一次試験を合格者1号2号として通過したキルアと私は、時間が来るまでの間試験官の待つ場所で時間を潰していた。
しかしこの試験官、あろうことか居眠りをしていたのである。一見雑な仕事に見えて裏では受験生たちの様子をきっちり把握しているのではないか……と思っていたそこはかとない期待は、扉を潜った瞬間裏切られることとなった。
『落書きでもしてやりましょうか?』
『……アンタ見た目より良い性格してるな』
7割ぐらいは冗談である。
流石にテキトー過ぎはしないかと思った私だが、彼は試験官。余計なイタズラが試験官への攻撃判定を受ければ、不合格を言い渡されても文句は言えない。
小突いて起こすのも同上。試験終了まではまだ1時間以上残っていたのもあり、時間まではのんびり寝かせておくことにした。
プロハンターの仕事は大変ですからね。休める時は休むべきです。私の寛大さに感謝するがいいですよ、名前を聞き忘れたファンキーな試験官殿。
「ログレスちゃん、2年で態度大きくなってない?」
そうですか? そんなことはないですよ。
私ほど謙虚に男性の3歩後ろを歩ける女性はそうはいません。まあ、そうするのは歳下の男の子限定ですが。
寧ろ歳上の男性には、多少強引でもリードしていただける方が好ましい。
「乙女ね……」
騎士姫ですから。
強さと儚さを併せ持つこの呼び名の響きは、私としても割と気に入っている。
日頃オシャレにも気を配っているちょっと強い普通の乙女である私としては、より強い響きを持つ「騎士王」という呼び名ももちろん好きですが。それでもコトミネキレイから呼ばれるのはうるさいので嫌ですね。
『……その恰好になると印象違うな。さっきの服、アレ、能力で作ったものだったんだ?』
『ええ。先ほども言いましたが、私の戦闘能力のほとんどはオーラに依存しているので。あの鎧が無ければ、この胸は貴方の指先で容易く貫かれていたでしょう』
『ってことは具現化系か……良かったの? 初対面の受験生、それもゾルディック家の俺に教えちゃって』
『? キルアは
『……クラピカみたいに色々考えてる雰囲気出してるのに、判断の早さはゴンみたいだな』
『人を見る目には自信があります。受験生全員に対し後遺症を残さぬよう配慮して戦っていたキルアは、昔のことは知りませんが非情な殺人鬼ではありませんよ』
『……あっそ。ま、俺も丸くなったからなー』
試験での私は乙女の部分を出すよりも強さを出したかったため、装いには男性的なスーツを選択して身に纏っていた。
もちろん私にとって目標のハンターであるエミヤ=キリツグの装いにあやかったという理由もありますが……おそろっちは身を助けるということだ。
「そう……」
はい。
しかしそんな流れで二次試験開始までキルアと親睦を深めていた私だが、彼の口から放たれる想像以上の濃厚な体験談の数々には驚かされるばかりだった。
キルアにとっても、よほど楽しかった出来事だったのだろう。
母親を刺して家出した足で、そのまま前回のハンター試験を受験した。
試験そのものはラクショーだったがゾルディック家から追ってきた兄イルミの妨害に遭ったことで最終試験を棄権したため、今年改めてライセンスを貰いに来たと彼は語った。
やっぱり怖いですね、ゾルディック家。
キルアもキルアで兄の言葉に従うとは律儀な男です。もちろん私なら抵抗していたところだ。何で? ──エクスカリバーで。
しかし、棄権はしたがそんな前287期ハンター試験を通して、彼は今までの殺し屋生活では到底手に入ることのなかった友を得た。
親友のゴン。
からかい甲斐のある面白いおっさんレオリオ。
時々面倒くさいネガティブタイムに入るが博識で頭のキレるクラピカ。
見た目の筋肉は凄いが心は硝子なパイロ。
そんな彼らは皆、試験が終わった後実家に連れ戻された彼のもとへ命懸けで呼び戻しに来てくれた仲間たちである。
そんな彼らと出会えた時点で、彼の道草には大きな意味があったということだろう。キルアの語る仲間たちとの思い出話には、断片的な情報だけでも心躍るものを感じた。
『いい仲間を持ったのですね。私も憧れます』
こう見えて、私も結構聞き上手ですからね。コトミネキレイの死ぬほどどうでもいい蘊蓄や、時々情緒不安定になるキリツグとの会話さえ難無く着いていけるのがロード=ログレスという女の子です。
そんな私からしてみれば、話す前には「そんなに期待すんなよ? 思い出話とかハズいし……」と予防線を張っていたキルアにも、適切なタイミングで相槌を打って気分良く語ってもらうことなど造作も無かった。
まあ、キルアの話は予想以上に面白くて、全部素の反応で喜怒哀楽を表わしていましたけどね私。
特に最終試験のレオリオとパイロの殴り合いには胸が熱くなるものがありました。
その後のキルアと兄の対面には、胸が苦しくてしょんぼりしました。迎えに来てくれて本当に良かったですねキルア。私にはそれが、なんだか自分の生い立ちと重なって抱きしめたい気持ちになった。
流石に実行はしませんでしたが。全て終わった彼からしてみれば、今更初対面の人間から同情されたところで迷惑でしょうしね。私のしたことと言えば、ただ穏やかな微笑みで相槌を打っただけだ。
「この子……魔性ね……」
何ですかそれは?
魔瘴……除念体質である私は、寧ろそういった類いを打ち祓える側の存在ですが。
それはそうと、驚いたのは彼が今ハンター専用のゲーム「グリードアイランド」をプレイしているという話だ。ポンズは知っていますか? グリードアイランド。
「いえ、知らないわ」
では、簡単に説明しますね。
グリードアイランドとは、1987年に100本だけ発売された史上最高価格のゲームの名前である。当時の定価は58億ジェニー。
そして発売後10年以上経った今もクリアした者がいない、幻のゲームと呼ばれている。
このゲームはハンター専用のハンティングゲームという題目が掲げられており、複数人のプロハンターたちが作り出したという。実機こそ「ジョイステーション」という一般にも出回っているゲーム機に対応しているが……その仕様は、何もかもが通常のゲームとは一線を画していた。
まず起動する為には実機に対してオーラを浴びせる必要があるため、大前提として念能力者しかプレイすることができない。
また、コントローラーで画面内のキャラクターを操作する通常のテレビゲームと違って、グリードアイランドでは文字通り「プレイヤー自身がキャラクター」となるのだ。
ゲームを起動した瞬間、現実のプレイヤーは肉体ごとゲームの中へと引き摺り込まれる。その世界は開発者による念空間か実在する場所なのかはわからないが、ともかくプレイヤーは自らの肉体でゲームをプレイするという方式となる。
故に、ゲームの中で死傷すれば現実のプレイヤーもそのようになる。
ゲームというには実にバイオレンスな仕様だった。
ゲームの世界から現実世界へ帰還する為にはゲーム内で特定の条件を満たさなければならないため、中の情報はプロハンターの間でも広まっていない。未熟なハンターではクリアどころかゲーム内に永住する羽目になるからだ。
それこそが、このゲームが「幻」と呼ばれる理由の1つとなっていた。
「なんだか怖いわね……」
「やってみると楽しいですよ。空を飛んで移動したり、現実ではできないことができます」
「やったことあるの? ログレスちゃんも」
「数日間だけですが、一応」
そう、奇遇だと思ったのは私も去年その「グリードアイランド」に入ったことがあったからだ。話に聞いたところ、プレイした時期は被っていないようだが。
キルアは現在そのゲームを仲間と共に進めている最中であり、ハンター試験の為に一時的に現実世界へ帰ったらしい。
──まあ、彼の実力であれば出入りも容易いというだろう。13歳になったばかりの頃の私でも、そのぐらいはできましたし。
そう言うと、今度はキルアが今のポンズのように驚きを返したものである。
『マジ!? アンタもグリードアイランドやったことあんの!? バッテラのところにもいなかった気がするけど……どうやって手に入れたんだ?』
『私の物ではありません。私のマスター、師匠が持っていたのです。屋敷の掃除をしていたら、なんか倉庫に積んでありました』
『ええ……俺たちあんな苦労して漕ぎつけたってのに……何者だよアンタの師匠?』
『正義の味方になりたかった系ハンターです。ヘタですが、彼は趣味でゲームを嗜んでいるので。色々ツテを持っている人なので、独自ルートで手に入れたのかもしれませんね……ゲームの力量は本当に口ほどでもないですが』
『EMIYAってゲームヘタなのかよ……ってか、やるんだゲーム』
『しかも一般的に知名度の少ない、ちょっと変なゲームばかりやってます。その中で言えば、グリードアイランドは知名度があるだけまともな方かもしれませんね』
『あー、いるよなそういうマイナーゲームが好きな奴』
年末年始の大掃除として、月の輝く夜に私が浴衣にエプロンという装いで倉庫内の整理を行なっていた時、怪しいオーラに包まれたジョイステーションを見つけた時は驚きましたね。
慌ててそれを手に取った私は、縁側でくつろいでいたキリツグの元へパタパタと駆け寄ると「キリツグキリツグキリツグ!! 何ですかこれは何ですかこれは何ですかこれは!?」と鼻息荒く訊ねたものである。大事なことだったので3回ずつ言いました。
そもそもその時まで私は、「テレビゲーム」という物すら見たことがありませんでしたからね。そんな私にとってグリードアイランドは得体の知れない玩具でした。
ジョイステーションすら知らない人間が初めて見たゲームが、世界一高額なハンター専用ゲーム「グリードアイランド」だったとは……キルアの言う通り、確かにズルいかもしれない。
まあその世界一の高額ゲーム、倉庫で古びたストーブやら電子レンジやらと一緒に保管されていたんですけどね。念の力で外部から傷つかないようになっているとは言え、もう少し良い場所に保管するべきだったと思います58億もするなら。
『それは──馬鹿が作ったゲームだ』
『何ですかそれは?』
『大馬鹿共が作った、馬鹿にしかクリアできないゲームだね』
『罵倒がパワーアップしましたねキリツグ』
『まあ、世界最高のハンティングゲームなのは間違いない。やればお前もハマるぞセイバー。僕は金策できなくて詰んだが』
『???』
『ああすまない。セイバーはゲームなんて知らないよね……順々に説明しよう。それを置いてこっちに来なさい』
『はいキリツグ。あっ、今日は満月なんですね……綺麗だ。私の方が綺麗ですが』
『……自己肯定感がマシマシになっているみたいで何よりだ。──ああ、今日は本当に、良い月だね』
キリツグからそのゲームの概要を聞いた私は俄然興味を抱き、キリツグもキリツグで「──ああ、グリードアイランドという手があったか」と妙案を思いついたとばかりに頷いていたものだ。
──それから一通りの説明を聞いた後で、翌日から私は彼と一緒にゲームをプレイしたわけである。
ロード=ログレス、ゲーム歴0年。グリードアイランドに挑戦しました。
そこで体験してみた感想としては──グリードアイランドは確かにゲームだったが、当時の私としては「修行場所」という印象が強かった。
クリアを目指す為の本筋部分についてはさわりの部分しかやらなかったが、ゲームの中では「狩る者」において必要とされるあらゆる能力が、プレイ過程で自然と身につくように絶妙なバランスで設定されていたのだ。
それはそれとして普通に死の危険もめじろ押しだったが……キリツグがいなかったら危ない場面もありましたね。
『あんたもゲームで修行してたんだ……もしかして、素手で山にトンネル作らされたりとかした?』
『えっ、何ですかそれは……私もフライパン一本でAランクモンスターと戦わされたりとかはしましたが、キルアの祖母君は厳しいですね』
『祖母じゃねぇよ! アイツが婆ちゃんとか気味ワリィ……』
『えっ、だって先程ババアって……』
『アイツのイカれた修行のおかげで、それまでより何倍も強くなれたのは感謝してるけどな』
『……そうですか。キルアも良いマスターに恵まれたのですね』
私もキリツグから「セイバー、新しいエクスカリバーだ」と何の変哲もないフライパンを渡され、いきなり全長30m級の怪物と戦わされた時は死を覚悟したものである。
修行である以上受け入れはしたがちょっとムカついたので、終わった後はそのフライパンでキリツグの頭を叩いてやりました。しかしこれが、予想以上に良い音が鳴って楽しかった。
キリツグを殴るのは楽しいです!
『ロード』
『……ごめんなさい……』
怒られました。
「それは怒るでしょうよ」
普段怒らない人が怒ると肝が冷えますね。
帰還後にソーッと襖から様子を窺ったら、気づいたキリツグが「もう怒ってないよ。何だい、その叱られた猫みたいな顔は……」と苦笑しながら許してくれましたが。
「このアホ毛がしなしなにしょんぼりしているのが目に浮かぶわ」
何故わかるのですか!?
……と、そんな無茶振りもあったが現実と違ってゲームであるが故に、自然や建物を破壊したり野生動物や一般人を巻き込むことを気にせず修行に打ち込めたのは、私にとっては理想的な修行環境と言って良かっただろう。
プレイを続けるにはリアルでの対人スキルがまだ不安……ということで私が滞在したのはほんの数日間だけだったが、今にして思うとあれは念能力者の誰もが一度は試してみるべきだと思う。
ポンズも念を覚えたらやるといいですよ。幻獣ハントのシミュレーションとしてもこれ以上無く最適な環境だと思います。いつか習得する念能力の試し撃ちにも丁度いいですし。
それに、島は豊かな自然に溢れ心地良い風も吹いていて……森の中には水浴びスポットとしても最適な綺麗な泉があって気持ち良かったです!
キルアがいるなら、私もまたプレイしても良いですね。今の自分の力試しをしてみるのも良いし、ゲームの中で彼を鍛えたという噂の老師とも会ってみたい。
──と、そのような共通の話題で盛り上がる中、一次試験は無事終了した。
キルアと話し込んでいたので、その辺りのことはポンズの方が詳しいですね。結局、一次試験から何人進んだんでしたっけ?
「200人ぐらいだったわね。貴女とキルアのおこぼれを狙って、気絶した人たちからハイエナのように争ったわ」
なるほど。私もキルアもきっちり5枚だけプレートを回収していきましたからね。
あの時倒した1000人の受験生から、残りの者たちで争奪戦を行ったという形か。なんだか商店街のバーゲンセールで目当ての商品を争い合うような試験だったようで。
「狭い場所での殴り合いが苦手な私には助かったわ。プレートを狙って隙だらけの人が多かったから、簡単に刺せた」
「ポンズのハチが活躍できたようで何よりです」
──さて、その後は目を覚ました一次試験官から、その200人が通過を言い渡されると、私たちはその足で昼食会場へ向かった。
前回の試験では100km近い距離を走って二次試験会場へ向かったと聞くが、この第288期試験ではそのようなことはなく、二次試験の会場は同じ町にあった。
ポンズもそうだったのかもしれませんが、前回の経験者と思わしき受験生たちからは戸惑いの声が上がっていましたね。
「えっ、走らなくていいの?とは思ったわ。……今にして思うと、1番死人が出たの去年の一次試験だったわね。主に殺人鬼がいたせいだけど」
奇術師ヒソカでしたっけ? 天空闘技場のフロアマスターの。
去年ナントカ旅団の新メンバーとしてピエロ役をノリノリでやってるのを見ましたけど、あの男殺人鬼だったんですね……いい人だと思ってたのでちょっと驚きました。
「ログレスちゃん、ヒソカと会ったことあるの?」
「ええ。去年の9月に」
ゾルディック家の2人と、あとキリツグの言う「団長の手刀を見逃さなかった人」に襲われた日の夜に出会いました。
ああ、団長の手刀を見逃さなかった人とは、疲労困憊なキリツグに代わって私が戦って普通に勝ちました。
キリツグほどの男が逃げに徹するほどのアサシンならば、よほど恐ろしい実力者なのかと警戒して当たりましたが……あの時の私でも何とかなって良かったです。
確かに優秀な殺し屋だったが、あの時はゾルディック家と対峙した後で私も感度が最高潮に高まっていたのだ。ナイフで飛びかかってきたところを「えいやー!」と、すれ違い様のカウンターで斬り伏せてやりました。
そんな彼が言い遺した辞世の句が「恐ろしく儚い一閃──俺としたことが、つい見惚れちゃったね……」と爽やかさすら感じる一言だったのは、殺し屋ながら妙に潔かったものだった。
……穿いてない姿で相手してしまって申し訳ないと思うぐらいには高潔なアサシンでしたね。そんな彼を良い気持ちのまま逝かせることができて、それが1番安心しました。
「なんてことしてるのログレスちゃん……」
キリツグに連行されてから穿き替える時間が無かったのだから、仕方ないではないですか! 私だって彼ほどの使い手を相手に、雑念を持ったまま戦うのは至難の業でした……!
……ただ、その時の経験のおかげでスカートをも翻さぬ緩やかな動作から必殺の一閃を繰り出すことができたのは怪我の功名だろう。
無駄な力の一切を廃した敵に殺気すらも感じさせない横薙ぎの一振りは、今でも完璧には再現できていない生涯最高の一撃だったと思う。
生涯最高の一撃が、よりによって穿いてない時に出るのかと項垂れた私ですが、そんな私を疲れ切ったと勘違いしたキリツグにまた抱えられて移動した先にあったのが──ナントカ旅団が所有する公演前の劇場施設だった。
……どうにもキリツグはナントカ旅団のメンバーと交友があったようで、私たちはそこで一晩の間匿ってもらったのだ。
殺人鬼と噂の奇術師ハンター、ヒソカともそこで会った。
しかしその時の彼は、私から見たら普通の人に見えたものだ。
いや、寧ろ──
『マチ❤︎』
『……なに? 変なこと言ったらぶっ飛ばすよ?』
『このコを更衣室に案内してあげなよ❤︎ ここまで必死に逃げてきて、汗をかいているだろうからね♣︎』
『えっ』
『……アンタ、ボノレノフの変装じゃないよね? そんな気の利いたこと言うなんて』
『……☠️』
何というか、凄くデリカシーがあったのだ! あのヒソカという殺人ピエロらしい男は。
幼少期から演目「カタヅケンジャー」のビデオを通して憧れていたナントカ旅団。そのメンバーたちに囲まれたことで元々緊張していたのもそうだが……そんな彼らの前でよりによって下着を穿いていない状態で対面してしまった事実にもじもじしていた私に対して、彼は完璧な助け舟を出してくれたのである!
流石に穿いていないことまでは勘付かれていなかったと思いたいが、そんな配慮を初対面でサラリとやってのける彼はなんて素晴らしい紳士なのだと後光が差して見えたものだ。
『青い果実……いや、まだ蕾にすらなっていない秘められた冬芽か♠︎ それなのにもうこれほどの力を持っているなんて……❤︎ カーテンの下は、夢イッパイだね❤︎』
……ちょっと変。
いや、言動がかなり変な人ではあったが、ファーストコンタクトは後のハンター試験でポンズたちから聞いたほど外道に見えなかったのが当時の私である。
ともかく彼の配慮のおかげでやっと新しい下着に穿き替えることができた。穿いてない状態で団長殿からサインを貰わずに済んだのは、本当に助かったと思っている。
──そう、そのナントカ旅団である。
世界を股にかける伝説の劇団。全員が強力な念能力者であり、かつてはキリツグと共に流星街の平定に貢献したという義賊の一面を持つその名を、知らない者は少ないだろう。
団長殿をはじめ、あの時は団員の大半がキリツグと話したがっていたので私から話を聞いたりだとかはできなかったが、姿を一目見ればその実力の高さはよくわかった。
特にあのウボォーギンというヴィラン役担当の団員は桁違いのオーラの持ち主で、当時の私にはその肌に1ミリでも剣先を通せる気がしなかったものである。
私の「推し」は同じく剣を使うカタヅケングリーン役の「ノッブ」という男だったのだが、その日はたまたま用事があったようで会えなかったのは残念である。私がノッブと呼んだら眉毛の無い男が吹き出していたが、もしかしたら名前を間違えていたのだろうか……だとしたら恥ずかしいですキリツグ。
──そして何の因果か。それから4ヶ月後の第288期ハンター試験では、そんな彼ら「ナントカ旅団」と創設期からの密接な付き合いを持つ名誉団員が、試験官を務めていたのだった。
『……あら、アイツの試験だから全員いなくなるかもって思ってたけど……随分残ったねー』
二次試験の会場は町の劇場。アングラな雰囲気を持ったそこは、どこかあの一晩ナントカ旅団が私たちを匿ってくれた施設と似ている。
その劇場内の観客席の一角で本を読んでいた女性が、二次試験の試験官──古文書ハンターのシーラだった。
『じゃあ試験内容を言うよー。私の試験は「演劇」。集まったこのメンバーの中でチームを作って、今夜演劇をするの! あっ、1チームの人数は12人まででねー』
会場が劇場だったことからもしやとは思っていたが、彼女の言い渡した二次試験のテーマは演劇だった。
キリツグが時々私に言い渡す無茶ぶりのように突拍子のない試験内容に、私は困惑しキルアたち前回経験者は一斉に苦い顔をしていたものである。
『……二次試験って、変な試験やる決まりでもあんのかな?』
『前回はどうだったのですかキルア?』
『スシ』
『えっ?』
『ニギリズシ作れって試験。美食ハンターの試験だったんだけど、ジャポンにいたっていうアンタなら受かったかもね。……いや、やっぱりハンゾーみたいに台無しにしてたかも』
『……お魚を捌いたことはないのですよね。寿司ってアレ、かなり職人芸ですし……』
『演技とか経験ある? 俺はもちろん無い』
『……子供たち相手に格好つけてみたりとかならしますが』
『そういうので良かったら、俺もガキの頃、猫被りながら標的に近づいたことあるぜ』
『……もしかしたら、実はまともな試験かもしれませんね、コレ』
『そうか? あー……案外あるかもな、そういう機会』
ハンターになる為に演劇会をやって何の意味があるんだとあちこちから不満の声が上がるが、実際のところハンターとして色々な
キリツグだって、おそらくそういう機会は何度もあった筈だろう。必然的に多くの人間と関わるハンターたる者、それが演劇である必要があるかはともかくとしても演技力は必要なスキルだと思った。
『組みますよキルア』
『えっ? まあ、別にいいけど』
戦闘でもありますからね、演技する機会。ピンチのフリをしてカウンターのタイミングを窺ったり、本当は体力ギリギリなのに余力を残しているフリをしたり、穿いてないのに穿いてるフリをしたり……何を言っているのですか私!
……ともかく念能力者であれば、能力の制約がバレないようにする工夫なども必要になるだろう。
そう思うと一気に合理的に感じるようになるのだから、ハンター試験とは不思議なものである。
──まあ、本当のところは単なるシーラ試験官の趣味だったんですけどね。ですがこの試験をきっかけに、私は後に同期のハンターとなる者たちと出会えたのだから、彼女には感謝していた。
『演劇と来ればオレの出番だな! オレは破壊王マジタニ! 悪の組織の四天王役ならオレに任せとけ!』
『ポンズよ……演劇なんてしたことないけど、ハチを使った芸ならできるわ』
『ポックルだ。俺も演劇なんて無縁だが、一応手先は器用な方だ』
私の受けたハンター試験が「楽しかった」と言い切れたのもきっと、この二次試験があったからだと振り返っている。
ヒソカなら推しとの演劇もドッジボール感覚で楽しんでそう❤︎
それはそうと隙があれば団長とやりたい♠︎