具現化系で最強の念能力者を目指す方法はバーチャル配信者にある。


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最強の念能力者とは、バーチャル配信者のアルセーヌ=ラパンちゃんである。

 

 

『ピョンにちわ〜! 月の海からやって来た怪盗美少女ハンターのアルセーヌ=ラパン‼︎ 今日もみんな睡眠時間をハントしちゃうよ〜☆』

 

 

 薄暗い部屋で、液晶だけが輝く。

 バーチャル配信者(ライバー)のアルセーヌ=ラパン。

 眠れない夜は、彼女(推し)の声を聞くのが男の日課だった。

 

「寝落ち配信、助かる……っと」

 

 配信を眺めながら、コメントと共にお布施(スーパーチャット)を送る。

 男には家族がいない。友人も、恋人もいない。だから、男が稼いだお金は全て推しに注ぎ込んだ。

 

 初めは、感謝のためだった。

 趣味もない男の人生を彩ってくれた推しに感謝を込めて、何かの足しになれば良いと思ってスーパーチャットを送った。

 

 次は、推しの反応が気になった。

 怪盗美少女ハンターを名乗る推しは、スーパーチャットを貰う事を『警部(※ラパンのファンネーム)のみんなから貰った挑戦状に応えるため、元気とお金をハントした』と表現する。

 それなのにスーパーチャットを貰いすぎると逆に、『ハントしすぎちゃうと生態系が崩れてマズイから、スパチャはちょっとで良いよ』と遠慮する。それが可愛くて、スーパーチャットを毎晩送った。

 

 しかし、最後には不純な動機が混じる。

 スーパーチャットには推しが反応してくれる。

 スーパーチャットだけが冴えない男と推しを繋ぐ唯一の場所。

 

 なのに、推しはスーパーチャットではないコメントも読むし、他のバーチャル配信者(ライバー)と関わったりもする。

 男はそれが許せなかった。自分はこれだけお金をかけているのに、推しは自分の事など気にも留めていない。

 それが許せなくて、憎くて、憎くて、憎くて、憎くて、憎くて、憎くて、憎くて、憎くて、憎くて、憎くて、憎くて、憎くて、憎くて、憎くて、憎くて、憎くて、憎くて、憎くて、憎くて、憎くて、憎くて、憎くて、憎くて、憎くて、憎くて、憎くて、憎くて、憎くて、憎くて、憎くて、憎くて、憎くて、憎くて、憎くて、憎くて、憎くて堪らない。

 

 

 愛が憎悪に反転する。

 その時、男は念能力に目覚めた。

 

 

「ハッハッハッハッハッ……」

 

 電脳ネットで念能力に目覚めた人向けのサイトを見つけられたのは幸運だった。

 男は電脳ネット上に溢れる信用して良いか分からない知識と独学、そして溢れんばかりの愛と憎悪で、自身が最も求める“発”を作り出す。

 

 具現化系、『糸し糸しと言う心(アリアドネ)』。

 小指から伸びる赤い糸は、男が心の底から愛した人間の居場所に向かって伸びる。

 

 前世だとか中の人とか、そういったバーチャル配信者(ライバー)不文律(タブー)はもはやどうでも良かった。

 画面上の偽物じゃない。本物の彼女に見つけるため、男は仕事を辞めて旅に出る。

 

「ハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ……」

 

 それは国を超える旅だった。

 車、船、飛行船、

 様々な乗り物を乗り継いで、初めて赤い糸が方向を示すだけではない反応をする。

 

 住んでいる街を見つけてからは早かった。

 糸が示すのは、防音設備が充実した高級マンションの一室。

 

 双眼鏡で推しのベランダ覗く。

 そこには信じられない光景があった。

 

「ハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ……」

 

 推しの部屋に、男がいた。

 警部(ファン)から巻き上げたカネで、推しは男と暮らしていた。

 

 瞬間、憎悪が爆発した。

 自動扉を蹴破り、高級マンションに侵入する。

 エレベーターのボタンを押すも、怒りのあまりボタンを破壊する。もはやエレベーターが降りてくるのすら待ちきれない。

 

「ハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ……‼︎」

 

 男は階段を駆け上がる。

 息が切れるのも気にしない。

 怒りのまま、最上階の推しの部屋へ。

 

「アア、ァァアアアアアア────ァ‼︎」

 

 喉から迸る絶叫。

 漲るオーラをぶつけて部屋に押し入る。

 

 直後、小指から伸びた赤い糸が目の前の男をぐるぐる巻きにして拘束する。

 怒りによって新たに生み出された“発”。具現化系、『悪縁契り深し(ユエラオ)』。

 

 何処にでもいそうな眼鏡をかけた男性だった。

 爽やかで顔立ちが良いのも男の癪に触る。

 骨がへし折れるほど威力で、赤い糸を締め付ける。

 

 しかし、その時に気付く。

 『悪縁契り深し(ユエラオ)』とは別に、もう一つの“発”──『糸し糸しと言う心(アリアドネ)』がとある反応をしていた事に。

 

 男が心の先から愛した人間に繋がる赤い糸──推しを示す小指は、目の前の男性を向いていた。

 

 そう。

 つまり、それは。

 

 

「…………()()()()……?」

 

 

 バーチャル美少女受肉おじさん。

 推しの中の人は目の前にいる。

 怪盗美少女ハンターのアルセーヌ=ラパンの正体は、メガネをかけたおじさんだったのだ!

 

「そう、か。貴方は……ラパンの警部(ファン)ですか。モノを探す念で僕を見つけたのですね」

「うるさい! やめろ……黙れ! 聞きたくない。お、おれは何も聞きたくない……‼︎」

「貴方は……勘違いをしています。ラパンの中身が僕なのだろうと思っているのでしょうけど、それは逆です。ラパンの中に僕がいるんじゃない。()()()()()()()()()()()()()

「…………は?」

 

 思考が止まる。

 畳み掛けられた情報量に、男の頭はついていけない。

 

 

「ピョンにちわ〜! おおう。わたしを見つける事だけに特化した念かあ。愛されてるね〜、照れりこ照れりこ」

 

 

 それはまるで出産だった。

 メガネの男性の腹の中から、見覚えのある美少女が出現する。

 

 怪盗美少女ハンター、アルセーヌ=ラパン。

 赤い糸が示していたのは、メガネの男性ではなかったのだ。

 

「な、なんっ、だ……?」

「貴方と一緒ですよ。貴方の念が糸を形作るように、僕の念は『怪盗美少女ハンター』を生み出す。つまり、僕はラパンの中の人ではなく、ラパンのママ……あるいはプロデューサーと言うべきでしょう」

 

 具現化系能力、『推しの子(ホラフキパヘット)』。

 二次元にしかいないような美少女の念人形。

 

 効果は二つ。

 一つは他者から愛される振る舞いをする事。

 操作系とは違い、単純な見た目と言動だけで他人の心を奪う能力。

 

 ただし、この能力で他者を騙したり殺したりなど、悪用する事はできない。

 警部(ファン)を裏切るような行動を取れば、念能力を失ってアルセーヌ=ラパンは引退する。それがプロデューサーと名乗る男性が自身に課した制約と誓約。

 

 そして、もう一つ。

 

 

「で〜も〜、自宅に押しかけてママに襲いかかるってのはやり過ぎじゃな〜い? 流石のラパンちゃんも見過ごせませんよ〜。そ〜れ、オイタする子はハントしちゃうぞ〜☆」

 

 

 がくん、と。

 男の体から力が抜ける。

 いや、これは──

 

「オーラの、強制徴収……ッ⁉︎」

「アンチなんかは配信者(ライバー)を集金装置なんて言いますけどね。あながち間違いでもないんですよ。──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 『推しの子(ホラフキパヘット)』のもう一つの効果。

 それはオーラの強制徴収。アルセーヌ=ラパンという念人形は、警部(ファン)のみんなからオーラを集める事ができる。

 

「あり……えない! おれは電脳ネットのサイトで見た! そんなっ、強すぎる念能力は作れない‼︎」

「無論、無条件ではありません。オーラの徴収のためには、ラパンは事前に許可を取る必要があります」

「しっ、しらない! おれはそんなのっ、許可した事なんて……っ‼︎」

「いいえ、知っています。ラパンはいつも言っているでしょう? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「────────、あ」

 

 スーパーチャットだけではない。

 ファンクラブやメンバーシップも同じ。

 相手からの送金を許可と見做し、合計送金額に比例した量の元気(オーラ)を徴取する権利を獲得する。

 

 男が送金した額では、とっくに男が持っているオーラの総量を上回っている。

 その気になれば、男はいつだってオーラを搾り取られて死んでいた。

 

「安心してください。ラパンは貴方を殺しませんよ。そうでしょう?」

「そ〜だね〜☆ 殺人だなんて警部(ファン)のみんなを裏切るような酷い事はしないよ〜!」

 

 だから、と。

 アルセーヌ=ラパンと呼ばれる念人形は、現実ではあり得ないほど美しい笑みを浮かべて告げる。

 

 

「ぜ〜んぶ忘れて、元の日常に戻ろうね☆」

 

 

 その言葉を最後に、男の意識は途切れる。

 オーラが奪われる、だけでは済まない。

 借金取りが現金の返済では足りない分を、家具や臓器などを持っていって補填するのと同じ。

 『推しの子(ホラフキパヘット)』のオーラ強制徴収において、送金額がオーラの総量を大きく上回る場合、相手の念能力や記憶などをオーラに変換して奪い取る。

 

 やがて、目覚めた男にはラパンと出会った記憶は失われ、念能力を手にした事さえ夢幻のように消えていた。

 

 

 

 

 

『ピョンにちわ〜! 月の海からやって来た怪盗美少女ハンターのアルセーヌ=ラパン‼︎ 今日はみんなの貴重なお昼休みをハントしちゃうよ〜☆』

 

 翌日の昼。

 プロデューサーと名乗るメガネをかけた男性は、携帯端末でラパンの配信を眺めながら思う。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()……。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 実の所、念能力の襲撃というのは昨日が初めてではなかった。

 何度目かの命の危機。しかし、プロデューサーは身の安全を心配などカケラもしていなかった。

 プロデューサーは信じているのだ。自身が生み出した念──『推しの子(ホラフキパヘット)』が最強である事を。

 

(人間一人にできる事などたかが知れています。百年を超えて武の極地に至った人間だって、核兵器でも撃たれたら呆気なく死んでしまう。当然でしょう。たった一人が百年かけた鍛錬よりも、人類が数千年かけて積み上げた集合知の方が重いに決まっている)

 

 プロデューサーは弱い。

 オーラを纏えると言っても、拳銃の流れ弾一つで死ぬ程度の“纏”しか使えない。

 しかし、彼は武の極地に興味はない。一人で至れる程度の最強に価値などないと吐き捨てる。

 

(けれど、僕の『推しの子(ホラフキパヘット)』は最強です。一千万人の警部(ファン)からオーラを徴収し、アルセーヌ=ラパンを一緒に作り上げる……ある意味では相互協力型(ジョイントタイプ)の能力。一千万人で作り上げた少女は、()()()()()()()()()()()

 

 プロデューサーの二つ目の“発”ではない。

 一千万人の念によって形作られたアルセーヌ=ラパンは、独自の念能力さえ有するに至った。

 そして、彼女の編み出した“発”こそまさに最強の能力。

 

 

 特質系、『超かぐや姫!(ルナティックウォーズ)』。

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 バーチャル世界の住人であるアルセーヌ=ラパンは、電脳ネットを肉体の一部と見做すことができる。

 二次元と三次元は曖昧になり、アルセーヌ=ラパンは電脳ネットに遍在する概念となる。

 

 それが意味する事は大きい。

 例えば、射程の拡張。

 まるで神出鬼没な怪盗美少女であるという設定に準拠するように、彼女は電脳ネットを介してどんな場所にも侵入(アクセス)ができる。

 

 NGLや暗黒大陸のような電脳ネットに接続する機器が存在しないような場所こそ不可能であるが、そのような秘境を除けば五大大陸(V5)全てが射程圏内。

 具現化系で生み出された念人形でありながら、一千万人のオーラがその射程を無限大に拡張する。

 

 更に、怪物を超えた生存能力。

 もはや、発端であるプロデューサーを殺しても『推しの子(ホラフキパヘット)』という念は残り続ける。

 電脳ネットに繋がる電子機器を全て破壊しない限り、アルセーヌ=ラパンが消滅する事はない。

 

 しかし、それ以上に大きいのが、電脳ネットそのものであるラパンはあらゆる電子データを書き換えられるということ。

 それはハンター専用サイト『狩人の酒場』にすら侵入し、ハンター試験を受験する事なくハンター名簿にラパンの名を増やすほどの実力。

 

 一人が百年鍛えて到達した武の極地より、人類が数千年かけて積み重ねた集合知の方が重いのは当たり前である。

 ならば、そんな人類の集合知の結晶である電脳ネット全てを支配できるというのは、どれだけ大きな事なのか。

 

 『超かぐや姫!(ルナティックウォーズ)』。

 世界規模の射程と電脳ネット支配能力。

 悪用できないという制限こそあれど、最強の念能力と言っても過言ではないだろう。

 

(……ま、アルセーヌ=ラパンはとっくに自分で制御できる段階を超えているんですけどね)

 

 最初の核こそプロデューサーの念が発端であるが、その後は一千万人の念が混ざっている。

 最強の念能力が人類に反旗を翻しても、もはや誰も止められない。

 

 あるいは、プロデューサーが気付いていないだけで、アルセーヌ=ラパンは既に世界征服を進めているのかも知れないが。

 

 

「まあ、それはそれで良いでしょう」

 

 

 プロデューサー。

 性別、男。本名不明。年齢不明。

 そもそも美少女を具現化できるレベルの妄想癖があり、美少女に振り回されるのに快感を感じるタイプの変態。

 

 美少女に征服されるのならば本望である。

 

 

 


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