「・・・ん?」
僅かな鈍い痛みとともに木に寄り掛かるように座っていたケンは目を覚ます、草木が生い茂り天然の巨木が聳え立つ森林が目に入った、立ち上がり首や肩をゴキゴキと鳴らしているとその先にセイリュウがぐったりと横たわっていた
「セイリュウさん」
「おお・・・生きとったか・・・」
ケンは直に首元に駆け寄り片膝を着いて声を掛ける、モノケロスから発射された針状の砲弾が無数に突き刺さっている。生きてはいるが長くは持たないだろう
「すまんが・・・この体でいられるのはここまでのようじゃ・・・」
「では・・・」
セイリュウの言葉からその意味を察した時、背後からレックスの声が響く
「じっちゃん!」
「無事じゃったか・・・レックス」
「酷い・・・」
レックスがセイリュウの傍にいるケンを見る、縋る様な表情にケンは僅かに首を横に振る
「これもまた運命じゃ・・・泣くな、レックス」
「無理な事・・言うなよ」
「別れは一瞬、やがてエーテルの導く先で、また巡り合う」
セイリュウの体が光だし紫色の粒子が舞い始める
「お前と過ごした日々、楽しかったぞ・・・また会おう、レックス」
「じっちゃん・・・!!」
堪らずセイリュウに駆け寄るレックス、だが触れる前にその身体は光の粒子となって霧散した。レックスは粒子を掴もうとするがそれは叶わない
「じっちゃん・・・うわあああ!!」
身内を失う損失感に地面を殴るレックス、そして顔を背けるホムラ
「泣くなと言うとるじゃろうがレックス」
セイリュウの声が聞こえるがそれを幻聴と思い涙を流すレックス
「レックス」
「じっちゃーん!!」
「レーーックスッ!!」
怒鳴られたレックスが目を開けると眼前に羽と尻尾の生えた小動物がちょこんと座っていた。レックスが目を擦って確かめる。見た目は全く違うが現状証拠から見て明らかにセイリュウ本人である。レックスとホムラは顔を見合わせ叫んだ
「ええええっっ!?」
「話には聞いていましたがここまで変わるものなんですね」
「ワシは特別じゃからの~」
セイリュウが腰に手を当てドヤ顔をかましケンは顎に手をやり生態の神秘に感心している
「じ・・・じっちゃん・・・なのか?」
「嘘・・・」
「当たり前じゃろうが、見てわからんか?」
「えと・・・わからないです・・・」
「わかるわけないって・・・」
見た目もサイズもまるっきり違うのでホムラとレックスが動揺するのは無理もないが
「というわけで、全身の代謝を最大限にして身体機能を維持した結果。幼生体にまで退行してしまったんじゃな」
それから少ししてセイリュウは自身の身に起こした能力の詳細を説明した。怪我と老衰との違いだろうか
「随分便利なもんなんだな。アルスってのは」
「全てのアルスができる事ではないぞ?ワシだからこそできることなんじゃ・・・って、レックス怒っとる?」
「・・・別に・・・ただわんわん泣いてた自分がアホらしくなっただけだよ。ケンさんも教えてくれればよかったのに」
「ごめんレックス。以前セイリュウさんが話してくれたけど実際に見たことがなかったから」
「何じゃ、やっぱり怒っとるじゃないか」
不貞腐れているレックスに謝るケン、セイリュウにとってはいつもの事みたいだが
「で、いつ元に戻れんの?」
「そうさのう・・・まあ300年もあれば元通りじゃ」
「さ・・・さんびゃくねんっ!?オレ死んじゃってるぞ!?」
「うむぅそういう事になるかのう」
300年経つ頃には骨どころか墓石が残ってるかもわからない年数にレックスが驚く
「どーすんだよ家、オレ、もしかして宿無し?」
「これを機に一人暮らしを始めたらどうじゃ?」
「家賃かかるじゃないか」
「けちくさいのぉ」
「現実的って言ってくれ」
船からの脱出からのセイリュウの幼体化からの宿無しからの家賃へと段々問題のスケールが小さくなっている
「でも、無事でよかったよ」
その言葉にセイリュウが親指を立てる
「っと、のんびりもしてられない。ニア達を探さなきゃ」
「ニア?一緒におったあのドライバーとブレイドの事かの?ケン、なんか知らんか」
セイリュウに心当たりを聞かれたケンは口元に手を当て記憶を辿る
「えっと、セイリュウさんが木々にぶつかっている途中で一際大きな木にぶつかった時にビャッコさんの感触がなくなったのは覚えています」
そう言いケンは奥の方向へ顔を向ける
「でしたら折れた枝を探していけばいいと思いますけど。どうですか?」
「なるほど。よし、そうしよう」
「ところでレックス、その胸で光っとるのはコアクリスタルか?一体お前の身に何が」
「その話は後、今はニア達を探すのが先」
レックスがセイリュウを抱え上げ首の後ろに下げている潜水ヘルメット中にいれる
「おほっこりゃ楽ちんじゃわい」
「あそうだ、紹介が遅れたね。この人はオレのサルベージャーの先輩のケンさん。そんでオレのブレイドのホムラ」
「よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
レックスがケンとホムラにそれぞれ紹介しお互いに頭を下げた
~
それからレックス達は折れた木や大量に落ちた若い葉、削り取られた樹皮を頼りにニアとビャッコを探して森を進む、道中モンスターに出会ってはレックスとホムラの戦闘をサポートし、邪魔な倒木を退かしたりとしている内に遠くから金属音や衝突音が響き渡る
「この音は?」
「前の方からだね、音の間隔から両手武器・・・足音が2つ・・・その内一つが四足だから確実かな」
ケンは耳を音の方向へ向け確かめる
「大気中のエーテルも震えてます。ドライバーとブレイドが何かと戦ってる。間違いありません」
「行ってみよう」
「はいっ」
3人は音の出所に向かって走り出す、その頃ニアとビャッコは巨大な蛙のモンスター、ワームイーター・グロッグと相対していた。巨体な分耐久力もあるようでかなり手こずっている
「お嬢様、ここは私に任せて」
「アンタ1人置いて行けるわけないだろ!」
グロッグが2人ににじり寄る、その時真横から火炎が飛来し命中、その巨体の進行を阻んだ。あくまで阻止しただけで当たった所を掻いている
「手を貸すぞニア!」
「レックス、何でここに!?」
駆けつけて来るレックス達に理由を問いただそうと意識をそっちに向けた瞬間、ニアの足に舌が絡まる
「にゃああ!」
「お嬢様!」
ニアの叫びと一緒にグロッグの口へと引っ張られる。不意な事で武器も落としてしまう
「不味い・・・!」
ケンは速度を上げレックスとホムラを追い越し走り際地面に落ちている複数の小石を拾い上げグロッグの顔目掛けて投げつける、常人には到底出せない速度の小石達がその表皮にめり込む。突然のダメージで呑み込もうと引きづっていたニアを上空へ放り投げる。そこにレックスが追撃で大剣を叩きつける
ビャッコが直ぐ様落下地点に向かいニアを背中で受け止める
「あ、ありがとうビャッコ」
ビャッコは咥えていたツインリングをニアに渡す
「礼ならあの方達に言ってください」
レックスとケンがグロッグの攻撃を其々躱しながら戦っている
「それはアイツの始末が済んでから、行くよ!」
ニアはツインリングを構えビャッコの乗ったまま駆ける。グロッグが泡がレックスに迫る
「ホムラ!」
レックスがホムラに武器を返しアーツを繰り出す
「はい!フレイムノヴァ!」
周囲のエーテルを熱に変換し火炎が泡を蒸発させる
「おまえの相手はアタシだ!バタフライエッジ!」
飛び上がりその背中をツインリングで斬りつける、仰け反った所でレックスが側面から攻める
「ニアナイス!ダブルスピンエッジ!」
回転を利かせた二連斬りでグロッグは横に一回転するが今までの攻撃で頭に来たのかレックスの方へ向き直り大きく飛び跳ねる
「レックス逃げて!」
「ちょっ・・・そんなのアリかよ!?」
強引な手段で不意を突かれたレックスを圧し潰そうと巨体が迫る、その時ケンが前に出て受け止める
「ふんっ!」
巨体を物ともせず暴れるグロッグを地面に叩きつける
「ビャッコさん!」
「タイガーレイジ!」
ビャッコの鋭い爪の連撃が止めとなりその巨体がエーテルの霧となって消滅した
「助かったー・・・ありがとうケンさん」
「礼には及ばないよ。それにしてもあの様な手段に出るとはね」
「油断ならない相手でした」
ケンが尻もちを着いたレックスに手を差し出し立ち上がらせる。そこにニアとビャッコがやって来る
「言いそびれちゃったけど、捕まった時助けてくれてありがとう」
「いえ、それより無事でなによりです」
「はぐれた時は心配したけどホント良かったよ」
「アンタ達もね・・・そういえばあの時助けてくれたでっかい奴、あのアルスは?」
「ワシの事かの?」
「ええっ!?ウソ!なんで!?」
ヘルメットから小さくなったセイリュウが顔を出す、この小動物が自分らを乗せたアルスとは誰も思いもしないだろう
「まぁ、こっちはこっちで色々と・・・どこか落ち着ける所に移動しないか?話はその時にさ」
「その方が良さそうですね、お嬢様」
「ああ、そうしよう」
~
「ビャッコから聞いた、アンタがここまで運んでくれたって」
「アルス様、ありがとうございました」
ニアとビャッコがセイリュウに感謝を述べる。一行はその夜、湖の畔で焚火を起し野営をする事となった
「礼には及ばん、お前さん達もレックスを助けてくれたんじゃからの」
「いいよ・・・別に・・・しかし便利なもんだねアルスってのは」
「全てのアルスができる事では・・・」
「その話はいいよもう」
腰に手を当てふんぞり返るセイリュウをレックスがジト目で止める
「いいよもう・・・って何じゃその言いぐさは!そもそもお前がそんなわけのわからん仕事を引き受けおったのが原因じゃろがい!じっちゃんはここでのんびりしててよとか言って飛び出して行きおってからに」
「はいはいわかりました、オレがぜーんぶ悪いんですすみませんでしたごめんなさい」
「テキトーに謝りおって、全く反省の色が見えん!」
「そりゃできないよ」
「何でじゃ」
不貞腐れている様な言動にセイリュウが問い詰める
「だってオレがあの場所にいなかったら、ホムラはあいつらの言いなりに・・・」
「レックス・・・」
「そんなの絶対だめだ、あんな奴らにホムラは渡さない」
目の前で連れて行かれ。物の様に扱われる。そんな状況を静観する事などできない。ホムラへの恩とブレイドではなく1人のヒトとして、パートナーと認識しているレックスにはそんな事など許せないのだろう。意図を感じ取ったセイリュウやニア達は何も言わず、ちょっと離れた所でシンに斬られた切創洗浄消毒を施し縫合していたケンは背中でそれを聞いていた
続く
次からトリゴの街に入ります