ルーデウスに無為転変みたいなのを使える妹が増えたら 作:りんごりら
トマ視点
やっととおさまとノルンに会えて、その事に胸が熱くなってわんわん泣いた。
その感動故の涙も収まった頃、とおさまはゆっくりと立ち上がりロキシー先生達の方を向いた。
「ロキシー………………と、エリナリーゼ、タルハンド、お前達がトマをここまで送り届けてくれたのか。」
「はい、赤竜の下顎でトマさんと会って、そこからずっと行動を共にしていました。」
「そうか……!ロキシー……本当に感謝する。ありがとな、トマをここまで連れてきてくれて。
………………それと……お前ら……」
とおさまはロキシー先生に深く頭を下げて感謝の想いを告げた。
そしてエリナリーゼとタルハンドの方にのろのろと、気まずそうに目を向けた後、逸らして黙ってしまった。
……やっぱり、仲直りしてくれないのかな。
泣き腫らした目で2人を見つめる。
「……ええと、エリナリーゼさんとタルハンドさんとは王竜王国のイーストポートで会いまして、この後もパウロさんの家族を探してくれるようです。」
「っ!?本当か!?」
その言葉にとおさまは反射に、エリナリーゼ達を縋るように見つめた。
しかし2人のの目は冷たく、面白くなさそうな顔をしていた。
それに鬱々とした気持ちになる。
わたしは、大切な人達がいがみ合っていて欲しくない。
みんなに仲良くしていて欲しいのだ。
「…とおさま、わたしは、エリナリーゼ達と仲直りして欲しい。」
そう言った後、とおさまはわたしをチラリと見た。
その顔は、知っている。
とおさまは、眉は八の字で奥歯を強く噛み締めていた。
自己嫌悪と情けなさ、それが混ざった表情だ。
わたしはその顔を、ついさっき馬車でしていたのだ。
とおさまはゆっくりと歩き出し、2人の眼前に立つ。
2人はとおさまの目を睨み付け、口を開かない。
「ねえさん…?おとうさん何してるの?」
「たぶん、仲直り。」
ノルンが不安そうに服の裾を引っ張ってくる。
彼女の頭を撫でながら、とおさまを信じて口を一本に結ぶ。
とおさまは意を決したように声を上げた。
「あの時は俺が悪かった!俺をどれだけ罵っても、ぶん殴ってくれてもいい!だがその後は!俺の家族を探してくれ!!!」
頭を勢いよく床にこすりつけ、謝罪の言葉を口にする。
わたしは初めて見た親の本気の謝罪に、そうさせた立場であるのにもかかわらず、呆然としてしまった。
ノルンもそうだ。
「……ふん、そうじゃな。あの時のはお主が悪いのう。じゃが……」
タルハンドが横目でエリナリーゼを見る。
エリナリーゼはパウロの頭を真っ直ぐ見つめている。
とおさまは土下座し続け、力なく一言。
「すまん……。」
エリナリーゼはしばらく黙っていたが、一度溜め息をつくと顔を柔らげ言った。
「………………はぁ、あの時の事は、わたくしにも非があったと思ってますわ。」
「っエリナリーゼ……!」
タルハンドも同様に。
「仕方ないのう、パウロ、娘に感謝するんじゃぞ。」
「タルハンド……!」
やった!
3人とも仲直りができた。
「ありがとう、エリナリーゼ、タルハンド。」
「どういたしまして、パウロ」
「気にするな。」
みな微笑を浮かべている。
彼らを隔てていた何かが、今ので綺麗さっぱり消え去ったみたいだ。
とおさまはふぅ、と大きく息をつくと、土下座をやめて、立ち上がった。
「…………あー、書き置きで知っていると思うが、俺はこの災害で転移した人々を救うために、フィットア領捜索団の団長をやっている。今もそのための会議をしていた。」
あ、確かに机でなんか話し合ってたね。
周りに目をやると、露出度の高い鎧を着たショートカットの女性や、目元まで髪を伸ばした内気そうな女性、他にも色々な人達がいた。
「トマちゃん……であってる?私はヴェラ、よろしくね。」
「あ、はい、トマ・グレイラットです!よろしくお願いします!」
ペコリと頭を下げ、挨拶をする。
鎧の女性はヴェラと言うらしい。
その鎧、意味あるのかな?胸と股だけ守ってても意味なくない?
すごい能力でもついてる魔道具なのだろうか。
「俺はこの後会議をして、実際に救助に行かなくちゃならん。お前らはどうする?」
「わたくし達は明日、ミリシオンから出て魔大陸に向かおうと思ってますわ。今日はそのための物資を買いに行くつもりですのよ。」
「魔大陸!?……恩に着る!」
「えっ明日行っちゃうの!?」
いくらなんでも早すぎる!
1ヶ月くらいいてくれると思っていたのに。
なんでこんな早く……
……いや、そうか。
ロキシー先生にとって、ここは居心地が悪い。
魔族差別の総本山みたいな場所だ。
わたしのワガママで縛り付けてはいけない。
そう、ここで一緒にいたいと思うのは自分本意な考えで、ロキシー先生を本当に思うならすぐに旅立たせる、いや、旅立つべきなのだろう。
はぁ。
「明日、行っちゃうのか……」
そう落ち込んでいると、エリナリーゼが慰めるように話してきた。
「大丈夫ですわ、すぐにあなたの家族を見つけて、ここに連れてきますわよ。」
「エリナリーゼ……」
彼女は優しい。
この旅の途中で何度もその気遣いに救われた。
今だってそうだ。
しかし、なぜか自然にわたしがパーティーから外されている。
誠に遺憾である。
「パウロさん、ちょっと時間ありませんか?大事なお話があるのですが……」
「ん?あぁ、まぁ少しだけなら今からでも時間は取れるが……旅費ならあいつらに言えば出してくれるぞ?」
「違います、いや旅費もありがたいんですけど、言いたい事はそれじゃなくて……個室を取れませんか?」
「個室?あー……俺が泊まってる宿がならあるが、それでいいか?」
「十分です。」
ロキシー先生ととおさまが話している。
恐らくわたしが魔大陸に行っていいかの話かな。
「トマさん、行きますよ。」
呼ばれた。
やはり魔大陸か……明日出発か。
わたしも同行する。
---
宿の個室、机の上には蝋燭の入った燭台に、花かんむりが輪を通すように飾られている。
ベッドの横のサイドテーブルには飲みかけの酒が入っていて、あのやさぐれた顔が嘘偽りのものではないことを実感させる。
とおさま、ずっと頑張ってたんだろうな。
花かんむりはノルンが作ったやつだろう。
笑顔でとおさまに渡すノルンの笑顔が脳裏に浮かんだ。
とおさまはベッドに座り、ロキシー先生は椅子に座った。
わたしは……ベッドでいいや。
「それで……大事な話ってのはなんだ?ロキシー。」
とおさまの横顔真剣そのもの。
加えてどこか、怯えのようなものが感じられる。
どうしてだろう?
疑問に思うが、わたしも真剣にならねば。
魔大陸へ行くためにとおさまを説得するのだ!
「……単刀直入にいいます。トマさんは、神子です。」
「………………は?」
あそっちね。
思わず気が抜けてしまった。
「いや……それ、本当か?」
「本当です。そしてそのことは、わたしとエリナリーゼさん、タルハンドさんしか知りません。」
「そりゃありがたいが……」
とおさまは戸惑っていて、わたしが神子だってことを信じていないようだ。
力を見せてあげようかとも思ったが、ロキシー先生の話が終わるまで自重することにした。
「わたしとトマさんは赤竜の下顎であったと言いましたよね?」
「あっああ、そう聞こえたが……」
「その時の彼女は竜に乗っていました。」
「は?」
改造竜のことか。
懐かしいな、あの時ロキシー先生に会えていなかったらと思うと、ゾッとする。
「トマさんは生物の魂を視認して、それに掌で触れることでその魂の形状を自由に変形させる力を持っています。」
「待て、待ってくれロキシー。」
「肉体は魂の形に引っ張られるそうです。つまり、トマさんは竜に触れてその魂を変形させ、竜の肉体を彼女が命令できる形にしたのです。」
「………………」
「魂を見るのは右目の魔眼だよー。」
頭を抱え込んじゃった。
まぁみんなこの力を聞いたときは大小あれどショック受けてたし、とおさまがそうなるのも無理はないか。
……わたしは、家族にこの力を褒めて欲しかったんだけどな。
「トマさん、転移した場所について、話してもいいですか?」
「いいよー。」
断る理由がない。
ロキシー先生は話を続ける。
「トマさんは、中央大陸の紛争地帯に転移したと言ってました。」
「紛争地帯!?トマは平気か!?」
「彼女の力は自分にも及ぶようで、大抵の傷は自分で治せるようです。」
「腕とかお腹斬られたり、頭殴られたりしたけどすぐに治したよー。」
「……失った腕を0から生やすのは、恐らく王級治癒魔術が必要です。彼女はそれをいともたやすく行っています。」
「……………………………………」
とおさまは絶句している。
「……その力は、お前ら以外に見せてないんだな?」
「少なくとも、赤竜の下顎であった時からはそうです。」
とおさまはこちらを向いて話してきた。
「トマ……ロキシー達以外にその力を見せたやつはいるか?」
「あー……紛争地帯で、11人に?もう全員使いきったけど。」
「使いきった?どういうことだ?説明してくれトマ。」
わたしはポケットから小さくした改造魔獣を取り出す。
もうこの流れお馴染みだね。
「これ、魔獣なの。こんな風にストックして、必要なときに使ってる。改造人間のストックは全部使いきったから、ロキシー先生達ととおさま以外にこの力、
「あ……?あぁ…………とにかく、バレてないんだな?」
「うん。」
わたしが頷いた後、とおさまはどっと疲れてしまったようで、ベッドに倒れ込んでしまった。
このまま寝るなら一緒に寝たいんだけど、とおさま仕事あるって言ってたからなー。
「わたしは明日、魔大陸へ向かいます。そのため時間がなく、こんな風にいきなり伝えてしまいました。申し訳ありません。」
「いや、謝ることじゃない。俺の家族を探してくれるために行くんだろう?」
とおさまは起き上がり、ロキシー先生の目を見て言った。
「はい、グレイラット家の皆さんは、こんなわたしを温かく迎え入れてくれた恩人です。微力ながらわたしも捜索をお手伝させていただきます。」
「ロキシー先生……!」
やっぱりロキシー先生は神様なのだろう。
祭壇を作らねばならない。
でも、そのためには……あれを手に入れないと……。
あ、あとあれ忘れてた。
「とおさま、わたしもロキシー先生と一緒に魔大陸に行っていい?」
グレイラット流必殺上目遣い。久々の登場だ。
「ダメだ。」
なんでーー!?
必殺技が初めて防がれた!
久しぶりすぎて技が鈍ったのか?
もう一度基礎から練習しなくてはならない。
まずは甘え声からだ。
「まずお前はまだ8歳だ。本来まだまだ親元から離れる年齢じゃないし、親としての責任を放棄して放り出すわけにはいかない。そしてどんな特別な力があろうとも、お前は純粋すぎて騙される。外には汚い大人がうようよいて、お前をつけ狙うんだぞ。」
むぅ。
年齢の問題はわかるけど、純粋すぎるってなに!
わたし汚いこともわかるんだけど!
「もうわたし純粋じゃない!」
「ほう?例えば?」
「にいさまみたいにロキシー先生のパンツ狙ってるし!」
「え?」
ロキシー先生を魔大陸で守る為に!
わたしが純粋じゃないってことをとおさまに
「ご飯食べるときもロキシー先生にあーんってしてもらってるし、8歳なのに寝る時はロキシー先生に抱きついて寝てるの!」
「それはいいんですが……さっきのは聞き間違えですかね……やっぱり疲れてるんでしょうか」
「あと洗濯の時にいさまみたいに服嗅いでみたことあるし!ロキシー先生の服着てみたこともあるの!」
「え?」
どうだ!
こんな行動をしたらもう大人ってことになるだろう。
わたしはあのすごいにいさまを見習ってるのだ。
にいさまは大人っぽいから、やってること真似したらわたしも大人っぽいでしょ!
もはや勝ちを確信し、ドヤ顔を披露するわたし。
しかし、とおさまは不敵に笑った。
なに!?
「トマ……それは汚い事を知ってるんじゃなくて、単におませさんなだけだ。」
「………………………………え?」
「いや、ルディの妹ってことも考慮にいれると、やったことも温いな。」
「…………うそ。」
負けた?
わたしが?
空中落下を生き抜いて、紛争地帯を抜け出して、ミリシオンまで旅をしたわたしが。
初めて、負けた。
くやしい。
無念だ。
けれど、さすがとおさまだ。
わたしが知らないことをいっぱい知ってるし、ここでも捜索活動頑張ってるし。
うつむいてベッドシーツをクシャっと掴んだ。
くそぉ。
その時、ワシャワシャと頭を撫でられた。
この撫で方は……!
「トマ、久々に会ったんだ。ロキシーともこの先一生会えなくなる訳じゃない。だから、ここで一緒に過ごさないか?」
顔を上げると、とおさまが昔と同じ撫で方をしながら優しい顔をしていた。
胸に込み上げるものがある。
思わず胸をキュッと掴んだ。
「そうですよ、家族との時間は……大切な……ものですから。」
ロキシー先生が憂いを帯びた顔をしながら言った。
ここに来るまでに、ロキシー先生は家族の事を話さなかった。
それがどういう意味か、わたしにはわからない。
けれど、今の言葉で本当に家族を大切にして欲しいと思ってるのは伝わった。
………………なら、決めなくちゃならない。
「わかった、ここで待ってる。絶対会いに来てね!絶対だよ!」
「はい、絶対に会いに来ます……ところで、パンツというのは」
「絶対会いに来てね!!!」
「はい、けれどパン」
「会いに来てね!!!!!」
「……ルディを見つけたら問い詰めます。」
ああ、ごめんにいさま。
誤魔化しきれなかったよ。
でもにいさまなら大丈夫。
魔術でなんとか……頑張って……弁明してください。
---
1日後
「それでは、行きますわ」
「おう、達者でな。」
「エリナリーゼ…絶対また来てね。」
「うふふ、約束しますわ。」
エリナリーゼ達とおさまと見送る。
ロキシー先生はもう車箱の中だ。
最後に姿が見れないのは寂しいけど、それ以上にロキシー先生がとやかく言われるのは許しがたい。
「それじゃ、いくぞ。」
タルハンドが手綱を引いて、馬車を発信させた。
パカラッパカラッと音を立て、馬車が遠のいていく。
それを切ない思いで眺めていると、ひょこっとロキシー先生か顔を出した。
ロキシー先生!
わたしは手を彼女に向かって大きく腕を振った。
万感の思いを込めて。
彼女は小さく手を振って、微笑んだ。
わたしはそうしないように努めていたのに、いつの間にかポロポロ涙を流してしまった。
彼女には、本当に救われた。
赤竜の下顎での再会で、荒んだ心を綺麗に洗い流してくれた。
フィットア領で、絶望に沈むわたしを同情し優しく抱き締めてくれた。
ミリシオンで、自分勝手に抱え込んで人に敵意をぶつけていたわたしを正しい方へ導いてくれた。
ありがとう、ロキシー先生。
本当に、ありがとう。
この旅は、一生忘れない。
ロキシー先生に貰った全部を、わたしの胸に刻み込もう。
そう心に誓い、わたしは馬車が見えなくなるまで見送った。
とおさまの部屋に戻ると、犬に扮した改造竜がいた。
そのそばに置いてあるバッグを開ける。
そして、白く、小さなリボンがついた逆三角形の
彼女の荷物には、ここで買ったパンツを代わりに詰め込んだ。3着分。
ごめんなさい、でもお祈りには
ここじゃ祭壇は作れないなと思いつつ、わたしは床に布を敷き、
両手を合わせ、祈る。
神様、どうかご無事で。
そして、これからもわたしをお導きください。