ダンジョンに愛を求めるのは間違っているだろうか   作:新グロモント

45 / 104
45:僕と契約して眷属になってよ

 神フレイヤの魅了から解放された者達は、夜通し声をあげて【フレイヤ・ファミリア】に遠くから文句を言っていた。しかし、誰一人として都市最強と言われる彼らに面と向かって文句を言える者はいなかった。

 

 もし神フレイヤの悪口などが本人たちの耳に届いてしまえば、数秒後にはあの世行きだ。そのくらい、都市の者たちも理解している。

 

 だから、翌日には何事もなかったかのような日常に戻っていた。

 

 よくよく考えれば、別に白兎(ベル・クラネル)がどこのファミリア所属だったとか、どうでもいい。騒ぐほどの事でもない。むしろ、その白兎(ベル・クラネル)が【フレイヤ・ファミリア】にいる方が、周囲のレベルの高さから問題を早期に解決できて安全に暮らせるのではないかとすら思われた。

 

「あれ? 別に、このまま【フレイヤ・ファミリア】に『白兎の脚(ラビット・フット)』がいる方がよくないか?」

 

「美の女神が一人の男に入れ込むのを見られたのも一興だったよな。でもよ、『白兎の脚(ラビット・フット)』って『剣姫』に憧れているんじゃなかったか? たまに、城壁の上でイチャイチャしているのを俺見たことあるぞ」

 

「おいおい、馬鹿言うなよ。『豊穣の女主人』のシルちゃんだろう? 女神祭でデートして、連れ込み宿に泊まったんだぜ。俺が受付だったから間違いねーよ。あの状況で何もなかったら、おれは『白兎の脚(ラビット・フット)』がホモだと確信できるね」

 

「これだから素人は……『白兎の脚(ラビット・フット)』は、狐人の娼婦が本命に決まってんだろう。間違いねーよ。だって、そのために【イシュタル・ファミリア】を壊滅させたって噂だぜ」

 

「お前らの情報は古いな。アイツの本命は、元賞金首のリュー・リオンだ。ほら、『豊穣の女主人』のリオンちゃんだよ。ダンジョン深層の誰にも見つからない場所で裸で抱き合ってたって話だ。間違いねーよ、俺の妹がバベルの病棟勤めだからな。寝言で言っていたって」

 

「まったく、分かってねーな。アイツの本命は、メスのミノタウロスだ。間違いねー。思い出してみろ、この前のモンスターが地上で暴れた事件を。アイツは、あのミノタウロスと戦いながら下半身がそりゃ凄い事になっていたんだぞ」

 

「おいおい。さすがにそれはねーだろう。だが、ここまで美女に寄られて誰とも縁起の良い話を聞かない。確かに可能性はあるな。実際、モルドとも結構仲が良いからな。この前、一緒に銭湯に行っているのを俺は見たぞ」

 

「だが、どっちにしろ一つ言える事はあるな。くたばれ、『白兎の脚(ラビット・フット)』!! 何人の美女を侍らせてやがる。ぶっ殺すぞ!」

 

 というのが、オラリオの街の半数くらいの意見だった。正直、【フレイヤ・ファミリア】は、ギルドが原因で起きた世界崩壊レベルのパンデミックを力づくで鎮圧した功績もあり、この程度の可愛い問題なら許せる程だ。

 

 神フレイヤがこれまで築き上げた実績と地位は、簡単には崩れない。

 

 魅了で駄目なら、力づく……神フレイヤは戦争遊戯(ウォーゲーム)で白兎(ベル・クラネル)を獲得することを提案し、神ヘスティアはこれを受け入れた。神フレイヤが負けた場合は、どんな願いも聞き届けるというものだ。神アポロンの時みたいに、最近では何でも支払うというのが流行っているらしい。

 

 【フレイヤ・ファミリア】 VS 【ヘスティア・ファミリア】筆頭の連合派閥。

 

 派閥大戦と言われる、大規模な戦争遊戯(ウォーゲーム)が行われる事になる。戦力差を考えて、【ヘスティア・ファミリア】は幾らでもファミリアを呼び込んでもよいというルールだ。

 

 当然、今回の一件で二大派閥の一つである【ロキ・ファミリア】も参戦するかに思われていた。元々、フレイヤとロキは犬猿の仲だ。今回の一件で怒らないはずもない。眷属にまで魅了を掛けられているのだから。

 

 【ロキ・ファミリア】に加え、他の派閥が参加するならば勝利が確定しているゲームだ。勝ち馬に乗るべく、神会(デナトゥス)は大盛り上がりになるはずだった。

 

 計画がとん挫した神ヘスティア。

 

「どういうことだい。君のところが参加しないから、みんな尻込みしているじゃないか」

 

「あほ抜け。確かにフレイヤが魅了つこーたのは許せん。だがな、それだけや。別に何かを取られたわけでもない、無理な要求をされたわけでもない。それに、ギルドから貰うもんもろーたからな。三大クエストがある限り、うちとフレイヤの消耗は駄目やと」

 

 神会(デナトゥス)に出席する神々は、勝ち馬でないのならば正直気が進まない。

 

 それもそのはず……漆黒のゴライアス事件、ジャガーノート事件でどれだけの冒険者が死んだ事か。その原因である【ヘスティア・ファミリア】に好き好んで関わりたい物好きは少ない。

 

 彼等に目を付けられたくもない。この場は、目を合わさず、やり過ごすのが正解だった。ファミリアのためにも、眷属のためにも。

 

「ヘファイストス、ミアハ、タケミカヅチは助けてくれるよね。僕たち神友(しんゆう)だから!」

 

「仕方ないわね~。まったく、どうしてアンタのところは、こうも問題ばかり起こすのよ」

 

 神ヘファイストスは諦めたように溜息をついた。どうせこうなる。神ミアハと神タケミカヅチも同じだった。

 

 そんな神会(デナトゥス)の末席の方で静かに座る神……アスクレピオス。

 

「アスクレピオスも来てたんだ。だったら声を掛けてくれよ! 聞いたよ、プルシュカとニーナ含めた眷属の全員が50階層到達なんて凄いじゃないか。ボンドルド君も何故か生きているし、本当に良かったよ。おめでたい事だ。……ところで、折入って相談があるんだけど」

 

 戦争遊戯(ウォーゲーム)を楽しみにする神々であっても、今この場で神ヘスティアの行動を止めろと叫びたかった者達は多いだろう。あのヘファイストスですら、駆け出してヘスティアの口を塞ごうとしている。

 

 だが、神アスクレピオスは彼らの制止を制する。ここまできたら、何を言い出すのか最後まで聞いてみたいとすら思っていた。

 

「なんだ、言ってみろ」

 

「助けて欲しいなって……“困っているヒトがいれば助けなさい”っていうのが君のところの教えだってプルシュカも言っているしさ。このままじゃ、どう頑張ってもフレイヤに勝てないんだ。助けてくれないかい?」

 

 これが本物の神だ。

 

 ゼウスの姉だ。

 

 神の中でも最上位の女神だ。

 

「で、手伝った結果、今度は誰を殺されるんだ? 私の眷属は、【ヘスティア・ファミリア】のオモチャじゃない。勘違いしているようだからハッキリと言っておくが……私は、お前たちを許していない」

 

「……ごめん」

 

 こうして、神会(デナトゥス)は閉幕する。

 

 【ヘスティア・ファミリア】と共に派閥大戦に出てくれるというファミリアは、10ファミリアもいないだろう。彼女の人徳をもってしても、これが現実だった。

 

………

……

…

 

 だが、協力しないのならば、簡単だ。協力したくなる状況を作るだけ。

 

 策士リリルカ・アーデは、現状のファミリアの状況を正しく理解しており、既に動いていた。市場に出回る借金の借用書を二束三文で買いあさる。そして、金を返すか、派閥大戦に参加するか、敵対するかを選ばせる。

 

 他にも、7億ヴァリスの資金を使い物流を担う商業系ファミリアを丸ごと抱え込む。弱小ファミリアも数が集まれば十分使い道はある。下請け業者である彼らがオラリオの事実上の生命線だ。

 

 そして、各ファミリアへの挨拶回りも欠かさない。

 

 戦力的に弱そうなファミリアには、ヘスティアが挨拶周りでこう言う。

 

「え? 君のファミリアは力を貸してくれないのかい?」

 

 そうすると不思議と決まった答えが返ってくる。

 

「……て、手伝わせていただきます」

 

 中堅ファミリア相手には、明確なメリットを示す。それこそ、”クロッゾの魔剣”だ。それを破格の値段で提供することで力を借りる。正直、魔剣の魅力は素晴らしい。真の切り札になり得るので、探索系ファミリアにおいては是が非でも欲しい代物だ。

 

「では、魔剣一本あたりこの程度のお値段で……派閥大戦では期待していますよ」

 

「チッ、足元をみやがって……分かったよ」

 

 これで徐々に派閥連合の勢力は伸びていく。26ファミリアの確約を取り付けるリリルカ・アーデの手腕は見事であった。

 

 そして、彼女が最も欲したのは……【ガネーシャ・ファミリア】だ。【ロキ・ファミリア】、【フレイヤ・ファミリア】の陰に隠れがちだが、彼らと同じ等級Sの大派閥だ。Lv.5の第一級冒険者を11名も保有する。

 

 当然、街の治安もあるので彼等が簡単には頷かない。

 

「全員とはこちらも言いませんよ。第一級冒険者11名だけ参加してくだされば結構です。クエストの依頼ですよ……第一級冒険者11名全員を3億ヴァリスで雇います」

 

「断わ…」

 

 金の問題ではないと断ろうとした。だが、それより早くリリルカ・アーデが切り込む。

 

「異端児(ゼノス)の一件、怪物祭(モンスター・フィリア)でベル様が襲われた事……協力してくれるなら、全部忘れてあげます。貴方達は異端児(ゼノス)を知っていましたよね? それなのに、ベル様だけに負担を掛けました。ヒトの心とかないんですか?」

 

「……3人」

 

 痛いところを突かれる【ガネーシャ・ファミリア】。

 

「いえいえ、ダメでしょう。こちらはファミリアの評判がガタ落ちになったんですよ。同じ末路を辿りたいんですか? 8人」

 

「……5人。ヒーラーも付ける」

 

 リリルカ・アーデは、【ガネーシャ・ファミリア】の者と握手を交わす。実に良い取引だったと双方が納得する。街の治安を守っている【ガネーシャ・ファミリア】が喋るモンスターの存在を隠匿して色々と裏で画策していたなど、立場的にまずいのだ。

 

 そして、リリルカ・アーデはその足で【ヘルメス・ファミリア】に向かう。影のフィクサー気取りの連中も表舞台に引きずり出して戦力として使うためだ。こういう輩は、勝ちが見えた時に手伝って美味しいところ取りするのが目に見えている。

 

 よって、最初から全力で参戦させるつもりだった。それだけの恩は売っていると。

 

 金があって解決できない問題は少ないと、リリルカ・アーデは実感する。魔剣製造の物資も買いあさり、量産させる。そして食料を抑え、【フレイヤ・ファミリア】に牽制を掛けつつ仲間を増やす。【フレイヤ・ファミリア】の取引先は、既にリリルカ・アーデの敵対的買収に晒されていた。 

 

 他にもリュー・リオンのために高い金を払って神アストレアをオラリオに招待する手はずも整え、明日には到着してステイタス更新も終わる予定だ。ベル・クラネルと特訓しても時間が余る計算だ。

 

 神ヘスティアも時間があれば眷族募集(リクルート)を頑張るようにした。神アスクレピオスに言われたこともあり、さすがに真剣になろうと意気込む。

 

「そこの君! 僕と契約して眷属になってよ!!」

 

 何故かとても邪悪さを感じるフレーズ。これに引っかかるのは、田舎から出てきた上京者くらいのものだ。

 




多分、このくらいやれば、原作に近い勢力になるでしょう。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。