はかなき騎士姫と変な師匠   作:GT(EW版)

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 旧アニメのマジタニ登場回のサブタイトルが「はかない×いのち×マジタニ」だと知ったエミヤ=キリツグだ。もちろん、狙ったわけではない……奇妙な偶然にちょっと笑ってしまいました。


第288期ハンター試験⑤

 試験前には「ハンターたる者、昼食は自分で狩れ」と言われる事態も想定していたのだが、昼食は至って普通に摂れた。二次試験会場である町の劇場は昼食会場でもあったのだ。

 一般人も入れる劇場の敷地内には多くの屋台が賑わっており、ちょっとしたお祭りのようである。この町のご当地グルメを堪能することができ、私もホクホク顔だった。焼き鳥美味しかったです。

 

 

『あんた……見た目に依らず食うんだな……』

『ハンターたる者、食事もトレーニングですから。ですが、私はいくら食べてもどういうわけか筋肉が付かないし、体重も増えないんですよね』

『…………』

『おい、ポンズが凄い目で見ているぞ』

『流石ですぜログレスのアネゴ!』

『?』

 

 

 近場のみとはいえ試験中の外食まで許してくれるとは、あの試験官は中々デキるハンターのようだ。心の中で彼女に対する評価を上方修正する。

 そして私もこの昼食時間をただお腹を満たす為だけに使っていたわけではない。

 本番のディナータイムまでに自分たちの演劇を作り上げる為、この人物こそはと思った受験生に声をかけ、我が円卓(チーム)に引き込んでいたのである。

 

 

 ──イカしたメンバーを紹介します!

 

 

 主人公役担当、キルア!!

 

『えっ、俺主役?』

 

 ヒロイン役担当、ポンズ!!

 

『貴女がやるんじゃないんだ……』

 

 小道具兼脇役担当、ポックル!!

 

『あー、よろしく頼む』

 

 監督兼四天王役担当、マジタニ!!

 

『よし来た!!』

 

 悪役担当、私。

 

『意外な人選ね……』

『いや、俺はアリだと思うぞ? ってかキルアが主役やるなら悪役やってくれねーと合わねぇだろ』

 

 裏方、その他の皆さん。

 

 お願いしますよ? 正直残りのメンバーは私の直感で選んだテキトーな人たちですが、良い劇というのは裏方さんの活躍があってこそですからね。

 シーラ試験官が指示した条件は12人「まで」とのことで、あえて意思統一がしやすい少数精鋭で行く案もあったのだが……この試験を試験官目線──というよりもプロハンターで見たらどちらがより好印象か推理してみると、上限の12人を揃えて臨む方が適当だと思ったのだ。

 やはりそういう状況では、現役のプロが身近にいるのが参考になりますねキリツグ。

 

 

『ハンターは個人事業主だ。それも僕ほどのハンターになると、1人でこなした方が何かと楽な仕事は多い。

 ……だけど、勘違いしないでほしいのは自分1人で何でもやろうとするのは決して賢いやり方ではないということだ。何を狩るにしても必要な情報を手に入れるには誰かしらの協力者は必要になるし、特に頼ることが多いのは何の力も持たない民間人だ』

『民間人が、ですか……』

『ログレス、お前は強い。鍛錬を続ければ、それこそ三ツ星にだってなれるかもしれない。だからこそハッキリ言うが……孤独にはなるな。人と上手く付き合っていくこともまた、ハンターに必要な資質だよ』

 

 

 修行期間が終わり、キリツグから晴れて独り立ちを認められた頃に授けられた教えである。

 媚びる必要は無いし、悪意ある相手とまで無理に仲良くする必要は無い。しかし孤独にだけは絶対になるなという言葉は、それまでにも口を酸っぱくして言われてきたことだ。彼自身の実体験でもあるのだろう。

 

 正直なところ私は、自分がそこまで人付き合いが上手い人間だと思っていない。人の心を推し量ることが、昔から苦手でしたからね……何事も自分を基準に考えてしまうから、自分の行動が他人からどう見られているのか、警戒はできても共感することができなかったのだ。

 

 だがそんな私にも、人を「使う」という役回りに関しては幼少期から叩き込まれていただけあってそれなりの自信がある。

 まさか因習村での歪んだ帝王学がハンター試験で、それも演劇で役に立つとは思わなかったものだが。

 

 

「皆さん聞き分けが良かったのは助かりましたね。私の言うことをよく聞いてくれてやりやすかったです」

「そりゃあ、ね……一次試験でキルアと大暴れしていたのをみんな見てたし、マジタニとの初対面での貴女の威圧を見たらどんな荒くれも従うわよ」

 

 

 そんなに怖かったですか私?

 まったく、こんなに綺麗でおしとやかな可愛い騎士姫を捕まえて失礼な反応です。

 

 ……というのは半分冗談だが、私もあの時は大人気なかったですね。

 二次試験は初めてポンズと出会った場でもあるが、あの男「マジタニ」との邂逅の場でもあった。

 

 そう、マジタニである。自称【破壊王】マジタニ。

 

 体格に恵まれた男性がズラリと集まっていた受験生たちの中でも、彼の体躯は特に大きくまるで骸骨と機械を融合させたシリアルキラーのような独特な風貌は一見その名に相応しい怪物に見えた。

 

 ──が、その見た目に反して非常に気が弱く、鋼鉄の仕込まれたその大きな拳で人を殺めたことは一度も無いらしい。その威圧的な外見を活かして、スラムで過ごしていた幼少期は詐欺で生計を立てていたのだそうだ。

 

 私としてはそういった彼の生い立ちについては正直どうでも良かった。

 目の前で詐欺行為を働いていたならばともかく、今は改心してその拳を真っ当な人助けの為に使っているようですからね。

 ただ、私には顔合わせの際に彼が告げた自己紹介だけは如何なる事情があろうと看過できないものだったのだ。

 

 

『オレは正義の味方、英雄EMIYAの一番弟子にしてEMIYA四天王の1人!! 人呼んで【破壊王】マジタニ!! 今日まで19人の人間を救ってきた!! さあさあ! このオレをメンバーに加えられる幸運なチームはどこだ──ひえっ……』

 

 

 彼は詐欺で資金を得るような真似はしなくなったようだが、それはそれとして度を超した虚言癖を持っていたのだ。しかも、あろうことかこの私の前で自分がEMIYA……エミヤ=キリツグの一番弟子だと宣ったのである。

 この瞬間、私としたことが身体の縁から滲み出るオーラの奔流を抑えられなかったものだ。「纏」どころか念も知らない受験生たちの前で、大変申し訳ないことをしてしまったと今は反省しています。後悔はしていませんが。

 

 

「……すっごい悪寒だったわねあの時は。念の存在は薄っすら知っていたけど、私も貴女が能力者だと確信できたのはその時ね」

 

 

 ……そういう私の迂闊さから始まって貴女と交友関係になれたと考えると、迂闊さも案外捨てたものではありませんね。

 ただ私もあの時はキリツグの名前を勝手に使われたことに憤り、ハンターを目指す者としていただけない精神状態だったのは確かである。

 そんな私はホラを吹く彼の元へオーラを発したまま近寄り、そっと言い渡したものだ。

 

 

『……私から、3つ忠告する。1つ──キリツグの弟子は私だけだ。2つ──彼は、自分が救ってきた人間の数を自慢なんてしない。3つ──二度と彼の名を騙るな下郎』

『アッハイ……』

『……ですが、人助けをしてきたという話が本当ならば、それはとても素晴らしいことですね。丁度演技力に秀でた人材が必要だったので……我々と組みませんか? 破壊王マジタニ』

『アッハイ……』

 

 

 どさくさに紛れて、演劇において役立ちそうな人材を勧誘したのは我ながらナイスなアドリブだったと思いますが、私のオーラで頭が真っ白になっていたところにつけ込むような形はそれこそ人のことを言えない詐欺師でしたね私……ですが、仕方がないではありませんか。

 彼の一番弟子は私だ。彼の弟子は私だけなのだ。その立場こそが今の私を形成してきた以上、いかに彼が見た目と違って善良な人間だったとしても、自分を律することはできなかった。寧ろ「この人、嘘をついたこと以外別に悪いことはしていないのでは……?」と振り上げかけた手を抑え、穏便な挨拶に切り替えたことを感謝してもらいたいところである。

 

 ──で、その後はポンズの知るように私が英雄EMIYAことエミヤ=キリツグの弟子であるという事実が、受験生たちに広まってしまったわけだ。

 

 これはあまりキリツグ的にはよろしくなかったのかもしれないが、口止めされていたわけでもない。私を通してキリツグの居場所を探りたい人間は試験官含めてもたくさんいたが、そこで口を割らされるほど今の私は弱くないつもりである。

 寧ろ腐っても……と言っては失礼だが、その場に集まっていたのは英雄に憧れる者も多い気高きハンターのタマゴたちですからね。

 キリツグの弟子(本物)という私のステータスは、私が思っていた以上に大きいものだったのだ。皆さんが私に向けていた好奇の視線も、それまでとはまた違った熱い感情込められるようになった。

 特に驚いたのがホラ吹き男ことマジタニの変わりぶりである。私の威圧感から立ち直った彼は「トウッ!」と無駄に高々く飛び跳ねると、私の足下へ跪くように躍り出てきたものだ。

 

 

『鋼の拳に正義の心! 悪い奴は許さない! 破壊王マジタニ、ここに見参!! 大恩人たるエミヤさんのご息女とあらばこのハンター試験、御身の合格に全力を尽くすと誓いやしょう!!』

『いえ、別にそこまでしないでいいです。あと私は弟子ですが彼の娘ではありませんので……』

『勿体なきお言葉……! ですがオレ、いや私めが初めて受けたこのハンター試験であの方の本物のお弟子様と邂逅したこの運命……!! 何としてでも報いねばあの方から称えられた破壊王の名が泣くというもの……!! 何卒……何卒……っ!』

『あの、えっと……何ですかこれは……? 助けてくださいキルア。……キルア? いつの間にあんな遠くに……逃げないでくださいキルアー!』

 

 

 ……マジタニがキリツグの一番弟子というのはもちろん嘘だったが、全く関係ない間柄でもなかったと知ったのもこの時のことだった。

 どうにもキリツグは昔、詐欺師だった頃の彼を捕らえて更生を促したようで──それ以来、彼は道を違えそうになっていた自分に正義の道を説いてくれたキリツグに強く憧れ、心の師匠として心酔しているのだという。

 

 

『エミヤさんは、最高のハンターだよ』

『貴方にキリツグの何がわかると言うのですか』

『ごめんよぉ……』

『言いすぎよログレスさん』

『……そうですね、些か当たりが強すぎました。すみませんマジタニ』

『いや、こういうのも悪くないかなって……』

『?』

『お前マジか……』

『マジタニだけに』

『???』

 

 

 初対面時の印象は最悪だったマジタニとも、最終的にはそれなりに良好な関係を築くことができたと思う。いつの間にか「姉御」と呼ばれるようになりましたし。

 親子ぐらいの年齢差があるのにいいのですかそれでと困惑する私に、彼は「寧ろそれだからいい!」と不揃いな歯を煌めかせながら返してきたものである。

 私としても彼のことは何というか……ペット、というと些か愛嬌に欠けますが、見た目に反して人畜無害な性格は仲間として重宝したものだ。あと、スラム出身者ということもあってか、アレでかなり人生経験が豊富ですからね……その辺りはまだまだ青い私としては、頼りにできる部分はあった。

 

 特に二次試験では彼の演劇知識が予想以上に大活躍をしていたものである。

 ナントカ旅団の大ファンを豪語する彼は、自らも旅団入りを目指して演技を磨いている身だという。こちらに関しては一切嘘ではなく、演技力はもちろん演出的な画づくりも私たち素人とは一線を画していた。

 

 それと幸いだったのは、私が頭数合わせの為に直感で選抜した他のメンバーたちも予想以上に裏方役をノリノリでこなしてくれたことだ。

 

 

『BGM行きまーす!』

『さっきのシーンの照明、ログレスちゃ……ログレス様に当てすぎてないか? あの子は普通にしててもちょっと光って見えるぐらい目立っているから、もう少し他に当てた方がいいだろ』

『ハンター試験で演劇なんてと思ったけど、ガキの頃の学芸会を思い出して楽しいお。何と言ってもウチのチームには美少女が2人もいるのが最高だお! 他のチームのむさっ苦しさを思うと、華があるのはいいもんだお。ヤルオもマジタニみたいに跪きたいお……』

『ポックルもキルアも小柄な分、悪の四天王マジタニに挑む絵面がまた栄えますね……実際に戦ったら瞬殺されるのはマジタニなんでしょうけど』

『俺が俺がという意識を抑え、あえて裏方に徹する……流石だよな俺ら』

『ああ』

『ボクの計算によるとこのチームが合格する確率は99.88%……勝ちましたねこの試験』

 

 

 私自身もそうだが、ハンター試験の受験生ともなれば我が強くて当然であり、誰もが主役になろうと前に出たがるものである。しかし彼らは私とマジタニが設定した「目立たない役」に不平不満を漏らすことなく、謙虚堅実に各々の役割を全うしてくれたものだった。

 特に助かったのは試験に自作のパソコンを持ち込んでいた「ネオニコル」という男の頭脳だった。

 前回の試験では一次試験で1番最初に脱落したと自虐していた彼はその屈辱を糧に1年間血の滲む鍛錬に当たり、自らの名前に「ネオ」を付けるほど新生した心持ちで本試験に臨んでいた。

 

 

『ネオニコルです……ハンター試験始まって以来の落ちこぼれです……』

『卑屈すぎませんか貴方? 一次試験を突破したのだから自信を持っていいですよ』

『でも……』

『私が選んだメンバーなのです。シャキッとしなさい』

『……はい』

 

 

 シーラ試験官からは本番までの準備時間中に演劇のイロハについて調べるのも許可されており、その点情報収集能力に秀でた彼の存在は思いのほか頼りになった。たった数時間の付け焼き刃とはいえ、発声法1つ取っても知っているのと知らないのとでは偉い違いですからね。

 肉体の鍛え方は私から見てもまだまだといったところだったが、ハンター協会もこういう人間は事務職に欲しいのではないかと思ったものである。

 

 

『貴方たちも、私は見ていますからね? 私が見込んだ男たちである以上、己を卑下するのは許しません』

『王……!』

 

 

 キリツグから授けられた教えによると、ハンター界隈では彼のような裏方向きの人材こそ大事に扱うべきだという。得意分野が偏っている人間ほど自分には無い武器を持っていることがあり、そういった才能はいつどこで開花するかわからない。

 無論、どこかであっさりとのたれ死んでしまうこともあるが……「面白い奴」と思った人間とは顔を繋いでおいて損は無いと言われたものだ。なので、私の直感が何となく別分野での大成を予感していた者たちにはそれとなく声をかけておくことにした。

 根拠は勘ですが、私は人を見る目には自信があるのですよ。

 

 

『ネオニコルは優秀ですね。共に最終試験まで行けることを願います』

『……っ、ええ、こんなボクでも、認めていただけるなら』

 

 

 背中からポンと肩を叩くのは流石に気安すぎるので、私は肉体的な接触を避けつつパソコンと真剣に向き合っている彼の傍へと身を乗り出すように近づくと、耳元で謙虚に囁くように労いの言葉をかけてあげた。

 驚かせてしまったのかネオニコルは一瞬ピクリと肩を震わせたが、何かを噛み締めるような声で返すとズレたメガネをクイッと持ち上げ、再びキーボードを軽快に打ち込んでいった。

 

 ああ、この時ポンズとは「メガネをかけている人って頭が良さそうに見えて素敵ですね」と何気ない雑談を交わしていましたね。ネオニコルのメガネは度が入っていない伊達メガネらしいが、外見イメージを変えるアイテムとして重宝しているようだ。

 私も後で彼からメガネを貸してもらってこの目に掛けてみたが、メガネ姿の私も結構悪くなかったのではないですかポンズ? メンバーからも好評でしたね。

 

 

「……免疫無い男は一発でダメにされそうな挙動してたけど……アレは天然でやっていたのね……」

 

 

 何ですかそれは?

 

 まあ彼ら裏方役の皆さんとのコミュニケーションは打算こそありましたが、かけた言葉の数々は紛れもなく本心である。既に「念」を修めている私やキルアとは比較にできないとはいえ、このハンター試験会場まで自力でたどり着いた皆さんはいずれも地元で負け知らずの益荒男たちですからね。

 私が1番強くて凄いというのは譲らないが、それでも彼らには相応の敬意と礼節を以って接していたつもりだ。

 

 だからか……

 

 

『行くぞお前ら! ログレス四天王の初陣だぁッ!!』

『この劇が完璧に成功する確率……99.99%!』

『ヒキニートでみんなからバカにされて試験に放り込まれたヤルオを、あの子は英雄になれると褒めてくれた……やってやるしかないお!』

『あんな子に励まされてやる気にならない奴は男じゃないだろ、常識的に考えて』

『オタクに優しい姫騎士なんて実在したんですね……』

『騎士姫な?』

『姫騎士だとなんか負けそう感あるよな俺ら』

『……四天王なのに8人いることに誰もツッコまないんだな』

 

 

 本番が始まる頃には、何故かマジタニが皆を従えて四天王なる派閥を作り上げていたものだから驚きました。その温度差に引いたポックルとキルアから半歩後ろに距離を取られましたが、私は一切命じていませんからね? そんな目で見られても困ります。

 

 

「ごめん、私もちょっと引いたわ」

 

 

 ポンズ……貴女もか。残念です……

 

 

「えっ、今更そんなに落ち込む……? 満更でもなさそうだったから、ログレスちゃんは気に入っているのかと思ってたわ」

「……私も煽てられて悪い気はしませんからね。迷惑行為をしているわけでもありませんでしたし、あのぐらいは有名なプロハンターになった時の為の予行演習と受け止めていました」

「……大物なのか、無防備なだけなのかわからなくなってきたわ貴女のこと」

「おかげで1番荒れそうな裏方サイドが抜群のチームワークを発揮できたから良いのです。シーラ試験官にも大ウケでしたし……」

 

 

 8人で円陣を組みながら「ログレス陛下の為に!!」と声を上げる姿には、シーラ試験官は劇が始まる前から腹を抱えて笑っていたものである。目尻に涙を浮かべながら「こういうのが見たかったのよー」と呟くその姿は、我々の方針が間違っていなかったことを証明していた。

 

 

 ──で、肝心の演劇だが、そちらはたった数時間の準備時間で素人がやったにしては良い出来だったのではないかと思う。

 

 

 素人故に難しい役回りは困難ということで、各々の性格といったキャラクター作りは自分自身の素で各自取り組んだ。

 脚本も張り切ったネオニコルがインターネットを参考にシンプルなストーリーラインを組んでくれた。物語としては「龍の魔王に連れ去られた姫を勇者たちが取り戻す」という目標がわかりやすいものを考えてくれて、「あー、ドラクエみたいな話ね。いいじゃん」と主人公である勇者役のキルアにも好評だった。

 

 ──というわけで悪役担当の私は、姫を攫って勇者たちの前に立ちはだかる龍の魔王とやらを演じさせていただいた。

 

 私の身体に龍の遺伝子が混ざっていることは一言も言っていなかったのだが、ネオニコルの脚本は偶然にも絶妙な配役をしてくれたというわけだ。

 私も直感的にイメージしやすくて楽しかったです。誰よりも強く、気高く、傲慢で、孤高な龍の王様。

 姫を連れ去っていったのも、そんな彼の強さ故の孤独が暴走した故の行動なのかもしれないと……どこか自分自身の境遇と重ねながら、自然に演じることができた。

 夜の古城で連れ去った姫とダンスを踊るシーンは私のお気に入りです。貴女はどうですか姫役のポンズさん?

 

 

「……正直、国なんて見捨ててこのまま魔王といた方がいいんじゃないかな……って思ったくらい迫真の演技で私も引き込まれたわ。……貴女、孤児院の女の子たちにもああいう態度してるの?」

「もちろんです。あのくらいの歳の子供は、お姫様に憧れるみたいですからね。私も姫のようなものではあるので、自分がされたら嬉しいことをするようにしています」

「……その子たちが将来、ちゃんとした恋愛とかできるか心配ね」

「私は女性ですよ? あの子たちが私の男装と将来出会う殿方を比較することなど、あり得ないでしょう」

 

 

 それと役者が全員ハンター志望者ということもあって、どこのチームも殺陣には迫力がありましたね。実際の戦闘と魅せる為の戦闘ではもちろん何もかもが違うのだが、本職ではないからこそそこには目新しい感動があったと思う。

 また、他所のチームには格闘技の披露に特化した「演舞」という形で壇上に上がったところもあった。

 ルールとして「あれ、アリなの?」と訊ねたキルアに、シーラ試験官は「んー、見応えがあるならアリよ。あれは私から見たら拙い演舞だったから不合格だけど」と答えていた。

 

 ……ルールとしてはアリだが、試験官自身もまた武術を修めたプロハンターであるが故に、要求されるレベルも普通の劇より一層厳しくなるということだ。

 

 そんな彼女から無慈悲に不合格を言い渡されたチームはその判定に不満を爆発させ、「俺たちはハンターになる為に試験を受けに来たんだ! こんなお遊戯会の為に受けてんじゃねぇ!!」と啖呵を切りながら彼女に殴り掛かっていったものだが──結果は知っての通りである。

 

 シーラ試験官は観覧席に座ったまま立ち上がることもせず、片腕一本で彼らを昏倒させてプロハンターたる者の「本物の武術」を見せつけていった。

 

 アレ……八極拳でしたね。念も使っていないのにあの細腕で大男を昏倒させるとは、相当な鍛錬を積んできたのがわかる。

 キリツグと昔交流があったようですが、コトミネキレイからでも教わったのでしょうかあの女。

 

 

「だから時々ドスの効いた声出すの怖いからやめてってば」

 

 

 ? そんな声出してましたか私。

 

 別にシーラ試験官に対して隔意があるわけではありませんよ。

 ただ、私はキリツグの弟子なので。

 キリツグから手ずから鍛えていただいた身なので。

 二次試験が終わった後、そのことを強調して身の上を話したら彼女から「ぐぬぬ」と悔しそうな顔をされたのが、ちょっとだけ楽しかっただけです。

 

 歳上のプロハンターにマウントを取るのは楽しいですねキリツグ!

 

 そう思っていたら「不合格にしてやれば良かった……」と冗談抜きに呟かれた時は焦りましたが……ええ、私のせいでポンズたちが落とされなくて良かったです。

 

 

 ──はい。そういうわけで私のチームは皆さんの活躍で大成功を収め、シーラ試験官から最大限の評価を受けた上で無事合格を言い渡されました。

 

 

 ラストシーン直前で魔王役にハマりきってしまった私がうっかり力を解放してキルアが驚いて離脱しそうになり、そんな彼を勢いに任せてエクスカリバってしまうというアクシデントもありましたが……終わった後、キルアも何やらとても晴れやかな笑顔を浮かべていたので結果オーライです。

 

 終わり良ければ全てヨシですねキリツグじゃなかったポンズ!

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