ルーデウスに無為転変みたいなのを使える妹が増えたら 作:りんごりら
トマ視点
ミリシオンを発ってから2ヶ月が経過して、港町ウェストポートに到着した。
前にも来た所だ。
ここで馬車を買ったりタルハンドにご飯を奢って貰ったりした。
しかし今回は逆に馬車を売る。
船じゃ馬車を運べないからね。
売却した後、わたし達は関所へと赴いた。
入り口には甲冑姿の衛兵がいて、中は商人や冒険者でひしめき合っている。
にいさまが受付で渡航の申請して番号札を受け取った。
待合所の椅子に座り番号が呼ばれるのを待つ。
「しばらく掛かりそうですね」
「書状は渡さないのか?」
「番号が呼ばれてからですよ」
「そういうものか……」
にいさまとルイジェルドさんが話している。
イーストポートからの渡航申請も時間がかかった。
あのときは何して暇を潰してたんだっけ。
あぁ、エリナリーゼ達にとおさまの冒険者時代のことをずっと聞いてたんだった。
最後まで教えてくれなかったけど。
昔の事を想いを馳せてボーっと天井を眺めていると、番号が呼ばれたようだ。
しかしにいさまが受付に書状を渡すとなんだかめんどくさい事になってしまった。
バクシール公爵に会わなくちゃいけないらしい。
受付の人へついていって、奥の部屋に通されると、太った金髪の、目の隈がひどい男と会わされた。
「ミリス大陸税関所長、バクシール・フォン・ヴィーザー公爵である。ふん、薄汚い魔族がこんな書状を持ってこようとはな」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥が燃えるように熱くなり、同時に頭は冷えていった。
ここで暴れてもパーティーの迷惑になるだけだ。
落ち着け。
ロキシー先生のときに自分勝手な行動は反省しただろう。
しかし、掌の準備運動はしておく。
手を強く握って拳を作り、力を抜いて開く。
それを繰り返しながら、話を聞く。
バクシールは革張りの椅子にふんぞり返って、手に持った紙をバシバシ叩いた。
「すごい名前を出したものだ。封もまた本物によく似ておる。だが、儂は騙されんぞ。これは偽物だ」
放り投げられた書状をにいさまが掴み取る。
なるほど、バクシールは書状の事を偽物だと思ってるのか。
さらに彼の話を聞くと、書状を書いた人物は寡黙で必要な書類も書かない不真面目なやつらしい。
それで信じられないということか。
「つまり、公爵閣下はこの書類が偽物であると?」
「なんだ貴様は……子供は引っ込んでいろ」
にいさまが交渉を始めた。
わたしは後ろで黙っておく。
にいさまはすっごく頭がいいし、こんな状況もなんとかしてしまうかもしれない。
邪魔するわけにはいかないよね。
にいさまはグレイラットの家名と転移事件をうまく使って書状を貰うまでのストーリーをでっち上げたようだ。
しかしまだバクシールには信じて貰えない。
「だが、パウロ・グレイラットとかいう小悪党の名前は知っておる。最近、奴隷を無理矢理に攫うという、噂のな」
…………あ?
とおさまが悪党だと?
この豚ここで殺してやろうか。
だが、奴隷を攫っているのは事実だ。
転移事件で難民になった人の中には奴隷にされた者も少なくなく、それを解放するために仕方なくやっていた。
にいさまが人攫いと間違えたときのやつだ。
こっちが事情を説明しても放さないのだから、実力行使に出るしかないだろう。
「つまり、公爵はこう仰りたいわけですね。ガルガード様の書状は偽物、エリス様もアスラ貴族などではない。そして我々はそのパウロ・グレイラットとかいう、女にだらしなく、足が臭く、酒ばかりのんで息子に当たり散らし、娘に苦労をさせているダメ人間の一味だと」
「うむ」
…………むむ。
とおさまに関してはちょっと正論言ってるところもあるな。
この前にいさまと酒場で話したときわたしを睨んできたし。
イライラしていてもあれは悲しかったな。
まぁそれ以上にその余裕のなさを可哀想に、助けてあげたいと思ったけれど。
その後の話を纏めると、
書状が偽物だと断定した件については、
教導騎士団の印は偽造品が出回りやすいらしいから。
エリスさんが偽物であると思った件は、
見た目が山出しの剣士みたいだから。
確かに貴族には見えないね。
でもわたしはこういう引き締まった体好きだよ。
強そうで。
にいさまはサウロスさんを話に出して、エリスさんの真贋を証明し、わたし達3人の通行は許可されたがルイジェルドさんはダメだった。
この人の魔族嫌いは筋金入りだな。
どうしたものか……
コンコン。
と、その時、不意に部屋がノックされた。
「なんだ、今は取り込み中だぞ?」
バクシールが怪訝そうな顔をするが、扉は返事を待たずに開いていた。
そこには、青色の甲冑に身を包んだ、金髪の女性が立っていた。
あの顔は……!
いや、魂が違う。
「失礼、こちらに『デッドエンドのルイジェルド』がいると聞いたのだが」
「……母様?」
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にいさまが母様と呟いた事で、みんなの視線が女性へと向かった。
彼女はムッとした顔でにいさまを睨みつけた。
「私は独身だ。君のような大きな子供はいない」
確かにパッと見た印象はかあさまそっくりだけど、細部は色々と違うでしょ。
ホクロとか、髪の色とか。
にいさまに小声で話す。
「にいさま、あの人かあさまじゃないよ。顔も、魂も違う」
「え…………あぁ、確かに。失礼、行方不明の母に似ていたもので」
「……そうか」
彼女はにいさまに憐憫の眼差しを向け、その横にいるわたしの顔を見ると驚いていた。
そしてわたしに質問を投げかけた。
「君、両親の名前を聞いてもいいかな?」
「かあさまはゼニス・グレイラットで、とおさまはパウロ・グレイラットです」
「やはり……!しかし、パウロとは……」
かあさまの親戚だろうか。
とおさまの名前を出した瞬間にいさま以上の憐れな目を向けられた。
「これはこれは……左遷されたばかりの神殿騎士殿が、いかなる用だ?」
バクシールはかあさまに似た人を睨み付ける。
「ミリス国内にスペルド族が現れたのだ。仕事熱心な私がここにくるのは当然だろう?」
「お前の着任は10日後からだ。首を突っ込むな」
「首を突っ込むな?おかしな話だ公爵。
確かに私はまだ正式には着任していない。
しかし、前任は────」
バクシールはやましいことがあるようだ。
彼女にタジタジでにいさまと話していたときとは大違い。
いい気味だ
彼女は一通り話し終えたあと、わたし達を一人一人見回して、最後ににいさまを見た。
「……君、先ほど私と母親を間違えたと言ったな。ということは、君はその子の兄妹か?」
「はい……ルーデウスと申します」
「……そうか」
にいさまが答えた後、彼女はしゃがみこんでにいさまをギュっと抱きしめた。
おお、かあさまの親戚だとしてもいきなりハグはびっくりしちゃう。
ふとエリスさんの方を見ると、眼を見開いて拳を握り締めていた。
エリスさん、にいさまの事好きだもんね。
かあさまに似た人はバクシールに書状の筆跡から真偽を証明し、にいさまが彼女の甥ということも話して、バクシールから渡航の許可をもぎ取った。
かあさまに似た人の名前はテレーズ・ラトレイア。
かあさまの妹で、神殿騎士団の中隊長だ。
そんな彼女は今、ウェストポートの宿屋でにいさまを抱き抱え、頭を吸っている。
すごい通り越して怖くなってきちゃったな。
でもわたしもロキシー先生の匂い嗅いでたし、にいさまもエリスさんの服嗅いでたし、これはかあさまの、ラトレイラの血を引く者の
「ルーデウス君。君の事は姉様からの手紙で知っていた」
「そうですか。母はなんと?」
「すごく可愛いと、実物を見てまさかと思ったが、確かにこれはすごい可愛い」
テレーズさんは突っ込んでいた頭から顔を上げて説明していたが、それが終わると今度は首筋に顔を埋めた。
神殿騎士の姿か? これが…
あぁ、そうか、まだ仕事始まってないし、休日みたいなものか。
なら一般成人女性が11歳の男の子を吸ってるだけか。
「テレーズ。そろそろルーデウスを離しなさい」
横を見るとら嫉妬してむくれているエリスさんがいた。
トントンと机を指先で叩いている。
「エリス様。お気持ちはわかりますがほんのひと時の思い出なのです。どうかご容赦を」
テレーズはにいさまの体を撫で回しながら言った。
なぜ敬語を使っているのかというと、彼女はエリスさんに命を救われたらしい。
その後テレーズはガッシュ団長の事や神殿騎士団のイカれ具合を話してくれた。
さらにテレーズは船旅に必要なものを全て用意してくれた。旅の途中の食料から、船酔いの薬まで。
ありがたい、わたしの脳に神殿騎士団は変態だけど親切な人もいると刻まれた。
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船旅は順調……ではなく、エリスさんとにいさまがゲーゲー吐いた。
海が荒れて船が大きく揺れていたのだ。
わたしとルイジェルドさんは平気だったので、2人にヒーリングをかけ続けた。
デジャヴを感じる。
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王竜王国港町イーストポートに着いた。
にいさまが宿を取って作戦会議を開かれた。
地図を囲んで、四人で顔を突き合わせる。
「ここからアスラ王国へと向かうルートは3つあります」
作戦会議はにいさま主導で行われるようだ。
3つのルートはそれぞれ、
王竜山脈を東回りに迂回する通常の交易に使われる街道を使うルート。
王竜山脈を西回りに広大な密林地帯を通るルート。
船に乗り、ベガリット大陸を渡り、捜索しつつアスラへと抜けるルートだ。
密林はいい思い出がないし、みんなにそんな思いさせたくない。
西ルートはなしだな。
「密林地帯はやめといた方がいいよ。視界が悪いし治安も悪い。あと馬に乗れないと徒歩になる。」
「そう、じゃあ西はダメね」
「にいさま、ベガリット大陸を通るルートはどうなの?」
「ダメだ。ベガリット大陸は魔大陸以上に魔力が濃くて異常気象が起きる。魔物も魔大陸くらいの強さで危険だ」
じゃあもう行けるルートは一つだけか。
「というわけで、我々は東回りのルートを通ります」
「ルーデウスは相変わらず臆病ね」
「怖がり屋なもので」
「竜を何匹か捕まえられたらみんなで空の旅ができるんだけどね」
「空は勘弁してくれ……」
前にエリスさんやにいさまと一緒に改造竜に乗った。
調子に乗って高度と速度を上げまくったらにいさまはちょっとだけ泣いちゃった。
エリスさんは喜んではしゃいでた。
まぁこれで作戦会議は終わり。
各自買い物等して、ベッドに入り就寝した。
夜、隣からバタバタと急いで部屋から出ていく音がして起きてしまった。
薄目で部屋に視線を巡らすと、空のベッドと起きていたルイジェルドさんを見つけた。
「……起きたんですか……?」
「ああ、物音がしたからな」
音の正体はにいさまだろう。
ベッドにいないし。
エリスさんはくぅくぅ安らかに寝ている。
敵が来た訳じゃないし、わたしも寝よう。
再び布団を被って目を閉じていると、ヒューヒューと喘鳴が耳を打った。
「にいさま!?」
布団を蹴飛ばし部屋の入り口でぐったりとへたり込んでるにいさまへ走る。
「どうした、大丈夫か……?」
「にいさま?大丈夫?」
解毒魔術を使いながら背中を擦る。
この匂い、恐らく吐いている。
毒か、ストレスか。
どちらにせよ、安静にしないと!
「大丈夫です……」
「本当か?」
ルイジェルドさんが布で吐瀉物に塗れた口元を拭く。
「本当に大丈夫?」
「ええ、寝ぼけて予見眼の調整に失敗しただけだ」
魔眼の使いすぎ?
わたしにはその感覚がわからない。
にいさまの辛さも知ることができない。
いっそ魔眼を取ってしまえば……!
「その魔眼、取って普通の眼にしてあげようか?ちょっと痛いかもしれないけど」
「いや……大丈夫だ。ありがとう」
にいさまは無理に笑顔を作って断った。
その顔はまだ青く、本調子じゃないことが伺える。
「このためか……」
このためか?
なんの話だろう。
怪訝な顔をしたルイジェルドさんと顔を見合せ、疑問に思う。
「ルーデウス、顔色が悪いぞ。本当に大丈夫なのか?」
「……」
眼を瞑り眉根を寄せて、吐き気を抑えているのか、考え込んでいるのか、どちらか曖昧な顔で黙り込む。
わたし達はそっと見守って、体調を観察する。
しばらくすると、にいさまが目を開けてルイジェルドさんへ言った。
「ルイジェルドさん。もし辛い時、誰かから甘い言葉を囁かれても、決して信用しないでください。辛い時こそ、騙そうとしてくる奴は寄ってきますから」
「…………何の話かわからんが、了解した」
……魔大陸で起こった出来事の話をしているのだろうか。
いまいち要領を得ない。
困惑しながらも、にいさまはわたしに目を向けた。
「トマ。神子の力を使うのはやめておいた方がいい。それは……よくないかもしれない。」
「…………?いや、この力は副作用とかないよ」
「…………本当に、なんともないんだよな?」
心配そうな顔をされても、無為転変で命が救われることはあっても脅かされたことはないし。
副作用だって、ツギハギの人の記憶を見ても今までの経験からも存在しないって断言できる。
「ないよ。それよりも休も?」
「…問題無いならいいんだ」
にいさまは水を飲んでから、ベッドに入り直した。
後に続いて、わたしもベッドに入ったが、その日は中々寝られなかった。
トマが紛争地帯にいたことで、ヒトガミへの警戒UP
助言されても無為転変の使用をやんわりと止めるだけに留まった