バスを降りた僕達三人は、目的地に向けて街の中を歩いていた。
「花ちゃん先輩、次の角右です」
僕が先導する形で案内をする。
「うん、分かった」
特にいった話をすることもなく、歩いていたのだが花ちゃん先輩が聞いてきた。
「ねえねえ、その着物って着付けも自分でやってるのー?」
「吟は一人でいつもやってますよ」
「そうなんだ、それも知ってるだなんて流石幼馴染だね!」
「いえいえ、ずっと一緒に居たんで、吟の事は大体分かりますよ」
何年一緒に居たと思ってるんだ。嫌でも分かるよね。
それは、吟も思っている事だと思う。
「っていうか、花帆先輩。休日でもほんっとによく喋りますね…」
「休日『でも』ってなに?」
「いや、部活中は、先輩としての義務で私と話してるのかな、的な…」
「そんなの考えたこともなかったよー!」
「でしょうね」
花ちゃん先輩、考えて行動とかしないタイプぽいもんなぁ
「というか、着付けのことなら、別にすごくないですよ。これは紬だから、ひとりで着てもせいぜい15分程度ですし!」
「へえーすごいすごーい」
花ちゃん先輩はもの凄い誉めてくれた。
「吟、花ちゃん先輩、褒めてくれてるよ」
「うん…ヘンだ、って言わないんですね花帆先輩」
「なにが?」
「私が、着物を普段着にしてること。浮いてるー、とか。座敷童みたい……とか」
吟がそう言うと、花ちゃん先輩はクスっと笑った。
「あたしもね、スクールアイドルになってから何度か着物みたいな衣装を着たことあるんだ。すっごく華やかで、かっこよくて。身に着けると、なんかパワーをもらえる気がするの! だから、そうして吟子ちゃんが普段から着物着てるのって、むしろちょっと羨ましいかも。その手があったかー!みたいな」
花ちゃんにそう言われて、吟は顔が紅くなっていた。
「……ヘン」
「ええっ!?それ吟子ちゃんが言うの!?」
「言う!ヘンです花帆先輩は!ヘンな人」
吟はそう言って歩き始めた。吟の事を追いかけて行くと、目的地へと着いた。
「あれ?吟子ちゃん顔赤いけど、大丈夫?ひょっとして着物って、寒いんじゃ…!?」
花ちゃん先輩、今の吟は照れ隠しですよ。
吟の為に言わないであげるけど
「いいからもう!ほらほら、つきましたよ!」
「おおー?なんか、雰囲気ある一!」
「ここは、百生の家が昔から付き合いのある染工房なんです。今回は生地や糸などの材料。それに、刺繍道具を受け取りにきたんですよ」
「へえ~~~」
「久しぶりに来たので挨拶しに行かないと」
「うん、えっと花帆先輩、私と綾羽は先生方に挨拶してきますけど……先輩は暇だったら、どこか適当なお店で時間を潰しててもらっても」
「えっ?あたし一緒に行っちゃ、だめ?」
花ちゃん先輩が少し悲しそうな表情をして聞いてきた。
僕と吟はお互いに顔を見合わせた。
「先生達優しいし、問題ないんじゃない?」
「それもそうかな…」
吟はそう言って、花ちゃん先輩の方を見て
「…あんまり、はしゃがないでくださいね」
「大丈夫大丈夫。だってあたし、二年生だもん!」
「まったくもう」
そして、工房の中に入って先生達に挨拶をして、本来の目的である道具を受け取って蓮ノ空に戻ってきて、吟は刺繡をしていた。
「刺繍、きれい…まるで魔法みたい…」
「本当、吟の刺繍は綺麗だよね」
「何言ってんの、綾羽の方が上手な癖に…」
「綾羽君も刺繍するんだ!」
「吟みたいに、たくさんする訳じゃないですけどね」
「なのに、刺繍上手なんですよ…本当に…」
吟はそう言って、僕の事を睨んできた。
いやいや、本当に吟の方が上手なんだし、睨んでくる事はなくない
「あっ、ごめん。作業のために着替えて部室に帰ってきたのに。ちゃんと大人しく見学してるね」
「いいですよ別に。綾羽にちょっかいをかけられた事もあるので、話しかけられるぐらいならかわいいものです……」
なんか僕の事を凄くけなしてない?吟さん
「おばあちゃんが、芸楽部だったんです」
吟は昔の事を話し始めた。
「え?」
「私のおばあちゃん。もう50年ぐらい前なんですけど、蓮ノ空が女学院だった頃芸楽部に入って、アイドルしてたんです。おばあちゃん、今もきれいで。だから、昔もきっときれいで…」
「吟のおばあちゃんに、その当時の写真、白黒でしたけど、そんな写真でも綺麗だったので、吟の言う通りもっと綺麗だったと思います。それこそ、今の吟みたいに」
「ちょっと// こほん、芸楽部の話をするときには、決まって私に歌を歌ってくれて。その歌が、すごく好きでした。歌うおばあちゃんが、好きでした。…ふふっ、だから私もいつかぜったい蓮ノ空に入って、その歌を歌うんだーって。それで…?」
吟がそう言うと、隣に座っていた花ちゃん先輩は笑っていた。
「って、せ、先輩!なに笑ってるの!?」
「えっ?ご、ごめんね!でも、なんだか嬉しくて」
「…嬉しい?」
「うん。吟子ちゃんのことを知れたこと。それに、吟子ちゃんがあたしの好きなスクールアイドルを、すっごく好きなんだってわかったこと!」
「す、好きって!別に、そんな話は!」
「えー?してたよー?」
「…あのですね、これは角が立つから、今まであえて!言わなかったことなんですけど!私が好きなのは、ほんとは芸楽部で、スクールアイドルなんて名前じゃないんです!」
「…一緒じゃないの?」
「一緒じゃ!一緒じゃ…そ、それは、まだわかんない、ですけど。でも、少なくともおばあちゃんの時代には、3ユニットなんてありませんでしたし」
「そうなんだ!なんか昔の話聞くの、楽しいね!」
「またこの人は…ああもう!いいから、次は山吹色の糸を取ってください!その、黄色いやつ!」
「はーい。あ、覚えててね、あたしの好きな色だよ!」
「はいはい」
吟と花ちゃん先輩の会話を聞いていると、下校のチャイムが鳴った。
「あ、下校のチャイム。これ、ちょっと音が外れてるんだよねー」
「これが噂になってた音の外れたチャイム…」
「あ…」
「どしたの吟?」
「うん、昔、おばあちゃんから聞いた、蓮ノ空の思い出。音の外れたチャイムが鳴って、夕暮れ空の下、みんなで寮に帰ってゆく。このまま時間が止まればいいのにって、願うほどに。その日々は、宝物だった――って。 あれ?」
昔話をそうする吟の目から涙から零れていた。
「吟子ちゃん…?」
「吟…?」
「あ、あれ。なんでだろ。急に……」
昔話を思い出して自然に涙が出てきてしまったのかな
僕は吟の肩に手を回す、反対側には花ちゃんが同じように手を回していた。
「大丈夫だよ吟。そばにいるから」
「蓮ノ空に来てくれて、ありがとうね、吟子ちゃん。あたし、吟子ちゃんに会えて、よかった」
「うん…。ありがとう、先輩、綾羽…」