おれを誰だと思ってる?ヒグマさんだぞ   作:親分

8 / 8
ヒグマさんは海軍を案内されます

 

 

 

 

「今日、お前の案内をする。海軍本部中将のセンゴクだ。」

「案内よろしくな、センゴクさん。」

「……。」

 

ヒグマは、目の前に立つ男を一瞥した。ガープに連れられて海軍本部まで来たはいいものの、まさか案内役が中将直々に来るとは思っていなかった。

 

「しかし、ずいぶん偉い人が来たもんだな。」

「勘違いするな。」

 

センゴクは踵を返す。

 

「ガープがお前を連れてきた以上、海軍としても無下にはできん。だが──」

 

一歩、歩き出す。それに呼応するように、ヒグマも歩き出す。

 

「お前がどんな人間なのか、私自身の目で見ておきたい。」

「へぇ。」

 

ヒグマは酒瓶を肩に担いだ。

 

「つまり、監視ってわけか。」

「……好きに解釈しろ。」

「そりゃあ楽しい案内になりそうだ。」

「私は楽しくするつもりはない。」

「おれはするつもりだけどな。」

 

──海軍本部。白を基調とした壁、綺麗に磨きあげられた床。すれ違う海兵からの視線を浴びながら、ヒグマは、センゴクに連れられて海軍本部の中を歩いていた。

 

「ここが海軍本部の食堂だ。腹が減ったら好きに食え。」

「……へぇ。酒はあんのか?」

「ない。……そっちは訓練場。海兵どもが毎日そこで鍛えてる。」

「ふーん。」

「んで、こっちが宿舎だ。」

「……。」

 

ヒグマは酒瓶を片手に、興味なさそうに辺りを見回している。さっきの食堂の飯は美味そうだな、と少し気にはなっているヒグマ。センゴクはそんなヒグマを気にすることなく、どんどん先へ進んでいく。

 

「ここが資料室。勝手に入るなよ。」

「なぁ、海軍本部の案内だけなら部下とかにやらせていいんじゃねぇか?わざわざセンゴクさん直々とは、結構暇なんだな、中将様ってやつは。」

「お前なぁ……。」

 

センゴクが呆れた顔をする。

 

「ガープがお前を連れて来た、実力に関しちゃ信頼できるだろうが、信用はしていない。もしお前が暴れた時は部下では対応が出来ないからな。」

「そりゃそうだ。」

「まあ気にするな。最初のうちだけだ。お前がきちんと実績を積み重ねて、信用に足る人物だと判断したら快く受け入れてやる。」

「つまりは海軍の為に働けって事かよ。」

「そうだ。」

「じゃあ、その時は酒奢ってくれよ。」

「ダメだ。」

 

そんなやり取りをしながら廊下を歩いていると、ヒグマがふと足を止めた。

 

「……ん?」

 

大きく光が差し込んでいる。廊下の大きな窓。その向こうに、広い訓練場が見える。そこには、一人の男と数名の新人海兵がいた。紫色の髪。鍛え上げられた身体。

 

組手でもしているのだろう。拳を受け止める音が、窓越しにも聞こえてくる。ヒグマは酒瓶を口元から離した。

 

「……あいつは…、『黒腕のゼファー』か。」

 

センゴクがヒグマの視線を追う。そして、訓練場にいる男を見つける。

 

「あぁ。──あいつは今日休暇のはずなんだが、全く、また新人に稽古つけてやってるのか。」

 

後に海軍大将と呼ばれる男。そして、この世界で『海軍』を最も体現していると言ってもいい男。だが、今、窓の向こうにいる男は、まだ大将ではない。ヒグマはしばらくゼファーを眺めていた。ゼファーは一人一人の相手をし、どの動きが悪かった、など改善点をひたすらに伝えていた。まもなく昼食の時間になろうというのに、それでも止まらない。ヒグマは小さく息を吐いた。

 

「休む気ねぇじゃねぇか。」

「そういう奴なんだ。真面目だろ?」

 

センゴクが即座に返す。ヒグマは酒を一口飲む。

 

「で、あいつ強ぇのか?」

「そりゃあ強ぇぞ。」

 

センゴクは即答した。その声には、冗談も誇張もなかった。ヒグマは酒瓶を持ったまま、もう一度、窓の向こうへ視線を戻す。訓練場では、ゼファーが新人海兵と向かい合っていた。

 

「来い!」

 

新人海兵が歯を食いしばり、勢いよく踏み込む。右、左。続けざまに放たれる拳。ゼファーは、それらを最小限の動きで躱していく。頭を僅かに傾ける。肩を引く。半歩だけ後ろへ下がる。それだけだった。大きく動いているわけではない。だが、拳は一発もゼファーに届かない。

 

「遅い!」

 

ゼファーの声が訓練場に響いた。次の瞬間、ゼファーの拳が新人海兵の腹へ軽くめり込んだ。

 

「ぐっ……!」

 

その一撃に新人がお腹を抑え、その場で膝をつく。だが、ゼファーは手を差し伸べる。

 

「今の踏み込みは悪くない。ただ、拳を出す前に肩が動いてる。相手に次の動きを読ませるな。」

「は、はい!」

「よし少し休憩しろ。次はお前だ。かかってこい。」

「えっ……?──は、はい!」

 

新人が立ち上がる。その様子を、ヒグマは黙って見ていた。

 

「……なるほどな。ありゃあ、強ぇ。」

 

ヒグマの口元が僅かに歪む。センゴクが横目で見る。

 

「分かるのか?」

「いや、さっきより評価が上がった。」

「お前の評価なんぞ、本人は欲しがらんだろう。」

「そりゃあ残念だ。」

 

ヒグマは酒瓶を軽く傾けた。

 

「強ぇ奴ってのは、動きがうるさくねぇ。無駄な動きがねぇんだ。あいつ、相手の動きを見てから動いてるんじゃねぇ。動く前に、もう読んでやがる。…見る目はあると思うんだがな、おれ。」

「酒しか飲んでないやつにどうこう言われてもな…。」

「ひでえこと言うじゃねえか。」

 

センゴクが鼻で笑った。

 

「……それは、お前の日頃の行いが悪いだけだ。」

「おいおい。会ってまだ数時間だぞ?」

「十分だ。」

「早ぇな、判断が。」

「むしろ遅いくらいだ。」

「そうかい。」

 

ヒグマは楽しそうに笑った。その時、訓練場から、また一際大きな音が響く。新人海兵が地面を転がった。

 

「まだまだ!」

 

ゼファーの声が飛ぶ。

 

「立て!」

「……は、はい!」

「返事が小さい!」

「はいッ!!」

 

その訓練の様子を見て、思わず笑いが出る。

 

「ハハッ……!」

「何がおかしい?」

「いやぁ……。」

 

ヒグマは笑いながらゼファーを見る。

 

「休暇って言葉、あいつ知らねぇんじゃねぇか?」

「……まあ、否定はできん。」

「今日休みなんだろ?なのに新人をしごいてる。」

「そうだ。」

「一つ気になるのは──」

「何だ?」

 

ヒグマは酒瓶を傾ける。

 

「アイツ。」

「ゼファーが?」

「ああ。」

 

ヒグマの目は、窓の向こうのゼファーから離れない。

 

「自分より強ぇ奴と戦う時も、あんな顔してんのか?」

 

センゴクが黙る。

 

「……どういう意味だ?」

 

「もっと強ぇ奴を前にした時に、どうなるのかって話だ。笑うのか、怒るのか、それとも、嬉しくなるのか。」

 

センゴクは、ヒグマの横顔を見た。その表情からは、先ほどまでのふざけた雰囲気が消えている。

 

「……お前。ゼファーと戦いたいのか?」

 

ヒグマは少し考えた。そして

 

「まあな。強ぇ奴なら、殴ってみたくなるだろ?」

「ならない。」

「つまんねぇな。」

「お前がおかしいんだ。」

「そうか?じゃあ、覚えとく。」

「覚える気がない顔だな。」

「よく分かったな。」

 

センゴクが頭を抱える。その横で、ヒグマは楽しそうに笑った。だが、その目だけは笑っていなかった。窓の向こう。ゼファーもまた、こちらを見ている。互いの距離はまだ遠い。声も届かない。それでも、二人の視線だけは、まるで糸で結ばれたように絡み合っていた。先に視線を外したのはゼファーだった。新人海兵へ向き直る。

 

「休憩だ!昼飯を食ってこい!」

「教官は?」

「俺も行く。」

「本当ですか!?」

 

新人たちが笑う。ゼファーも笑った。その様子を見て、ヒグマがぽつりと言う。

 

「……悪くねぇな。」

「何がだ?」

「海軍。」

 

センゴクが横目でヒグマを見る。

 

「ほう。」

「思ってたより、退屈しなさそうだ。」

「それは何よりだ。」

「ただ──酒がねえ。致命的だ。酒貰いにさっきの食堂行かねえか?」

「帰れ。」

「まだ案内の途中だろ。」

「お前、本当に腹立つな。」

「褒め言葉として受け取っとく。」

「褒めていない。」

 

二人の声が、白い廊下に響く。その先では。昼食へ向かうゼファーたちの笑い声が聞こえていた。

 

 

 

 

 

--------------

 

 

 

 

 

――聖地マリージョア。

 

静寂に包まれた五老星の間。巨大な扉が閉じられる。その音は重く、まるで世界そのものが封じられたかのように響いた。誰も口を開かない。

椅子に座る五人の視線が、中央に置かれた一枚の報告書へと集まっている。紙はただの紙であるはずなのに、まるで罪そのもののように扱われていた。

 

「……報告は?」

 

低い声が響く。それは問いではない。確認でもない。“結果の宣告”に近い響きだった。しばしの沈黙、やがて、サターンが淡々と答える。

 

「……ない。あの戦い、そしてその報告書が全てだ。戦いというより、一方的な蹂躙だったか…。」

「…。」

「イム様の命令は明確だった。」

「ああ。」

 

その返事は、忠誠ではない。“当然”という前提の確認だった。

 

「それなのに、私は失敗した。あの男の覇気の影響でこの右腕と右目を失った。あの御方にこの身を回収して貰わなければ、死んでいた。」

「…その男は今どこにいる?」

「海軍本部だ。」

「海軍本部……?」

 

その言葉を聞いた一人が、わずかに目を細める。

 

「ガープが連れて行った。」

「なぜ海軍に?」

「さあな。」

 

無関心ではない。すでに答えを知っている者の、切り捨てだ。一人が報告書を指で叩く。乾いた音が一度だけ響く。

 

「ガープはあの男を買っているらしい。」

「よりによってガープか。」

「厄介だな。」

「海軍に置いておけば、こちらから手を出すのも難しくなる。」

「だが、放置するわけにもいかん。」

「当然だ。」

 

“当然”が重なるたびに、この場の意思が一つに収束していく。一人が顔を上げる。

 

「サターンを無傷で退けるほどの男だぞ。」

「……。」

「もし、あの男が世界政府そのものに牙を剥けば?」

「その時は──」

 

言葉が一度、途切れる。誰も続きを待たない。すでに結論は共有されている。

 

「あの御方以外では止められん。」

 

別の男が静かに続ける。

 

「ならば、海軍に監視させればいい。」

「センゴクか。」

「ああ。」

「信用できるのか?」

 

その問いに、わずかな間が生まれる。そして答えは、冷たく落ちる。

 

「少なくとも、ガープよりはな。」

 

誰かが、ほんの僅かに鼻で笑った。それは嘲笑ではない

 

「ガープが連れてきた男を、センゴクに見張らせるか。」

「皮肉だ。」

「だが、合理だ。」

「それしかない。」

 

再び沈黙。

 

やがて、一人がぽつりと言う。

 

「……殺すべきではないのか?」

 

その瞬間、全員の視線が一斉に向く。

 

「あの御方はそう命じられた。」

「だからこそだ。」

「何?」

「サターンが失敗した。」

「……。」

「次に誰を送る?」

 

誰も答えない。

 

「もう一度、同じことをするのか?」

 

その問いは、責任の所在を問うものではない。

 

「それとも──」

 

男は窓のない壁へ視線を向ける。そこには何もない。だが彼らにとっては一人の人間に固執して身を滅ぼすより、“世界”がある。

 

「こちらから手を出すのを止めるか。」

「しかし、あの御方の御命令だ。」

「ああ。」

 

その返事には従属ではなく、絶対の前提がある。

 

「ならば、しばらく泳がせる。」

「海軍に?監視するということか。」

「ああ。」

「そして、もし──」

 

一瞬の間。その“間”すら計算されたように整っている。

 

「海軍に馴染み、世界政府に敵意を示さないのなら?」

「その時は……利用すればいい。」

 

その言葉で、議題は終わる──かと思われた。

 

「…では、もし、敵意を示したなら?」

「その時は、話が変わる。海軍にいるからと言って、手が出せないわけではない。」

「だが、ガープもいる。センゴクもいる。奴が実績を上げ、海軍全体がやつを庇ったらどうする?」

「それでもだ。世界政府に牙を剥く者を、海軍の都合で生かしておく理由は無い。あの御方に報告するのは、その結果を見てからでも遅くはない。」

 

一人の声が低くなる。空気は更に重みを増す。誰も異論を挟まない。挟む必要がない。五人は同時に、報告書から視線を外す。まるで“存在しないもの”として処理したかのように。そして、誰も知らない。

 

当の本人は今──

 

海軍本部の廊下で、酒を片手にセンゴクへ絡みながら、食堂へ戻ろうと駄々をこねている。

 

「……酒がねぇ。」

「諦めろ。」

「いや、まだ食堂に戻れば何かあるかもしれねぇ。」

「ないと言っただろう。」

「確認してみようぜ。」

「子供か、お前は。」

 

そんなくだらない会話を交わしている男が。世界政府最高権力の五人によって、“処理対象”として静かに議題に上がっていることなど──ヒグマ本人は、知る由もなかった。

 

 

 

 




高評価、感想待ってるぜい!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

死ぬ気で戦ったら宿儺に親友認定された件(作者:雨天)(原作:呪術廻戦)

▼ 呪術廻戦のファンだったオリ主が平安時代に転生し、生まれ持った強さから両面宿儺討伐に参加することになり、仲間達がやられても戦い続けたら宿儺に親友と呼ばれるようになった話。▼ 活動報告はXで行っています。▼ → https://x.com/uten80▼タグは随時追加


総合評価:2799/評価:7.5/連載:6話/更新日時:2026年07月19日(日) 02:00 小説情報

伏黒宿儺に「そろそろ狩るか…♠︎」する転生者(作者:羂索は踊り狂って死ぬ♠︎)(原作:呪術廻戦)

▼ 呪術廻戦を知らない転生者が伏黒宿儺相手に「そろそろ狩るか…♠︎」するだけの話。▼タグは随時追加


総合評価:5343/評価:7.36/連載:7話/更新日時:2026年08月06日(木) 18:19 小説情報

ストライカーから絶望扱いされるまどかちゃん(作者:クロアブースト)(原作:ブルーロック)

サッカーにおける勝利する方法は二つ。▼点を取るか、取られないか。▼そして化け物染みた身体能力によるセービングで点を取られない事に特化し過ぎて世界のストライカー達からクソゲー扱いされる位に畏怖される日本人の男の娘GK 終 円(おわり まどか)がいた。▼絵心「ブルーロックのプロジェクトで日本代表のストライカーが決まるまで戻って来るな」▼まどかちゃん「ふぇ!?」▼…


総合評価:4641/評価:8.25/短編:3話/更新日時:2026年08月14日(金) 13:58 小説情報

かませじゃないよ、カストロさん(作者:喜代治も)(原作:HUNTER×HUNTER)

▼「お前今私のことス○トロつったか?」▼「言ってな……言ったよ♦︎」▼「殺す」▼「❤︎」


総合評価:7619/評価:8.81/短編:1話/更新日時:2026年07月21日(火) 19:03 小説情報

怪物と英雄の狭間で(作者:伝説の一般元ブロリスト)(原作:僕のヒーローアカデミア)

▼ヒロアカ世界にもしブロリー(超)が生まれていたらなぁーという感じ+父親がパラガスではなくオールマイトで、彼の養子という設定のお話。▼ブロリー(超)の二次創作やクロスがあんまりにも少ないので自分で書いちゃうかという感じで書きました!!!▼貴方も貴女もブロリーを推しにしませんか?


総合評価:4551/評価:8.78/連載:13話/更新日時:2026年08月14日(金) 07:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>