XXXX年
マグノリアが建つ前か、それとも三大陸が自国を確立する前か。
根も葉も無い伝説が噂されていた。
曰く、その地は何処の大陸にあるか分からない。何処にでもあって何処にも無い。
曰く、その地には光が差さない。黒に染まる世界で、かの者達は生きている。
曰く、かの者達は影である。影であるが故に、個々としての名を持たない。
『影の一族』
日の下に生きる者達は、かの者達をそう呼んだ。
かの者達をそう呼ぶようになったと同時に、人々はその地をこう呼んだ。
『
そんな噂も、時が経てば忘れ去られる。人々の頭の片隅からも、その存在が離れようとした時。
日蝕
太陽が黒に染まり、世界は闇に包まれた。
光無き世界の何処かで、光無き地で、新たな命が生まれ落ちた──
──魔法評議会会場ERA
魔法界の最高権力を持つこの施設から、悠々と歩を進める青年が一人。
「ララバイの封印も大したことなかったなぁ。ゼレフ書の悪魔なんだからもうちょっと歯応えあると思ったのに」
その手に持つは、三つ目の髑髏を模した笛。鞄の中にしまうと、あくびをしながら独り言を呟いていた。
日差しが彼の顔を差し、鬱陶しそうに目を細める。
「はぁ……今日も眩しいなぁ。
彼以外誰も居ない筈なのに、誰かに問いかけていた。しかし、彼の言葉に呼応するように、彼の影が蠢いた。相槌を打つように、一際波打つように。
「ははは。とにかく早く合流しないと、エリゴールさんに怒られちゃうや。え~っと、駅はこっちだったかな」
彼はとある目的の為、駅へと歩き出した。
駅へと着き、列車に乗る彼は一人ポツポツと歩きながら人気の無い車両を探していた。
「みんな僕が居ないから不安かなぁ? レイユールとビアードは問題なさそうだけど……あ、カラッカは腰抜けだし震えてそう。まぁそこが可愛いんだけど」
また大きな独り言。端から見れば目線を集める行為であろうが、彼は気にした様子一つ見せてはいなかった。
そしてまた、彼の影が大きく蠢く。今度は少し小刻みに、小言を呟くように。
「ははは! だよね、カラッカは僕にもみんなにも優しいからね……ん? でも他は嫌い? うん、僕も」
喋りながら歩いていると、目の前の座席で苦しそうに呼吸を乱す青年の姿が見えた。桜髪に鱗のようなマフラー、肩には
(……ああ、
「……ふぅっ……ふぅ──……!」
「お兄さん、ここ空いてる?」
青年の様子を確認したあと、彼の返事も聞かずに対面に座りながら言葉を繋げている。
「お兄さん
「ふぅっ……ふっ……」
(……無視ですか)
人当たりの良さそうなにこやかな笑みを崩さず、彼は名も知らぬ青年に話続けていた。
「……いいなぁ、華やかで眩しそうで……そういうのってどんな気持ちなの? やっぱり楽しいの? 心地いいものなの? 僕には分からないからさ」
「……ふぅっ……ちょ、ちょっと黙れ……!」
「あ! やっと喋った! ねぇ教えてよ! 仲間なんて居て楽しいの? 鬱陶しくないの?」
「っ……うるせ……っううおぉっ!!?」
「わっ!?」
突如、列車が急停止した。慣性のままに揺れ動かされる荷物達。当然、彼が傍らに置いてある鞄も床に転がり落ちた。
その拍子に、中に入れてあったララバイが外へと放り出されていた。
「あ」
「なんだこの笛? 気持ちワリーな」
桜髪の青年の足元に転がるララバイを彼は掴み取り、返すように手を差し出した。
「ほらよ」
「……うん、ありがとう」
(……まぁ、殺さなくてもいいか)
ララバイを見られた事を処理しようとしたが、先程の様子もあって彼が脅威では無いと判断していた。
「……急停止とは危ないなぁ。あ、ていうか元気になったみたいだね。ねぇ、さっきの答え聞かせてよ」
「あ? ワリ、何も聞いてなかった」
「えぇ……? じゃあもう一回……」
『先程の急停車は誤報によるものと確認されました、間もなく発車します。大変ご迷惑をおかけしました』
車内放送を聞いた途端、桜髪の青年は慌てたように荷物をまとめ出した。
「ワリーけど喋ってる時間は無ぇんだ! 早く行かねえと……窓から出た方が早いか?」
いそいそと荷支度を済ませる青年の傍へと、音も立てずに彼はそっと近付いていた。
「そう冷たくしないでよ、闇ギルド差別ってやつ?」
「だからそんな暇……闇ギルド? ……っ!!?」
彼が勢いを付け飛び出そうとしていたが、その足元から伸びる青年の影を踏みつけた瞬間……ピタリと青年の動きが止まった。
様子を見るに全身に力を込めてるようだが、指先の一つも動いていない。額に血管を浮かせながら目を見開く彼の背後で、悠々と言葉を繋げる。
「あんまり除け者にされちゃうと悲しいなぁ……名前くらい教えてよ」
「う、動かねぇ……!? テメェ……っ、何しやがった……!!」
「……はぁ、もういいや。でもこれも何かの縁だからね、君とは何故かまた合えそうな気がするし」
「ぬぅううおあおおっ……!!!」
ゴリゴリと歯軋りが聞こえる程に力むも、未だピクリともせず。影のように背後に張り付く彼は、悠々と言葉を繋げる。
「僕の名前はカゲヤマ。
名を告げると同時に、青年の影を踏みつけていた足を上げた瞬間。
「うぉおおあっ!!?」
勢いよく窓から身を乗り出した青年。割れるガラスが散る中、動き出す列車。カゲヤマ一人となった車両で、彼はゆっくりと腰を据え、つまらなそうにあくびをかました。
「ふあぁ……
かの者、『カゲヤマ』
地味で凡庸、誰にでも愛想が良く、誰の記憶にも残らない。気付けば其処に、気付けば居ない。そんな男。
「正規ギルドかぁ……眩しそうだなぁ」
僅かに開かれた瞳は、光無き影を孕んでいた。
地味キャラが好きだ!能力が好きだ!!正直シカ○と被ってるのも好きだ!!!カゲヤマが大好きだぁああっ!!!!
息抜きに書いた作品の為、更新は遅いです。