ダンジョンに愛を求めるのは間違っているだろうか 作:新グロモント
あと二日で大規模な
【フレイヤ・ファミリア】の回復術士たち、
厳しい「洗礼」を終えて風呂に入り、全員が食堂に集まるが……フォークすら持ち上がらぬほど体力が尽きかけていた。なぜ、こんな過酷なことになっているのか。どうして、ここまで限界を超えて付き合わないといけないのか。団員たちの間に不満と疲労がたまり始める。
もう、オッタルと自称テイムモンスターであるアステリメスだけで、【ヘスティア・ファミリア】率いる派閥連合を木っ端みじんにできるんじゃないかという話題にまで発展する。実際の戦力からすれば、二人だけで全滅させることも可能だろう。
そんな弛緩した空気を察し、幼い少女プルシュカが毅然とした態度で活を入れる。
「アンタたち!! それでも、フレイヤ様の眷属なの? なんで、もう疲れて動けないなんて泣き言を言っているのよ。アンタ達が
プルシュカの切実な実感がこもった叫びが食堂全体に重く響き渡る。
かつて【ヘスティア・ファミリア】の脅威によって居場所を失った被害者の一人であり、本来は全く関係ない【フレイヤ・ファミリア】の為に昼夜問わず働く子供にここまで怒鳴られるとは、【フレイヤ・ファミリア】の冒険者たちの矜持も形無しだった。
「大好きな人と引き裂かれるのって本当に辛いんだから。プルシュカは、もう二度とあんな思いにしたくない。だから、皆にはそんな悲しい気持ちになってほしくないの。あたし、フレイヤ様のことが大好きだよ。皆は違うの? フレイヤ様の為に頑張るのって、そんなにつらい? フレイヤ様はね、ここにいる皆のことが大好きなんだよ。だって、そうじゃなきゃ自分の眷属になんてしないよ!」
少女の言葉に動かされ、団員たち各々が改めて自分たちの主である主神フレイヤの尊顔を思い浮かべる。
世間では色々と言われているが、自分たちはフレイヤ様が好きだからこそ、この最高峰のファミリアに身を置いている。地獄のような朝から晩までの「洗礼」だって耐え抜いてきた。美しき主神は、何千人もいる団員みんなの名前を覚えていてくれている。自分たちを勧誘してくれた時の言葉も、すべて覚えているのだ。
ステイタス更新の時には、慈愛に満ちた眼差しで必ず一人ひとりと向き合って対話をしてくれる。
「だからね、心が折れそうになったらフレイヤ様のことを思い出して、もう少しだけ頑張って欲しいんだ。今頑張らないと、後で絶対に一生後悔することになる。あと二日……いいえ、あと二日もあるのよ! 皆なら二日もあれば絶対にもっと強くなれる!! プルシュカとニーナちゃんが保障してあげる。皆は強い! 【ヘスティア・ファミリア】率いる派閥連合になんて絶対に負けるはずない!」
あと二日もある。確かにランクアップは無理だとしても、最強のオッタルとアステリメスの二人に死の寸前まで追い込まれれば、ステイタスの大幅な伸びは十分に期待できる。
だが、自分たちが命を削って鍛えて勝利を収めた結果、あの
「まだ、そんなみっともないことを言っているの!? 大好きな人が好きな人と幸せになることを祈れないなんて、それでも股間にパパ棒がついている男なの!? 好きな人の幸せすら祈れなくて何が男よ! そんなに悔しいなら、フレイヤ様が他の男なんて目に入らなくなるくらい惚れこむような男になりなさいよ! プルシュカが教えてあげるわ……アンタたちが今この状況で死んだような顔をしているのは、フレイヤ様に対する『愛』が足りないからよ! 愛があれば、この程度の苦行なんて辛いはずないもの!」
「プルシュカちゃん、みんなの前でパパ棒なんて言ったら駄目だよ。女の子なんだから」
フレイヤ様に対する愛が足りない――。
まさか、その痛烈な言葉を他派閥の幼い子供から突きつけられることになろうとは。女神を狂信的に崇拝する信者である者たちからすれば、最大の侮辱であり、決して聞き捨てならない言葉だった。だからこそ、男たちは誇りを取り戻して再起する。
「『我が名は黄金。不朽を誓いし女神の片腕、焼かれること三度、貫かれること永久に。炎槍の獄、しかして光輝は生まれ死を殺す、祝え、祝え、祝え。我が身は黄金。蘇る光のもと、果てなき争乱をここに――ゼオ・グルヴェイグ!! よく言ってくれたわね、フレイヤ様に対しての愛が足りないだなんて……舐めるんじゃないわよ! これで全員一括で回復してやったわ。もしこれでも動けない情けない男がいるなら、この私が直接殺してやる!」
「ヘイズお姉ちゃん、すごい。……女子供に煽られて負けるような情けない男がフレイヤ様にふさわしいと思うのなら、そのまま永久に休んでいればいいんじゃない?」
ヘイズの広域治癒魔法を受けた【フレイヤ・ファミリア】の団員たちは、重たい腕を強引に持ち上げ、腹の底から気力を絞り出してメシを喰らう。人は食わねば戦えない。これも全ては愛するフレイヤ様のため、神への絶対の愛を示すため、今できる限界のすべてをやり尽くす。
烏合の衆であるどこぞの派閥連合とは比較にならないほど、彼らの団結力と士気は凄まじい高まりを見せる。
「じゃあ、食べ終えた人からアステリメスさんと特訓再開だ! プルシュカは、皆がフレイヤ様のことを愛しているって分かってたから、万全の準備をしておいた。大丈夫、途中で限界を迎えて吐いても大丈夫なように、嘔吐用の桶と回復薬を沢山取って来ているから安心してね!」
「体がどんなに壊れてもすぐに治すから、遠慮なくボロボロになっていいよ」
プルシュカとニーナの恐ろしいほど親身でありがたい言葉に、【フレイヤ・ファミリア】の団員たちは余計なお世話だと戦慄しつつも、深く感謝した。
………
……
…
そして決戦前日、最終日の昼からは最後の休息時間となる。明日の
そして、なぜかプルシュカとニーナの二人も神室へと呼び出される。
都市全体が【フレイヤ・ファミリア】を敵視するこの厳しい状況下で、彼女たちを好意的に助けるということは、他の派閥から睨まれるリスクを孕んでいる。だが、それを微塵も気に留めず、士気向上に大きく貢献してくれた二人の幼い少女には、神フレイヤとしても心から感謝していた。
「何か欲しい物はない? 大抵の物ならば用意してあげるわ」
「何もいらないわ。パパが死んじゃった時に、フレイヤ様がお花をくれたじゃない。これはその時の恩返しなの」
「私もいらない。だって、困ってる人は助けなきゃ。フレイヤ様、明日の
一介の人間が神に恩を売るなど良い度胸だとクスリと微笑みながら、フレイヤは愛おしそうに二人の頭を撫でた。
ヒトの可能性は無限大……あの風変わりな院長たちからこんな健気で強い子供たちが産まれるのだから、言葉通り説得力があった。
「今日は特別に一緒に寝てあげるわ。女神と一緒に寝れるなんて、光栄な事なのよ」
「寂しいなら素直に寂しいって言わないと。それに、プルシュカはそんな子どもじゃないわ。一人で寝られる立派なレディーなんだから。……まあ、変なイタズラをしないなら一緒に寝てあげてもいいけど」
「エッチなのはいけないと思います」
その夜、神フレイヤに無邪気に抱きついて眠りにつく少女たち。寝言で小さく「ママ……」と呟いているあたり、立派なレディーにはまだまだ程遠いなと、温かな愛おしさを覚えるフレイヤだった。
◆◇◆◇
【ヘスティア・ファミリア】率いる派閥連合は、相当数が集まっていた。勝ち馬に乗って楽に分け前をもらおうと考える馬鹿もいる。だが、そんな見え透いた馬鹿には、リリルカ・アーデから素晴らしい命令が下される。
勝ち馬に乗ろうとした途中参加の弱小ファミリア。
その内から選ばれた数名は、リリルカ・アーデより特別な任務が言い渡される。凄まじい量のマジックアイテムを持たされ、ただ敵陣に突っ込めというやつだ。
オラリオに上京してきたばかりで右も左も分からない者がファミリアに入り、最初に言われた任務がこれだった。
「はははは、じょ、冗談ですよね」
「リリはこの状況で冗談を言う程、暇じゃありません。大丈夫です、此方にはギルドの支援もあります。死んでも蘇生魔法を使うと書類にサインもさせました。だから安心して特攻してください」
ウラノスの私兵であるフェルズから
「戦争遊戯で勝つ方法は、相手を確実に殺す事です。死ねば回復魔法の意味はありません。ですから、蘇生魔法がある此方が有利です。だから、貴方が死ねば皆助かるんです。ファミリアの皆も、派閥連合も」
「もし、断ったら?」
リリルカ・アーデは一緒に上京してきた、その男の恋人を指さす。
これがオラリオ。地獄と評される場所は伊達じゃなかった。こんなことなら、田舎で彼女と幸せに暮らすべきだったと後悔した。だが、もう何もかもが遅かった。
「クソッタレの
たった一人の男のために、巻き込まれた右も左の分からずオラリオに来た冒険者の心からの叫びだった。彼の役目は、マジックアイテムで身を隠し、大量に担いだ火炎石を抱えて敵陣に飛び込むだけだ。
どうせ、確か戦力にもならないのだから、こういう役目が一番力を発揮できる。これを偉業よばすして何と呼ぶか。
蘇生魔法が500年一度レベルでしか成功しない事をリリルカ・アーデは伝えない。使うが、成功保障など何処にもない。
みんな大好き戦争の時間だ。
リリすけ(覚醒)「諸君 私は戦争が好きだ」