姫騎士学園の下剋上性活 ~最弱スキルで異世界のプライド高め美少女たちを堕としたら、毎晩ご奉仕に来る日々が始まった~ 作:東雲(しののめ)
一日の授業を全て終えると、僕は図書館に訪れた。
「……いつ見ても、とてつもない規模の施設だな」
入口から見上げると、改めてその巨大さがよく分かる。
「で、天照卿に呼び出されて来たはいいものの――」
周囲を警戒するが、特に待ち伏せなどはないようだ。
「おそらく、入会するかどうかの話をされるんだろうけど……」
ウルズにも言ったが、僕は入ると決めている。
――問題は、入会した後に、どんな罠や企みが待っているか。
寝る間もない激務? 嫌がらせをされる毎日?
天照卿の狙いがハッキリしないこともあり不安はある。
――でも、やるしかない。
――天照卿の懐に潜り、彼女の隙や弱点を見つけるんだ。
覚悟を決めて図書館に足を踏み入れる。
まず受付の女生徒に話しかけると、僕は最上階の一室へと案内された。
どうやらここが図書統括長の執務室のようで――
「――ようこそ、図書部会へ」
黒髪清楚な美少女が、立ち上がって僕と目を合わせる。
「まずは改めてご挨拶を。図書統括長カグヤ・スメラギと申します」
どうぞよろしくと雅に一礼。
下級生まして劣等種の男に対して、丁寧すぎる態度である。
「……カゲルヤ・ノア、です」
小さく会釈しながら挨拶を返す。
相手の腹の内が見えない以上、こちらも最初は丁寧めに応じる。
「この場所まで来るの、色々と大変でしたよね?」
僕が彼女の信者たちから、狙われていることを言っているのだろう。
「他の七聖に横取りされたくなくて。総会でつい宣言してしまいました」
「……嫉妬に狂った人たちから、朝から襲われっぱなしですよ」
「その節はご迷惑をおかけして申し訳ありません」
若干恨み節を漏らすと、彼女は苦笑しながら両手を合わせる。
「ですが、ここに来ていただけたということは――」
天照卿が上品な足取りで、僕のすぐ目の前まで近づく。
美貌はいわずもがなで、身長は僅かに自分より低いくらいか。
艶やかな黒髪が揺れると、春に咲く花のような香りが漂ってくる。
「――図書部会、入っていただけるのですか?」
至近距離で見つめられドキリとするが、なんとか平静を装って答える。
「…………はい」
「ほんとに!? 嬉しいです!」
彼女は途端に顔をほころばせ、いきなり手を握ってきた。
「フルネームで呼ぶんはよそよそしいですし、カゲルヤくんでいいですか?」
いまだ警戒気味の僕に対して、相手はすんなりと懐に入ってくる。
男によっては勘違いしてしまいそうな距離の詰め方だ。
「呼ばれ方は、何でも構わないですけど……」
「ならわたしのこともカグヤと呼んでください」
「…………じゃあ、カグヤ先輩で」
「うふふ。呼び捨てでいいのに」
彼女は楽しそうに笑って、そんな冗談まで言う。
……いくら優等生とはいえ、もう少し敵対的に来ると思ってた。
正直、ちょっと毒気を抜かれた気分だ。
油断しないよう気を引き締めつつ、入会の書類も記入して――
「――それでは施設の紹介しがてら、図書部会の説明もしましょう」
先輩が先導してくれて、図書館を案内されることに。
「今いる本館の構造は、地上四階、地下六階建てでして――」
ちなみに本館以外にも、東館やら西館などもあるそう。
まさに超名門学園にふさわしい巨大図書館である。
「――獄炎卿の時は、申し訳ないことをしたと思っています」
一通り施設のことを説明すると、唐突にそう切り出してくる。
「獄炎卿の時……?」
「あなたを図書館に立入禁止にしたでしょう?」
「……ああ。ヴェルグ先輩と決闘前のやつですか」
獄炎卿攻略のため、学園規則や戦闘記録の本を探していた。
しかし肝心の図書館は、なぜか立入禁止。
僕は図書搬入の依頼(クエスト)にかこつけ、本をいくつか無断拝借したのだった。
既に返却はしたが……この感じだとバレてなさそうだな。
「カゲルヤくんのことに、わたしの周りの子を巻き込みたくなくて」
絶対女王に、誰より目を付けられている僕だ。
そんな自分が図書館で問題を起こせば、図書部会も責任を問われる。
彼女は己の部会員らを守るため、立入禁止令を出したという。
「つまりは保身です。カゲルヤくんが嫌いというわけではありませんよ?」
「……背景は分かりましたけど、そんな僕を部会に入れてよかったんですか?」
「少し事態が変わって――あなたも察しているでしょう?」
「女王からカゲルヤ・ノアを倒すことを命じられた、と」
「ご名答です」
結局は、僕が彼女を攻略するために近づきたかったように。
――彼女もまた、僕を調べるために傍に置きたかった、ってわけか?
だとすれば指名してきたのも、親切にしてくれるのも頷けるが……。
「――――ここが大会議室。他の部会員もたくさんいますよ」
扉を開けると、確かにそこには多くの女生徒がいた。
慌ただしく働いているが、図書統括長の姿を見るや――
「「「「「カグヤ様!」」」」」
生徒たちが手を止めて、一斉に振り返って挨拶をする。
「ごきげんよう。仕事中にお邪魔してごめんなさい」
彼女が手を振ると、全員が瞬く間に色めき立つ。
「今回は新しいメンバーを紹介しよう思います」
挨拶してと振られるので、簡潔に名前を名乗るが。
「カゲルヤ・ノア、です」
無言の殺気を向けられて、乾いた愛想笑いをするしかなかった。
部会員たちは業務に戻るが、何をそんなに忙しそうにしているのか。
「総会でも説明ありましたが、今は志願者の選考期間なんです」
「まさか、机に山積みになってるこの書類って……」
「図書部会に入りたい生徒の志願書。今日提出された分のものですね」
女王が一週間猶予を与えたのも納得。これは一朝一夕で終わる仕事ではな――
「……おっと!」
その時、僕はすれ違った部会員に肩をぶつけられる。
たぶんわざとだが、抗議するほど厄介な嫌がらせでもないか。
「――待ちなさい」
僕が黙ってやりすごそうとすると、カグヤ先輩がすぐに声を発した。
しかもちょっとビックリするくらい威厳ある声でだ。
会議室にいた他の生徒たちも、手を止めてこちらを注目する。
「肩、カゲルヤくんにぶつかりましたよ」
「あ、いや、カグヤ様、わたしは……」
「偶然だったら一言謝る。しかし意図した嫌がらせなら――」
「ち、ちち、違います! そんなことはしません!」
その女生徒はすぐに僕に頭を下げてきた。
カグヤ先輩はそれを見て、安心したように頷く。
「偶然なら良かった。ただ念のために言いますが……」
そしてカグヤ先輩は、その女生徒、というより周りに対して言う。
「図書部会のモットーは円満和楽。同じ部会の仲間になった以上、きちんと礼節はあるべきです――ギスギスした空気で活動するの、皆さんも嫌でしょう?」
統括長らしく、凜とした口調で告げる。
「その上で、どうしても納得いかないことがあれば、その時は勝負で決めればいい」
重く消沈する人々に、先輩は一転して優しく諭す。
「ここにいる子はわたしが選んだ子。堂々と学園生活送ってほしいです」
僕にぶつかった生徒が、選ばれたと言われ唇を噛む。
「さ、お小言は終わり。やることたくさんです。皆で気張っていきましょう!」
「「「「「……はいっ!」」」」」
カグヤ先輩が満開笑顔になると、やはり場の空気が変わる。
生徒たちの落ち込みが消え、むしろやる気になって仕事に戻っていくのだった。
「――ごめんなさい。初日から嫌な思いさせてしまって」
会議室から統括長室に戻ると、カグヤ先輩がすぐに謝罪してくる。
「あの子のことは責めないでください。私の監督不行き届きです」
しかも全部自分が悪いと泥まで被る。
器が大きいというか、寛大すぎるというか……。
さすが超人気者とされるだけある。
「気にしてないです。男に厳しく当たるのは学園では通常運転かと」
「それはそうですが、せっかくなら皆と仲良くなりたいでしょう?」
「……いや特には……」
僕はこの人と違って根暗だ。
誰とでも親しくなれるような器用な人間ではない。
「あ、そうです! ここは皆で親睦会でも――」
「……えぇっと、結構です」
天照卿攻略のために部会には入った。
情報収集はしたいが、他の部会員を必要以上に煽りたくない。
僕が客賓のパーティーなんて最悪の空気だろう。
今そんなことしても、情報を得るどころか、余計敵視されるのがオチだ。
「……お、大人数は苦手、ということでしょうか? これは失礼しました」
カグヤ先輩は一瞬目元をひくつかせる。
しかしすぐに元の笑顔に切り替え、明るく口を開く。
「でしたらまず、わたしと一対一でお茶でも――」
「あー……それも大丈夫です」
「――――――は?」
まさか断られると思っていなかったのか。
饒舌だった語りが止まって、しばし沈黙が流れる。
「わたしが、誘っているのです……けれ、ど?」
「すいません。とりあえず今は遠慮しときます」
「…………………………」
カグヤ先輩が絶句。笑顔が完全に固まった。
ま、他の生徒なら飛びつくように参加するかもな。
――でも僕は、
――モンスターが『誘い』をしてくる時は、裏に必ず企みがある。
今回のスカウトの件もそう。裏に女王の意向があった。
――忙しい七聖が、わざわざ男とお茶会だって?
――どうして僕と関係を深めたい? 本当は別の目的があるのでは?
図書部会という懐には、無事に潜り込めたんだ。
日に何度も誘いに乗るのは軽率だし、一旦は様子見をしたい。
「……こなたが男に振られるなんてなぁ……」
「こなた?」
「あ、いえ、わたし、わたしの誘いが性急すぎたのが悪いのです! 断られてもまったく傷ついてませんからご安心を! 時間をかけて仲良くなっていきましょう!」
ここぞとばかりに、今日一番のキラキラ笑顔でウインク。
ハートマークが飛んだように見えたが幻覚だろう。
普通の男なら、コロッと堕ちそうな場面だが……。
「……まぁ、ほどほどに、よろしくお願いします」
やんわりと受け流す感じで返答。
どんなに友好的にされようと、攻略者として一定距離感はキープする。
「……こなた渾身のウインクもスルーて……なんて手強い……せやけどいずれは……」
「ん? カグヤ先輩? なにか言いました」
「なんでもありません。カゲルヤくんは面白い方だなぁと……フフフ……」
何か誤魔化された感じがしたが、先輩は自然に話を続ける。
「では――明日から本格的にお仕事してもらいますが、分からないことがあったら遠慮なく周りに訊いてくださいね。どうしても嫌なことがあればわたしに相談を」
「相談したらどうにかなるんですか?」
「全部なんとかします」
彼女は、僕に何かあれば本気で助けると即答する。
「大見得切ってスカウトした以上、責任は果たします」
「カグヤ先輩……」
「ふふ。これでも七聖ですから。どーんと頼ってくださいね」
絵に描いたような完璧な優等生、カグヤ・スメラギ。
その隙や弱点を見つけ、攻略するために僕は図書部会に入った。
でも、その屈託ない笑顔を見て、僕はつい思ってしまったのだ。
彼女に――欠点は存在しないのかもしれない、と。