ルーデウスに無為転変みたいなのを使える妹が増えたら 作:りんごりら
トマ視点
イーストポートから4ヶ月経ち、わたし達はシーローン王国に着いた。
道中で印象に残ったことと言えば食事だ。
にいさまが街中でいきなり店へ走っていったので後を追うと、そこは米を売っている店だった。
米料理はミリシオンへ向かっていた時にロキシー先生と食べたことがあるが、何がここまでにいさまを引き付けるのか。
あぁ、でも米といえばツギハギの人の記憶にも出てきたな。
ツギハギの人は食事を取る必要がないようで、味まではわからなかったけど。
米はやや黄色味がかっていてボソッとしていた。
スープに入れたらもっと美味しくなりそうだと思っていたら、にいさまが生の卵をかけていた。
味見したらボソボソ感がなくなってこれもアリ。
しかしあの黒いソース……醤油は売ってないのだろうか。
宿で出てきた魚介の炊き込みご飯は美味しかった。
やっぱり魚だね。
機会があったらお刺身やお寿司を作ってみようかな。
作り方まではわからないので、頭の中の完成品にどうにか近づけていくって感じだ。
そのためには、ガリ、醤油、わさびを見つけなくちゃ。
…………あの皿が回転するレールも必要なのだろうか。
冒険者ギルドではわたしは基本単独行動だ。
兄さまたちはAランク、わたしはCランクなのでパーティーが組めない。
町を散歩したり家族の調査をやったり、たまに依頼を受けたりする。
ルイジェルドさんは初め、わたしの単独行動を心配していたが、特訓で強さを証明したことで許可を得た。(にいさまからわたしへの信頼もあって)
さて、シーローン王国といえばロキシー先生が務めていた場所だ。
にいさまによると、ここにリーリャとアイシャがいるらしい。
わたしがあんなに探し回っても家族の情報は影も形もなかったのに見つけてしまうなんて、にいさまはやっぱりすごい!
じっくり腰を据えて二人を探し回るためにまずは宿を取った。
そして作戦会議によりそれぞれ分かれて探すことになったのだが、何故か名前を隠さなくてはならないらしい。
あと格好も。
店で大きいフード付きの外套を買ったのでそれを使おうと思う。
宿から出て分かれる前、にいさまがこっちに来いと手招きしていたので近づくとこう言われた。
「トマ、この捜索で神子の力を人に向けて使うの禁止な。あ、傷つけるのは禁止で治すのはいいから」
と、釘を刺されてしまった。
にいさまは人を殺すことを特に嫌っているようだ。
にいさまに嫌われたくないし、別に人を殺せば2人が見つかるわけでもないのでおとなしく了承した。
わたしは取り敢えず人の多いところに行って2人を探そうと思う。
ブカブカの外套を被りながら人の流れる方へ歩く。
周りを見渡しながら進んでいると、奴隷が売られているのが見えた。
それはわたしの脳に嫌な想像をさせた。
もし奴隷になって売られていたら、買って取り戻せばいい。
しかし貴族が既に2人を買っていたら?
そこで幸せに暮らせているのなら、わたしは無理に取り戻さなくていいと思う。
だが、もし、もしも痛め付けられていたら……
いや、こんな妄想は止めよう。
まずは見つけないと。
いつの間にか下を向いていた頭を上げると、王宮の門まで歩いてたらしい。
門の前には兵士が2人。
さすが王宮というだけあって、威厳を感じる大きさだ。
「こんなところでロキシー先生働いてたんだ……」
兵士の一人がこちらを向いた。
ん?
ちょっと近づき過ぎたかな。
「今ロキシー先生と言ったか?」
「え……はい。言いましたけど……」
「君は今、ロキシー殿が何処にいるかわかるか?」
なんでコイツロキシー先生の場所探ってるのかな?
まぁ答えてもいいか。
ここから魔大陸までどれだけ距離があるんだって話だよね。
「魔大陸です。わたしの家族を探しに行ってくれてます。」
「魔大陸!?いやそれより、君の家族を探しているってどういうことだ?」
兵士はずんずん距離を詰め、食いぎみに質問を被せてくる。
本当になんなんだ。
ロキシー先生のことが好きなのかな?
気持ちはわかる。
わたしも最近にいさまに頼んでロキシー人形を作って貰ったばっかりだ。
今もポッケに入ってる。
それはそれとして、質問にわたしの事まで入ってきたな。
答えてもいいものか……にいさまがいたらなー。
「ええと……ロキシー先生は優しいので、探してくれてるんです」
「そうじゃない。君がロキシー殿とどんな関係か知りたいんだ」
「あはは……」
しつこいな。
王宮の兵士とあろうものが、マナーがなってない。
……ん?
まてよ。
この人は王宮の兵士。
王宮なら、リーリャとアイシャの情報知ってるんじゃないか!
そうじゃなくても、この人に恩を売れば、ちょっとは王宮の権限使って2人を探してくれるかも!
そうと決まれば……うへへ
「言ってもいいですけどー、わたしのお願いも聞いてくれますか?」
フードを脱いでうるうるおめめでお願いする。
グレイラット流必殺上目遣い!
「む……俺に出来ることならな」
「人探しってできますか?」
「人探し?非番なら手伝えるが」
「王宮の権限とかって使えますか?」
「いやー……むむ……出来なくはないかもな」
魂が揺らぐ。
この揺らぎ方は、
できるとできないの間、できるけど疲れるって感じだなー。
チョロい王子に頼み込むのだろうか。
それなら話してもいいかな。
「わたしはロキシー先生に魔術を教えて貰ったり、とおさまの所まで送り届けて貰ったりした仲なのです!」
兵士の目が見開かれた。
と、同時に門から人が出てきた。
前髪を一房垂らした短いポニーテールの女兵士だ。
あの変な前髪の人と似てる髪型だ。
後ろ髪を伸ばせばまんま袈裟の男になってしまう。
女兵士がわたしと話していた男兵士にため息を着いた。
「サボりは良くないが……気持ちはわかるぞ」
注意しつつも同情の表情を浮かべる。
職場環境がよほど良くないんだろうな。
ロキシー先生が愚痴ってたくらいだし。
「ジンジャーさん!この子、ロキシー殿の弟子ですよ!」
「なに!本当か!?」
この王宮でのロキシー先生の弟子というネームバリューはここまで凄まじいのか。
女兵士……ジンジャーが驚愕してる。
そしてわたしをまじまじと見た。
あ、フード着けてないんだった。
2人はこそこそ話し始めたのでなに言ってるか聞き取りづらい。
(この子をつれていけばリーリャ様やアイシャちゃんを解放してくれますよ!)
(しかし……子供だぞ!アイシャちゃんと同じ目に合わせていいのか!?)
(それは……)
……弟子っていうこと信じて貰えてないのかな。
それは嫌だ。
不愉快だ。
ギルドで「どちたのお嬢ちゃん(笑)」って言われるより腹が立つ。
見せてやるか……わたしの無詠唱魔術を。
「見ててよお二人さん『
右手に岩砲弾、左手に氷霜撃を発動させ、留める。
この4ヶ月、にいさまに魔術を教えて貰ったお陰でいくつかの中級土魔術を無詠唱で使えるようになったのだ!
人形作りの成果もあるかな?
あれで繊細な魔術操作の技術がメキメキ上がっている気がする。
別々の魔術を使うことは無為転変で腕を増やした経験から慣れている。
ジンジャーはなぜか苦々しげな表情をしている。
そして言った。
「貴女は、ルーデウス・グレイラットですか?」
違うんだけど。
頭を振って否定する。
「違います。それはにいさまです。わたしの名前はトマ・グレイラット!ロキシー先生の弟子です!」
「なんだと!?」
門の奥、身なりのいい太ったおかっぱの男が叫んだ。
あれ王子っぽいな。
面倒なことになりそうだ。
逃げようかな。
「ジンジャー!そいつを捕まえろ!」
「…はっ!」
しかし、まわりこまれてしまった!
逃げるか、斬るか、いや斬っちゃ不味いよね。
逃げても顔見せちゃったから何処までも追ってきそうだし……
いっそのこと、一旦捕まってリーリャとアイシャのこと聞こうかな。
最悪城の人間全員改造人間にすればいいや。
非常事態ならにいさまも許してくれるでしょ。
「……すみません」
たいした抵抗をしなかった為か、ジンジャーに抱かれて捕まった。
まだ弄るのは早いか。
「くくく、これで余は!ついにロキシーを手に入れることが出来る!」
なんか言ってる。
魔大陸にいるから無理なのに、夢見がちな王子だな。
ジンジャーに抱えられながら王宮へ入っていく。
実質特別待遇かも。
歩かなくていいし。
リーリャ達のこと、今のうちに聞いとこうかな。
「王子様、捕まるのはいいんですけど人探しを手伝ってくれませんか?」
前を歩いていた王子がピタッと立ち止まり、顔を半分だけ向け横目でわたしを見た。
呆れたような、バカにしているような顔だ。
「貴様、状況を分かっているのか?そんな戯れ言、余が聞くわけがなかろう。」
「ちょっとだけでいいので!赤っぽい髪色をしたリーリャとアイシャって言うんですけど」
「はっ!そのうちわかる」
王子の言い様を察するに、ここにいるんじゃないか?
この王子にひどいことされていたら即!始末するんだけど、今の所わたしジンジャーさんに抱っこされてるだけだし。
途中、なんでか廊下の隅で待機させられていたが、奥に奥に進んでいくと、廊下の突き当りの部屋に止まった。
兵士が扉を開け、王子が入り、閉まられた。
今の一瞬でわたしのこと忘れてしまったのだろうか。
「入れ」
王子の声だ。
よかった。
忘れられてなかったんだ。
中に入ると、王子と2人のメイド。
その1人、赤い髪をした女メイド。
椅子ごとロープでぐるぐる巻きにされ、口には猿轡。
間違いない!リーリャだ!
何故縛られている?
掌に力が入る。
術式に魔力を流し込む。
体全体に魔力を行き渡らせる。
「王子様、アイシャって女の子知りませんか?」
ジンジャーから降りて、王子へ近づいていく。
まだ殺す訳にはいかない。
アイシャの場所を突き止めなくては。
大剣はジンジャーに取られた。
人形も取られた。
改造魔獣は隠し持ってる。
「んーっ!んーっ!!」
リーリャが椅子ごとガタガタ体を揺らし、必死に何かを伝えようとしている。
なんだ?
「アイシャは知らん。落とせ」
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合図と共に足元の床が崩され、地面に魔方陣がかかれた部屋に落とされた。
それはどうでもいい。
あの王子アイシャを知らないだと?
この国にいることは間違いないのに、リーリャもいるのにアイシャだけわからない?
そんなことあるのか?
まぁ、出てから考えよう。
魔方陣の外へ出ようと歩く。
出られない。
何もないのに壁のようなものに阻まれる。
それなら
むむ!不味い!
術式は………………
なんだ、使えるじゃん。
自分にも、改造魔獣にも。
「ギャハハハハ!その魔法陣はロキシーを捕まえるために作らせた王級の結界だ!」
王子が降りてきた。
そんな勝ち誇った顔をされても、まだわたしは全然詰んでない。
体を伸ばして上から出ればいいだけだ。
上が空いてるのは食料とか届けてくれるのかな?
無為転変のお陰で魔力がある限り食べなくても生きられるけど。
飢餓による体の損傷を定期的に修復するのだ。
「……おい、何余裕そうな顔をしている。貴様はもう逃げられないのだぞ」
「……そうだね」
コイツからアイシャの情報を聞き出すまではここにいよう。
そのためには、捕まったふりしないと。
というか、何で捕まれられたんだろう?
「あの、何でわたしを捕まえたんですか?」
王子は不機嫌そうな顔から一変、ニヤリと笑って言った。
「貴様を餌に、ロキシーを誘き寄せる。弟子が囚われているのだ。ロキシーは必ず来るだろう。
そして、来た時がロキシーの女としての最後だ。余の!このパックスの性奴隷として一生飼ってやる。五人は世継ぎを産ませてやる」
しかめっ面になるのを感じる。
やっぱり今すぐ出てコイツ殺そうかな。
「くく、貴様もお情けで犯してやろうか?」
「嫌です」
ニヤニヤニヤニヤしやがって。
お前如きがロキシー先生とえっちできるわけないだろう。
でも、わたしが捕まってる事知ったらロキシー先生は本当に来ちゃうかもしれない。
その時は先んじて殺しておこう。
イライラしながらアイシャのことを聞く。
「本当に、アイシャの事を知らないんですか?」
「おお、ゾクゾクする目だな。本当にロキシーが来る前に犯してやってもいいかも知れん。」
「王子!アイシャの事!知ってるでしょう!」
「だが、もう少し育ってからだな」
パックスはわたしの話を全く聞かず、階段を登っていった。
むぅ、いつでも脱出できるけど、いつになったらアイシャのことを知れるのだろう。
と思っていたら、天井が筒抜けなので登っていったパックスの声が微かに聞こえた。
この部屋から離れてしまっているのか?
良く聞こえないが、わかったことを纏めると
アイシャはこの城から攫われたらしい。
攫ったやつは大男。
リーリャはわたしを助けたいと言っていたが、いつもの所へ放り込まれた。
リーリャは無事だろう。
あのパックスとかいうやつ小さい子が好きっぽいし。
大男はワンチャンルイジェルドさんか?
わからない。
ここから脱出することは簡単だが、そしたらリーリャがどうなるかわからない。
それにアイシャの情報をもっと集めたい。
この2つの為、もうしばらくここでお世話になろうかな。
にいさま達は……どうにかするでしょ!
にいさますごいし、エリスさん強くて立派だし、ルイジェルドさん優しいし。
リーリャの情報もすぐに掴むだろう
そもそもリーリャとアイシャの場所を掴んだのはにいさまだし!
わたしはゴロンと魔方陣に寝そべって、目を閉じた。
ルーデウスはザリフの義手に取り付けられた吸魔石で王級結界を破壊した。(なろう222話)
吸魔石は裏面に魔力を送ると表面側にある送った魔力以下の魔力で出来たもの(魔術や魔法陣)を破壊する。
よって魔力を送ることは出来るため、体に刻まれた術式や、直接掌で触れる他者への無為転変は使える