ダンジョンに愛を求めるのは間違っているだろうか   作:新グロモント

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60:学区2

 学区では、生徒のダンジョン実習に向けてこの日に卒業生であるレフィーヤ・ウィリディスが招待されていた。臨時講師兼引率者として、ダンジョンでの目的や期待すること、担当する生徒の詳細な情報といった打ち合わせのためだ。

 

 彼女が担当するのは、第七小隊と言われるエリート小隊だ。学区でも数少ないLv.3(レベルスリー)の生徒が所属している。実習に先駆け、顔合わせをする予定だったが……非常に残念なことに、学区全体に緊急警報が鳴り響く。

 

 母校のため、Lv.4(レベルフォー)冒険者として一肌脱ぐことにする。最近、魔法剣士を目指し始めた彼女はその力がどこまで通じるのかも密かに興味があった。昔と違い大分さまになってきているが、比較対象が【ロキ・ファミリア】の近接職連中であり、成長が見えにくい。

 

 学区側の指示に従い、不法侵入者の討伐部隊に混ざりに行く途中…見知った顔を見つけてしまった。銀髪で赤い目をした小柄な少女。背中にはツルハシを背負っており、大きな旅行鞄にはパンパンに書物が詰め込まれていた。

 

 その彼女が専門書を取り扱う本屋の前で座り込んでいる。

 

「えーっと、プルシュカちゃん。どうしてこんなところにいるの?今、避難指示でているのよ」

 

「レフィーヤお姉ちゃんか。あたしは、店主の人が戻るのを待ってるのよ。ここには、瘴気に関する専門書が売ってるって聞いたわ。パパへのお土産にするのよ」

 

 プルシュカのパパと言えば、あのどこにいても目立つ鉄仮面だ。だが、居ない……一人でここまで来たのだろうかと、レフィーヤも思ってしまう。まさか、不審者扱いで乗船拒否されているなど、彼女は知らない。だが、理由を言われれば、「そうだよね~」と納得するだろう。オラリオならいざ知らず、ここは学区だ。

 

「避難所まで一緒に行ってあげるから、避難しよう。店主の人も、この警報が解除されるまでは戻ってこないから」

 

「仕方ないわね。……レフィーヤお姉ちゃんって失恋でもした?髪切ったのね。似合ってるわ。それに、なんか一部の成長も凄いわね」

 

 レフィーヤの戦闘服は、オークに襲われる女騎士のような格好であり、お清楚だが、エッチを感じさせると評判の服装だった。露出度は、以前と変わらないのにこの評価にレフィーヤ自身は納得していない。

 

 一部界隈では、アマゾネスの衣装よりドスケベだとか言われていた。この匠の戦闘服を制作したファミリアは、今では売り上げが伸びて大繁盛している。

 

………

……

…

 

 避難所に向かう最中、レフィーヤはぽつぽつと魔法剣士を目指した理由を話した。移動中の会話に困ったということもあるが、プルシュカが聞き上手だったこともある。

 

「へぇ~、じゃあ、レフィーヤお姉ちゃんは、フィルヴィスさんって人の思いを継いだのね。いいんじゃないかしら。でもね、思いは継いでもレフィーヤお姉ちゃんは、フィルヴィスさんじゃないのよ。その人になりきるじゃなくて、継ぐのは思いだけにしておいた方がいいわ」

 

「……子供なのになんか深いことを言うわね。もうすぐ、避難所だから安心よ。大人しくしているのよ。学区の人たちがこの騒動を解決するから、自分で何とかしようとしないでね」

 

 ただの子供ならば、レフィーヤもここまで念を押さない。荷物だけを避難所に置いてきて、ツルハシを片手に不審者退治に名乗りを上げそうだったから先に釘を刺しておいた。

 

「でも、早く不審者を討伐しないと陸に帰れなくなっちゃうよ。パパがメレンで待ってるのに」

 

「大人しく避難所で待っているなら、私が学区と(メレンに帰れるように)調整するから。ここの卒業生で、今度の実習での指導役をすることにもなっているから、多少の要望は聞いてくれるはずです」

 

 プルシュカの顔に笑顔が戻る。

 

 大人しくしているだけで、レフィーヤが(ボンドルドが乗船できるように)学区と調整して多少の要望を聞き届けてくれる。つまり、これで父親と一緒に学区を回れると大喜びになる。プルシュカの中で【ロキ・ファミリア】の評価がぐーーんと上がった。

 

「わかったわ。じゃあ、プルシュカがこの避難所を守っておくからレフィーヤお姉ちゃんは、頑張って問題解決してくるのよ。約束だからね~。パパと一緒に学区回るの楽しみにしているからね」

 

「えぇ、任せて。………うん?今、何か違かったような」

 

 だが、各所で魔法による爆発音が響く。避難所となっているシェルターの扉は閉ざされ始めた。閉まる隙間から、レフィーヤは【アスクレピオス・ファミリア】の院長が数名いることを確認する。

 

 おもわず、「そこに不審者がいます」と大声で叫びそうになったが……後方で魔法による爆発音や不審者発見の放送が流れて、誤解だったと気が付いた。あの人たちが不審者討伐に協力すれば、直ぐにけりが付くのではないかと少し本気で悩むレフィーヤ。

 

 だが、一応民間人であることには違いないため、釈然としない気持ちでレフィーヤも討伐部隊に合流する。そこで、彼女は不審者の後ろ姿を発見してしまう。あの背丈、あの髪の色、あの身体能力、あの魔法、そして二つとない神聖文字(ヒエログリフ)が刻まれたナイフ。

 

 この瞬間、彼女の中で何かがプツンと切れた。

 

 オラリオだけに留まらず、学区にまでトラブルを持ち込んでくる。次は誰が死ねばいいのか。学区に居る神か、教師か、生徒か。

 

「解き放つ一条の光、聖木の弓幹。汝、弓の名手なり。狙撃せよ、妖精の射手。穿て、必中の矢 アルクス・レイ!!」

 

 レフィーヤの魔法発動。無数の光の矢がターゲットを追尾する。その誘導性能は、オラリオでも屈指の魔導士だけあって凄まじく、角度90度のカーブですら難なく対応できる。その光景を見た学区の生徒は、あれが卒業生であり【ロキ・ファミリア】で名を馳せた『千の妖精』だと目を奪われる。

 

 しかし、その魔法攻撃ですら相殺し、回避する不審者も相当な実力を有していることがうかがえた。Lv.3(レベルスリー)程度では足手まといとなる可能性がある。

 

 避難済み区画に不審者が追い込まれたことを確認した、レフィーヤ。本気を出す。逃げるのが得意な相手なら逃げ場すらない程の火力で滅ぼすだけだ。

 

「誇り高き戦士よ、森の射手隊よ。押し寄せる略奪者を前に弓を取れ。同胞の声に応え…」

 

 マジックサークルが出現し、超長文詠唱が開始された。彼女は、ヒュゼレイド・ファラーリカを使うつもりだ。数百、数千の火の矢を放つことで地域を焼失させる魔法。深層のイレギュラーモンスターにも十分通じる威力であり、今の白兎(ベル・クラネル)ならば滅ぼすことは十分可能だ。

 

 学区に被害はでるだろう。だが、それは一時の被害。将来的な被害を考えれば、安いと損得勘定が彼女の中でなされていた。だが、その詠唱は中断される。避難済み地区を抜けて、学区の神がいる建屋に逃げ込んだからだ。

 

 そのあと、不審者の足取りはパタリと途絶えてしまう。だが、ナイト・オブ・ナイトが出陣して不審者を打ち取ったと報告が上げられた。事態の解決までにかかった時間は、約2時間……これにより、学区は港町メレンの海岸から離れてしまう。

 

 少し離れた場所を航行しつつ、学区とギルドは交渉を開始することになる。当然、ギルド側は今回の不審者など知らないと言い張る。学区側も何を思ってか、それに同調した。当然裏では、白兎(ベル・クラネル)は交渉材料とされている。

 

 学区側は、今回の一件についてギルドが言い分を認める代わりに通常以上の援助を引き出した。ギルド側としても世界パンデミック未遂の一件、オラリオでの戦争遊戯による多大な被害に加え、学区の学生がオラリオに来ない場合のデメリットを考え全て飲む。

 

 

 学区側としては、流石に盛られ過ぎたと感じている白兎(ベル・クラネル)を正しく見極めたいと思っていた。半年でLv.5にまで上り詰めた実力は、本当なのか。また、英雄の器に相応しいかだ。英雄とは往々にして、なるべくしてなるもの。それゆえに、トラブルが向こうからやってきたのではないかというのが現代の英雄であるナイト・オブ・ナイトの所感だ。

 

 こうして、どこぞの不審者のおかげで学区に乗船拒否されたボンドルドと涅マユリの乗船が認められる。その身元保証人には、レフィーヤの名が記載されており、学区における信頼度は抜群の物だった。

 

 

………

……

…

 

 学区側は、このタイミングで1名の生徒として加えるのは流石に馬鹿のやることだと分かっている。だから、学区側が出した答えは一人じゃなく複数いればいいじゃないかという奴だ。

 

 そこで偶然にも一般公開で乗船してきた中の子供を体験入学させて、違和感を無くそうとする作戦だ。幾人かの者達が学区という場所を体験するために手を上げる。その中にはプルシュカとニーナの姿もあり、学区側としては謎の入学生であるラピ・フレミッシュ(ベル・クラネル)の体の良い隠れ蓑とされる。

 

 学区では、冒険や戦いをメインとする『戦技学科』や勉学をメインとする『教養学科』、モノ作りをメインとする『鍛冶学科』や『錬金学科』などの様々な学科が存在する。

 

 プルシュカが『戦技学科』。ニーナが『錬金学科』。二人の体験入学が確定した。

 

 そして入学生の親御さん関係者に限り、学区での滞在が認められる。親であるボンドルドとタッカーだけでなく、関係者ですと言い張り涅マユリとフェイスレスたちも当然、残留した。

 

 年齢制限に引っかかった大人たちは、各々見学が許される学科の授業風景を見て回り、図書室などで学術書を読み漁っている。各学科の研究成果を模倣し、解釈し、再構築し、より高度な物を生み出そうと努力する。

 

 

◆◇◆◇

 

 オラリオでは、学区事件について様々な憶測が飛び交っていた。

 

 学区の生徒を目的に特需を期待していた商業系ファミリアは勿論、探索系ファミリアにおいても同様に死活問題だ。ギルド側は、既に犯人の処理は終えており、学区側との調整も進んでいると説明をするばかり。

 

 だが、【ロキ・ファミリア】にはそれが通じない。現地で、不審者を目視しており間違いなく白兎(ベル・クラネル)だったと幹部たちに報告がされていた。だが、学区とギルド双方からの公式発表では不審者討伐は完了済みとなっている。

 

「うちは、レフィーヤの言葉を信じるで」

 

「僕もそれに同意するね。それにしても、あれだけのことをしでかして学区に潜入とか、何を考えているんだ」

 

 オラリオでも有数の頭脳を持ち、戦闘指揮において類まれなる才能を発揮するフィンであっても白兎(ベル・クラネル)が読めなかった。だからこそ、恐ろしい。その刃が、【ロキ・ファミリア】に向けられたときに、ファミリアを守り切れるのだろうか。

 

 正直、フィンでもきついだろう。レフィーヤからの情報では、飛行用魔道具、透明化魔道具を使って上空から潜入していたとのことだ。逃亡して、神がいる建屋に入り込みそこから行方が分からないと。

 

 つまり、神を盾にすることを平然とやるということだ。第一級冒険者となった白兎(ベル・クラネル)を確実に仕留めるため、大規模な魔法を使おうとしても人質ならぬ神質を使われる。神殺しは禁忌ともいわれており、おいそれと実践する奴は少ない。

 

「だから、関わるなちゅーてんねん。まぁ、今回は向こうから関りにきっとらからノーカンやけど……いい加減、あのドちびのファミリア潰したろうかな」

 

「そう簡単につぶれるなら、【フレイヤ・ファミリア】との戦争遊戯(ウォーゲーム)で潰れているさ。今では、あの【ガネーシャ・ファミリア】を越えて、オラリオの4番目のファミリアと言われているからね。それに、蘇生待ちをコントロールしているみたいだから、潰させないし、潰せないだろう」

 

 オラリオにおける探索系ファミリアの序列は、【ロキ・ファミリア】が第一位。

 そして、離れて【フレイヤ・ファミリア】が第二位となっている。

 戦争遊戯(ウォーゲーム)の結果、Lv.5がさらに増えた【アストレア・ファミリア】が第三位だ。

 そして、第四位に【ヘスティア・ファミリア】がいる。

 

「なぁ、フィン。アストレアの所、ちょっとヤバイな」

 

「そうだね。オラリオ支部が特にね。団員が軒並みLv.5以上とか、数こそいないが質だけで言えば、普通じゃない。学区からの優秀な生徒が加われば、【フレイヤ・ファミリア】に肉薄するんじゃないかな」

 

 【ガネーシャ・ファミリア】の第一級冒険者が復活してくれば順位は変動するだろうが、実際はまだ先の話だ。戦争遊戯(ウォーゲーム)での傷跡が消えない限り【ヘスティア・ファミリア】は潰されない。

 




ダンジョンでの実地訓練がもうすぐかな。

知ってますか、ベル君とダンジョンにもごると強化種とか崩落とかインターバルを無視して階層主が沸いたり、中層や下層のモンスターが上層に現れたりするんですよ。

他にも怪物進呈(パス・パレード)などもされたり、色々です。

その余波は、ダンジョンに来ている小隊全員に影響が及ぶと。
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