「あー、もう! あの駄女神ども、またやりやがったな!!」
見渡す限りの砂漠。容赦なく照りつける太陽。
俺、向田剛志(ムコーダ)は、頭を抱えてサラサラと崩れる砂の上に座り込んでいた。
ついさっきまで、俺たちはいつものように森の中で魔物肉のステーキを焼いていたはずだった。ニンリルの奴らが「ちょっと神界のシステムエラーで……」とかなんとか、胡乱な言い訳を脳内に直接響かせてきたかと思えば、次の瞬間にはこの有様だ。
『おい、主よ。飯はまだか。我は腹が減ったぞ』
『あるじー、お腹すいたー!』
『おう! 飯食う途中で飛ばされたんだからな! 早く続きを作ってくれよ!』
俺の絶望などどこ吹く風。伝説の魔獣フェンリルのフェル、特殊個体スライムのスイ、そしてピクシードラゴンのドラちゃんは、全く状況を気にする様子もなく「飯の催促」をしてきた。
お前ら、ここがどこだか分かってんのか!? 魔物どころか、草一本生えてないんだぞ!
「分かった、分かったから! ちょっと待っててくれ。とりあえず現状把握が先だ」
立ち上がり、砂丘の頂上から辺りを見渡す。遠くに蜃気楼のように揺らぐ人工物――廃墟のような街並みが見えた。ファンタジー世界の街というよりは、元の世界(現代日本)の風景に近い。電柱が倒れ、アスファルトが砂に埋もれている。
「……ん?」
ふと、背後に気配を感じて振り返る。
そこには、砂漠には似つかわしくない、セーラー服を着た銀髪の少女が立っていた。頭には獣の耳、手には……なぜかゴツいアサルトライフルを構えている。
「あなたたち、誰? アビドスの砂漠で、そんな巨大な狼を連れて……ゲヘナの連中? それともカイザーコーポレーションの差し金?」
「えっ、あ、いや! 違うんです! 俺たちはただの迷子で……!」
銃口を向けられ、俺は慌てて両手を挙げた。フェルが不穏な唸り声を上げるのを必死で制止する。
彼女は「シロコ」と名乗った。話を聞けば、ここは「キヴォトス」という学園都市で、この辺りは「アビドス高等学校」の自治区だという。異世界からさらに別の異世界へ飛ばされたと悟り、俺は遠い目をした。
シロコは警戒しつつも、俺たちが本気で道に迷っている(というか途方に暮れている)のを察してくれたのか、アビドス高校の校舎まで案内してくれることになった。
「助かりました、シロコさん。これ、ほんのお礼なんですけど……」
廃墟の街を抜け、ようやくたどり着いたアビドス高校の応接室。俺は案内してくれたお礼として、アイテムボックスからあるものを取り出した。
実は昨日、ネットスーパーを利用した際、実在の店舗コラボで限定販売されていた『道の駅さかいの究極のメロンパン』を大量に買っていたのだ。サクサクのクッキー生地と、中にたっぷり詰まった濃厚なメロンクリームが絶品の代物だ。
「メロンパン……? ありがたく、いただく……んっ!?」
一口かじった瞬間、シロコの瞳が見開かれた。
獣耳がピーンと立ち上がり、尻尾がブンブンと左右に振れる。
「な、なにこれ……美味しい。こんなメロンパン、食べたことない。サクサクしてて、中から甘いクリームが……んっ、んんっ……!」
普段はクールそうな彼女が、頬を赤らめ、夢中でメロンパンを頬張る姿は微笑ましかった。
――しかし、事態は俺の想像を遥かに超えた方向へ転がっていく。
シロコが「モモトーク」なる通信アプリで、そのメロンパンの写真を『究極の味。これ以上のパンはキヴォトスに存在しない』という一文と共にアップしたのが運の尽きだった。
『は? アビドスにそんな美味いものがあるわけないじゃん!』
『ゲヘナの給食部より美味しいって言うんですか!? 許せません!』
『トリニティのスイーツより上だと? 確かめさせてもらうわ!』
どうやらキヴォトスの生徒たちは、美味しいもの(と火薬)には目がないらしい。
数時間後、アビドス高校の周辺は、噂を聞きつけた各校の生徒たちで埋め尽くされていた。ゲヘナ学園、トリニティ総合学園、ミレニアムサイエンススクール……装甲車やヘリまで飛んでくる始末だ。
「メロンパンを出せーっ!」
「私たちの分もあるんでしょうね!?」
「暴動の鎮圧に参りました! ついでにメロンパンを押収します!」
外からは銃声と爆発音が鳴り響く。狂喜乱舞どころか、もはや戦争だ。
「ヒィィィィッ! なんでパン一つでこんな事になるんだよぉぉぉ!」
『主よ、外の連中、少しうるさいぞ。我の結界があるから安全だが、うっとうしいから蹴散らしてきて良いか?』
「ダメだ絶対!! お前が手を出したら街が消し飛ぶだろ!!」
結局、俺がネットスーパーで買える限りのメロンパンと、それに匹敵する甘い菓子パンを大量に買い込み、シロコたちアビドスの生徒(ホシノさんやノノミさんたちも合流した)に配給を手伝ってもらうことで、なんとかその日の暴動は収束を見せた。俺の所持金(異世界の金貨)がごっそり減ったのは言うまでもない。
翌日。
嵐のような騒動を乗り切ってゲッソリしている俺の前に、一人の大人が現れた。
「初めまして、ムコーダさん。私はアビドス高校に新しく赴任した教師の、田中ユズリハと申します」
黒髪を後ろで一つにまとめ、パリッとしたスーツを着こなす知的な女性だった。キヴォトスには珍しい「大人」の存在らしい。
「昨日はうちの生徒たちが大変ご迷惑をおかけしました。……ですが、あの騒動を見て、私、確信したんです。ムコーダさん、あなたにしか頼めないお仕事があります」
「お、お仕事、ですか……?」
嫌な予感しかしない。逃げ出したい。しかし、フェルたちはユズリハ先生が手土産に持ってきた高級和牛のブロック肉(なぜそんなものを持っているのかは謎だが)に完全に買収されていた。
「来週、キヴォトス全校が参加する『学園都市大文化祭』が開催されます。各校が威信をかけて様々な出し物をするのですが……私は、その文化祭全体の『総合メニュー開発』、つまり目玉となる屋台グルメのプロデュースを、ムコーダさんにお願いしたいのです!」
「ぜ、全校って……昨日あんなにドンパチやってた連中全員が集まるんですか!? 無理ですよ! 俺はただの巻き込まれた一般人で――」
『ほう? 祭りの屋台飯とな?』
フェルが、肉を咀嚼するのを止めてニヤリと笑った。
『つまり、主の作る様々な美味い飯が、いくらでも食い放題ということだな?』
「お前は食う側じゃなくて作る側(の護衛)になるんだよ!」
『あるじー! スイも、お祭りたのしみー! いっぱいお料理するー!』
『おう! 屋台ってやつ、一回やってみたかったんだよな! なあ、肉だろ? 串焼きの肉とか出すんだろ!?』
ダメだ、従魔たちが完全にやる気になっている。こうなると俺の意見など通らないのは、これまでの異世界生活で痛いほど思い知っている。
「……はぁ。分かりました。お引き受けします。ただし、食材の調達と仕込みの場所は提供してくださいね」
「ありがとうございます! 予算は連邦生徒会からたっぷり引き出しますから、ご安心を!」
ユズリハ先生は満面の笑みでガッツポーズをした。
こうして、俺たちムコーダ一行は、キヴォトス最大のイベントの屋台を取り仕切ることになってしまった。
「屋台グルメ……しかも、キヴォトス全土の胃袋を満たせるだけの圧倒的なボリュームとインパクト……」
頭を悩ませる俺の脳裏に、ある閃きが舞い降りた。
そうだ。俺はつい数日前、異世界の王様からたんまり貰った報酬を元手に、ネットスーパーの『コストココーナー』の年会費10年分を一括で支払ったばかりだったのだ。
アメリカンサイズの巨大な肉の塊、バケツのような容器に入ったポテトチップス、キロ単位で売られている濃厚なチーズケーキやプルコギビーフ。
あそこの大容量かつジャンクでパンチの効いた食材なら、血の気の多いキヴォトスの生徒たちも、うちの大食らいの従魔たちも、まとめて満足させられるはずだ!
「よし……フェル、スイ、ドラちゃん! 今日から徹夜で仕込みだぞ! コストコの力、キヴォトスに見せつけてやる!」
『おおっ! なんだか分からんが、主から美味い匂いのする気迫を感じるぞ! 早く肉を焼け!』
『あるじ、がんばえー!』
『っしゃあ! 腹減ってきたぜ!』
俺は気合を入れ直し、スキル『ネットスーパー』を起動した。
空中に浮かび上がる大画面。そこには、赤と青のロゴが輝く『コストココーナー』の文字。
まずはプルコギビーフを100キロ。さらに極太のジョンソンヴィルソーセージを500パック。バンズとチーズ、それから大容量のバーベキューソース……。
カートのアイコンが、見たこともない金額を弾き出していくが、今は気にしてはいられない。
アビドスの給食室を占拠し、山のように積まれた巨大な段ボール箱の壁。
フェルの風魔法で火力をブーストし、スイの酸で下ごしらえの時間を短縮し、ドラちゃんの高速飛行で食材を運ぶ。
厨房からは、肉の焼ける暴力的なまでに食欲をそそる匂いが、アビドス自治区のみならず、風に乗ってキヴォトス中に広がり始めていた。
「ふふふ……ムコーダさん、期待以上の働きです」
給食室の陰で、田中ユズリハは不敵な笑みを浮かべていた。
そして、その強烈な「美味い匂い」を嗅ぎつけたゲヘナの美食研究会や、トリニティの放課後スイーツ部が、血走った目でアビドスへ向けて進軍を開始していることを、今の俺はまだ知らない。
来週の学園都市文化祭。
それは、キヴォトスの歴史に残る「最大の美食(と火薬)の祭典」の幕開けとなるのだった――。
「よし、ひとまず全メニューの試作品が完成したぞ! アビドスのみんな、味見を頼めるか?」
厨房に充満する、暴力的なまでに食欲を刺激する匂い。
ズラリと並べられたのは、俺がコストココーナーとネットスーパーのフル活用で生み出した、究極のジャンク&ボリュームメニューの数々だ。
「うへ~、おじさん、もう匂いだけでノックアウトされそうだよぉ……」
「ちょ、ちょっと! なによこれ、こんなの絶対美味しいに決まってるじゃない!」
「ふふっ、なんだか宝石箱みたいですねぇ〜☆」
「先輩たち、よだれ、よだれが出てますよ! ……って、私もですけど……」
「ん。全種、2個ずつもらう」
ホシノさん、セリカちゃん、ノノミさん、アヤネちゃん、そしてシロコさん。
アビドス廃校対策委員会の面々が、ゴクリと喉を鳴らして料理を凝視している。
『おい、主! 我らの分は当然あるのであろうな!?』
『あるじー! スイも食べるー!』
『俺にも寄越せ! なんだこの美味そうな匂いは!』
足元(と空中)では、フェル、スイ、ドラちゃんがすでにヨダレを滝のように流してスタンバイしていた。もちろん、お前らの分は別に山盛りで作ってあるから安心しろ。
「それじゃあ、冷めないうちに食べてみてくれ!」
俺の合図とともに、少女たち(と魔獣たち)は一斉に料理へと食らいついた。
「んっ……!? な、なにこれぇぇぇっ!?」
最初に悲鳴のような歓声を上げたのはセリカちゃんだった。
彼女が齧り付いたのは、**『ジョンソンヴィルのホットドッグ・大阪のカレーキャベツと共に』**。
パリッ!! という小気味良い音とともに、極太のジョンソンヴィルソーセージから溢れ出す熱々の肉汁。そこへ、炒めたキャベツにほんのりカレー粉を効かせた「大阪風カレーキャベツ」のスパイシーな甘みが絶妙に絡み合う。
「お、美味しい……! ソーセージのお肉がギュッて詰まってて、このカレー味のキャベツがシャキシャキしてて……パンもふわふわで……ああっ、もう一口っ!」
ツンデレ気味だった彼女が、目を輝かせて無心でホットドッグに齧り付いている。
「こっちもヤバいですよぉ……!」
アヤネちゃんは**『夜市の屋台風ミーゴレン』**を啜り、顔を真っ赤にして感動していた。
インドネシアの甘辛いソースが絡んだモチモチの麺。そこへ半熟の目玉焼きを崩して絡めれば、辛味がマイルドになり、濃厚なコクが口いっぱいに広がる。エビや野菜の食感も楽しい一品だ。
「うへ~、おじさんはこれがお気に入りかなぁ。お肉とチーズの暴力だよぉ……」
ホシノさんがとろける笑顔で頬張っているのは、**『プルコギビーフマヨとチーズのフィリーサンド』**。
コストコ名物のプルコギビーフを山のように炒め、マヨネーズを絡め、さらに上からチェダーとモッツァレラのダブルチーズをバーナーで炙って溶かしたものを、特大のソフトフランスパンに挟み込んだ代物だ。甘辛い肉汁と濃厚なチーズが一体となり、カロリーの塊が脳を直接殴ってくるような破壊力がある。
「ん。これも負けてない」
シロコさんが無言で、しかし物凄いスピードで平らげているのが、**『かごしま黒豚の骨無しバックリブバーガー・ヨシダソース仕立て』**。
圧力鍋でホロホロになるまで煮込んだ鹿児島県産黒豚のバックリブ(骨は丁寧に抜いてある)に、アメリカ生まれの万能調味料『ヨシダソース』をたっぷり絡めて香ばしく焼き上げ、バンズでサンドした。甘辛いテリヤキ風のソースと、とろけるような豚肉の脂の甘みが、シロコさんの獣耳をピコピコと激しく動かさせている。
「みなさーん、食後のデザートも最高ですよぉ〜☆」
ノノミさんが優雅に、しかし満面の笑みでスプーンを進めているのは、**『ハーフカットメロンクリームソーダ〜器のメロンも頂きます〜』**だ。
半分にカットしたメロンの種をくり抜き、そこへサイダーを注いでバニラアイスを巨大なディッシャーでドンッと乗せた、夢のようなデザート。アイスとソーダを楽しんだ後は、器になっているメロンの果肉をスプーンで削りながら食べるという、贅沢の極みである。
「うおおおおおっ! ムコーダさん、あなた神ですか!?」
「こんな美味しいもの、キヴォトス中を探してもどこにもないよぉ!」
「ん。アビドスの借金、これを毎日売れば一ヶ月で完済できる」
「シ、シロコ先輩、それは流石に計算が……でも、それくらい美味しいです!」
少女たちは狂喜乱舞し、ハイタッチを交わし、なぜか感動のあまり空に向けてアサルトライフルを数発ぶっ放す者まで出た。(頼むから厨房で発砲するのはやめてくれ!)
『む。主よ、この細長い肉の挟まったパン(ホットドッグ)、なかなか美味いではないか! キャベツとやらの香辛料が良いアクセントになっておる! おかわりだ!』
『あるじー! このあまいお肉のパン(プルコギサンド)と、メロンのアイス、しゅっごくおいしい! スイ、もっとたべるー!』
『俺はこっちの骨無し肉のバーガーってやつだ! 甘辛いタレがたまんねぇぜ!』
フェルたちも負けじとバクバクと凄まじい勢いで平らげていく。
試食は大成功。いや、成功以上の反応に、俺は確かな手応えを感じていた。
### そして迎えた、学園都市大文化祭の当日。
キヴォトスの中央広場に設営された超特大の屋台ブース。
「アビドス高校&異世界放浪メシ出張所」と書かれた看板の下で、俺たちは戦いを迎えようとしていた。
「す、すごい人だ……」
広場を埋め尽くすほどの生徒、生徒、生徒。
ゲヘナ学園、トリニティ総合学園、ミレニアムサイエンススクール、百鬼夜行連合学院……キヴォトス中のあらゆる学校から、美味いもの(と騒ぎ)を求めて数万人の生徒が集結していた。
「ふふふ……ムコーダさん、準備はよろしいですか?」
新任教師のユズリハ先生が、メガホンを片手に不敵な笑みを浮かべる。
「ええ、仕込みは完璧です。フェルたちも気合十分ですよ」
俺の背後では、フェルが結界魔法を展開して屋台の安全を確保し、スイが分身して大量の調理器具を同時に操る準備を整え、ドラちゃんが風魔法で巨大な換気扇を回している。
そして、アビドス対策委員会の5人が、エプロン姿でレジと配膳のスタンバイを完了していた。
「それじゃあ……**学園都市大文化祭、アビドス屋台、オープンです!!**」
ユズリハ先生の号令とともに、シャッターが開かれた。
その瞬間、仕込み段階から溜め込んでいた、暴力的なまでの「美味い匂い」が広場全体に爆発するように広がった。
「な、なんだこの匂いはぁぁぁっ!?」
「ゲヘナの給食部じゃないわ! あっちの屋台よ!」
「急げ! 売り切れる前に確保するんだ!」
地鳴りのような足音とともに、数千人の生徒たちが一斉に俺たちの屋台へ向かって雪崩を打って押し寄せてきた。
「いらっしゃいませー! ホットドッグにプルコギサンド、お肉たっぷりのメニューがいっぱいですよぉ〜☆」
「並んで! ちゃんと一列に並ばないと撃つわよ!」
ノノミさんの朗らかな声と、セリカちゃんの(物理的な)威嚇が飛び交う中、凄まじいスピードで注文が入っていく。
「ホットドッグ3つ!」
「こっちはミーゴレン5つ! メロンクリームソーダもね!」
俺はスキル『ネットスーパー』を限界まで酷使し、異空間から次々と食材を取り出しては、フライパンと鉄板を振るい続けた。
鉄板の上でジュージューと音を立てて焼けるプルコギビーフ。
そこにマヨネーズをかけ、バーナーでチーズを炙るたびに、並んでいる生徒たちから「おおおおっ!」という歓声が上がる。
極太のジョンソンヴィルソーセージが焼き上がり、カレーキャベツと共にパンに挟まれると、そのビジュアルだけで気を失いそうになる生徒まで現れた。
「や、ヤバい……! この『プルコギビーフマヨとチーズのフィリーサンド』、一口食べただけで脳が溶けそう……!」
「お肉の旨味とチーズのコクが信じられないくらい濃厚なのに、無限に食べられちゃう!」
「この『かごしま黒豚のバックリブバーガー』、お肉がホロッホロ! ヨシダソースって魔法のタレなの!?」
「ミーゴレンの半熟卵、反則すぎます……! 辛い、でも甘い、美味しいっ!」
「見て! このメロンクリームソーダ、本物のメロンを半分も使ってるわ! アイスとソーダが染み込んだメロンの果肉、最高ぉぉぉっ!」
広場のあちこちで、一口食べた生徒たちが次々と至福の表情を浮かべ、その場にへたり込んでいく。
彼女たちの頭上にあるヘイロー(光の輪)が、かつてないほどの輝きを放っていた。
『主よ! 肉が足りんぞ! もっと出せ!』
『あるじー、お野菜切るの終わったよー! 次なにするー?』
『俺も焼くの手伝うぜ! ファイアボール!』
「ドラちゃん、火力が強すぎる! 焦げちゃうから風魔法で換気だけ頼む!」
戦場のような厨房の中、俺は従魔たちと見事な連携(?)を見せながら、次から次へと料理を供給し続けた。
「アハハハハ! 最高だよおじさん! キヴォトス中のみんなが、アビドスの屋台にひれ伏してるよぉ!」
ホシノさんが、飛び交う万札(キヴォトス通貨)を前に高笑いしている。
「ん。ムコーダ、次はうちの専属シェフになって」
「シロコさん、真顔でスカウトしないでください! 俺は早く元の(元の?)世界に帰りたいんです!」
そんな冗談を交わしながらも、俺の手は止まらない。
キヴォトスの生徒たちの驚異的な胃袋と、フェルたちの食欲を満たすため、俺の戦いは夕暮れまでノンストップで続くのだった。
「……はぁ、疲れたけど、みんなのあの美味そうな顔を見たら、少しは報われたかな」
祭りの喧騒の中、汗を拭いながら見上げたキヴォトスの空は、どこまでも青く、そして少しだけ、俺の心を温かくしてくれたのだった。