シン・エヴァンゲリオンの名曲、One Last Kiss/Beautiful Worldを、よしたまに当てはめたら……? という小説です。

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One Last Kiss/Beautiful World

One Last Kiss

 

 初めてのルーブルは なんてことはなかったわ

 

 私だけのモナリザ もうとっくに出会ってたから

 

 

……日本にモナリザが来たのは、1974年。新聞で見たことがある。確かに、美しい。だが、俺にはそこまで響かなかった。俺には、それ以上に美しく思うやつがいる。あの島で、俺は、誰よりも、何よりも守りたいものができた。……田丸均。眼鏡を掛けた、漫画家志望の青年だ。……あいつは、正直、あまり強くない。銃は下手だし、体力もそんなにない。いつか、死んでしまうかもしれない。そう思った。だからこそ、俺は、あいつを守りたいと思った。

……あの島では、いろいろなことがあった。思い出したくないこと。誰にも言えないようなこと。それこそ、「忘れられない」こと。どれもこれもが、マイナスな思い出かもしれない。それでも、だ。俺には、いい思い出がひとつ、あった。

 

「……なぁ、田丸」

「なぁに、吉敷くん」

 

 あの島での、ある日のこと。俺は、ふと、ある提案をした。入来さんに教えてもらったことがある。好きな人に対して、唇と唇を合わせることを、「キス」というらしい。日本語では、接吻と呼ばれるものだ。……俺は、田丸のことが好きだった。初めて見た時から、ずっと。だから、キスをしてみたい。俺の中に、強い思いが去来した。

 

「……俺さ、もしかしたら、日本で好きな人とか、できないかもしれない」

「? そうなの?」

「ああ。でもな、俺、キスをしてみたいんだ」

「え!? き、キス!?」

「田丸にしてみたい」

 

 田丸は狼狽えている。まぁ、当然か。……もちろん、好きな人ができない、というのは嘘だ。恥ずかしくて言えなかっただけだ。今思えば、情けない。そして俺は、「駄目、か?」と尋ねた。すると、田丸は目をそらしつつも、「……吉敷くんなら、いいよ」と言ってくれた。かわいい。そして、うれしい。拒否されてもおかしくないのに、俺を受け入れてくれた。今でこそ、相思相愛だが、この頃はどうだったんだろう。後で田丸に聞いてみるか。

 

俺は、「いくぞ」と言って、唇を寄せた。キス。それは、柔らかくて、あたたかいものだった。俺は、今まで、この日のことを忘れたことはない。いや、忘れられないのだ。……当時の田丸は、これが遊びだと思っているかもしれない。だけど、俺は、田丸のことが、大好きだ。

 

 

 田丸は、どうやら写真が苦手らしい。実際、俺の写真は結構残っているのに、田丸の写真はほとんど残っていない。入営時の写真ぐらいか。でも、俺にはそこまで写真は必要ない。俺の心にある、映写機。フィルムには、田丸、田丸、田丸。そこまで、俺は田丸のことを強く想っている。だから、写真はなくても、いい。

 

「……今日、なんか寂しいから、一緒に寝てくれない?」

「……っ、ああ、いいぜ」

 

 ある日のこと。俺が外で、月を眺めていた時のこと。月を見て、物思いにふける。この胸のもやもやを、どうにかしたかった。だが、田丸にはバレていた。俺が、物寂しい想いをしていることを。でもまぁ、そんなのお互い様か。俺は、ずっと田丸に飢えていた。でも、それを言い出すことができなかった。50年代になって、ようやく言えた。「好きだ」って。俺は、ようやく気付いた。自分が傷付くことを、心のどこかで避けていたことに。俺はようやく、そのことに気が付いたのだ。……田丸は、俺のことを愛してくれている。無論、俺もだ。田丸のことを、愛している。

 

 ああ、田丸。お前は、なんでそんなに愛おしいんだ。俺は、一生を捧げる、その覚悟さえできている。こんな血にまみれ、汚れた俺を、「いいよ」と言ってくれたから。だから、俺は恩を返す。ああ、わかっているさ。たとえ、世界が終わっても、年を取って、じじいになっても。お前を、愛し、慈しみ、敬う。365日、ずっと。

 

 俺の、忘れられない人。

 

 

 

「吉敷くん」

「ん?」

「ここの公園、風が気持ちいいね」

「そーだな」

「そうだ! 童心に帰ったつもりでさ、かけっこしようよ」

「いいな」

「じゃあ、いくよー? よーい、どん!」

 

 俺は、田丸の後を追いかけた。風のように走る、田丸を。

 

 

 

Beautiful World

 

 もしも願い一つだけ 叶うなら

 

 君の側で眠らせて どんな場所でもいいよ

 

 

 

……僕は、吉敷くんの支えになっているだろうか。

 

「……っ!!! 伏せろ!!!」

 

 ある、夜のこと。吉敷くんの、発作が起きた。僕はただ、落ち着くまでなだめることしかできなかった。

 

「吉敷くんっ、ここは日本だよ、大丈夫だよ」

「田丸っ!!! 顔出すな!!! 狙撃されるぞっっっ!!!」

 

 吉敷くんは僕の肩を掴むと、体ごと畳に押さえつけた。普通の人なら驚くだろう。だが、これが日常だ。だから、僕はひたすらなだめる。

 

「吉敷くんっ、安心してっ、もう戦争は終わったんだっ」

「………………、終わ、った? ………………っ。田丸。今、俺……」

「気にしなくていいよ」

「……ごめん、ごめんっ、俺が、俺が弱いからっ……」

「吉敷くんは何も悪くないよ」

 

 そう。吉敷くんは何も悪くない。悪いのは戦争だ。戦争が、彼を変えてしまっただけなのだ。ああ、神様。僕の望みはただ一つだけです。吉敷くんのそばで眠らせて。それが、彼の支えになるのなら……。

 

 

 吉敷くんは時々、自虐的なことを言う。

 

「どうせ、俺なんかいない方がいいよな」

 

 ……ねぇ、吉敷くん。吉敷くんは、自分自身のことが好きじゃないの。僕は、吉敷くんが何を求めているのか、すぐにはわからなかった。……ぬるい液体。……久々だ。あの島で、涙は終わりにするはずだったのに。僕は、結局、さっきの言葉に対して、当たり障りのないことしか言えなかった。ああ、もどかしい。言いたい事が言えない。ただもう一度、昔のような姿で接したい……。そうかもしれない。僕はなんて、根性なしなんだろう。……でも。

 

「お前といると、少しだけ、心が楽になる」

 

 一度、こう言われたことがある。酒で酔っていたが、確かにこう言った。だから、僕は、根性なしでもいいかもしれない。

 

 僕は、寿命まで生きるのかもしれない。もし、僕の寿命が尽きるまで、元の吉敷くんに会えないとしても。僕は、吉敷くんのそばで眠りたい。

 

……吉敷くんは、何も悪くない。ただ、目まぐるしく過ぎていく時代の中での、気分のムラみたいなものだ。ただ、たまたま調子が悪いだけなんだ。……言い過ぎだって? ははっ、なんとでも言えばいい。でも、僕はそう信じるよ。

 

「吉敷くん」

「なんだ」

「……大好き」

「…………。……俺もだ」

 

 今は、伝わるだけで、いい。

 


使用楽曲コード:14420309,25929500

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