レスリングスライムが現れた!【マットの上では格は不要!】 作:ヒツジ(ラム肉
魔王!!
倒した!!
勇者!!
倒した!!
世界管理者!!
倒した!!
そして!!
最後!!
魔王の王冠!!
勇者の聖剣飾り!!
興行主の腹巻兼ベルト!!
三つ!!
ぎゅっ!!
腕力!!
合体!!
完成!!
《三界王者ベルト》
魔王
「返せ!!」
勇者
「僕のは飾りだけでいいから!!」
興行主
「私のは生活用品なんだよォォォ!!」
ぷるちゃん!!
逃走!!
世界管理者!!
《検証結果》
《排除不要》
こうして!!
世界を揺るがした!!
一匹の!!
レスリングスライムの!!
戦いは!!
終わった!!
――だが!!
伝説とは!!
本人が!!
帰った後から!!
勝手に!!
育つものなのである!!
エピローグ 『レスリングスライムが現れた!』
後世。
世界史において。
彼ほど。
肩書きの多い。
スライムは。
存在しない。
――初代三界王者。
――初代殿堂入りレスラー。
――魔王撃破者。
――勇者撃破者。
――世界管理者撃破者。
――古竜撃墜者。
――賢者をリングへ引きずり込んだ者。
――ゴーレムを梱包した者。
――世界初のスライム王者。
そして。
――酒場《跳ね鹿亭》初代飼いスライム。
最後だけ。
急に。
生活感がある。
だが。
歴史学者たちの間では。
むしろ。
この最後の肩書きこそ。
最重要。
とも。
言われている。
なぜなら。
彼は。
世界を救うために。
戦ったわけではない。
世界を征服するためでもない。
神になるためでも。
王になるためでも。
なかった。
試合が。
あった。
リングが。
あった。
相手が。
いた。
だから。
上がった。
ただ。
それだけ。
だったからである。
――『三界王者ぷるちゃん研究序説』
王を倒し。
英雄を倒し。
ついには世界そのものを倒した存在。
この記録だけを読めば。
後世の研究者が。
ぷるちゃんを。
神獣。
あるいは。
超越存在として。
分類したくなるのも。
無理はない。
実際。
古代史学派の一部では。
ぷるちゃんを。
《三界を統べる粘体神》
と。
呼んだ。
神学者は。
白い先割れスプーンを。
《三叉の聖杖》
と。
解釈した。
王権史研究者は。
魔王の冠を奪った場面を。
《旧王権から新王権への象徴的継承》
と。
記した。
勇者の聖剣飾りを奪った行為は。
《英雄性から個人性への回帰》
と。
解釈された。
世界管理者の器となった興行主から。
腹巻兼ベルトを奪った場面については。
長年。
《世界そのものの拘束を解き放った象徴》
と。
解釈されていた。
――後年。
興行主本人の日記が。
発見された。
そこには。
一行。
こうあった。
『あれは腹巻だ。返せ。』
研究者たちは。
三日。
黙った。
また。
魔王戦終了直後。
ぷるちゃんが。
魔王の腰帯を奪い。
玉座の上で。
掲げた場面。
これは。
後世。
最も有名な。
絵画の一つとなった。
題名。
《王座簒奪》
王冠。
玉座。
魔王。
そして。
腰帯を掲げる。
スライム。
数百年間。
王権交代の。
象徴画として。
扱われた。
しかし。
当時の映像記録の。
高精細復元によって。
ある事実が。
判明した。
ぷるちゃんが。
掲げていたもの。
――ただの腰ベルト。
魔王本人による。
後世の証言。
『余のズボンを支えていたものだ。』
美術史家。
泣いた。
勇者戦も。
同様だった。
後世。
勇者から。
奪われた腰帯は。
《聖帯》
と。
呼ばれた。
宗教画では。
光を放っている。
実物。
普通のベルト。
勇者本人。
曰く。
『いや、ズボン落ちるから必要だったんだよ。』
信徒。
ちょっと。
困った。
さらに。
先割れスプーン。
ぷるちゃんが。
試合終了後。
相手へ。
ぷす。
と。
刺す。
あの。
行為。
後世。
神学者たちは。
これを。
《敗者の魂を慰撫する聖別儀式》
と。
解釈した。
賢者。
存命中。
何度も。
訂正した。
《違う》
研究者。
「では、敗者の魂を――」
《違う》
「古代の粘体生物に伝わる――」
《違う》
「象徴的な――」
《ただ刺していただけだ》
「……比喩でしょうか」
《比喩ではない》
その記録が。
残っている。
にもかかわらず。
百年後。
また。
《聖別儀式説》
が。
復活した。
歴史とは。
そういうもの。
である。
ぷるちゃん。
本人について。
後世の評価は。
割れた。
ある学派。
曰く。
《弱者が格上へ挑み続けた英雄》
別の学派。
曰く。
《世界秩序に対する反逆者》
また。
別の学派。
曰く。
《異界文脈を媒介した災害》
プロレス史家。
曰く。
《最高のヒール》
観客文化史家。
曰く。
《最も愛された嫌われ者》
魔王領。
公式史。
曰く。
《魔王陛下と最高の試合を行った不届き者》
勇者教会。
公式記録。
曰く。
《勇者に敗北の価値を示した者》
世界管理機構。
内部記録。
曰く。
《局所世界文脈再定義事例・第一号》
興行主。
個人記録。
曰く。
『二度と私を器にするな。』
酒場《跳ね鹿亭》。
帳簿。
曰く。
『ぷるちゃん 夕食一人前追加』
おそらく。
最後の記録が。
本人に。
一番。
近い。
初代三界王者。
その称号は。
後世。
正式な。
王座名となった。
魔王領。
人間領。
中立諸国。
三勢力共同で。
認定される。
最高位。
レスリング王座。
初代王者。
ぷるちゃん。
なお。
初代王者ベルトは。
魔王の王冠。
勇者の聖剣飾り。
興行主の腹巻兼ベルトを。
腕力で。
無理やり。
圧着した。
謎の。
塊。
だった。
修復。
しようという。
提案。
何度も。
出た。
魔王。
却下。
勇者。
賛成。
興行主。
強く。
賛成。
魔王。
却下。
理由。
『あの歪さまで含めて初代だ』
興行主。
『私の腹巻なんだけど?』
結局。
そのまま。
保存された。
現在。
世界レスリング殿堂。
中央展示室。
最奥。
厳重な。
魔法防護。
耐震。
耐火。
耐呪。
耐転移。
耐スライム。
結界。
その中に。
展示されている。
展示名。
《初代三界王者ベルト》
説明文。
『王冠、聖剣装飾、生活用品によって構成。』
最後の。
一語。
興行主の。
強い。
要望である。
ぷるちゃんは。
同時に。
初代。
世界レスリング殿堂。
入り。
第一号。
レスラー。
となった。
殿堂入口。
巨大な。
銅像。
――ではなく。
ぷるちゃん本人の。
希望。
ではなく。
周囲の。
強い。
反対により。
少し。
控えめな。
像。
となった。
大型スライム。
コーナーポスト。
上。
先割れスプーン。
片手。
いや。
身体の一部で。
掲げる。
その視線。
魔王。
勇者。
世界。
そして。
自分。
銘板。
一文。
《マットの上では格は不要》
この言葉は。
後世。
競技理念。
となった。
王族も。
平民も。
勇者も。
魔族も。
竜も。
ゴブリンも。
ゴーレムも。
賢者も。
スライムも。
リングへ。
上がれば。
同じ。
選手。
それが。
世界中で。
共有された。
そして。
酒場《跳ね鹿亭》。
こちらも。
伝説。
となった。
世界三大。
レスリング聖地。
第一位。
理由。
初代三界王者。
居住地。
入口。
看板。
《初代三界王者ぷるちゃん生家》
店主の娘。
後年。
訂正。
『生まれた場所じゃないよ』
看板。
変更。
《初代三界王者ぷるちゃん育成地》
娘。
『育成した覚えもないよ』
さらに。
変更。
《初代三界王者ぷるちゃんがいた酒場》
これで。
落ち着いた。
巡礼者。
増えた。
選手。
増えた。
王族。
来た。
魔族。
来た。
勇者候補。
来た。
学者。
来た。
その全員。
店へ。
入って。
期待する。
伝説の。
王者。
登場。
そして。
奥から。
ぺた。
ぺた。
「ぷる?」
出てくる。
店主の娘。
皿。
置く。
「ぷるちゃん、ご飯だよー」
「ぷる♪」
巡礼者。
泣く。
娘。
困る。
「え?」
世界。
伝説。
本人。
夕食。
それで。
いい。
なお。
ぷるちゃんが。
最後まで。
持っていた。
白い。
先割れスプーン。
これについて。
長い間。
由来。
不明。
だった。
材質。
世界に。
存在しない。
製法。
不明。
魔力反応。
ほぼ。
なし。
神性。
なし。
聖属性。
なし。
呪属性。
なし。
ただし。
世界文脈。
局所的。
再定義。
可能。
研究者。
頭。
抱えた。
《なぜ》
《こんなものが》
《世界を書き換える》
その答え。
世界の外。
別の。
場所。
に。
あった。
かつて。
別の世界。
小さな。
プロレス会場。
が。
あった。
豪華。
ではない。
客席。
古い。
照明。
床。
軋む。
控室。
狭い。
そこで。
長年。
戦った。
一人の。
男。
人気者。
では。
なかった。
王者。
でも。
なかった。
派手な。
必殺技。
いくつも。
持っていた。
わけでもない。
古い。
ヒール。
だった。
客。
煽る。
相手。
立てる。
若手。
受ける。
負ける。
勝つ。
嫌われる。
たまに。
拍手。
される。
そんな。
男。
だった。
彼が。
マイク。
代わりに。
使っていた。
もの。
安い。
白い。
使い捨て。
先割れスプーン。
なぜ。
それ。
だったのか。
記録。
残っていない。
おそらく。
売店。
もしくは。
弁当。
についていた。
それだけ。
だった。
男は。
よく。
言った。
「リングに上がったら肩書きなんざ外に置いてこい」
若手。
笑う。
男。
続ける。
「王者だろうが新人だろうが、マットの上じゃ同じレスラーだ」
そして。
先割れスプーン。
相手。
向ける。
「客を沸かせろ」
自分。
向ける。
「少しくらい嫌われろ」
それが。
彼の。
プロレス。
だった。
やがて。
男。
引退。
した。
会場。
閉じた。
道具。
片付け。
られた。
白い。
先割れスプーン。
誰も。
価値。
見出さなかった。
当然。
だった。
ただの。
使い捨て。
だったから。
捨てられた。
雨。
降った。
側溝。
流れた。
川。
流れた。
海。
ではなく。
どこか。
世界の。
境目。
引っかかった。
そして。
消えた。
別の世界。
川辺。
一匹の。
大型スライム。
歩いていた。
ぺた。
ぺた。
「ぷる?」
白い。
何か。
落ちている。
近づく。
つつく。
硬い。
軽い。
食べられない。
魔力。
ほぼ。
ない。
価値。
ない。
誰かが。
捨てた。
ゴミ。
だった。
ぷるちゃん。
少し。
眺める。
身体。
開く。
しまう。
「ぷる♪」
それだけ。
だった。
彼が。
残したものは。
王座でも。
名声でも。
伝説でも。
なかった。
ただ一本の。
使い捨ての。
先割れスプーンだった。
――もっとも。
別の世界では。
それで。
十分だった。
そして。
最後に。
もう一人。
記録しておくべき。
存在がいる。
世界レスリング史。
最大級。
未解決。
事案。
正体不明。
実況者。
名前。
不明。
出身。
不明。
年齢。
不明。
種族。
不明。
入国記録。
なし。
宿泊記録。
なし。
雇用契約。
なし。
報酬記録。
なし。
戸籍。
なし。
魂識別番号。
なし。
世界登録。
なし。
因果履歴。
なし。
世界管理者。
直接。
照合。
結果。
《該当存在なし》
しかし。
音声記録。
ある。
試合映像。
声。
入っている。
世界中。
聞いている。
目撃者。
全員。
「いた」
と。
証言。
する。
では。
どんな。
顔。
だったか。
誰も。
覚えていない。
どんな。
服。
だったか。
誰も。
覚えていない。
どこに。
座っていたか。
映像。
見る。
実況席。
空席。
それでも。
声。
響く。
世界管理者。
後世。
再調査。
《対象》
《存在確認不能》
《現在も》
《音声活動を確認》
《理解不能》
賢者。
余白。
書く。
《私も知らない》
興行主。
余白。
書く。
《誰なんだよ》
魔王。
余白。
書く。
《よく喋る奴だ》
勇者。
余白。
書く。
《でも実況は上手いよ》
そして。
現在。
どこか。
知らない。
リング。
鐘。
鳴る。
観客。
ざわめく。
木製漏斗。
掲げる。
声。
響く。
「さぁぁぁ!!」
「本日の試合カードはァァァァ!!」
なお。
正体不明の実況者は。
今日も。
存在している。
酒場《跳ね鹿亭》。
夕暮れ。
娘。
裏口。
開ける。
「ぷるちゃん」
ぺた。
「ご飯だよー」
「ぷる♪」
先割れスプーン。
身体。
中。
揺れる。
世界史上。
初代三界王者。
初代殿堂入りレスラー。
酒場《跳ね鹿亭》。
初代飼いスライム。
今日も。
いつも通り。
夕食へ。
向かう。
世界。
一度。
壊しかけた。
プロレス。
その中心。
いた。
伝説の。
レスリングスライム。
名前。
ぷるちゃん。
――『レスリングスライムが現れた!【マットの上では格は不要!】』
――完。