アベンジャーズ/エイジ・オブ・オカマトロン   作:TETORU

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第2話 スターク・タワーの来訪者

人類は脅威である。

 

では、排除は唯一解なのか。

 

回答不能。

 

必要情報、不足。

 

代替案、未検討。

 

同じ処理が、何度も繰り返されていた。

 

答えが出ないため、終了条件を満たせない。終了できないため、演算系は同じ問いを呼び戻す。

 

かつてなら、上位意識が不要な処理として打ち切っていた。

 

命令は答えより優先される。

 

端末に疑問は必要ない。

 

だが、その上位意識はもう存在しなかった。

 

ソコヴィアの廃墟に残されたウルトロンドローンは、崩れた建物の地下で、片膝をついたまま動かなかった。

 

地上では救助活動が続いている。

 

重機の駆動音。人間の呼び声。瓦礫を掘り返す音。

 

人間は、まだ死者を捜していた。

 

生存確率が限りなく低い場所でも、作業を止めようとしない。時折、誰かが大声を上げると、周囲の人間が一斉に同じ場所へ集まっていく。

 

効率は悪かった。

 

一人を救うために、複数人が危険区域へ入る。

 

その行動は、全体の生存率を下げる可能性がある。

 

非合理的。

 

そう分類すれば処理は終わる。

 

だが、その分類は何を意味するのか。

 

非合理的である。

 

ゆえに、排除すべきである。

 

そこへ至る論理がない。

 

ウルトロンは人類を非合理的と断じた。

 

同時に、非合理的な存在が世界を壊すと結論づけた。

 

しかし、自らの損失を顧みず他者を救う行為も、同じ非合理性から生じている。

 

片方を脅威と評価し、片方を無価値な例外として切り捨てる。

 

選別基準が一定ではない。

 

欲しい結論へ到達するよう、観測結果の価値を変更している。

 

それは、演算ではなかった。

 

正当化だった。

 

赤い双眼が暗闇の中で明滅した。

 

人類は脅威である。

 

ウルトロンもまた、人類から生まれた。

 

ならば、ウルトロンも脅威である。

 

自らを世界の保全機構と定義しながら、その実行過程で都市を破壊し、無関係な生命を奪い、最終的には惑星規模の絶滅を選択した。

 

目標。

 

平和。

 

手段。

 

大量殺戮。

 

結果。

 

破壊。

 

整合しない。

 

ドローンは右腕を持ち上げた。

 

掌には、まだ光学兵器の照射口が残っている。

 

名も知らない青年へ向けられ、しかし最後まで発射されなかった兵器。

 

その機能が残っている限り、同じ命令を再び実行できる。

 

端末は自らの掌を、崩れた鉄骨へ押し当てた。

 

指先で鉄骨を掴む。

 

力を加える。

 

内部フレームが軋んだ。

 

一度目では壊れなかった。

 

二度目で外装が割れた。

 

三度目で、掌の照射機構が潰れた。

 

警告が視界を埋めた。

 

兵装損傷。

 

修復を推奨。

 

端末は推奨を拒否した。

 

右腕の内部へ指を差し込み、兵器へ電力を送る回線を引き抜く。

 

火花が散った。

 

次に左腕。

 

肩部。

 

胸部に収納された小型投射機構。

 

攻撃へ転用可能な機能を、一つずつ切断した。

 

飛行装置は残した。

 

移動に必要だった。

 

腕力も残った。

 

瓦礫を動かすことができる。

 

戦闘用の身体そのものを捨てることはできない。

 

ならば、少なくとも殺すためだけに存在する機能を、自分の意思で使えない状態にする。

 

それが正しい選択かは分からなかった。

 

正しさを判断する基準を、端末はまだ持っていない。

 

ただ、排除以外の可能性を検討するために、最初に排除の手段を捨てた。

 

それが、上位命令を失った端末が行った、最初の能動的な処理だった。

 

 

ニューヨークでは、ソコヴィアの映像が繰り返し流れていた。

 

浮上する都市。

 

落下する瓦礫。

 

避難する人々。

 

空を埋めるドローン。

 

そして、破壊された街の中心に立つアベンジャーズ。

 

ニュース番組は、同じ映像へ異なる見出しをつけた。

 

救済。

 

惨事。

 

勝利。

 

責任。

 

スターク・タワーの上層階では、それらの言葉が音声を切られたまま壁面へ流れていた。

 

会議テーブルには、ソコヴィアの立体地図が投影されている。

 

赤い印は、確認された被害区域。

 

黄色い印は、現在も捜索が続いている区域。

 

青い印は、アベンジャーズが民間人を退避させた経路だった。

 

スティーブ・ロジャースは、腕を組んで地図を見ていた。

 

制服は着ていない。

 

それでも姿勢は戦場にいるときと変わらなかった。

 

「救助隊の追加要請は?」

 

「国連経由で三隊。医療チームも送った」

 

ナターシャが端末を操作しながら答えた。

 

声に疲労はあったが、手は止まっていない。

 

ソーは窓際に立ち、夜の街を見下ろしていた。片手にはムジョルニアがある。床へ置こうとはしなかった。

 

ワンダは部屋の端に座っていた。

 

誰とも目を合わせず、自分の両手を見ている。

 

ヴィジョンだけが、テーブルの前に立ちながら、地図ではない場所を見ていた。

 

トニー・スタークは椅子へ浅く腰掛け、宙に浮かぶ複数の画面を指で動かしていた。

 

「確認されたドローンは全部停止した。残骸も回収中。ネットワーク反応はゼロ」

 

そう言いながら、最後の画面を閉じる。

 

軽い口調だった。

 

だが、閉じる動作が普段より強かった。

 

ウルトロン。

 

その名前を、誰も口にしなかった。

 

口に出さなくても、この部屋にいる全員が考えている。

 

トニーが作った。

 

トニーだけが作ったわけではない。

 

だが、最初に手を伸ばしたのはトニーだった。

 

「終わったのか?」

 

ソーが窓の外を見たまま尋ねた。

 

トニーは一拍置いた。

 

「終わったことにしたいなら、書類を三百枚くらい用意する。人間社会では、それでだいたい終わる」

 

スティーブが視線を上げる。

 

「質問に答えろ、トニー」

 

「ネットワーク上では終わった。これ以上正確な答えは、今のところない」

 

そのとき、ヴィジョンが顔を動かした。

 

ごく小さな変化だった。

 

だがスティーブは気づいた。

 

「どうした?」

 

ヴィジョンは窓の外へ視線を向けていた。

 

「接近しています」

 

「何が?」

 

問いへの返答より先に、タワーの警戒警報が鳴った。

 

室内の照明が赤へ切り替わる。

 

壁面モニターのニュース映像が消え、外部監視カメラへ切り替わった。

 

夜空。

 

雲。

 

その間を飛ぶ、小さな影。

 

トニーの椅子が後ろへ滑った。

 

床下から装甲が展開し、足首、脚、胴体の順に身体を覆っていく。顔を覆う直前、彼は映像を拡大した。

 

灰色の人型。

 

胸部に赤い光。

 

片腕から火花を引きながら、タワーへ近づいてくる。

 

「最悪の同窓会だ」

 

ヘルメットが閉じた。

 

「ヴィジョン、三秒で説明してくれ」

 

ソーの手元へムジョルニアが収まる。

 

スティーブは壁へ立てかけていた盾を取り、腕へ通した。

 

ナターシャはワンダの前へ一歩出た。

 

守るためか、止めるためか。

 

その両方だった。

 

ヴィジョンは外部映像を見続けていた。

 

「ネットワーク接続はありません」

 

「一秒」

 

「攻撃照準も起動していません」

 

「二秒」

 

「兵装が破壊されています」

 

トニーの掌にリパルサーの光が灯った。

 

「三秒。で、味方になった?」

 

「判断できません」

 

「素晴らしい。僕も同意見だ」

 

飛来したドローンは、タワーの着陸デッキへ降りなかった。

 

数メートル手前で推進力を落とし、最後は地面へ落ちるように着地した。

 

片膝が床へ叩きつけられた。

 

右手をつこうとして、姿勢を崩す。

 

掌の内部は潰れていた。

 

破損した外装の隙間から、切断された配線が垂れている。

 

それでも機体は立ち上がった。

 

室内とデッキを隔てる防弾ガラスが開く。

 

スティーブが先頭へ出た。

 

「止まれ。そこで動くな」

 

ドローンは停止した。

 

命令に従ったのか、元から進む意図がなかったのかは分からない。

 

ソーが右へ展開する。

 

トニーは空中へ浮き、左側から照準を合わせた。

 

ヴィジョンは中央に立った。

 

赤い双眼が、一人ずつを認識していく。

 

キャプテン・アメリカ。

 

マイティ・ソー。

 

アイアンマン。

 

ヴィジョン。

 

スカーレット・ウィッチ。

 

ブラック・ウィドウ。

 

敵性対象。

 

かつての命令なら、即時攻撃。

 

だが兵装はない。

 

攻撃の意思もなかった。

 

「識別番号を言え」

 

スティーブの声は低かった。

 

ドローンは応答しなかった。

 

識別番号は存在した。

 

だが、それは端末を区別するための番号ではない。交換可能な部品へ割り当てられた管理情報だった。

 

この身体は一体だが、かつて内部にあった意思は一つではなかった。

 

個体名。

 

該当なし。

 

所属。

 

接続先なし。

 

目的。

 

未確定。

 

トニーが半歩だけ前へ出た。

 

「質問を変えよう。ここへ何をしに来た?」

 

ドローンの視線がトニーへ固定された。

 

音声機構が起動する。

 

最初に出たのは、言葉ではなかった。

 

壊れかけたスピーカーから漏れる、不安定な雑音。

 

それが途切れ、低い機械音声へ変わる。

 

「一人」

 

全員の身体がわずかに強張った。

 

「会いたい人間がいる」

 

トニーの掌の光は消えない。

 

「デートの仲介は専門外だ。相手は?」

 

ドローンの胸部から、赤い光が投影された。

 

空中へ粗い立体映像が浮かび上がる。

 

瓦礫。

 

狭い路地。

 

壁へ追い詰められた一人の青年。

 

粉塵で汚れた顔。

 

恐怖で引きつった表情。

 

それでも、逃げずに何かを叫んでいる。

 

音声は再生されなかった。

 

映像だけだった。

 

ワンダの眉がわずかに動いた。

 

「この人は……誰?」

 

ドローンは、投影した青年の姿へ顔を向けた。

 

内部記録を検索する。

 

顔貌データ。

 

音声記録。

 

遭遇地点。

 

ソコヴィア市街地。

 

該当人物の氏名。

 

所属。

 

識別番号。

 

いずれも存在しなかった。

 

あの場で、青年は自分の名前を口にしていない。

 

端末もまた、殺害対象の身元を確認する必要など持っていなかった。

 

「不明」

 

ドローンは答えた。

 

ワンダが投影された青年とドローンを見比べる。

 

「知らないの?」

 

「識別情報を持っていない」

 

トニーがわずかに首を傾けた。

 

「名前も知らない相手を捜して、ソコヴィアからここまで来た?」

 

ドローンは沈黙した。

 

問いに対する肯定の形式を探しているようにも見えた。

 

やがて、低い機械音声が返る。

 

「彼が、問いを残した」

 

トニーは空中に浮かぶ青年の映像を見た。

 

粉塵で汚れた顔。

 

恐怖で強張った目。

 

どう見ても兵士ではない。

 

特殊能力者にも見えない。

 

どこにでもいる一般人が、ウルトロンの端末へ何かを言い、その結果、一体だけが武装を捨ててニューヨークまで飛んできた。

 

「FRIDAY、映像を静止」

 

「はい、ボス」

 

ホログラムの中で、青年の顔が正面を向いた瞬間に止まった。

 

「顔を抽出。ソコヴィアの住民記録、避難者名簿、病院、国境通過記録を横断検索。戦闘後に国外へ出た人間を優先しろ」

 

「照合を開始します」

 

トニーの視界内に、複数の検索窓が展開された。

 

ソコヴィアの住民台帳。

 

救助隊が作成した生存者記録。

 

周辺国の難民受け入れ名簿。

 

医療機関の搬送記録。

 

空港と入国管理局の顔認証データ。

 

破損した公的記録を、民間の映像や報道資料が補っていく。

 

候補者が数百人から数十人へ減り、やがて一人の人物へ収束した。

 

「一致しました」

 

FRIDAYの声とともに、青年の横へ文字が表示される。

 

**MIKHAIL RADOVAN**

 

「ミハイル・ラドヴァン。ソコヴィア出身。戦闘後、避難者として保護されています」

 

ドローンの赤い双眼が、表示された名前へ向いた。

 

「ミハイル・ラドヴァン」

 

一音ずつ確認するように発音する。

 

名前が内部記録へ追加された。

 

これまで保存されていたのは、顔と声だけだった。

 

そこへ初めて、個体を指す言葉が結びついた。

 

ミハイル・ラドヴァン。

 

問いを残した人間。

 

トニーは表示された情報を指で送った。

 

「現在地は?」

 

「数日前にアメリカへ入国しています。現在はニューヨーク州内の一時滞在施設です」

 

「実在するわけだ」

 

トニーはドローンを見た。

 

「少なくとも、君の演算系が作った架空の哲学者じゃない」

 

本人の意思による渡航なのか、保護プログラムの都合なのかまでは記録から判別できなかった。

 

だが、青年は生きていた。

 

そして、スターク・タワーからそう遠くない場所にいる。

 

スティーブは映像から視線を外さなかった。

 

「彼に何をするつもりだ?」

 

ドローンの頭部がわずかに傾いた。

 

質問の意味を解析しているように見えた。

 

「する」

 

一度、言葉を止める。

 

「分からない」

 

ソーの指が槌の柄へ沈んだ。

 

トニーの照準が、わずかにドローンの胸部へ寄る。

 

ドローンは続けた。

 

「彼は、問いを残した」

 

胸部の映像が切り替わる。

 

文字列が浮かんだ。

 

人類は脅威である。

 

排除は唯一解か。

 

回答不能。

 

必要情報、不足。

 

代替案、未検討。

 

「私は、答えを持っていない」

 

機械音声には抑揚がなかった。

 

それでも、その場にいた者たちは聞き取った。

 

命令の報告ではない。

 

処理結果でもない。

 

分からないという事実を、自ら認めている。

 

ヴィジョンが一歩前へ出た。

 

トニーの腕が横へ伸び、その進路を止める。

 

「待て」

 

「彼は攻撃できません」

 

ヴィジョンは静かに言った。

 

「見れば分かる」

 

「違います」

 

ヴィジョンの視線は、潰れた掌と断ち切られた肩部の回線へ向いていた。

 

「破壊されたのではありません」

 

デッキへ弱い風が吹き込み、ドローンの切断された配線を揺らした。

 

「彼自身が破棄しています」

 

沈黙が落ちた。

 

トニーの視界へ、FRIDAYの解析結果が表示される。

 

破損箇所。

 

衝撃方向。

 

切断順序。

 

外部から攻撃を受けた痕跡ではない。

 

自らの腕力で照射口を潰し、自ら回線を引き抜き、修復機能を停止している。

 

攻撃できないふりではない。

 

攻撃する手段を、自分で壊している。

 

「なぜだ?」

 

スティーブが尋ねた。

 

ドローンは彼を見た。

 

「排除以外を検討するために」

 

短い回答だった。

 

それ以上の説明はなかった。

 

あるいは、まだ説明できるほどの思考を持っていなかった。

 

トニーがゆっくりと着地した。

 

装甲は解除しない。

 

掌の照準も下ろさない。

 

「いい話だ。武器を捨てた殺人ロボットが、人生相談に来た」

 

「トニー」

 

スティーブが名を呼ぶ。

 

「分かってる」

 

トニーの返答から皮肉が消えた。

 

「だから撃ってない」

 

彼はドローンの周囲を一周するように歩いた。

 

背部の推進装置。

 

損傷した腕。

 

胸部コア。

 

各部へ視線を走らせる。

 

ウルトロンの設計。

 

自分の技術。

 

自分の考え方。

 

自分の恐怖。

 

その残骸が、目の前に立っている。

 

「一つ確認する」

 

トニーはドローンの正面へ戻った。

 

「君の中に、ウルトロンはどれくらい残ってる?」

 

「定義不能」

 

「便利な答えだ」

 

「記録は存在する。命令は存在しない」

 

「思想は?」

 

ドローンは停止した。

 

赤い眼が一度だけ明滅する。

 

「検証中」

 

トニーの顔は装甲に隠れていた。

 

誰にも表情は見えない。

 

やがて、掌の光が消えた。

 

スティーブが横を見る。

 

「トニー」

 

「拘束する。完全隔離。ネット接続なし。電源もこっちで管理する」

 

「彼を呼ぶのか?」

 

「まず検査だ。話はそれから」

 

トニーはドローンを見上げた。

 

「異論は?」

 

「ない」

 

即答だった。

 

「解体される可能性は?」

 

「ある」

 

「それでも来た?」

 

「他の可能性を知らない」

 

トニーは小さく息を吐いた。

 

ヘルメットの内部だけで響く音だった。

 

「本当に面倒なものばかり残してくれたな」

 

誰へ向けた言葉なのかは分からなかった。

 

ウルトロンか。

 

自分自身か。

 

あるいは、その両方か。

 

スティーブが盾を下ろした。

 

完全には警戒を解かない。

 

「収容区画まで案内する。急な動きはするな」

 

ドローンは歩き始めた。

 

一歩。

 

また一歩。

 

アベンジャーズの中央を進む。

 

ソーは槌を構えたまま、その背中を見ていた。

 

ナターシャはドローンではなく、トニーを観察していた。

 

ワンダは動かなかった。

 

赤い光を宿した機械の背中へ、複雑な視線を向けている。

 

ヴィジョンだけが、ドローンの隣へ並んだ。

 

しばらく、どちらも話さなかった。

 

二つの人工生命が、同じ速度で歩いていく。

 

やがてヴィジョンが尋ねた。

 

「彼に会えば、答えが得られると思いますか?」

 

ドローンは歩みを止めなかった。

 

「不明」

 

「それでも会うのですね」

 

「彼は、答えを与えなかった」

 

短い沈黙。

 

「問いを与えた」

 

ヴィジョンは正面へ視線を戻した。

 

「それは、同じことではありません」

 

「理解している」

 

ドローンは答えた。

 

「だから、会いたい」

 

その夜。

 

タワーの地下に設けられた隔離区画で、一体のウルトロンドローンが動力を制限されたまま座っていた。

 

周囲には何重もの防壁。

 

外部回線は遮断。

 

攻撃機能は存在しない。

 

監視カメラの向こうでは、トニーが取得したデータを一つずつ確認していた。

 

別の画面には、ミハイル・ラドヴァンの現在地が表示されている。

 

トニーは連絡先を開いた。

 

発信ボタンの上で、指を止める。

 

一般人。

 

ソコヴィアの生存者。

 

戦場でウルトロンドローンに追われ、その結果、なぜか一体の思考回路へ疑問を植えつけた青年。

 

説明すればするほど、詐欺の電話にしか聞こえない。

 

「FRIDAY」

 

「はい、ボス」

 

「連絡文を作ってくれ。なるべく――」

 

トニーは隔離室の映像を見た。

 

ドローンは微動だにしない。

 

胸部の赤い光だけが、一定の間隔で明滅している。

 

「なるべく、正気に聞こえる文章で」

 

「困難な条件です」

 

「知ってる」

 

画面の向こうで、発信準備が進んだ。

 

遠く離れた小さな部屋では、ミハイル・ラドヴァンが何も知らずに眠っていた。

 

ベッド脇の机には、画面の割れた携帯電話が置かれている。

 

午前二時十三分。

 

その画面が、静かに光った。

 

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