────長靴を履いたねこって知ってる?
そんな声が木漏れ日で微睡むボクをいつも呼び覚ます。
たおやかな膝の上で優しく撫でられながら、ボクはここに来た時のことを夢にみる。
小雨がしとしと降る日だった。夕暮れの商店街。
薄暗い路地裏に薄汚れた小さな黒猫が1匹、声を殺しながら身を潜めていた。
───もう、3日まともなモノを食べれてない。
お腹がにゃあにゃあと鳴いている。
最後にまともなのを食べたのは下校中の小学生から貰ったあまりのコッペパンの切れ端だけ。
それ以外はゴミを漁ってどうにか食いつないでいる。
猫の鋭敏な感覚が、もうすぐ大雨が降ると告げている。
道向かいには店仕舞いを始めた魚屋、すこし鮮度の落ちても堪え難い匂いがボクの鼻孔をくすぐる。
(ここで食べれないと死んじゃう、と思う。だから、仕方ないんだ。ごめんなさい、おじさん。)
一抱えもある発泡スチロールを抱えた店主が後ろを向く
───今だっ!
千載一遇、反射的に体が動いた。
飛び出したボクの耳に届いた甲高いベルの音、走りながら反射的に顔を向けると、すこし先に横並びに自転車を漕ぐ3人の学生がこっちに向かってきていた。
(まずいぶつかる!でももうすぐたどり着く!あっちが避けてくれるでしょ?!)
「ミ゛ャア!!」
目当てのものに突っ込んだボクに蹴り出すように足が掠める。
商品棚に転がり込むボクに驚いた店主が振り向く。
「なんだぁ!!?おいガキども!俺の店に、ん?猫?おい」
怒声に毛が逆立つ。逃げないと、逃げないと!聞こえてくる声を無視して走り去る。
「あ!?おいまて!!まてっ……が……!」
どれだけ歩いただろう。
(さむい、おなかすいた、ここは?ボクは…しぬの?)
ボクが人間だった時の記憶は日に日に掠れて、もうほとんど思い出せない、分かるのは人間だったことと何か後悔があったという思いだけ。
畜生道に堕ちたのが、ボクへの罰なのかな?神様って、なんて残酷なんだろう。走馬灯みたいに消えたはずの知識が浮かんでくる。
(今日は、つかれたな…すこし、ねよ う…)
冷えていく体に身を任せて、意識を沈めていく。
かつての記憶に思いを馳せて醒めない夢におちていこう
──────まよいこんだの?
……どうしてだろう。雨が止んだ気がしたんだ。
キミの、大好きな、ひだまりみたいな声が聞こえたんだ。
「……て………おきてあいびょう」
声に導かれて目を開く。
顔を上げると大好きなキミがどんな花よりも綺麗に微笑んでる。
「ほら、あっち。今日も、みんな来てるよ?」
今日も、迷い込んだ猫たちがここに集まってくる。
ここは、猫の楽園。誰もがここでは猫になる。
ただ一人、澪だけが人として暮らしてる。
彼女の膝の上が、人から猫になったボクの今の居場所。
その手が、その声が、迷いを解きほぐす。
ここは、ボクたちの箱庭
──────────────────澪の、箱庭
はじめまして
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どうか、あなたの心のどこかに触れられたら、うれしいです。