はかなき騎士姫と変な師匠   作:GT(EW版)

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 たどり着いた理想郷


ピロンッ>セイセイッ!

 キリツグから当面の目標として言い渡されていた第288期ハンター試験を受けるまでの間で、1番安心したのは私にもちゃんと成長期が訪れたことだろう。

 

 ジャポン人女性の年齢別平均身長で言うと、12歳の女の子でも150cmはありますからね……それでも世界の中では低め寄りの民族であることを思うと、私の137cmという身長はかなり小さめだった。

 体質的な話は個人差もあると聞いたが、私の場合は幼少期の栄養不足が原因とはっきりしていたため改善効果はすぐに表れた。年明けの13歳の誕生日を機に140cm、145cmとあっという間に大台を超え、今では堂々の153cmである。

 尤も190cm以上の巨漢たちがひしめくハンター志望者たちの中では、それでも相当小さい方でしたけどね私。大半が見掛け倒しだったとはいえ、周りが狭苦しくて苦労しました。

 

 

『セイバーは154cmまでは絶対に伸びるよ』

 

 

 12歳の頃、自分が同世代の女の子たちよりも小さかったことを知ってショックを受けていた私に対して、キリツグが掛けた励ましの言葉である。

 あの時は嫌に具体的な数値を出すと思ったが、彼にははじめから私の成長曲線が見えていたのだろう。

 やはりご飯……美味しいご飯は全てを解決する。これこそが私の成長に欠かせない鞘だったのだ。

 ところで鞘と蛸って字が似ていますね。ジャポン人はあのような禍々しい生物まで美味しくいただくとは畏れ入る。私も最近初めて食べてみましたが、とても美味でした。味は見た目に拠りませんねキリツグ。

 

 それはそれとして、身体は小さくても私は念能力者。男性陣に対しても遅れを取る気はなかったが、手脚が長くなれば剣の間合いも長くなり、取れる戦術の数も大きく増えた。

 強いて問題を挙げるならば、急に身長が伸びたことでズレが生じた感覚の調整に少しばかり手間取ったぐらいの話だった。

 ……それも、久しぶりに下着を穿いたあの時の全能感と比べれば些細な変化に過ぎなかったのでさしたる問題ではなかったが。あの時は全能感のあまり全ての動作に無駄な力が入ってしまい、一時はスランプに陥ったほどでしたからね……

 

 その際は試しに一度草陰で下着を脱いでから剣を振ってみると、あろうことか一発で完璧な太刀筋を取り戻してしまった。自分が「穿いてない時の方が強い」という事実を前にしたその瞬間、私は膝を突いて絶望したものである。もちろんその後は血の滲む努力で克服しましたが。

 

 ……今はちゃんと穿いてますからね? 本気を出す時は脱ぐとかもありませんからね! 誤解なきように、重ねて明言しておきます。

 

 

「ああ……やっと穿けたのね……」

 

 

 ………………はい。

 

 滝の麓でしばらく心身を癒した私は、その足で町へたどり着いた。

 その後も孤児院に寄っては子供たちと遊んであげたり、一緒に雑巾掛けや電球取替など院内の掃除を手伝ったりしたものだから、実際に街中へ入ったのはさらに翌日のこととなる。

 

 その後にも何故かキリツグと卓球をすることになったり、悪漢に絡まれたり連続児童誘拐犯を返り討ちにしたりと様々な寄り道をすることになりましたが──私はその日、ようやく例の品々を調達することができました。

 

 

「……軽く流すには、聞き捨てならないことしてるわね」

 

 

 ええ。初日から目の回りそうな様々な事件と出会したものである。やはり外の世界は慌ただしい。修行により備えていて良かったと、短いスパンで我が身に起こった事象に対してしみじみと思ったものだ。

 

 まあ、私ほど端麗な容姿の持ち主ならば、人の多い場所へ行けばそれだけ要らぬトラブルを招き入れてしまうものなのでしょう。

 

 久しく忘れていた故郷での生活を思い出し、この心に適度な緊張感を取り戻すことができた──という点についてだけは、悪い経験ばかりではなかったと思っている。

 キリツグとの和気藹々とした生活のせいで、私自身も半月前の自分より弛んでいる自覚がありましたからね。貴女も私を指して「無防備」と言ったが、一部は認めましょう。

 しかし弁解したいのは、あくまでもそれは私の周囲にいた人間が気を許した相手だからこそ生まれる隙だということだ。

 見知らぬ人間やこちらに対して敵意を持った人間に対しては、そこまで甘くないつもりである。

 

 

「そこは疑ってないわ。試験の時の貴女は付け入る隙が無かったもの」

「お褒めに預かり光栄です、プリンセス」

「……それはやめて」

「とても似合っていましたよ? ポンズのお姫様役」

「……貴女の王子様役には負けるわ。アレはもう凶器よ」

 

 

 わかればよろしい。

 そうです。私が、最優です。キリツグとの修行により、この身にはハンターのいろはが叩き込まれている。

 ハンター試験では、どのようなトンチキ試練も重ねた技巧で華麗に捌いたものだ。

 特に二次試験の即興演劇コンテストは楽しかったです。機会があればまたやってみたいですねキリツグじゃなかったポンズ。

 

 

「ふふっ……」

「何を笑っているのですかポンズ!」

 

 

 ……しかし、そんな最優さんである私でも、耐えられなかったことはある。

 

 生まれて初めて町デビューを果たしたあの日のことは、まさにその屈辱的な羞恥体験だった。

 

 これまで暮らしてきた2つの村とは根本的に人口密度が違う町。その人通りの多い繁華街を通り抜けようとした矢先、私は思わず脚が竦んでしまったのだ。

 

 

『キリツグ……周りから視線を感じます。敵意は無いようですが、何ですかこれは?』

『樹海の方角から来る旅人は珍しいからねぇ。あと君の容姿や服装が物珍しいというのも──ある。元々、この国は外国人が少ないし』

『……少し、居心地が悪いですキリツグ』

『旅をしていればじきに慣れるさ。それでも居心地が悪いなら、こう自己暗示すればいい。「お前はジャポンに憧れた西洋の外国人だ!」ってね』

『はい! ジャポンイズサイコーニンジャデス!』

 

 

 町に入ったばかりの時こそ私は、キリツグとそのような会話をしながら「セイバッセイバッ」と2人で合唱しながら能天気に観光を楽しむ余裕があったものだ。

 生まれて初めて訪れた先進的な街の景色は目に映る全てが目新しく、私も小躍りするような気持ちであちこちを指差しては「あれは何ですかキリツグ?」「これは何ですかキリツグ?」と再び彼を質問攻めしていた。

 夜でも明るいというその光景だけでも、私には全てが未知の世界であり感動の嵐だったのだ。

 

 

 ……しかし、袖が当たるほどの密度で道行く人々の数が増えていくと、そんな私の口数も次第に少なくなり──大通りに出る頃には元気だった私は「ぁ……ぇ……」などというか細い声しか出ない弱々な生き物と化していた。

 

 

『……キリツグ……背中貸してください。人の目が何か、イヤです……』

『ッ──そうか。わかった。あと少しで目的地に着く。我慢できないなら僕がおぶって一気に走り抜けようか?』

『それはやめてください! ……後ろから見えてしまいます、色々……』

『ん? ああ、確かに余計目立つか。タイムアルターも辞さない覚悟だったんだけど』

『それはいつものことでは?』

 

 

 そんないつも通りの会話も少し声が上擦ってしまうほどに、この時の私は再び追い込まれていた。

 それはもう、移動の間ずっとキリツグの背中にギュッとしがみついてこの身を周囲の視線から隠そうと悪足掻きしていたほどに。

 思えばキリツグがそんな私の豹変に対して一切動じることなく冷静だったのは、この時の私が町の人混みに対し、何か故郷のトラウマを呼び起こしたのではないかと考えていたのかもしれない。

 

 ……心配させてしまったのならば、本当に申し訳ない。

 確かに私は人混みは好きではないが、この時しおらしくなっていた理由の大半はこれも「穿いてなかったから」の一言に尽きます。

 この本来ならあり得てはならない防御力の薄さが、不特定多数の人々の眼差しに対して想定以上に心許ない不安と惨めさを私の心に与えてきたのである。

 村では数ヶ月間ほど下着をつけない生活を送っていた私だが、幸か不幸かその状態に慣れることは終ぞ無かったのだ。

 

 田舎だから助かっていただけで、町で暮らしていたら数日と心が持たなかったでしょうね……何ですかあの人の数は? あの不敬な眼差しの数々は。

 

 とても怖くて不愉快で……心細かったです。

 

 孤児院で休んだことでオーラも大分回復した筈なのだが、それ以上に町を歩く多すぎる人の波はこれまでの人生に無い戸惑いを与えてきたのだ。

 

 ──な、なんで皆さん、一斉に私の方を見るんですか……っ?

 な、なんでそんな場所までこんな格好で来てしまったんですか私……!

 

 ……と、そのような調子で当時の私はすっかりオーバーフローを起こしていた。「王の器」とはいえ、生まれも育ちも田舎娘ですからね。本物の町という場所への耐性は、当然持ち合わせていないのだ。

 そんな往来に下着もつけないでやって来た愚か者が私である。冷静に、理性的に考えるほどその屈辱が悔しくて、私は予定の服屋まで歩き進む道中、顔を上げることもできないままへっぴり腰でスカートの裾を押さえていたものである。

 

 何というか、完全に被害妄想なのだが……街を歩いている全員が自分の挙動を注視しているように錯覚していたのだ。

 

 「絶」を使って気配を消そうとしても駄目だった。寧ろ「絶」は肉体の感覚を鋭敏にする都合上、それまで以上に心臓の鼓動や周囲から注がれる好奇の眼差しを敏感に感じ取ってしまうのだ。

 射抜くような無数の不躾な視線を一身に浴びて、息の詰まった私は一時は両脚をガクガクと震わせ足腰が立たなくなったほどである。

 それほどに私は、怖かったのかもしれない。自分で思っていた以上に人見知りだったのだろう。

 

 

 ──おそらく私は、まだ本質的に人間という存在が好きではないのだろう。その震えはおそらく、そんな不快感から来る拒絶反応。

 

 

 キリツグとの修行が楽しいのと港の村の人々が優しかったために忘れかけていたが、やはり不特定多数の人間から受ける不躾な視線には嫌悪を覚える。

 なので視認されている状態での「絶」は、貴女も気をつけた方が良いですよポンズ。

 

 

「……ログレスちゃん……さっきから私を変な感情に目覚めさせようとしてない?」

 

 

 ? 何を言っているのですかポンズ?

 私が貴女を目覚めさせるのは「念」だけですよ。他に何を目覚めさせると?

 

 

「……そのままの貴女でいてね。あと、今の話は男の人には絶対しないで」

「するわけないでしょう。されても困るだけでしょうし」

「私も困ってるわよ……」

「ポンズは友人だから良いのです。……違いましたか?」

「……ふ。違わないよ。私も友達だと思ってるわ」

 

 

 安心しました。私もすみません……生まれて初めてできた友達なので、こういう話はどこをどう話すのが正しいか加減がわからないのです。つまらないのでしたら何も言いません。ですが……

 

 

「……何故頭を撫でるのですポンズ!?」

「そりゃあそんな捨てられた子犬のような目をしていたら撫でるわよ。あっサラサラ……だけどアホ毛だけすっごい反発力……! 何これ凄い……」

「浮き毛と言ってください。私はアホではありません」

 

 

 ん……私の頭を撫でながらも「絶」を維持しているとは、貴女は「絶」の才能があるのかもしれない。ふむ、撫で方も悪くない。85点としておきますか。

 ふむ、これが……人に撫でられたのは初めてですが、存外悪くない。あの時キリツグの手を払ったのは惜しいことをしたかもしれませんね。だからと言って私から撫でろとは言いませんが。

 

 

 ……話を戻します、そのような恥辱に耐えながら遂に辿り着きました。ええ、この数ヶ月間求め続けた永遠なる理想郷──服屋に!

 

 街歩きの道中私のメンタルが悲惨な有様だったのも手伝ってか、服屋で手に入れた諸々を肌に纏った時の全能感と言ったら、それはもう凄まじいものだった。ようやく人間に戻れたような、そんな気持ちだ。

 

 ……いえ、もちろん裸族の方々を差別しているわけではありませんよ? ただ12年間慣れ親しんできた本来の自分にようやく戻れたことを、声高に喜びたかったのです。

 

 キリツグが案内してくれたそこはかなりお高めの店だったようで。そこで手に入れた品々の着心地はフィット感から何まで私の知っているそれと違いすぎて正直落ち着かないところもあったが……無論、何も穿いていないのとでは天地の差だった。

 身体の隅々まで軽くなり、もう何も怖くない気分である。

 店内の化粧室に入ってから下の戦利品を身に着けた瞬間、私は自らの剣があるべき鞘へ納まったような感覚を覚えた。

 お宝は手に入らぬモノこそが最も美しいという格言を聞いたことがありますが、下着に関しては手に入れてこそ初めて意味を持つモノなのだと改めて肌で感じましたね……はい。

 

 そのように王の帰還もかくやとばかりに、私は上限を超えて跳ね上がった高揚のまま化粧室を飛び出し──その勢いのまま、私に睡眠薬を嗅がせてきた不埒な輩をついつい返り討ちにしてしまったものだった。

 

 

『キリツグ、なんか急に臭い布を嗅がされたので思わず殴り倒してしまいましたが、何ですかこの人は?』

『……ただの変質者だ。僕が話をつけておく。お前は下がれログレス』

『あ──はい、マスター』

 

 

 ……どうやらその男はこの町で犯行を重ねていた人攫いグループのメンバーで、この私を誘拐しようとしたらしい。キリツグに引っ付きながら街を歩いていた姿から、実行犯は私のことを無力で大人しい良いところのお嬢様だと勘違いしたようだ。

 反撃のパンチが鳩尾に刺さった時は、目を見開いて驚いていたわけですね。私も念無しの右ストレートがあそこまで上手く決まったことに内心驚いていた。

 

 いわく、私の傍からキリツグが居なくなったところを見計らって、睡眠薬で私を眠らせアジトへ連れ去るつもりだったという──実行犯の行動だった。

 

 気絶したその男の襟首を掴んで乱暴に運んでいったキリツグは、ハンターライセンスを見せながら店長らしき人物と話をした後、奥のバックルームへと速やかに通されていく。

 私を襲ったその男は念能力者ではなかったが、キリツグとしては放っておけない事件だったのだろう。実際、私に毒物への耐性が無かったらそのまま連れ去られていた可能性は否定できない。

 

 そう、この時の私と来たらやっとの思いで穿けた喜びに浮かれて、周囲への警戒を完全に怠っていたのである。私としては笑えない失策だった。

 

 敵が念能力者だったら終わっていたぞ。何とも情けない醜態だな──と、コトミネキレイからは散々小言を言われたものだ。……それについては、はい。返す言葉もなかった。

 

 

 ──だが、その件をきっかけとして同日。町に蠢く人攫いグループが丸々滅び去ることになったのは、敵を誘き寄せた私の手柄と言っても良いのではないかと思います。

 

 尤もこの時の私にはプロハンター権限を以て実行犯の男にキツめの交渉をしているキリツグの姿が衝撃的すぎて、その辺りのポジティブシンキングには至れなかったが。

 

 

「あの時のキリツグの目は……怖かったです」

 

 

 ……ええ、キリツグはプロでした。

 彼の実力を疑ったことは無いが、良い警官にも悪い警官にもなりきれる精神性を持った本物のブラックリストハンターだったのだ。

 

 私の前ではひょうきんな態度を見せることが多かったキリツグだが、バックルームの奥から聴こえてくる仕事中の彼の声はまるで別人のようで……身体の芯から底冷えするような冷たい響きを発していた。

 

 

『久方ぶりに見たな……あの男があれほどの激情を表す姿は。それでこそエミヤ=キリツグだ』

『…………』

『無言で私の足を踏むな。八つ当たりの騎士王よ』

 

 

 バックルームの前で待機している店員さんたちと私が緊張の面持ちを浮かべていた中で、1人だけ愉悦の笑みを浮かべていたのが彼の念獣【何ともつまらぬ結末(コトミネキレイ)】である。

 そんな彼の姿を見て、私は──

 

 

『貴方は……コトミネキレイイー!』

 

 

 ──キリツグに代わって、その名前を呼んであげたものだ。

 心優しい騎士王さんに感謝するがいいですよコトミネキレイ。

 

 困惑する店員さんがた一同。お前この空気でやるか普通……とでも言いたげな目で私を見下ろす念獣。

 うるさいですね、こんな時だけまともぶらないでくださいエセ神父が。

 

 何でもいいから、叫ばずにはいられなかったのだ。この時の私には、それ以外に感情のやり場が見つからなかった。

 何故そう思ったのかは自分でもわからない。何故でしょうね? 自分の奇行が怖いです……

 

 

 ただ──あの時のキリツグは狙われた人間が私だったからあれほどの怒りを見せたのか……それとも誰が狙われても同じ怒りを見せたのかと──そんな疑問を胸に抱えた途端、私の心の中には妙に落ち着かない自分がいたのだ。

 それは本当に、どうでもいい疑問だと思うのですが……何なんでしょうかねこモヤモヤは。その感情は、思い出した今でも変わらず燻り続けている。

 

 ……ポンズはわかりますか?

 

 

「……わかるような気はするけど、私の口からは言えないわねー」

「何ですかそれは? はっきりしない答えですね」

「答えを自分で狩っていくのが、私たちハンターでしょう?」

「一理あります。いいことを言いますね」

 

 

 ──ま、その話の掘り下げは長くなりそうなので、また今度にするとして。

 

 

 この後、私はメチャクチャ買い物を楽しんだ。

 「この空気で?」と思うかもしれないが、バックルームへ消えたキリツグ自身がそうするよう私に促してきたのだから仕方がない。ああ──本当に仕方がない。

 

 一度だけ顔を出してきたキリツグが、出迎えたコトミネキレイに1枚のカードを渡すなり私に言った。

 

 

『僕はまだあの男と話をしている。しばらくの間ここにいるから、ログレスはこのまま買い物を楽しんできてくれ。コトミネ、支払いはそのカードで頼む。コレでたくさん、この子に似合う服を買ってやれ』

『ふむ……その程度の雑事、警察にでも任せておけば良いものを……音に聴こえた念能力者殺しも、何とも甘くなったものだなエミヤ=キリツグ』

『甘くて結構だ。2年後にはどうなっているかわからないが、今のこの子は僕の弟子で……まだ幼い。僕は正義の味方になりたかった系ハンターだからね──朝が来るまでには、連中にこの落とし前はつけさせるさ』

『いい顔に戻ったなエミヤ=キリツグ。この頃の平穏の中でも、牙を失っていないようで何よりだ』

 

 

 私を置いてそのようなハードボイルドなやり取りをしている2人には言いたいこともあったが、この時の私には上手い言葉が出てこなかった。

 後で知ったがこういう時は「パパお仕事がんばってー」だとか「お気をつけてねー」と言うのが一般的らしいが、彼は私の父親ではないし、相手はプロハンターが手間取るような大物でもない。キリツグほどの男が動けば、気をつけていなくてもすぐに片が付くことはわかりきっていたのだ。

 

 故に──私はこの胸に拭えぬモヤモヤを抱えたまま、コトミネキレイと共に買い物スペースへ戻ることとなった。

 

 

 

 

 

 

 ──ですが、それはそれとして言われた通り、その後も買い物を楽しみましたよ。

 

 私にとっては渡りに船の状況、乗らない手は無かったのだ。

 この時の私はリスに浴衣を盗られていたせいで下着どころか何の服も持っていませんでしたからね……鎧を具現化する能力が無かったら全裸で町まで赴くことになったかもしれないと思うとゾッとしない。

 そんな屈辱的な体験をした身だからこそ、衣服の備えという重要性を誰よりも強く認識していた。故に、妥協することなく……下着はもちろん上下共に数着ほどキリツグのカードで買っていただきました。

 便利ですね、紙幣も貨幣も用いない電子決算という都会の技術は。「SaySayカード」というそれを決算時にセットすると、少女の声で「セイセイッ!」と鳴るのも可愛らしくて面白い。なんだかちょっとだけ私の声に似ているのも親近感が湧く。

 

 私とコトミネキレイが共に並んで何台もの買い物カゴの中に敷き詰めたそれらの服は、普段着以外には運動用の「ジャージ」という衣装、それとキリツグが滝壺にダイブした時に便利そうだと思ったので、水着も少々購入させていただきました。これについては種類が豊富すぎて目が回りましたが、前にキリツグが私に似合うと言っていた青色を選びました。

 

 決算時には私が一瞬にして笑顔を失ってしまうほどの金額が表示されたものだが、後でその決算票を見てもキリツグは難色一つ示すこと無く快く頷いていた。

 こういうところの感覚は流石はプロハンターである。その稼ぎを以てすれば「大きな家」に「いい服」、「美味しい食べ物」も容易く手に入ると見て、私は俄然ハンターへの憧れを深めたところだった。

 

 

「騎士姫さんには、意外と俗なところもあるのね」

 

 

 当然です。誇りだけで衣食住が満たせたら苦労は無いのです。

 誇りで尊厳を保てますか? 下着は手に入りますか? 穿きたい時に穿くことができますか?

 お金が無かったら一生あのままでしたよ私……ドレスを自分で用意できるだけ、まだ私は恵まれている方です。

 

 

「……なんか、ごめんなさい」

 

 

 お金で買えないものはありますが、逆に言えばお金さえあれば大概の問題は解決できるのです。それを身に沁みて理解させられたこの頃、先立つ物の重要性は熟知していた私である。

 

 だが、村にいた頃も老人たちから与えられた服しか着たことのなかった私には、恥ずかしながらこのような店での服の選び方というものが全くわからなかったので、そこはやむなくコトミネキレイに一任することとした。

 目を覆いたくなるような醜いデザインであれば私の方で却下したところだが、幸いにして彼のセンスは中々どうして、予想外と言っては失礼だが悪くなかったものである。もちろん、下着と水着だけは恥ずかしかったので自分自身で選んだが。

 特に下着についてはドレスアーマーが上下共に白を基調としているので、上から透けない色を選択しました。

 

 

『貴方はもしかして、神父ではなく服選びの仕事の方が合っているのでは?』

『礼装の選択は、念獣である私には死活問題なのでな。良い物を選ぶ目は養われている。お前も精々早くこれらの衣装に似合う姿になるのだな、ロード=ログレス』

『ま、まだ私の成長はこれからです! 13歳になったら10cm伸びるので見ておいてください!』

 

 

 あの念獣、詩のセンスもそうでしたが妙に私服のセンスも良いのですよね。

 側からはテキトーに選んだようにしか見えない早さでテキパキとカゴに載せていたものだが、私の身に訪れるその後の成長期も見越した上で、完璧なサイズと落ち着いた配色を選択し、ついでにおすすめの重ね方まで教えてもらった。

 その際には試着を手伝っていただいた店員さんから「素敵なお父様ですね!」と誤解されたのは甚だ遺憾だったが。

 しかしアレも外から見れば清廉で頼りになる男性的な風貌と、聖職者らしい謎めいた雰囲気を併せ持った魅力的な姿をしていますからね。実際、各所ではやたらとご婦人方からの受けが良かった。

 アレが父親なのは流石に勘弁願いたいところだが、キリツグよりも女性の扱いに手慣れているように感じたのは私も同じである。

 

 私もスーツを着て女性のエスコートをする時などは、キリツグよりも彼の所作を参考にしている。もちろん参考にしているのは外面だけだが、私なりにサマになっていたのではないでしょうか。

 

 

「ポンズはどう思いました?」

「……ええ……それに関しては危険すぎると感じたぐらい凄かったわ。貴女のエスコートは。昔読んだ絵本の王子様のように完璧に手を差し出してくれるのだもの……」

 

 

 私もポンズのような素敵な女性とダンスを踊ることになるとは思いませんでした。しかもハンター試験という舞台で。

 

 面食らいましたが楽しかったですね……シーラ試験官の二次試験。

 

 

 

 






 SaySayカードの音声はキリツグの自作です。機械音声をこう、頑張ってCV川澄風に調教しました。
 いつかログレスに吹き込んでもらえないか企んでますが普通に頼んだら快く引き受けてくれるでしょう。

 アンケートの回答ありがとうございます。ここからはハンター試験を中心に語らせつつはかせnightもしていきます。

迷うねェ〜❤︎(参考までに需要調査)

  • ハンター試験❤︎
  • Fate はかせ night
  • 両方書くのがベストじゃない?
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