暗黒球団に強豪球団の未完の大器()の俺がトレード移籍したら、良くしてくれる先輩の意識が変すぎる件 作:区星
オリジナル:現代/スポーツ
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【トレード】名古屋ゴールデンオーカーズ・久瀬陽斗外野手と川崎ホエールズ・石動拓真投手の交換トレードが成立
名古屋ゴールデンオーカーズは本日、久瀬陽斗外野手(二三)と、川崎ホエールズの石動拓真投手(二七)との交換トレードが成立したことを発表した。
久瀬は立南高校からドラフト二位でゴールデンオーカーズに入団。高校通算四十七本塁打の強打者として期待され、二軍では通算五十六本塁打を記録しているものの、一軍ではここまで通算百七十六試合に出場し、打率.二〇七、十二本塁打、三十六打点と結果を残しきれていなかった。
今季も一軍では三十四試合の出場にとどまり、打率.一九八、三本塁打。強打の外野手として将来を嘱望されながら、層の厚いゴールデンオーカーズ外野陣の中で出場機会を得られず、今オフの動向が注目されていた。
一方の石動は社会人を経て川崎ホエールズに入団した右腕。今季は二十三試合に登板し、七勝十敗、防御率四.一八。チーム事情から先発ローテーションを一年間守り、規定投球回には届かなかったものの、百三十八回二/三を投げた。通算では二十九勝四十二敗、防御率四.三六。勝ち星こそ伸びていないが、低迷するホエールズ投手陣の中で貴重なイニングイーターとして存在感を示していた。
ゴールデンオーカーズは今季、リーグ優勝を逃したものの、来季も優勝候補の一角と目されている。盤石な投手陣の中で、先発五、六番手およびロングリリーフを担える石動の獲得は、長いシーズンを戦ううえで大きな補強となりそうだ。
対するホエールズは今季も最下位。チーム打率、防御率ともにリーグ下位に沈み、長打力不足も深刻だった。球団関係者は久瀬について「環境を変えることで大きく飛躍する可能性がある。年齢的にもまだ若く、長打力は大きな魅力」と期待を寄せた。
両球団の思惑が一致した形だが、実績面では石動が大きく上回っており、ホエールズが将来性に賭けたトレードとも言える。
なお、久瀬は球団を通じて「突然のことで驚いていますが、必要としていただいたことに感謝しています。川崎で一から頑張ります」とコメントした。
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【速報】オーカーズ久瀬とホエールズ石動がトレード
1:名無しの野球民
久瀬で石動取れるホエールズさんwwwwwwwwww
2:名無しの野球民
ファッ!?
3:名無しの野球民
オーカーズうますぎやろこれ
4:名無しの野球民
石動ってホエールズなら先発五番手やけど普通にイニング食えるからな
久瀬はロマン枠やぞ
5:名無しの野球民
ホエールズさん、また素材集めて満足してしまう
6:名無しの野球民
久瀬は二軍だと打つから……
7:名無しの野球民
>>6
二軍の帝王定期
8:名無しの野球民
まあホエールズなら出番はあるやろ
オーカーズだと外野厚すぎて無理
9:名無しの野球民
大砲候補(笑)でローテ投手取れるの草
10:名無しの野球民
いうて石動も防御率四点台やん
11:名無しの野球民
>>10
ホエールズの守備と球場で四点台前半ならようやっとるんだよなあ
12:名無しの野球民
オーカーズの守備なら三点台いけそう
13:名無しの野球民
久瀬って高卒六年目やろ?
そろそろラストチャンス感あるな
14:名無しの野球民
ホエールズの外野
三隅 固定
残り 日替わり
いけるやん!
15:名無しの野球民
三隅は内野もやるぞ
16:名無しの野球民
じゃあどこでも空いてるやんけ!
17:名無しの野球民
三隅「どこ守ったって同じなんで」
久瀬「えぇ……」
18:名無しの野球民
久瀬、三隅塾に入れ
19:名無しの野球民
>>18
技術は上がるけど心が死にそう
20:名無しの野球民
三隅って若手見るんか?
21:名無しの野球民
聞かれたら教える
自分からは誘わない
自主トレは基本ソロ
22:名無しの野球民
久瀬みたいな強豪育ちがホエールズ行ったらカルチャーショック凄そう
23:名無しの野球民
オーカーズ「一球への執念」
ホエールズ「今日は声出てるから実質勝ち」
こんなイメージ
24:名無しの野球民
>>23
草
25:名無しの野球民
いや笑えんぞ
26:名無しの野球民
久瀬が覚醒したらホエールズ勝ち
しなかったらオーカーズ勝ち
石動が三点台で八勝したらオーカーズ大勝ち
27:名無しの野球民
つまりだいたいオーカーズ勝ちでは?
28:名無しの野球民
せやな
29:名無しの野球民
でも久瀬の弾道はガチ
当たれば飛ぶ
30:名無しの野球民
当たれば、な
31:名無しの野球民
三振多い
変化球くるくる
守備普通
肩強い
足は遅くない
この手の外野手、ホエールズファン大好きそう
32:名無しの野球民
そして三年後に戦力外や
33:名無しの野球民
やめーや
34:名無しの野球民
久瀬「環境を変えて頑張ります」
ホエールズ「環境なら変わるぞ」
35:名無しの野球民
良い方に変わるとは言ってない
36:名無しの野球民
久瀬、ようこそ暗黒へ
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トレードは、ゲームの中の出来事だと思っていた。
いや、正確には違う。
自分が関係しないところで起きるものだと思っていた。
新聞やニュースで見る。キャンプ前にファンが騒ぐ。解説者が「両球団にとって良いトレードですね」と言う。本人が会見で「新天地で頑張ります」と言う。
そこまで全部、どこか他人事だった。
それがまさか、俺自身の名前で流れる日が来るとは思わなかった。
「久瀬、ちょっと残ってくれ」
秋季練習が終わったあと、二軍監督に呼ばれた。
その時点で、嫌な予感はあった。
今年も一軍では結果が出なかった。
高卒六年目。来年で二十四歳。若手と言ってもらえる期間は、もうほとんど残っていない。
名古屋ゴールデンオーカーズという球団は、強い。
強い球団というのは、優しい場所ではない。
練習はきつい。ミスには厳しい。競争は毎日ある。昨日ホームランを打っても、今日の内容が悪ければすぐに言われる。若手だから、期待されているから、ドラフト順位が高いから。そんな理由で打席が降ってくるほど甘くない。
俺は、その場所で六年を過ごした。
過ごしただけだった。
二軍では打った。
真っすぐなら飛ばせた。甘い変化球ならスタンドに入れられた。練習では誰よりも遠くへ飛ばせる日もあった。
でも一軍では違った。
外のスライダーに手が出る。内の真っすぐに詰まる。カウントを悪くして、最後は落ちる球を振る。
何度も同じことを繰り返した。
そのたびにコーチに言われた。
お前は力がある。
きっかけ一つだ。
ただ、そのきっかけは最後まで来なかった。
「川崎に行くことになった」
二軍監督の声は、いつもより少しだけ低かった。
俺は、その言葉の意味を理解するまでに数秒かかった。
「……トレード、ですか」
「そうだ」
聞き返す声が、思ったよりも落ち着いていた。
自分でも意外だった。
もっと動揺すると思っていた。もっと悔しがると思っていた。もっと、捨てられたような気持ちになると思っていた。
だけど実際には、胸の奥で何かが静かに落ちただけだった。
ああ、そうか。
俺はもう、ここではないのか。
「相手は石動さんですか」
「もう知ってるのか」
「噂で」
嘘だった。
噂ではなく、なんとなくわかっただけだ。
川崎ホエールズが欲しがるとしたら、若い外野手だろう。ゴールデンオーカーズが欲しがるとしたら、投手だろう。ホエールズで出せる投手となれば、名前は限られている。
石動拓真。
二十七歳。
右投げ。先発。大きな武器はないが、試合は作れる。
今年、七勝十敗。
あのホエールズで七勝した投手。
その意味は、他球団の七勝より少し重い。
「お前にとっては、悪い話じゃない」
二軍監督はそう言った。
「向こうなら、チャンスはある。試合に出られる」
「はい」
「ただな」
監督は一度、言葉を切った。
「楽な場所だと思うなよ」
俺は、すぐには返事をしなかった。
ゴールデンオーカーズから見た川崎ホエールズ。
正直に言えば、勝つことに慣れていない球団、という印象だった。
毎年のように下位に沈む。投手が崩れる。守備が乱れる。打線はつながらない。春先だけ少し騒がれて、交流戦の頃には順位表の下にいる。
そういう球団。
でも、プロ野球の球団であることに変わりはない。
俺みたいな、まだ何者にもなれていない選手が、楽な場所だと見下せる相手ではない。
「はい。頑張ります」
そう答えた。
監督は、少しだけ頷いた。
「久瀬」
「はい」
「お前は、まだ終わってない」
その一言は、ありがたかった。
でも同時に、きつかった。
終わっていない。
つまり、まだ始まってもいない。
六年間やってきて、俺はまだ始まってもいなかった。
荷物をまとめながら、ロッカーを見る。
ゴールデンオーカーズのロッカーは綺麗だった。
物の置き方一つにも、空気があった。
スパイクは揃える。バットは決められた場所に置く。ウェアは出しっぱなしにしない。グラウンドに出る前に、準備を終わらせておく。
当たり前のことだった。
当たり前だと思っていた。
年が明けて、二月。
川崎ホエールズの春季キャンプ地に入った。
空港から球団のバスに乗り、宿舎へ向かう。窓の外には、名古屋とは違う明るさの空が広がっていた。南国の空気。青い海。観光客の声。
キャンプ地特有の浮ついた空気が、どこか遠くにあった。
俺は、新しいユニフォームの入ったバッグを膝に置いたまま、何度も自分の名前を確認していた。
久瀬陽斗。
川崎ホエールズ。
もう、名古屋ゴールデンオーカーズではない。
キャンプ初日の朝、俺は予定よりかなり早く球場に向かった。
全体アップ開始は午前十時。
それでも、八時前には球場に入った。
ゴールデンオーカーズでは、それが普通だった。
若手は早く来る。身体を起こす。道具を確認する。トレーナーに状態を伝える。必要なら室内で先に汗を流す。
全体練習が始まる頃には、もう一日の半分は準備が終わっている。
そういう感覚だった。
だから、いつも通りに来た。
球場には、スタッフがすでにいた。
グラウンド整備の人たち。球団職員。トレーナー。早出のためのマシンを準備しているスタッフ。
選手も数人はいた。
ただ、思ったより少なかった。
それ自体は、おかしなことではない。
キャンプ前の自主トレ期間ではない。今日は球団管理の春季キャンプ初日だ。全体練習の時間に合わせて選手が動くのは普通だ。
普通だ。
普通なのだが、身体の奥に染みついた強豪球団の時間感覚が、どうしても違和感を訴えてくる。
八時半を過ぎても、若手の数はまばらだった。
九時を過ぎて、ようやくロッカーの声が増えた。
九時二十分。九時三十分。
それでも誰も慌てていない。
遅刻ではない。
全体アップには間に合っている。
でも、余裕が薄い。
俺はロッカーの端で、スパイクの紐を結び直しながら、その空気を見ていた。
「早いね」
背後から声がした。
振り返ると、背の高い選手がバッグを肩にかけて歩いてきていた。
眠そうな顔だった。
俺より年上だろう。たぶん投手。見覚えはあるが、名前がすぐに出てこない。
「はい。ゴールデンオーカーズから来ました、久瀬です」
「あー、トレードの。よろしく」
「よろしくお願いします」
頭を下げる。
その選手は俺の横を通り過ぎながら、欠伸をした。
「オーカーズって、やっぱこの時間から来るんだ」
「え?」
「いや、早いなって」
「……普通だと思ってました」
「真面目だねえ」
悪意のない声だった。
むしろ、感心しているようにも聞こえた。
俺は返事に困った。
真面目。
たぶん、褒め言葉なのだろう。
でも、ゴールデンオーカーズでは、それは褒め言葉ではなかった。
真面目なのは前提だった。
そのうえで結果を出す。結果を出しても、次の日にはまた同じように準備する。
それだけだった。
全体アップが始まる。
声は出ている。
雰囲気も悪くない。
むしろ明るい。
ただ、締まりが違った。
ランニングの列が少し緩い。体操の合間に笑いが起きる。キャッチボールで多少球が逸れても、軽くいじって終わる。
ゴールデンオーカーズでは、ミスをした瞬間に空気が変わった。
誰かが怒る前に、本人がわかる。
自分が一つ遅れたことを、自分で理解する。
でもここでは、その遅れが空気に残らない。
流れていく。
次のプレーに、悪い意味で引きずらない。
俺は最初、それを良いことだと思おうとした。
切り替えが早いのだと。
雰囲気を悪くしないのだと。
でも、違った。
ただ、残らないだけだった。
午前の守備練習。
外野ノックに入った俺は、まず無難にこなすことだけを考えた。
移籍初日から目立つ必要はない。
だが、打球が飛んできた瞬間、身体は勝手に前へ出た。
浅いライナー。
一歩目は悪くない。
捕球もできた。
返球もそれなりに強かった。
「おお、久瀬、肩いいな!」
誰かが声を上げた。
周りからも軽い拍手が起きる。
悪い気はしなかった。
むしろ、少しほっとした。
歓迎されている。
そう感じた。
でも同時に、胸の奥が妙に落ち着かなかった。
今のプレーは、褒められるほどのものだったか。
確かに返球は強かった。
ただ、捕球までの入り方は少し雑だった。足も最後に流れた。ゴールデンオーカーズなら、間違いなく「捕ってから投げるまでをもっと揃えろ」と言われていた。
ここでは、肩が強ければ褒められる。
それがありがたいのか、怖いのか、自分でもわからなかった。
昼を挟んで、午後のフリー打撃。
俺は力んだ。
最初の数球を打ち損じ、次の球を無理に引っ張って、三塁側のネットに当てた。
「久瀬、力あるなあ!」
また、声が飛んだ。
悪意はない。
むしろ歓迎の声だった。
でも俺は、内心で歯を食いしばった。
違う。
今のは褒められる打球じゃない。
強く振っただけだ。
形が崩れて、タイミングも外れて、たまたま速い打球になっただけだ。
ゴールデンオーカーズなら、間違いなく言われていた。
今のは違うぞ、と。
俺は次の球を待った。
少し間を取る。
呼吸を整える。
投手の手から白球が離れた瞬間、外のスライダーだとわかった。
届く。
届くが、打っても良い打球にはならない。
見逃すべき球。
なのに、身体が動いた。
バットの先に当たった打球が、二塁ベースの後ろへ弱く転がる。
打撃投手が笑った。
「今のもヒットだな」
俺は、笑えなかった。
全体練習が終わったあと、居残り練習の時間になった。
キャンプだから、個別練習はある。
特打。特守。走塁練習。ウエイト。治療。
ただ、その空気もやはり違った。
残る選手は残る。
引き上げる選手は、あっさり引き上げる。
もちろん、それ自体は悪くない。
身体の状態もある。ベテランにはベテランの調整がある。全員が長く残ればいいというものでもない。
頭ではわかっている。
けれど、六年間染みついた感覚が、どうしても言う。
本当にそれでいいのか。
俺はグラブを持って、外野へ向かった。
身体を動かしていないと、変なことを考えそうだった。
俺は、ここで試合に出られるかもしれない。
たぶん、出られる。
出場機会は増える。
でも、その先に何があるのか。
試合に出て、打てなかったら。
打てなくても、またチャンスが来るのだとしたら。
それは、俺にとって良いことなのか。
外野フェンス際で、ひとり打球を追っている選手がいた。
スタッフに頼んで、外野の左右へ打球を飛ばしてもらっている。
中堅、左中間、右中間。
淡々と走る。
捕る。
返す。
また走る。
周りの空気から、少しだけ切り離されていた。
三隅裕輝。
すぐにわかった。
ホエールズの顔。
名球会はまだ先だが、すでに球界を代表する野手の一人。
首位打者。最多安打。盗塁王。ゴールデングラブ。ベストナイン。
ショートも守る。セカンドも守る。サードも守る。外野も守る。
俺がテレビで見ていた三隅は、いつも涼しい顔でヒットを打ち、当たり前のように難しい打球を処理していた。
その三隅が、一人で外野を走っていた。
俺は、思わず見ていた。
打球が左中間へ飛ぶ。
三隅さんは一歩目で落下点を決めたように走り、最後はほとんど減速せずに捕った。
派手ではない。
でも、無駄がない。
捕ってからの返球も速い。
俺は外野手だ。
だから余計にわかる。
あれは、簡単に見えるように捕っているだけだ。
「見るだけなら、もう少し後ろからの方がいいですよ」
突然、声をかけられた。
俺は驚いて振り返った。
三隅さんが、いつの間にか近くにいた。
汗はかいているが、息は乱れていない。
「す、すみません」
「別に謝ることではないですけど。久瀬ですよね」
「はい。久瀬陽斗です。よろしくお願いします」
「三隅です」
知っています、と言いかけて、飲み込んだ。
三隅さんは俺のグラブをちらりと見た。
「外野?」
「はい。両翼が多いです。センターも少し」
「肩は?」
「強い方だと思います」
「なら、ライトからやった方が出やすいかもしれませんね」
いきなり具体的な話だった。
俺は少し戸惑った。
「ライト、ですか」
「このチーム、ライトが固定できてないので。レフトは打てれば誰でもいいですけど、ライトは肩がある方がまだ見られます」
「三隅さんが守るんじゃないんですか?」
「僕はたぶん、今年も内野が足りなくなったらそっちに行くので」
何でもないことのように言った。
「……大変ですね」
「慣れました」
「守備位置が変わると、打撃に影響とか出ないんですか」
「出る人は出るんじゃないですか」
「三隅さんは」
「どこ守ったって同じなので」
その言い方は、あまりにも軽かった。
チーム事情で守備位置を変えられる。
普通なら、調整が難しい。負担も大きい。打撃への影響もある。
それを、どこ守ったって同じ、と言う。
俺は、その言葉を一瞬、格好良いと思った。
プロだと思った。
場所に文句を言わず、与えられた仕事をする。
俺に足りなかったものかもしれない、とさえ思った。
「久瀬」
「はい」
「打撃、見ましたけど」
心臓が少し跳ねた。
「はい」
「強く振れるのは良いです。ただ、外の変化球を打ちにいくなら、最初からそれ用の身体にした方がいいです。さっきみたいに真っすぐ待ちの身体で追いかけると、だいたい二ゴロか空振りです」
「……はい」
「このチームだと、強い打球なら褒められると思いますけど」
三隅さんは、そこで一度言葉を切った。
「それに慣れると、たぶん終わります」
静かな声だった。
怒っているわけではない。
脅しているわけでもない。
ただ、事実を言っているだけ。
その感じが、逆に刺さった。
「はい」
「練習するなら、付き合いますよ」
「え?」
「どうせ僕も打ちますし」
「いいんですか?」
「打撃投手がいるうちなら」
それは、あまりにも自然な申し出だった。
移籍してきたばかりの俺に、球団のスターが練習を見てくれる。
普通なら、感激する場面だ。
実際、俺は嬉しかった。
少しだけ救われたような気がした。
「お願いします」
頭を下げると、三隅さんは軽く頷いた。
「じゃあ、まず外の球を見逃す練習からで」
「打たないんですか」
「打てない球を打つ練習より、打たなくていい球を打たない練習の方が先だと思います」
言っていることは、正しかった。
あまりにも正しかった。
俺は、この人についていけばいいのかもしれないと思った。
少なくとも、このチームで、三隅裕輝だけは普通だ。
そう思った。
その日の練習後、ロッカーで荷物を片付けていると、三隅さんが隣に座った。
「宿舎、慣れました?」
「まだ全然です」
「車は?」
「持ってきてないです」
「じゃあ、しばらく不便ですね。コンビニか薬局に寄るなら乗せますよ」
「え、いいんですか?」
「通り道なら」
また、その言い方だった。
親切なのに、恩着せがましさがまったくない。
むしろ、作業のついでみたいに人を助ける。
俺は、少し笑った。
「三隅さんって、優しいんですね」
言った瞬間、三隅さんが本気で不思議そうな顔をした。
「そうですか?」
「はい。移籍してきたばかりなので、助かります」
「それはまあ、放っておいても誰かが面倒を見るでしょうけど」
「でも、練習まで見てくれて」
「打てる人が増えた方が、僕が楽なので」
俺はまた笑いかけて、途中で止まった。
楽。
チームが強くなるから、ではない。
勝ちたいから、でもない。
自分が楽になるから。
三隅さんは、バッグのファスナーを閉めながら続けた。
「このチーム、普通にやれば出番はありますよ」
「普通に、ですか」
「はい。時間を守って、怪我をしないで、守れるところを増やして、打てる球を打つ。それだけでだいぶ評価されます」
「……それだけで、ですか」
「それだけで、というか」
三隅さんは少し考えるように視線を上げた。
「それをやらない人が多いので」
ロッカーの向こう側で、誰かが笑っていた。
今日のフリー打撃で柵越えしたとか、夜はどこへ行くとか、そんな話をしている。
明るい声だった。
悪い人たちではないのだと思う。
たぶん、本当に。
でも俺は、その笑い声を聞きながら、昼間の打撃練習を思い出していた。
強い打球なら褒められる。
それに慣れると、たぶん終わる。
「久瀬」
「はい」
「ここ、出番はあります」
「はい」
「ただ、出番があることと、上手くなることは別です」
俺は、返事を忘れた。
三隅さんは立ち上がった。
「コンビニ、行くなら三十分後に駐車場で」
「あ、はい。お願いします」
「あと」
「はい」
「このチームで褒められたことを、全部信じない方がいいです」
そう言って、三隅さんはロッカーを出ていった。
俺はしばらく、その場に座ったままだった。
春季キャンプ初日。
新しい球団。
思っていたよりも明るい空気。
思っていたよりも軽い緊張感。
思っていたよりも優しい先輩。
そして、思っていたよりも冷たい言葉。
俺はまだ、この球団のことを何も知らない。
でも一つだけ、わかったことがある。
川崎ホエールズは、俺が想像していたよりもずっと変なチームだ。
そして、その中で一番まともに見える三隅裕輝という人も。
たぶん、どこか変だ。