こんな所でよろしいでしょうか?
ご笑納ください。
24話でモモンガさんが人間に変身できちゃったから、自制心吹き飛んだアルベドとレクターとか
ある日の第6階層――
「外に出て本物の星空を見るのも良いが、ブループラネットさんが作ったこの星空も良いものだな」
偽物と知っていても感動はある。
絵画や彫刻など、こうした作品の良さというものは、ひとつに「本物以上」を作れることにある。実際はもっと暗い星々をうんと明るく作り、実際はもっとのっぺりした風景を立体的に陰影をつけるなど。
富嶽三十六景にも見られるように、富士山を実際より急峻に描いたり、海の波を実際より大きく描いたり。
「きれいですわね」
「ああ……」
「……『お前のほうがきれいだよ』とか言ってくださっても良いのですよ?」
「うわぁ……なんてクラシックな……。
いや、お前は私の太陽だ。星と比べるものではあるまい」
「まあ……。
では、夜の間は帷の内に沈んでおかねばなりませんわね」
アルベドは、モモンガの闇色のローブを引いて、その内側へ身を滑り込ませた。
太陽は、朝になるまで夜の帷を出ることはなかった。
◇
水で感動していたレクターに現地の料理と騙して段階すっ飛ばしてナザリックの高級料理を食べさせたらどうなるか試してみるモモンガさんとか
「デミえもん、食事に行こう」
「デミ……ふぅ。
本日のアインズ様当番はシクススです。
私がその役目を奪うわけには……」
「そうではない。
食事の用意をしろという事ではなくて、私と一緒に食事に行こうという話だ」
「それはまた光栄な。
喜んでご一緒いたします。
ですが、急にどのような風の吹き回しで?」
「ふと気になってな。
私たちがリアルで食べていたものといったら、食材の形も残らぬ名状しがたきドロドロだった」
「ああ、ディストピア飯というやつですね」
「うむ。従ってナザリックの食事のみならず、外の現地人の食事でさえ感動的だ。
しかしお前は飽食の時代から来たのだろう?
では、ナザリックの食事はともかく、外の食事をどう思うのだろうか、と思ってな」
「左様でございましたか」
「そうはいっても、大衆食堂に紛れ込むというわけにもいかない身分だ。
エ・ランテルで最も高級とされる宿屋に部屋をとってある。
――ゲート。
では行こうか」
「お供いたします」
というわけでゲートをくぐって宿屋へ。
アルベドの変装ともいえない変装でお忍びデートに出かけるので、市井の者たちは暗黙の了解で「知らないふり」をしているのだが……まあ、それは言わないほうが良いか。本当はバレバレで、大衆食堂に行っても全然大丈夫ですよとか、モモンガ様が恥ずか死ぬかもしれない。
実際の所、俺は外の大衆食堂によく通う。ホムンクルスの種族特性で食事量が多いものの、ナザリックの食事は美味しすぎて食べる覚悟ができていない。水でさえ感動的なのだ。よほどの覚悟をもって臨まねば、気絶しかねない。
そこでナザリックの水を飲んで舌を慣らしつつ、外の食事で腹を満たしている状態だ。
そういうわけでナザリックの食堂では食事をしたことがない。バーでピッキーに「なかなか慣れなくて」と愚痴をこぼしたら――
「ゆっくり馴染んでください」
「わざと味を落として作ってもらったりは……」
「それは料理長が怒ると思います。
料理人に『わざと手を抜け』というのは、矜持が許さないことです」
「デスヨネー。
……美味すぎるのがいけない」
「それは嬉しい言葉ですが、ぜひ食べてから言ってください。
食べてもらうために作るのですから」
そんな話になった。
さて、宿屋。
客室に出たようだ。
パンドラズ・アクター扮する冒険者モモンが待機していた。モモンが取った宿に、モモンの客として訪れたという形にしているのだろう。兜を脱いだ顔は、この世界でいう「南方系」だ。健康的なモモンガ様(人間形態)という印象である。
痩せ型でちょっと病的な印象さえあるモモンガ様(人間形態)と比べると、モデルが同じ人物の顔とは思えないほど違う印象である。とてもエネルギーに満ちていて、いかにも「鍛えている」という顔だ。
室内のテーブルにつくと、間もなく宿屋の従業員らしき人たちが現れ、給仕を始めた。
コース料理か。
現地の食事といっても、こういう高級なのは初めてだ。
「お先に、何かお飲み物お持ちしましょうか」
モモンガ様とパンドラと俺。
着席したところで、給仕のホテルマンが尋ねた。
視線を交わすと、2人は俺が最初に注文しろという顔をしたので、
「辛口の白ワインを」
「かしこまりました」
水を注文するわけにはいかない。
まずもって、このあたりの水は硬水だ。紅茶をいれるには良いらしいが、水のまま飲むには適さない。人によって苦みやクセを強く感じ、飲みづらいことがある。俺がいつも感動しながら飲んでいるナザリックの水も軟水である。
ちなみに、無限の水差しから出る水も軟水である。そもそもユグドラシルのアイテムなので「水」というデータが生成されて出てくるわけで、軟水というより「純水」と言ったほうが正しい。純度100%、不純物なしの「H2O」が出てくるからだ。科学の実験に使えるレベルの代物である。
「私もそれを貰おう」
「では私も同じ物を」
あー……モモンガ様は、そういう算段か。いつものやつね。
パンドラは何でも良さそうだ。
用意された白ワインに口をつける。
「……これは……」
美味い。変な汗が出るほどだ。
外の酒がこれほどの……?
俺の舌がバカすぎて違いが分からないのだろうか? これではまるでピッキーのバーに匹敵するような味わいだ。
かろうじて気絶しないのは、何度か飲んでいるから。いや、すでに何度「も」飲んでいると言うべきか。水以外に味のついた物も飲んで舌を慣れさせなくては……とバーにはけっこう通い詰めている。
困惑している間に、最初の料理が運ばれてきた。
「鮮魚のカルパッチョでございます。本日はリ・ロベルから届きましたマワリウオを使用。バルサミコスをラム酒の風味でワカメとトマト――」
見た感じ、プリプリしていて新鮮そうだ。白身魚。鯛のようなものだろうか。
内陸にあるエ・ランテルで、西海岸のリ・ロベルから……?
保存の魔法があるから、チルドとかの技術がなくても遠距離を陸送できるのか。
距離的には、カッツェ平野の南に広がる国境の湖(法国と竜王国の間にある)のほうが近いはずだが、カッツェ平野はモモンガ様が天地改変で溶岩地帯にしたので――それ以前もアンデッドの脅威があったので――湖から水産物を得るというのは、エ・ランテルにとって難しい事だろう。法国から輸入する形が一番安全で、総合的には一番早いはずだ。
しかし関税がかかる事を考えると、西海岸から陸運しても費用はそれほど変わらないといったところか。実際には差があるのだろうが、高級宿では無視できる「誤差」ということになるのだろう。利益率で吸収できる程度なら問題ないわけだ。
「さあ食べよう。
デミえもんの感想を聞かせてくれ」
「デミえもん呼びは諦めたほうが良いのでしょうね……。
では、いただきます」
フォークを差し出し、ナイフで寄せて、一口分を取る。
口へ運び――そこで俺の意識は途切れた。
……………………。
…………。
……。
「……はっ!?」
「ん……起きたか、デミえもん」
「モモンガ様……ここは……」
知らない天井だ。
俺はどこか高級そうな部屋で、ベッドに寝ていた。
周りを見回せば、なにやら見覚えがあるような気が……
「宿屋だ。パンドラは一旦帰らせた」
あ、そうだった。
エ・ランテルの宿屋に食事をしに来て……。
「……騙しましたね」
「すまんな。
お前がいつまでもナザリックの食事に口をつけないので、料理長らから催促の声が出ていてな。
それに、いつまでも覚悟ができていないと言うお前に、無理に食わせたらどうなるのか興味があった」
宿屋に協力を取り付けて、ナザリックの食事を出したらしい。
そして無事、気絶……と。
だから言わんこっちゃない。
酔い潰れさせてアルベドに襲わせたことの仕返しだろうか。
「はぁ……美味すぎて、しばらく食べ物の味が分からなくなりそうです」
まったく、モモンガ様のいたずらには困ったものだ。
意識を失う直前に感じた味の爆撃を思い出し、俺はため息をついた。
◇
レクターに相談に乗ってもらった現地勢の誰かがその有能さにスカウトするお話………は神の元で働いているからと誰もしなさそうですがちょっと気になります。
「――というわけなのだ」
「ガゼフ殿も苦労が絶えませんね」
ある日の王都。
俺はモモンガ様の代理で、ガゼフ戦士長のもとを訪れていた。
「貴族派閥に邪魔されることがなくなって動きやすくなったとはいえ、犯罪に走る者は後を絶たない。
戦士団の皆は頑張ってくれているが、犠牲になる無辜の民がいる事は、胸が痛む思いだ」
「根本的に犯罪率を下げるには、教育による意識改革しかないでしょうね。
集団生活を体験させ、自分たちの生活スペースを自分たちで清掃させる。
そうすることで、かなりの割合で『周囲に迷惑をかけないようにする』という意識が根付くかと。
年齢による徴兵制をおこなっては? 3年務めたら終わり、もとの生活に帰らせる、という具合で」
「徴兵を、軍事力のためではなく、教育のためにおこなうのか。
面白い発想だ」
「学校制度を始めても良いでしょうが、教育の価値を理解できない親世代が多いでしょう。
教育内容や教師の準備も大変ですし、非協力的な親を取り締まるのも厄介です。
ですから最初は、徴兵制がよろしいかと。帝国との戦争もない今、3年で戻ってくるとなれば、反発も少ないでしょう」
規律に従う精神を養い、体力の錬成にもなり、命令書や報告書を読み書きするためだとか物品の点検のためだとか言って読み書き計算を教えることもできる。
もって犯罪発生率が低下し、健康維持で生産力の低下を防ぎ、学力向上で新しい法律の施行などを広く早く実行できたり、記録をつける習慣が広まって情報共有が捗ることで新しい発明につながったり国家全体の生産力が向上したり。良いこと尽くめだ。
「なるほど。コストや心情の面からも良い案なのだな」
このくらいはラナーにも思いつきそうなものだが、今の生活に満足している彼女は、提案しないだろう。
採用されて陣頭指揮を任されたら目もあてられない。
ザナックが王になってから、そうやって「力」を与えられることが増えた。クライムのご機嫌取りに小さなことはしても、あまり時間を取られたくないはずだ。
「対症療法的には、戦士団にスカウト部隊を作るべきかと。
どんな任務でも索敵や追跡は必要でしょう?
それを磨いて犯罪捜査に使えば『やったらバレて捕まる』という意識が働くようになるでしょう。
いわば、今は『やってもバレない』と思われているわけですから」
「……レクター殿」
「はい?」
「……いや。やめておこう」
「そうしてください」
「…………」
ガゼフがキョトンとした。
「分かるのか?」
「引き抜きのご相談はお断りします」
「いや、兼務でも良いのだが……」
「神々の相談役で手一杯です。身が持ちません」
「……そうだな。
王国を助けるなら、うちも……と他の国からも言われるだろう。
残念だが、諦めるしかない」
「ご理解いただけて幸いです」
◇
ラナーの生贄になった孤児院で、パンドラ、たっちさん、エクレアの部下でのヒーローショー
ナザリックに見放されたラナーは種族変更できない。そのためのアイテムを与えられないからだ。
従って孤児院もそのまま。生贄にならずに済んでいる。
さて孤児院というやつは儲からない。何か商品価値を生み出しているわけではないので当然だ。つまり売るものがない。学校と違って公的資金が入っているわけでもなければ、生徒から授業料を取るわけでもない。
では、どうやって運営されているかといえば、神殿に併設することで「神の慈悲を形にしたもの」という体裁でもって「神への浄財」を流用する。つまり寄付金を募るわけだ。
そのため併設の神殿の力――権力者やお金持ちにどれだけ関係を持っているか――が孤児院の運営状況の良し悪しを決定する。皮肉なことに、癒着が激しい「腹黒い神殿」のほうが孤児院は経営状態が良い。
そこで「白い神殿」への支援として、たっち・みーは――
「ヒーローショーをやりましょう」
「はい?」
「黒い神殿のほうが孤児院が裕福で、白い神殿の孤児院は貧しくて困っている。
そんなのは、間違っていると思いませんか?」
「あー……メッセージ。デミえもん、ちょっと来てくれ」
「失礼いたします」
「かくかくしかじか」
「では『清貧な神殿の孤児院で育った青年がヒーローとして戻ってくる』というストーリーで、主役はたっち・みー様、悪役にエクレアの部下の男性使用人たち、その悪の幹部をパンドラに演じていただくのはいかがでしょうか? 舞台装置などがございませんので、わかりやすい単純なストーリーのほうがよろしいかと。
できれば『腹黒な神殿の孤児院で育った者は戻ってこなかった』的な対比があると、たっち・みー様のお望みにいっそう合致するかと存じます。
このあたりの脚本作りは、パンドラのほうが得意でしょう」
男性使用人たちは「イー!」しか言わないので、非常に具合が良い。
はまり役というやつだろう。
「ではパンドラも呼ぼう」
「呼ばれて参りました、父上っ」
「かくかくしかじか」
「では、私扮する悪の幹部が指示を出し、腹黒神殿の孤児院から子供たちをさらってくるが、腹黒神殿はコストカットになるからと見てみぬふりをした……一方、その次に狙った清貧神殿の孤児院では子供たちを助けようと冒険者ギルドに依頼を出すも、代金を払えず意気消沈して孤児院へ戻る……そこへたっち・みー様扮する孤児院OBが現れて……という形で、いかがでしょうか?
子供をさらう理由は、そうですね……単純に売り飛ばすため、あるいは悪魔崇拝の儀式で生贄にするため、というのはいかがでしょう?」
「悪魔崇拝のほうにしましょう、パンドラ。
ウルベルト様にご協力いただいて……いえ、パンドラが変身すれば十分ですね。実際に悪魔を召喚して、たっち・みー様に征伐していただくという形で」
「なるほど。それならば舞台装置がなくとも派手な演出になりますね」
「「という事で、いかがでしょうか?」」
「息ぴったりか、お前ら」
「「えへへ……」」
「照れるな」
「あー……うん。良いと思うよ。それで行こう」
ヒーローショーは無事に? 終了。
戦闘シーンに迫力がありすぎて泣き出す子供が出てしまった。
その後、噂を聞いた腹黒神殿が、神罰を恐れて肝を冷やしたという。
「やる前に通達をいただけると幸いです」
冒険者ギルドからクレームが入ったのは御愛嬌だ。
本物の悪魔を使ったので、ガチの事件だと勘違いされて騒ぎになってしまった。
届け出を受ける側の警察官だったのに、ヒーローショーができる事に浮かれすぎて思い至らなかったたっち・みー様は平謝りであった。