キャプテン翼if武蔵の10番〜三杉淳の意志を継ぐ者〜 作:ロンゲスト・ロード
城星学園グラウンド 都大会1回戦。
中学サッカー界の絶対王者・東邦学園中等部が登場するとあって、観客席は超満員の熱気に包れていた。初戦を4—0で圧勝した武蔵中学校イレブンも、その中に混ざってバックネット裏から見守っていた。
東邦ベンチでは、北詰誠監督が選手たちを前に静かに語りかけていた。
「初戦の相手、高尾中学はクラブチーム出身の選手が多く、個々の技術が高い。油断せずに行け」
すると、キャプテンマークを巻いた松山光が前に出た。
「監督。相手の個の技術が高いのであれば、例の戦術を試すには絶好の相手だと思いますが」
北詰は少し思案したのち、脇に控えるコーチに視線を投げた。
「……そうだな。山本コーチ、行けそうか?」
「前半だけなら、十分に持ちます」
「よし。ボランチに松山と岬を入れろ。前半で試合を終わらせるぞ」
「聞いての通りだ! みんな、前半で一気に勝負を決めるぞ!」
「「「オーッ!!」」」
【東邦学園中等部 VS 高尾中学校】
高尾中のキックオフで試合が始まった。
その直後、観客席からどよめきが上がった。東邦の前線——日向小次郎と1年の沢田タケシが、凄まじいスピードと連動性で相手の保持者に襲いかかったのだ。
苦し紛れに出した横パスを、狙い澄ましていた松山がカット! すかさずボランチの相棒・岬太郎へ繋ぐ。岬は前線へやや長めのフィードを送った。
誰も届かないかと思われたその瞬間、驚異的な爆発力で影が駆け抜ける。2年の新田瞬だ!
新田はそのまま高速ドリブルでカットインすると、迷わず右足を一閃! 電光石火の先制ゴール!
「す、すげえ……! これが東邦か!」
歓喜する観客たちの中で、武蔵の部員たちは目を見開いていた。
「なっ……俺たちと同じ『ゾーンプレス』を、東邦も……!?」副主将の本間が息をのむ。
「けっ、俺たちにできることは自分たちもできるってアピールかよ」真田が苦々しく吐き捨てた。
ピッチ上の松山は、ギャラリーの一角に陣取る武蔵の集団を視線で捉えていた。
(見たか、翼。最新の戦術はお前たちだけのものじゃないんだぜ……!)
「さあみんな、油断するな! まだまだ行くぞ!」
東邦の緻密で苛烈なゾーンプレスに、高尾中は完全にパニックへ陥った。ボールを持てば即座に距離を詰められ、苦し紛れのパスはすべて松山&岬の黄金ボランチに狩り取られる。
沢田の鋭いクロスから日向が力強いヘディングで2点目。
続いて、FW反町がサイドに流れてDFを引きつけると、生まれた中央のスペースに走り込んだ松山が強烈なミドルを叩き込んで3点目!
3—0。東邦が圧倒的なプレッシャーで前半を終了した。
ハーフタイム中、武蔵の観客席では警戒の声が飛び交っていた。
「あの13番の反町も、一ノ瀬君みたいに周りを活かすプレーが抜群に上手いな」翼が分析する。
「いや、新田さんの裏への抜け出しの速さも尋常じゃないぜ……」真田正己も舌を巻いた。
やがて後半が始まった。
東邦は沢田を下げて4番の小池をボランチに入れ、岬を1列上のトップ下へ配置転換した。しかし、前半見せた激しいゾーンプレスは影を潜めていた。
「あれ……? ゾーンプレスをやめたぞ?」真田が首をかしげる。
隣の浅田コーチが静かに告げた。
「ゾーンプレスは莫大なスタミナを消費するわ。東邦といえど、今の年齢で試合全体を通してかけ続けるのは体力的に不可能なのよ」
浅田の言葉通り、中学生のスタミナではフルタイムのゾーンプレスは持たない。だからこその北詰監督の「前半で終わらせる」指示だったのだ。
圧力が弱まり、高尾中がボールを保持する時間が増えた。しかし、東邦のゴール前には守護神・若島津健が立ちはだかる。高尾のシュートを難なくキャッチした若島津は、すぐさま前線へ超ロングキック!
前線で収めた新田がDFを置き去りにし、最後は中央の日向へラストパス。日向はボールを左足から右足に持ち替えて豪快に叩き込み、4点目!
さらに試合終盤、日向が自ら強烈なパワーを発揮してドリブルで突破。そのまま“右足”で力任せに叩き込み、5点目! 見事にハットトリックを達成した。
そのまま試合終了のホイッスル。
5—0。絶対王者・東邦学園の圧勝劇だった。
「やっぱり東邦は強い!」「今年は去年以上に隙がないぞ!」「日向は今年も得点王間違いなしだな!」
スタンドからは東邦を称える大歓声が巻き起こっていた。
しかし——武蔵のベンチ裏で腕を組んでいた火野竜馬と兵藤監督の反応は、周囲とはまったく異なっていた。
火野がフッと口元を歪め、吐き捨てるように呟いた。
「ふっ……自分の右足でゴリ押すことしか能がねぇのか。ポストプレーで周りを活かすアシストもできなきゃ、左足も使えない……あんな『欠陥ストライカー』が日本のトップ気取りとは、笑わせるぜ」
その言葉に、兵藤監督も静かにほくそえんだ。
(……王者・東邦のエースに、まさかあれほど巨大な穴があろうとはな。ふふっ……これでうちが『東京1位』で抜けることは間違いない)
圧倒的なスコアで勝利した日向小次郎。だがそのプレーには、強烈な右足への極端な依存と、ポストプレーで味方を活かす幅の欠如という明らかな弱点が隠されていた。
周囲を活かすポストプレーもこなし、左右どちらからでも破壊的なシュートが打てる『完成されたストライカー』火野竜馬と、智将・兵藤。ふたりは王者の致命的な「綻び」を完璧に見抜いていた。
決戦の刻は、着実に近づいている。
王者東邦の圧勝劇の裏で晒されたエースストライカー日向の致命的な弱点!武蔵中学と対戦すればどうなるのか!