さて、無敵のエクスカリバーで全てを解決したこのロード=ログレスの威光を背に、我々一同は四次試験会場へ全員揃ってたどり着くこととなった。
……というより、大海魔を倒した後間も無くして、空からハンター協会の飛行船が迎えに来てくれたのである。
航海中も何となく想像はしていたが、やはり私たちの行動は監視されていたのだろう。飛行船の中には一次試験官とシーラ試験官、そして三次試験官であるニッグが同乗していた。
『悪い。お前らとアレを鉢合わせる気は無かった。完全にこっちの落ち度だな。すまなかった』
あの野郎どの面下げてと不満を垂れていた受験生たちに対して、彼が開口一番に告げた真摯な謝罪である。
元より命の危険は上等なハンター試験とはいえ、プロハンターでも手を焼くニアAランクの危険生物を相手に「念」も知らない受験生たちをぶつけるのは流石に如何なものかと思っていたが、アレは試験官サイドからしてもイレギュラーな事態だったらしい。
飛行船に乗り込んだ後、私たちは真っ先に医務室へと案内されたものだ。大海魔は毒を持っているとのことで全員無償で検査を受けさせてもらったが……全員、大事なくて良かったです。
今回の件はハンター協会からも補填として多額の慰謝料が振り込まれ、希望なら表彰や報奨金の用意もあるとのことだ。
しかしそれを聞いて私には1つ気になったことがあったので、挙手をして訊ねたものである。
『ニッグ。ハンター試験を合格する前に上げた実績は、プロハンターになってからの評価に加算されるのでしょうか?』
既に試験の合格を前提とした問いかけは、我ながら図々しかったかもしれない。しかし素朴な疑問である。
要は、大怪魔討伐実績の扱いですね。
お金の話ももちろん大事だが、今のところ資金には余裕がある私としてはそれよりもこう、「栄誉的な話」がどうなるのか気になったのだ。
しかしそれを聞いたニッグは少し意外そうというか、つまらなそうな顔を返してきたものである。失礼ですねこの男は。
『あー……それは、「星持ち」に有利かとか、そういう話でいいんだよな?』
『はい。私はできるだけ早く
『そりゃまあ、やる気があって結構なことで』
アマチュア時代に上げた実績が、プロになってからの評価にどれほど加算されるのかというのは実際のところ、微妙なラインだろう。プロのスポーツ選手だって、アマチュア時代に稼いだ実績を加算されたりしませんからね。
プロハンターたる者、アマチュア時代にセコセコ稼いだ数字など無意味──という言い方になると冷たいが、純然たる事実としてプロとアマチュアの間には活躍の舞台に別次元の差があるのだ。
それこそ私がささやかに望んでいる
だが……
『──だが、ここに例外がある』
……ニッグに言われてしまいました、キリツグ。
この男、流石は彼と声がおそろっちなだけあります。ほんの一言交わしただけで私の真意を理解し、求めていた回答を協会のエラい人に問い合わせることすらせずその場で返してくれたのだ。
『結論から言うと、答えは「YES」だ。普通ならアマチュア時代の実績なんざ評価の対象にならねーが、大海魔の討伐は
だから
『ありがとうございます、ニッグ』
私もイケる感触があっての質問だったが、やはりニアAランクのハントはライセンス取得前のアマチュアハンターでも無視できる功績ではなかったようだ。
それも私1人が大袈裟に語っているならともかく、あの場には受験生たち大勢の証人がいたのだから当然でしょう。
ええ……最大解放したあの時の一撃は「念」を使えない者たちにもバッチリ見られていたのだ。
何分私も初めてぶっ放してみた一撃だったので、その威力には他ならぬ私自身が1番驚いていたりするのですが。
どうやら私のエクスカリバー、私の想いに応えて気合いを入れると、オーラの光ではなく本当に発光するようである。
念を知らない皆さんには「この剣は私が本気を出すとリミッターが解除される最新の超兵器なのです」と当たらずも遠からずな説明で誤魔化しておきましたが、幸いにもそれで納得してくれたものだ。
実際、この世界には「念」と関係ない不思議な超兵器が幾つか存在していますからね。ビームが出る剣も探せばどこかにあるでしょう、多分。
「それもあるけど……自分たちの命を救ってくれた恩人に、あの場で詮索しようとする人はいないわよ」
「そういうものでしょうか? ポンズは訊ねてきたじゃないですか」
「……そうね。今思うと失礼だったわね、私」
「構いませんよ。身の程も知らず闇雲に未知の力を求めたがる蛮族ではなく、ポンズは私の友達ですから。それに、貴女ならハンターになれそうだと思ったので」
「それも直感?」
「いえ、ポンズという頼もしい仲間の働きを見た上の、適正な評価です」
「……何故かしらね。私よりも歳下なのに、貴女に褒められるといつも身に余るような光栄さを感じるわ」
「王ですから」
「そうね……ありがとう。かわいい騎士王様」
はい。私はいずれ誰もが認める騎士王となる女の子です。今はただの、グッド騎士姫ですが。
──ともかくニッグ試験官が言うには大海魔を討ち果たした私たちの実績は、既にこのライセンスカードの中に加点されているとのことだ。
流石にあの場にいた全員に同じ評価というのは難しいが、ニッグから今回の実績は今後「星持ち」を目指す上である程度有利に働くように色をつけてくれると約束していただけました。
ラッキーでしたね、ポンズ。
「それは嬉しいわね。だけど、ログレスちゃんって昇級に興味あったのね」
「いえ、昇級自体にはそこまで興味ありませんよ? 私が
──私が
ハンター十ヶ条にある通り、
正義の味方になりたかった系ハンターであるキリツグ自身はそういった出世には頓着していなかったが、偉大なる者にはその偉大さに見合った称号を与えるべきだという私の王心である。
傲慢……でもあるのでしょうね。こういうところが「人の心がわからない」と言われた所以なのかもしれないと自覚はしている。
「……ですが、それが勝手だろうと私は彼の献身に報いてあげたいのです。人は死せども名を遺す。しかし世に遺すその名が生前の功績に見合っていなければ、もどかしいではないですか……」
「ログレスちゃん……」
ちゃんと実力を評価してあげなかったことで憂き目に遭った英雄たちの物語は、私も本でよく読んだ憶えがあります。
キリツグもジャポン人的奥ゆかしさを持っている男性ですが、アレで本性は結構目立ちたがり屋ですからね。「正義の味方になりたかった系ハンターのエミヤ=キリツグ」という名が広まること自体は、苦労はしても嫌そうではなかった印象である。
私自身、自分が認めた男性には然るべき立場に立ってもらいたいという想いがある。そうして矢面に立った彼の傍で騎士として支えたい──というのがハンターになった今、私が目指している当面の目的ですね。
もちろん、その企みについてはキリツグにもちゃんと伝えているので、何もかもが私の独りよがりではないことは言っておきます。迷惑がられたなら、もちろん引きましたとも。
……ですが、彼はこうも言っていました。
『そうなったら、僕もまた責任が大きくなるね。だけど、まあ……なんだ。お前の面倒を見ると決めた時点で、その手の覚悟はとうに決めているよ。お前の好きにやりなさい、ログレス』
……まったく。
愛されていますね、私。私の方が愛していますが。
!?
「急に固まってどうしたの?」
「……な、何でもありません……っ」
いけない……ついいつもの癖でマウントを取ろうとしましたが、「愛している」という言葉は何か……このノリで軽々しく口にするのは憚れます。
愛する。可愛がる。愛しむ。
一口で言ってもその言葉には様々な意味が介在していて非常にややこしい表現となっている。
ハンター協会の飛行船には図書室も完備されていたので、私も移動中には暇つぶしに辞書をめくったりしてそういう言葉の意味を改めて調べてみたが……私のキリツグに対する感情はいずれの「愛」も今ひとつしっくりこなかったものである。
……ま、そんなことはどうでもいいですね。
ともかく私が早期の昇級に興味を持っているのがそこから派生する
あの時の彼は何というか、新しいイタズラを思いついた時の孤児院の悪ガキグループみたいな顔をしていましたね。
『そりゃいいな! 俺もアイツが
何ということもない。彼もまた、私と同じく彼の昇級を望む同志だったのだ。……ちょっとだけ言葉のニュアンスに違いがあったかもわかりませんが。
しかしそのイタズラっぽい笑みの裏には、単なる祝福以上の感情が込められていたことを私は察していた。
あっこれ、コトミネキレイがよく浮かべているタイプの笑みだ。アレは絶対何か悪巧みしていますね……と。
悪意は感じなかったので大丈夫だと思いますが、利害関係が一致したのであれば私にとっても喜ばしい話である。
そしてその際に知ったのだが、ニッグはキリツグと同じ代の試験を受けた同期のハンターらしい。
道理でキリツグのことを親しげに語るわけだと納得し、私の方も昔の彼のことを知りたかったので飛行船での彼との会話は弾んだものだった。
話の途中、「……お前、アイツの念獣じゃないよな? 見た目も態度も昔アイツから聞いた「理想の念獣」そっくりでビビるんだが……」とわけのわからない質問をされたことには困惑しましたが。どう見ても人間でしょう常識的に考えて。ニッグは失礼な男です!
──と、そんな大海魔討伐事後のアレコレを終えた後で、私たちを乗せた飛行船は目的地の孤島、念願の四次試験会場へと到着したわけである。
着陸した飛行船から降りて、試験会場の大地を踏みしめた受験生は私を含め22人。
あの大嵐と大海魔との遭遇を経た上で1人も死人が出なかったのは、奇跡的な快挙と言って良いだろう。だがそれでも爪痕は大きく、66人いた筈の生還者から44人もの脱落者を出すこととなった。
ログレス海賊団のメンバーは13人全員無事だったので、脱落したのは軍艦に乗っていた受験生の大半ということになる。
艦が大海魔に襲われた際に怪我を負った者や毒を受けた者、疲労困憊のため四次試験終了まで寝過ごしてしまった者とリタイア理由は様々だったが、残った者たちの中にはそれを嘲笑ったりする者はいなかった。
いたら、私が赦しません。船は違くとも、彼らは共に大海原を乗り越えてきた勇者たちなのだ。
特にエクスカリバーの一撃を放つまで艦砲で引き付けてくれた者たちのことを私は高く評価しており、彼らにはわざわざ医務室へ足を運んでお見舞いに行ってあげたぐらいである。
ベッドの横でリンゴをジャリジャリと剥いた後、「私の優しさに感謝するといいですよ」と言いながら食べさせてあげると、涙ながらに感謝を告げられた時はちょっと焦りましたが。皆さん、そこまで崇め讃えなくても……
……そうですね。ドクターストップが掛かって泣く泣くリタイアを宣言することとなった彼らには、生きていれば次の試験を受けるチャンスがある。
今回は望まぬ結果となってしまったが、私と共にあの海を乗り越えた経験は、きっと金銀財宝よりも大きな価値がある筈だと──落ち込んでいる彼らの前で慣れない激励をかけたものだ。
ちょっとクサかったですかね? 私としては混じり気無しの本心で彼らの功績を讃えたつもりですが。
「……ログレスちゃんらしい、寄り添った言葉だと思うわ」
なら良かったです。ポンズがそう言うのでしたらアレで良かったのでしょうね。
……だが、難関試験である以上、先に進む者もいれば去る者もいる。ハンター試験は皆で手を繋いで仲良くゴールできる場所ではないのだ。
四次試験は、まさにそんな世の無常さを思い知らされる内容でしたね。
試験続行を選んだ我々が辿り着いたその場所は、奇怪な建造物が其処彼処に建ち並んでいる──去年キリツグと遊びに行った遊園地にも似たアトラクション施設だった。
そしてその施設の入り口、門の前で腕を組んで待ち構えていた試験官の男は、これまでの試験官と同じように自己紹介と試験内容を言い渡した。
『俺は四次試験官の医療ハンター、ビノールトだ! 22人か……ここまでよく残ったもんだが、ここでは何人残れるかな? 俺の試験内容はシンプルだ。このプロハンター御用達のリハビリ施設、「ビノールトパーク」のアトラクションを7ステージクリアしろ!』
それは、何というか……これまでの試験の集大成のような内容でしたね。
しかしだからこそ、ここまで勝ち残ってきた猛者たちが受けるに値する試練だったと思う。
四次試験会場であるその島は彼ら医療ハンターの共有財産となっており、普段は負傷したプロハンターたちが現場復帰のためのリハビリを行う訓練施設として扱われているとのことだ。
今回試験で開放されたのはいずれも「念」に関わるものではないステージだったが、それでもプロが扱うレベルのリハビリ施設を体験できるのは得難い体験だったと思う。
ハンター試験も、残るはここを含めて2つですからね。ここまで勝ち残ってきた猛者たちに課するには、とても粋な試験内容だったと思います。
テーマパークに来たような高揚を覚えた私の前で、ビノールト試験官は今回使用する施設の概要を簡単に説明した。
今回の四次試験会場となったステージは合計で7つ。
それぞれ「コース」「サバイバル」「ポイント」「ロジック」「チーム」「かくれんビーンズくん」「ファイナル」と呼んでいた。
第1ステージである「コース」は、規定人数が勝ち抜ける障害物競走だった。
多種多様なユニークとさえ思える障害物を乗り越えて時間内までにゴールへ突き進む方式は、キリツグと年末のテレビで観た「SASUKE」を思い出したものである。
そしてその迷路のように入り組んだステージを駆け回る際には適切な方法で進んでほしいということで、このステージ中、私たち受験生の前には手本として先を走る「先導役」がついてくれた。
私やキルアがその気になれば、施設を壊しながらイノシシのように直進してゴールすることもできますからね……プロも扱う貴重な訓練施設を壊したくない試験官サイドからしてみれば、先導役の存在は必須だったのだろう。
──ただその先導役、私たち受験生の何人かには見覚えのある人物だったようで……
『──ついてコラレマスカ?』
『なに……!?』
『お前は……!』
『アーチャァァー!!』
浅黒い肌に真紅の外套。
ワックスで逆立てたオールバックの髪型が特徴的な筋骨隆々の男性の名は「パイロ」、通称「アーチャー」である。
その人物のことはキルアの話から聞いている。前回の試験の合格者の1人ですね。
当のキルアも彼がその場にいたことについては全く知らなかったようで大層驚き再会を喜び合っていたものだが、1番彼に大きな反応を返したのは意外にもポックルでしたね。
普段冷静な彼にしては珍しく、胸ぐらを掴むような勢いで突っかかっていたものである。
「あー……ポックル、あの人との戦いに負けて落ちたのよ、前回の試験」
「なるほど……因縁の宿敵という相手ですね」
イイですね、そういうライバル関係というものは。「アーチャー」という彼が呼ぶあだ名も、同じ弓使いとしての矜持故か。
……あのパイロという男が弓を使っているところは見られませんでしたが、彼があれほどの対抗心を剥き出しにするということはよほどの名手なのでしょうね。いつか手合わせしてみたいものである。
『なんでお前がここにいる!?』
『フッ……それはこちらの台詞だなポックル。お前のような小僧がよくここまで来られたものだ。自害しろ』
『何だと!?』
『あっ、ポックル、今のは「貴方がここまで勝ち上がってくれて嬉しい」という意味ですよ』
『何だと!?』
『……なんで初見でわかんのアーチャー語』
『? 癖は強いですが、ルクソ地方の言葉ですよね。それならば多少は心得ています』
『ええ……』
『フッ……見事だなセイバー』
何故驚くのですか? 彼の共通語は上手ですよ。
ルクソ地方の山奥に住んでいる彼の言葉は少々癖が強いが、幼少よりある程度の語学を叩き込まれている私に解読できないほどではない。
読み解いてみれば一見不遜な態度と裏腹に彼はお人好しで紳士的な性格をしており、初対面ながら早々に好感を抱く善良さを感じた。
ですが彼が時折口にする「ンカラドボルグゥ……」という言葉だけは解読できませんでした。何ですかそれは?と訊ねると何故か「フッ」と得意気な顔を返されたものである。
……このちょっと変なところもまた、キリツグに似ていると感じてしまったのは不覚ですね。これでは私がこの世全ての物にキリツグを感じる異常者みたいではないですか。
「…………」
……否定してほしかったです、ポンズ。
「ごめんなさい」
……いいですよ。私はどうせ甘えんぼさんです。
話を聞くに、パイロは先日仕事で怪我を負ったため、つい先刻までこの「ビノールトパーク」でリハビリに励んでいたらしい。
怪我は既に治っており今日中に職場へ復帰する予定だったのだが、その際に施設の主であるビノールトから「せっかくだからハンター試験を手伝ってやれ」と先導役を頼まれたということだ。
それが試験官でもない2年目のプロハンターがこの場に居合わせた理由だった。
──そんな彼が先導して始まった第1ステージ「コース」で、私たち受験生は数々の障害物を乗り越えることとなったわけですが……相当な鍛え方をしていましたねあの人。
私と違って一切オーラを駆使すること無く身一つで障害物を軽々跳び越えていくパイロの後ろ姿は、どこかキリツグに似て逞しく見えました。
私たちの前に立ちふさがる障害物の数々も決して生易しいものではなく、私とて山登りの修行をしていなければ時間内でのゴール到達は危うかったかもしれない。
ステージから落下したら即時脱落というわけではなくチェックポイントから復帰することも出来るが、一度落下した人間が彼のペースに追いつくのは至難の業であり、海の疲労が抜け切れてない5人ぐらいはここで一気に脱落してしまったものだ。
続く第2ステージの「サバイバル」は規定時間が終了するか、規定の人数が脱落するまでステージから落下しないようにする椅子取りゲームみたいな内容でしたね。
一定時間置きに床が縮小されたりランダムで消失したりするため、受験生たちは無事な場所を瞬時に判断して速やかに飛び移らなければならない。
ステージ下に広がっているプールに落下した時点で脱落となるこのステージでは、3人ぐらいの受験生が脱落してしまいました。その水飛沫によって濡れた足場にうっかり足を滑らせて、私も危うく落ちそうになったのは恥ずかしい。
しかも受験生たちの墜落の衝撃から高々と上がった水飛沫が、スーツのズボンまでびしょびしょにしてきて最悪でした……どうにも水難が続きましたね、このハンター試験は。
……濡れたままでは走りにくかったので、それからはポンズも知っての通り聖なる鎧に換装したものです。
「ああ、いつの間にまたドレスを着てると思ったらそれで……」
本当は大海魔の時に換装した第二段階の青い鎧が良かったのですけどね……私とて後ろに大勢の人がいる中で、好き好んでスカート姿で走りたくありませんから。
露出度の少ないあの衣装はそういう時こそ着たかったのだが、やはり一度解放したからと言って、いつでも自由に換装できるようになったわけではないらしい。
あの時のような特殊な状況下でもなければ、これまでと変わらずこの白百合の聖鎧が基本形態になるということである。……まあ、適度に露出度の大きいこちらの方が風を感じやすい分、走りやすさでは断然上に感じるのがまた困った話ですが。
ですが……ですけども。
「あの……ポンズ、試験では何度か高低差のある場所を走りましたが……後ろから見えてませんでしたよね?」
「…………」
「何とか言ってくださいポンズ!」
……やめましょうか、第2ステージの話。
私も未熟ですね……あの時の自分の態勢とか色々と改めて客観視しようとすると、多感な心が要らぬ不安を抱えてしまいます。
普段なら人に見られるような遅い動きはしていないのですが、あの時は念を使えない受験生たちに合わせて抑えめに進んでいたパイロに合わせて、私もゆっくり走っていましたからね……
はい。
第3ステージの「ポイント」は規定人数以内に指定されたポイントを獲得するか、規定時間終了時に勝利条件を満たした者が勝ち抜けとなる。借り物競争というか、宝探しゲームみたいな内容でしたね。こちらは全員が生き残りました。
第4ステージの「ロジック」はクイズやパズルを解いていくタイプのステージで、これまでの試験と違って頭を使う内容だった。形式としてはアレですね、ジャポンのテレビ番組で観た「高校生クイズ」を思い出します。
難易度はここまで勝ち残ってきたハンター志望者たちからしてみればそこまで難しくはないと思っていたが、キルアが「今までで1番手こずったぜ……」と言うぐらい一部受験生たちには難問だったらしい。
こちらも全員生き残った。体力勝負のステージはどれも足切りラインギリギリだったネオニコルも、ここでは大活躍でしたね。
やはりメガネをかけている男の人は頭が良いのですねと賞賛すると、何とも大袈裟な反応で喜ばれましたが。
こちらも全員が生き残りました。気のせいですかね? 私が鎧を着てからまた皆さんの動きが良くなった気がするのは。
「気のせいだったら良かったわね……」
意味深なことを言わないでください。……まあ、戦場に咲く花として戦意向上に繋がったのであれば、それも自らのカリスマが為した功と喜ぶことにします。
第5ステージ「チーム」はここまで生き残ってきた参加者が4チームに分かれて対戦し、最下位のチームのメンバーが脱落する大乱闘でスマッシュな戦場だった。私とキルアは参加できませんでしたが。
第6ステージ「かくれんビーンズくん」もチーム戦で、宝を守るガーディアンと宝を盗むドロボーに分かれて戦うゲームでしたね。
ドロボー側は3分以内に宝を規定個数回収ボックスに入れることで、ガーディアン側は3分間経過するかドロボー全員を拘束し牢屋に閉じ込めることでそれぞれ勝利となる。
いずれもこれまでのステージと違って確実に脱落者を出すこととなる過酷な試験だったようだ。私とキルアは参加できませんでしたが。
「ポンズたちはドロボーチームでしたっけ?」
「ええ、かなりの激戦だったけどポックルとマジタニさんのおかげで勝てたわ。……ログレスちゃんがいないと、チームを纏めるのにあそこまで苦労するのかと身に染みたわね」
「……とても楽しそうだったので、私が参加できなかったのはちょっと寂しいです」
「単純な実力勝負だったから仕方ないわ」
そう──この2つのチーム戦ステージについては、私とキルアはビノールト試験官から名指しで出禁処分を喰らい、免除されてしまったのである。
確かに念能力者である以上、実力が突出しすぎている我々が腕っぷしを競うチーム戦に加わるのは不公平ですからね。
これまでの試験の焼き直しにならないように、他の受験生たちの力量を見るには良い配慮だったと思います。
そういうわけで私とキルアは「チーム」と「かくれんビーンズくん」のステージには参加できませんでしたが、2人だけ見学で次のステージに進むというのも公平性を欠くということで、その間我々はビノールト試験官の提案により特別試験を受けていました。
内容は「現役バリバリのプロハンターであるビノールト試験官と交互に一対一で闘う」という──コレも貴重な体験でしたね。
皆のステージが終わるまでの間に一本取れば勝ちというシンプルな実技試験らしい実技試験でしたが、私もキルアも10分ぐらいでクリアできました。
しかしビノールト試験官も強かったですね。
殺気の強さから鑑みて彼は本気を出していなかったと思うが、彼の繰り出すコトミネキレイのような「八極拳」は強力で、私も良いのを1発お腹に喰らってしまいました……大海魔を倒したからと言って、油断大敵ですねキリツグ。
あと、彼がキリツグの友人であることを知ったのもこの時でした。
同時に、あちらが私がキリツグの弟子であることを知ったのもこの時のことで──その時はお腹に八極拳を喰らって悶絶している私の前で「あ……あの人のお弟子様……!? お、俺はなんてことを……!」と滅茶苦茶狼狽えていましたね。
無論、彼がいかにキリツグから多大な恩を受けていようと勝負は平等であり、試験は公平でなければならない。マスターの縁だけで情けをかけられるのも私には酷く屈辱的だったので、最終的にはお互い本気の技を打ち合うこととなりましたが。
『……なるほど……あの人が弟子に迎えたわけだ。お前があの人の、セイバーだったんだな……』
私が一本を取った時、何やら満足そうな顔でそう呟いていた様子を見るに、キリツグの弟子として相応しい強さを見せられたなら幸いである。
──で、それから私とキルアは「チーム」と「かくれんビーンズくん」のステージが終わったポンズたちと合流したのでしたね。
人数が8人ぐらいまで減っていたのは残念ですが、脱落者も全員生きている優しめの試験で良かったです。顔見知りになった皆さんが命を落とすのは悲しいですからね。
「やっぱりあの時、2人はビノールトさんと闘っていたのね……すごい音が何度も聴こえてきたからみんな気にしてたわ」
ええ。元は手持ち無沙汰な待ち時間中、瞑想で時間を潰していた我々の姿を見かねた彼に「武闘家として手合わせ願いたい」と呼びかけられてから始まった腕試しでしたが、若年故にまだまだ実戦経験が足りない私たちには渡りに船でしたね。
キルアもキルアで「ああいう奴がグリードアイランドにいたら厄介だったな……」と評するぐらい、プロハンター・ビノールトは凄腕の武闘家だった。
専門は医療で念能力も戦闘向きではないと語っていたが……体術だけであの実力なのだから、やはり凄いです、プロハンターの実力は。
……そんな彼が健康チェックと称して戦闘中に落とした私の髪をムシャムシャ食べ出した時は、急なセクハラに驚いてエクスカリバってしまいましたが。
「えっ」
……ま、彼にはそういう念能力なのだと正座で弁明してもらったので、寛大な私は赦してあげましたが。
何でも彼は愛用のハサミで切った相手の髪の毛を食べることで、対象の肉体情報を瞬時に把握できるのだという。
取得可能な情報は肉質、病気の有無、遺伝的資質、強さなど多岐に渡り、戦闘中に発動する能力としてはピーキーだが医療従事者としては非常に有用だと感心したところだ。
それはそれとして多感な私には生理的嫌悪感が強かったですが……ビノールト自身は至って真面目な人間性の持ち主で良かったです。
「……色々あるのね、念能力って……」
プロハンターの能力傾向については、私やキルアのような正統派の能力は割と珍しいのではないかと最近思っています。
ビノールトもきっと、日常が髪の毛だったのでしょうね……なんだかんだでそういった執着が高い適性にも繋がってくるので、ポンズも参考にするといいですよ。
条件がピーキーなほど能力は強力になるわけですから、人の髪の毛を食べるなんてイヤなことをするからこそ有益な効果がもたらされるということだ。
……その割には気狂いのような笑みを浮かべてノリノリだったような気もしましたがあの人。基本的には紳士なのに急に変なスイッチが入るところまでキリツグをリスペクトしないでほしかったです。
──と、それぞれのステージで仲良く消耗した状態で迎えた最終ステージ「ファイナル」は、内容としては「コース」と同じく、障害物を乗り越えながらゴールへたどり着くというものだった。
ただちょっと、その内容は変でしたね……
「ちょっとじゃなくて、かなり変よ」
ええ、まさか砂浜の中、水牛の群れのように疾走していく大量のトラックの屋根上を延々とジャンプしながら乗り継いでいく謎の競技をやらされるとは思いも依りませんでした。
冗談みたいなステージでしたが……残念なことに、このステージによってこれまで共に難題を乗り越えてきた受験生たちがさらに振るい落とされることとなった。
最終的に生き残ったのは私、キルア、ポンズ、ポックル、マジタニの5人。
ただ、志半ばで脱落していった者たちの顔も悔しそうではあれ、誰1人として絶望していなかったのは、試験を受けた当初の想像より後味の良い幕引きだったものだ。
ネオニコルなんか、「大丈夫ですよ陛下。答えは得た──俺たちもこれから、頑張っていきますから」と、最初に会った時に感じた卑屈さが影も形も無くなっていましたからね。
忠道、大儀でした。もしかしたら彼らも今後、化けるかもしれません。我々も負けていられませんねポンズ。
「……それは多分、貴女のおかげじゃないかしら?」
そうですか? だとしたら、少し嬉しいですね。
我々はこうして次のステージへ向かうこととなりましたが、願わくば共に試験に臨んだ彼らにも良き未来が訪れることを願います。