「東方茶番劇」第三の賢者が居るんだって!! 作:ゆっくり那由多豊苑
甘味処を出た頃には、すっかり夕方になっていた。
「……食べた」
フラメスは満足そうにお腹をさすっていた。
その後ろには──十匹ほどの猫。
「にゃー」
「みゃー」
「……みんな、帰るよ」
フラメスが声を掛けると、猫たちは一斉についていく。
「すごいな……」
魔理沙が呆然と眺める。
「完全に引き連れてるじゃない」
霊夢も苦笑する。
フランは猫たちに囲まれながら嬉しそうに歩いていた。
「猫さんいっぱい!」
「フラン、転ばないようにね」
レミリアが注意する。
その時──。
フラメスが突然立ち止まった。
「……?」
「どうした?」
魔理沙が尋ねる。
フラメスは帽子を少し押さえた。
「……人が多い」
「え?」
「音が……いっぱい」
補聴器を付けているとはいえ、周囲の音が一気に重なると聞き取りづらくなる。
人々の話し声。
足音。
店から聞こえる音。
子どもたちの笑い声。
それらが重なり、フラメスは少し困った顔をした。
「大丈夫?」
霊夢が声を掛ける。
フラメスは数秒遅れて答えた。
「……大丈夫」
「無理してない?」
「……ちょっとだけ」
「だったら休みなさいよ」
霊夢は近くのベンチを指差した。
「ここで休みましょう」
「ありがとう」
フラメスはベンチへ座る。
猫たちも一斉に周囲へ集まった。
「……猫が護衛みたいになってるぜ」
魔理沙が笑う。
「この子たち、私を守ってくれる」
「本当に?」
「うん」
すると一匹の黒猫が魔理沙をじっと見つめる。
「……なんだ?」
「にゃ」
「何言ってるんだ?」
フラメスが通訳する。
「『お前は騒がしい』って」
「ひでぇ!」
霊夢が吹き出した。
「猫にまで言われてるわよ」
「私は静かだぜ!」
「にゃ」
「……なんだって?」
「『うそ』」
「猫ぉ!」
フランは大笑いしていた。
「面白い!」
そんな賑やかな時間が続く。
しかし──。
フラメスはふと、レミリアへ視線を向けた。
「……あなた」
「私?」
「吸血鬼」
レミリアの表情が変わる。
「ええ」
「……私と同じ」
「あなたも吸血鬼なの?」
「うん」
レミリアは少し驚いた。
だが、フラメスは続けた。
「……でも、ちょっと違う」
「どういう意味?」
フラメスは自分の頭を指差した。
帽子の中。
そこには隠された猫耳がある。
「私は……猫又でもあるから」
「猫又……?」
魔理沙が目を丸くする。
霊夢も驚いた。
フランはというと──。
「猫又って、猫さんなの?」
「……そう」
「じゃあ、猫耳ある?」
「……ある」
「見たい!」
「……嫌」
即答だった。
「どうして?」
「うるさいから」
「耳が?」
「人の声をいっぱい拾う」
フラメスは帽子を押さえる。
「だから隠してる」
「なるほどな」
魔理沙は納得した。
だがフランは少し残念そうだった。
「そっか……」
「……ごめんね」
フラメスは申し訳なさそうに言った。
「でも……」
少しだけ間を置いて。
「いつかなら」
「ほんと!?」
フランの顔がぱっと明るくなる。
「うん」
レミリアはその様子を見て微笑んだ。
「あなた、意外と優しいのね」
「……そう?」
「ええ」
フラメスは少し照れたように顔を逸らした。
「……普通」
その瞬間。
魔理沙が笑った。
「なんか面白い奴だな、お前」
「……そう?」
「そうだぜ」
霊夢も頷く。
「少なくとも、変わった吸血鬼なのは確かね」
フラメスは頬をぷくっと膨らませた。
「……変じゃない」
「ほら」
霊夢が魔理沙を見る。
「怒ってる」
「怒ってない」
「怒ってるぜ」
「……怒ってない」
さらに頬が膨らむ。
フランが思わず笑った。
「かわいい!」
「……怖い顔してるのに」
「全然怖くないわよ」
レミリアまで笑い始める。
フラメスはますます頬を膨らませた。
「……もう知らない」
そう言って、猫たちを連れて歩き出す。
「待ってくれよ!」
魔理沙たちも後を追う。
夕暮れの人里。
その日、フラメスの長い長い人生に、初めて「新しい友達」と呼べる存在ができようとしていた。
本人だけは──まだ、そのことに気付いていなかった。