ルーデウスに無為転変みたいなのを使える妹が増えたら 作:りんごりら
トマ視点
いつもの石畳で舗装された道を歩く。
転移事件から1年と5ヶ月が経った。
わたしは9歳、ノルンは5歳。
ノルンへのプレゼントは熊のぬいぐるみにした。
ロキシー先生が最後に渡してくれたお小遣いを全て使って買ったものだ。
本当は竜のやつを買いたかったんだけど、流石は竜というべきか、めっちゃ高い。
全財産はたいても買えない値段だった。
それはそうと、ノルンはぬいぐるみをとっても喜んでくれた。
その証拠に彼女はどこへ行く時でもぬいぐるみを持っていく。
ぬいぐるみと手を繋いで歩く姿は微笑ましく、庇護欲をそそられる。
ノルンはかわいいのだ!
さて、わたしは一文無しになってしまったということで、とおさまにギルドで依頼を受けてもいいか聞いてみた。
結論からいうと、許してくれた。
わたしの剣術の強さはとおさまも前々から認めてくれていたし、魔術の腕前も他の団員から高く評価されているのを聞いたようだ。
これなら死にはしないだろうと、許可を出してくれた。
わたしは並の冒険者より強いらしい。
無為転変なしの実力でもこれだけ評価されて嬉しくなった。
それ含めるとどれだけ強いんだろう?
と、思い耽っているうちに目的の場所へ着いてしまったようだ。
扉を開けて冒険者ギルドに入る。
いつものざわざわとした喧騒に包まれながら依頼が貼ってある掲示板へ向かう。
ミリス神聖国は物価が高いが依頼料も高いので、お金を稼ぐ効率はよくなっている。
Cランクのわたしは最高Bランクの依頼まで受けられる。
今あるBランクの依頼はざっとこんな感じだ
・ 近隣の村で暴れている緑葉虎の討伐
・ 貴族の護衛
・ 商人の護衛輸送
しかしわたしの目を引いたのはそれらじゃない
・青竜山脈から落ちた片翼の青竜の討伐
運悪く翼を怪我してしまったから、はぐれ竜になったのだろう。
わたしは顎に手を当て考え込む。
確かに今のランクでは依頼を受けることは出来ない。
しかし、なんとビックリたまたま偶然青竜を見つけ討伐してしまったら、その死体はわたしのものだ。
竜はその鱗や翼などが高く売れる
つまりお金がたくさん手に入る!
それに今は適正な価格で売却できるルートもある!
どうやるのかというと、とおさまに頼んで捜索団からの売却にして貰うのだ。
それなら足元を見られることもなく、捜索団にもお金が入る。
わたしは依頼を受けずに冒険者ギルドから出て、とおさまを呼びに行く。
実は今日、とおさまはわたしと冒険をする約束をしているのだ!
---
泊まっている宿に着いた。
一応ノックをして、部屋に入る。
「とおさまー、やること決めたよ。」
「おっ何にしたんだ?やっぱり討伐か?」
ベッドに寝転んでたとおさまは体を起こした。
「ううん、依頼は受けずに青竜を倒しにいくよ」
「いや、竜は無理だろ……ああいうのは複数のパーティーが協力してやっと狩れるやつだぞ」
「わたし達なら倒せるよ!」
「ダメだ、違う依頼にしなさい」
「いーやーだー!!!竜がいいの!虎なんて退屈!絶対にとおさまとなら倒せる!!!」
とおさまは呆れたようにこめかみを押さえる。
「………………青竜の詳しい情報は?」
「んっと、片翼が損傷していて飛び立てないっぽい。それに1匹だけだよ」
とおさまは眉間に深い皺を刻み、目を伏せたまま黙り込む。
ちょっと時間が経つと、腕を組んでうんうん唸り始めた。
片翼を損傷した竜でしょ?
どこにも怪我をしていない赤竜を倒したわたしからすると、楽勝に思える。
唇を尖らせながら返事を待っていると、とおさまが口を開いた。
「遠くから見るだけなら、いいだろう」
「え!それじゃ一緒に来てくれるってこと!?」
「あぁ、ただし見るだけだぞ」
「やったー!ありがとーとおさま!大好き!」
とおさまに走って抱きつきベッドに押し倒す。
むふふ、とおさまの匂いだ。
安心する。
竜のことなら問題ない。
遠くから
ストックは途中で確保すればいい。
「じゃあ早速行こ!」
「そうだな」
大剣を持ってカチューシャのズレを直す。
荷物は最低限で、宿から立ち去り門まで歩く。
途中、とおさまにパンを買って貰った。
中にドライフルーツが練り込まれていて中々美味しかった。
ミリシオンから出て青竜山脈付近の森へ向かう。
全力で走れば昼過ぎまでには着く距離だ。
馬車を使ってもよかったが、御者がいるとストックを貯められない。
仕方なく走る。
途中、とおさまは疲れてないか?休憩するか?
と、わたしの体を心配していたが、この程度では疲れない。
もっとも、とおさまの方も余裕そうだった。
三流派全て上級という肩書きは嘘じゃないのだ。
ミリシオンの町が俯瞰できるくらい離れたところで街道から逸れて森へ入る。
わたしが先頭になりたかったが、とおさまが譲らなかった。
そこからはしばらく無言で歩いた。
しかしある瞬間、とおさまは手でわたしを止まらせ、小声で言った。
「トマ、あの兎見えるか?」
「兎?……あれか、確かミートカットラビットとかいうやつ」
「そうだ、よく勉強してるな」
「えへへ。あ、そうだ。あれわたしがやっていい?」
「いいぞ、危なくなったら助けるからな」
北神流の技で無音で歩き、ミートカットラビットに接近する。
草むらの先にいるのは3匹。
ぜひ全てストックしたい。
「……ふぅー…………」
極限まで息を潜め、気配を消す。
そしてこれから行う事を頭の中でシミュレーションする。
まず1歩でやつらに近づき、その中でもっとも近い一匹を弄る。
逃げた2匹に回り込んでとおさまの方向へ走らせる。
とおさまに驚いた2匹は動揺し、動きを固めるだろう。
その隙にやる。
よし、完璧だ!
行こう!
足に力を入れ、最初の1歩を踏み出す!
タッ!と足音を響かせミートカットラビットに接近する!
幸運にも2匹が固まっていたので両方とも触る。
「無為転変」
グニィと体が歪んで小さく折りたたまれる。
その間に逃げた1匹に回り込む。
当然逃げ道を塞がれた1匹は方向転換して目論み通りとおさまの方へ逃げた。
しかしいつの間にか剣を抜いていたとおさまに兎は驚いて固まった。
あれは水神流に繋げる動きをしてたな。
実際には兎は突っ込まずに固まってるけど。
そう考えているうちにわたしは兎に追い付いた。
そして
「無為転変」
先の2匹と動揺に弄られた兎をポケットに入れる。
これで3ストックか。
少ないな、2桁は欲しい。
「これが……トマの力か。」
とおさまは興味深そうに言った。
見せるのはこれで2回目だ。
「どう?便利でしょ。」
「…とんでもねぇな、これだけ動ける剣士が一度触れただけで致命傷を与えることが出来ちまう。こりゃもう俺より……」
「んふ、もうとおさまより強いかも!」
「そうかもな」
とおさまは頬をポリポリかきながら苦笑した。
齢9歳で父親越えだ。
気分をよくしながら青竜目指して進んでいく。
周りの景色はより鬱蒼としたものに変わりつつあり、人の領域から外れつつあるのが肌で感じられる。
改造兎は斥候に使わず温存し、索敵は未だとおさま頼りだ。
ただでさえ木々で光が遮られ薄暗い森の中がいっそう暗くなった頃。
巨大な生物の唸り声が聞こえた。
「とおさま」
「ああ、奥にいる。見えるか?」
むむ、わたしの身長では見えづらい。
身長は最近伸びてきて135cm、後10cmでロキシー先生に並ぶ。
木を軽々と登って高い視点を確保する。
葉っぱと枝で見にくいが、辛うじて少し開けた所に青い鱗の竜が抉れた片翼を庇うように丸まっているのが見えた。
「とおさまは隠れてて、わたしが倒して死体を持って帰るよ」
「トマ、約束はどうした」
「負けないって、それにわたしは運がいいの」
ポケットから改造兎を取り出す。
その魂たちは拒絶反応が弱く、撥体には使えない。
しかし、拒絶反応が弱いということは、アレに最適だ。
両の掌でそれらを包み、魂同士を融合させる。
「
小さくしわしわの干し肉のようになっていた改造兎達はブクブクと膨らみ、わたしの想像通りの形に体を成す。
それは四つ足でわたしの腰までの大きさを持ち毛色はクリーム色。普通の兎と違うところは赤褐色のフード付きマントを被っているような部分があって、顔には唇のない巨大な口しかない。
「じゃ、行ってくるね」
「待て……どうしても行きたいのか?」
「うん」
とおさまは苦々しげに眉間を狭めている。
しかし決意のこもった目で言った。
「なら俺も行こう。倒す算段はついてるのか?」
「幾魂異性体で注意を逸らしてわたしが触れる。これだけ」
「なるほどな、ならその陽動は俺もやる。」
とおさまが付いてくれるなら百人力だ。
きっと蝶のように舞い蜂のように刺してくれることだろう。
「よし、行くよ!」
「おう!」
幾魂異性体を先に走らせその後をとおさまと追走する。
青竜との距離が近くなったときわたしは左へ方向転換した。
「ギャオ!?」
幾魂異性体ととおさまの姿が見えたのだろう。
青竜が驚く声が聞こえる。
わたしはビュウビュウ風を切りながら青竜の背後の森へ回り込もうと疾走する。
「うおおおおお!!!」
「ギャアアアアア!!!」
目には見えないが、とおさまと青竜が戦う音が聞こえる。
しかしザシュ!っとした竜を斬る音は聞こえない。
陽動という役割を順守しているのだろう。
「グギァアアア!!!」
その代わりダン!と鱗に覆われた肉を殴打する音と青竜の悲鳴が聞こえた。
幾魂異性体か。
魂を燃やし尽くしながら青竜へ体全体を使って体当たりをしている音だ。
そしてわたしは青竜の背後の森へ辿り着いた。
目を凝らして戦況を分析する。
「ふぅー……」
「グルルルルゥ」
とおさまと青竜が睨み合い、膠着状態に陥っている。
幾魂異性体は顔面が潰れたトマトみたいにグチャグチャになっているが、足腰はしっかりしていて後一回くらいは体当たりできそうだ。
とおさまに余裕があるのは幾魂異性体が体を張っているお陰か?物理的に。
青竜は冷静だ。
自分に痛痒を与えてきた幾魂異性体が弱っているのを見て、確実にトドメを刺さんと彼らを睥睨している。
今はダメだな。
青竜が極限まで警戒している。
次、とおさま達が動いたら突っ込もう。
その時に隙が生まれるはずだ。
青竜の殺気、とおさまの緊張感、幾魂異性体の不気味な沈黙。
それらが空気を重く、殺伐としたものへ変貌させている。
──20秒経過、まだ動かない
「……グルル……」
青竜が威嚇するように、はたまた痺れを切らしてしまったのか、小さく唸る
瞬間、とおさまはさらに深く腰を沈め、足に力を入れる。
青竜の動きに即座に対応する準備だ。
幾魂異性体はまだ動かない。
わたしは息を潜める。
──40秒経過、沈黙が破られる
幾魂異性体が飛び出した!
とおさまも1拍遅らせてから駆ける。
「ギャアアアアアオオオオ!!!」
青竜は幾魂異性体の進路上から、その巨体に見合わぬ速さで外れてその横っ腹に噛みつこうとする。
しかし!とおさまは噛みつきの為伸ばした頸をたたっ斬らんとする。
「オラァ!ぐっ!クソ!」
「グギュァ!?」
実際に頸を落とすことはできず、浅い傷を与えるだけに終わった。
青竜が危険を察知し頸を捻ったのだ。
「ギャアアア!!」
「やべぇ!」
とおさまが咄嗟に後ろに下がり攻撃を避けた。
青竜はその頭を鞭のように振り回し、再び攻撃しようとした幾魂異性体を吹っ飛ばした。
あの青竜本当に頭がいいな。
空を飛んでいたら恐るべき脅威だったかもしれない。
なりふり構わずにやれば私も改造赤竜に乗って戦えるが。
そう悠長な考えができるのは、この戦いはもう終わるからだ。
幾魂異性体ととおさまが稼いだ時間で、わたしは青竜に気付かれず掌で触れることに成功した。
「無為転変」
青竜といっても所詮は魔物。
魂を知覚し守らない相手にわたしの無為転変は止められない。
青竜の頭がぐにょぉんと引っ張られるように縦に伸びた。
そしてボンッ!と爆ぜる
血飛沫と脳髄が勢いよく撒き散らされ木々を赤く染める。
そしてドスンと頭部のない頸が落ちてどくどくと地面に鮮血を浸潤させている。
爆発させる前に頭を伸ばした甲斐があって、わたし達は血に汚れていない。
大勝利だ。
犠牲はミートカットラビット3匹だけ。
「マジで倒しやがった……」
なぜか放心しているとおさまに近づく。
そしてジト目でとおさまを見上げる。
「まじでってなにー。娘を信じてなかったの?」
「いやっ!そんなことはないぞ!ただ2人だけで青竜を討伐したのが信じられなくてな。」
「ふーん、まぁいいや。今さらだけどこれどうやって町まで持っていけばいい?」
とおさまは少し考えた後、解決策を教えてくれた。
「そうだな……俺はここで待ってるから、団員を呼んでくれないか?あの荒事用の団員だ」
「わかった!すぐに戻るからねー!」
わたしは無為転変で脚を変形させ、行きより速く駆け抜けた。
無論、町が見えてきたら解除したけど。
---
パウロ視点
トマが走り去っていくのを見届けて、頭の無い青竜の死体の傍に座り込む。
俺を冷徹な目で睥睨し、恐るべき速さで攻撃を躱し、その鋭い牙で俺の肉を抉ろうとしてきた青竜は、娘の掌で触れられただけで即死した。
あの調子じゃ俺がいなくても倒せてたんだろうな。
娘の成長に舌を巻く。
あの子は天才だ。
ルディとは別ベクトルの。
ルディには魔術の才能と子供離れした聡明な知能があった。
トマには神子の力と剣士の才能がある。
それにあのホワホワで天真爛漫な雰囲気に騙されてはいけないが、結構頭も良い。
俺が難民捜索であまり構ってやれないノルンに色々教育してくれてる。
ノルンも誕生日に貰った熊のぬいぐるみを肌身離さず持ち歩いてるほど、トマに懐いている。
姉と兄が天才ならノルンも天才か、というとそうではない。
あの子くらいが普通だ。
……いや、魔術は同年代の子より進んでいるか。
詠唱付きの
まぁ宿の床がビッチャビチャになったんだが。
3人で水浸しの床を拭いたのも良い思い出だ。
3人、そう、まだ3人だ。
俺が見つけなきゃならん人達はあと4人いる。
ゼニス、リーリャ、アイシャ、そしてルディ。
あいつらの情報は一切入ってこない。
もう1年と5ヶ月だ。
子供達といない時にはいつも嫌な想像をする。
家族が死んだと考えてしまのだ。
どんな死に様だったのか、死体はどうなったのか。
なにせ、あの優秀な息子ですら、音沙汰の一つもないのだ。
しかし……俺は一縷の希望を捨てられずにいた。
エリナリーゼとタルハンド、そしてロキシー。
彼女らが魔大陸を探してくれるという事実は、思ったより俺の心の負担を減らしてくれているらしい。
特にロキシー。
彼女は初めて俺の家族を連れてきて来てくれた。
その事に俺がどれだけ救われたことか。
彼女には感謝してもしきれない。
……それに、うちの息子が迷惑かけたみたいだしな。
パンツを盗まれたようだ。
トマがカミングアウトしたときのロキシーの顔は、正直言って面白かった。
いや!恩人にそんなことを思うのは失礼だとわかっているぞ!
ともかく!俺はトマとの再会によって、家族の生存をまだ信じられている。
それは自分の心を守る欺瞞の盲信なのかもしれない。
それでも、その盲信がまだ俺を腐らせないでくれている。
と、そんなことぼんやりと空を眺めながら思っていたとき、複数人の足音と愛しき娘の声が聞こえた。
む、いかん。よだれが垂れている。
娘にカッコ悪い所は見せられない。
俺は気合いを入れて立ち上がった。