
その人───とおさまに向かって走り出す。
ブエナ村を見に行った時とは違う、胸に溢れ出す温かな、幸せな思いで体が震えて、涙がこぼれた。
とおさまは泣きながらすぐしゃがみこみ、腕を開いてわたしを待った。
わたしはとおさまに抱きついた。
「とおさま!!!とおさまぁ!!!会いたかった!!!ずっと、ずっとあいたかったぁあ!!!」
これは、ブエナ村でも、自己嫌悪の涙でもない。
幸せ過ぎて涙が出るのだ。
「トマ……トマ!……お前……会いたかった、ずっと、会いたかったんだよ……トマ………」
とおさまの体、とおさまの匂い、とおさまの腕、全部、全部久しぶりで、もう絶対に離したくなくて……
「ねえ……さん…………ねえさん!!!」
横からノルンが抱きついてきた。
わたしはとおさまから少し離れてノルンを抱き締める。
体が全体を覆うように、わたしの体が全部でノルンを感じられるように。
「ノルン!!!やっと会えた……会えたよぉ……!!!」
「ねえさん!わたしも!わたしもあいたかったぁあ!!!」
ノルンの大きな泣き声が聞こえる。
わたしも、負けないくらいに泣いてしまう。
ずっと家族に会いたかった。
紛争地帯でも、赤竜の下顎でも、フィットア領でも港町でも!!!
わたしは泣いて泣いて泣きまくって、家族との再会を心の底から喜んだ。