TS転生者「不死鳥は 再び墓地より 舞い戻る」 作:ししゃしょしぇい
※ジンの設定には本作独自のものがあります。原作では2話限りのゲストキャラだから仕方ないんや……。
私がカイト様のことを知ったのは、偶然であり、必然だった。
当時、強力なモンスターエクシーズとしか思っていなかった「ナンバーズ」カードを所有していることが、あの「時の止まった空間」へ入場する資格だった。
雨の日だった。
私はあの空間に迷い込み、そこで神──カイト様を知ったのだ。
私が目撃したのは、青年の形をした圧倒的な力の化身だった。
あるいは、銀河の瞳を宿した巨竜を従え、すべてを蹂躙する暴威の擬人化だった。
最初は、その真名さえ知らないこの身を恥じた。
幸い、私には生まれつき特殊な力がいくつかあった。
その内の一つ──物質・場所に宿る
私は確信した。
私が特殊な力を持って生を授かったのは、きっとこの時のためだったのだと。
反射的に思った。
──捧げたい。このお方に。
生まれた意味を教えてくださったカイト様に、私のすべてを。
間もなくして私は、カイト様の目的がナンバーズ収集にあると知ることになる。
このジンもまた、ナンバーズの所有者だ。
カイト様と同じ舞台で戦う資格を有している。
私はカイト様の戦いを拝見することを
簡単なことだ、私もナンバーズを狩るのだ。
私は誓った。
ナンバーズをカイト様に捧げ、私の信仰と忠誠を、示すのだと。
……などと思っていた頃の私は、なんとも視野狭窄だった。
あまりにも滑稽で、自分の見たいようにしか世界を見ていなかった。
自分は唯一たる神を知ったと思っていた。
唯一たる神に仕える資格を得たと思っていた。
その認識は、あの日すべてひっくり返ったのだ。
日々の巡礼としてカイト様の足跡を辿る中で、あの
それもまた運命だったのだと、今は思っている。
そのデュエルとは、言うまでもない。カイト様と
残留思念がまだデュエル開始前後を映していた時点の私は、あまりにも不敬だった。
カイト様の前に立ち塞がった燦様に対してあろうことか、「この小娘はなんだ、カイト様相手に生意気な」などと思っていた。
レベル10モンスター2体が揃った時は「少しはやるようだな」と思っていた。
No.XXを召喚なされた時もまだ「コケ脅しだ」と思っていた。
ランクアップという理外の力をお見せになっても、まだ「それでもカイト様には遠く及ばぬ」と思おうとしていた。
だが、あの黄金の太陽神──《
本物の神の降臨を以て、ようやく私は自らが大海を知らぬ井の中の蛙であったことを理解できた。
それまで私が世界のすべてと思っていたものは、大宇宙のほんの一部に過ぎなかったのだ。
燦様が、教えてくださったのだ。
翻って、当初燦様へ向けていた私の思考がいかに冒涜的であったか。
この罪を贖うには、燦様の神性を正しく理解し、正しくお仕えしなければならない。
私は燦様の真名を求めてハートランドシティを巡った。
そうして突き止めたあのお方の真名──有明燦。
意味するところは、夜明けを照らす燦々とした暁光。
なんと美しい真名なのだと思った。太陽神を従える彼女にこそ相応しい。
そして、燦様について知れば知るほど、私の胸には一つの憂いが募った。
燦様と、カイト様。
この世に二柱もの神がおわすことを知った歓喜とは裏腹に、御二方は相争っておられた。
先日の邂逅では燦様がカイト様の暴威を鎮めた。
言わば、その働きは
どちらも紛れもなく本物の神だ。
ならば私は、どちらに仕えるべきなのか。
──否。
そのような問いを抱いたこと自体が、またしても私の浅慮だった。
どちらか一柱を選ぶなど、あり得ない。
御二柱にお仕えする者として、私が願うべきことはただ一つ。
御二柱の間に生じた隔たりが取り払われること。
そしてもし、そのためにこの身が役立つ方法があるとしたら、それは──。
「──私のターン、ドロー」
>燦:手札5→6
意識を現在に戻す。
眼前では、燦様が静かにカードを引いておられる。
今回はこの御方が先攻だ。
「メインフェイズ。私は《賢瑞官カルダーン》を召喚する」
最初に繰り出したのは、カイト様とのデュエルでも最初に召喚されたモンスター。
その能力は、「手札・墓地から永続罠カード1枚をセットし、なおかつそれはこのターンに発動できる」。
>燦:手札6→4
「『カルダーン』を対象に《ドールハンマー》を発動する。対象のモンスターを破壊して、2枚ドロー」
>燦:手札4→5
嗚呼……これはまさに、あの神話的デュエルと同じ滑り出し。感無量だ。
だが、これは奏上のデュエル。
信仰する我が神と、ただ魔術の札を交わす栄誉に喜ぶだけであってはならぬ。
カイト様と和解していただくため、燦様へこのジンの祈りが真なるものであると感じ取っていただかねばならないのだ。
「ここで、『カルダーン』第二の効果が発動する。このカードが墓地へ送られた場合、次のターンの終了時まで私のフィールドの表側表示の罠カードは、相手の効果では破壊されない」
「……?」
これは、知らない効果だ。カイト様とのデュエルでは使用なされていない。
此度のデュエルでは、罠カードを主体に戦う……ということか?
「カルダーンの効果でセットした罠カード──《アポピスの蛇神》を発動する。自身をモンスターとして特殊召喚」
人と蛇の二つの頭を持つ暗紫色の古兵が、ずるりと這い出てきた。
出現したその魔物は、右手に携えた槍を地面に突き立て、怪しげな呪文を唱え始めた。
────────────────
《アポピスの蛇神》攻撃表示
星4 地属性 爬虫類族
攻1600 守1800
────────────────
「『蛇神』の効果の続き……デッキから同名以外の『アポピス』カードを魔法&罠ゾーンへ直接セットする。この効果で《澱神アポピス》をセット。
そして、『蛇神』の効果でセットされたカードも、そのターンに発動できる」
デュエル・ディスクに差したばかりのカードが、即座に裏返される。
連鎖。
カードがカードを呼び、盤面が整っていく。
「《澱神アポピス》は《アポピスの蛇神》と同じ罠モンスター。発動後、通常モンスター扱いで特殊召喚される」
「蛇神」よりも一際大きい双頭の古兵《澱神アポピス》が鉾と盾を構えた。
────────────────
《澱神アポピス》攻撃表示
星6 地属性 爬虫類族
攻2000 守2200
────────────────
《キラー・トマト》のような戦闘破壊されるのを待つなどの手間もなく……こんなにも簡単に、盤面も消費せず、一定のステータスを有するレベル6モンスターをデッキから供給できるのか。
私の常識の外にあるテンポと効率……思わず背筋が震えた。
いや、畏れるのはまだ早い。
きっと、これで終わりではないのだから。
「私は2体のアポピスをリリースして、EXデッキから《聖神蛇アポピス》を特殊召喚する」
燦様がカードを掲げる。
戦場に並んだ2体のアポピスが、ゆっくりと互いに溶け合い一体となる。
そうして現れたのは、四つ腕の魔物。
蛇頭は二つに増え、
────────────────
《聖神蛇アポピス》攻撃表示
星6 地属性 爬虫類族
攻2800 守2600
────────────────
「リリースした内の片方──《アポピスの蛇神》は墓地に埋葬されることでさらなる効果を発動する。デッキから《アポピスの化神》1枚を手札に加える」
>燦:手札5→6
止まらない。
白魚のごとき美しいその指が、踊るようにカードを手繰る。
「そして《聖神蛇アポピス》の効果を発動する。
1ターンに1度、自分の墓地の『アポピス』罠カードを3種類1枚ずつまで選択し、
「なっ、そのような効果ッッ……!」
あまりにもあんまりな能力に、不敬にも声を上げてしまった。
だってつまるところ、この新たなモンスターは、自身の降臨のためにリリースしたばかりの2体を場に戻すと言っているのだ。
圧倒的な即時性と自己完結性。
実質、消費ゼロではないか。
「……この『循環』が、
燦様はプレイする手を止めてくださり、ピンと右手の人差し指を立てた。
「この流れを止める方法はある。
的確なところで私の効果の発動か効果そのものを無効にしたり、発動される前に破壊などの除去を撃てばいい」
私はゴクリと生唾を飲んでいた。
現在は燦様の先攻1ターン目だ。
それができたら苦労はしない。
「デュエルを続ける。『聖神蛇』の効果で、私は墓地から《アポピスの蛇神》と《澱神アポピス》の2枚をセットする」
「蛇神」は中央のゾーン、「澱神」は私から見てその一つ右のゾーン。
何ができるかはともかく、脳に情報を刻み込んだ。
「そして手札の《天獄の王》の効果を発動する。相手ターン終了時までこのカードを手札から公開し続け、フィールドのすべての伏せカードに破壊耐性を付与する。他の処理によって手札からの公開が取りやめられると同時に、この耐性は失われる」
場に伏せた魔法・罠を天敵の《大嵐》などから守る効果を、たかが「見せる」だけで……?
しかも、表側となった罠も「カルダーン」が残した力によって効果破壊されない。
まさにこれは、難攻不落。
「最後に、リバースカードを1枚セットして私はターンエンド」
>燦:手札6→5
>燦:LP4000/手札5(内、2枚は《アポピスの化神》と公開中の《天獄の王》)
モンスター:《聖神蛇アポピス》(攻撃表示)
魔法&罠:リバースカード3(内、2枚は《アポピスの蛇神》と《澱神アポピス》)
ターンが巡ってくるのも忘れ、拳に自然と力が入っていた。わなわなと震えて仕方がない。
私の胸中は一色だった。それすなわち、
──すごい、すごいすごいすごいっ。スゴイッ!!
歓喜だ。
なんと素晴らしく、光栄なことか! しもべたる私を相手に、これほどまでの御業の数々を寛大にも披露してくださるだなんて!
「私のターンッッ!! ドロォーッ!!」
御方のこれは「お前も芸を見せて愉しませよ」という期待に違いない。
私は勢いよく山札からカードを引き抜いた。
メインフェイズに移行してから如何に動くべきか考えようとしたところで、燦様が待ったをかける。
「スタンバイフェイズに、リバースカード、オープン。
発動したのは永続罠《護石の作庭》。スタンバイフェイズごとに私はデッキに眠る永続罠5種類を選び、その中からさらにあなたがランダムに1枚選び、それをセットする」
……ふむ。
《
《ARG☆S-屠龍のエテオ》。
《苦紋様の土像》。
《
《地雷
どれもこれも、見たことのないカードだ。
効果もわからない。私が持つ力の一つ「見通す力」で理解できるのも、カード種別までに過ぎない。
すぐに5枚の永続罠は裏返しにされ、シャッフルされてしまった。
仕方ない、ここは直感で行こう。
「……一番右のカードのセットをお願いいたします」
「わかった」
新たに裏側表示のカードが1枚出現し、間もなく息を潜めるように姿を消した。私を待ち構える罠が増えたが、ルール上はセットされたこのターンには発動できない。大丈夫だ。
しかし、間髪入れずにまだ燦様が動く。
「リバースカードが発動したことで、手札の《天獄の王》第二の効果が発動。手札から公開するほうの効果を発動したターンじゃない場合、自身を特殊召喚する」
>燦:手札5→4
「これは、カイト様との戦いでも使用なされた……」
簡単な条件をトリガーに現れたのは、巌山と見紛うほどに巨大な存在。
この広大な儀式場が窮屈に感じられてしまうほどの威圧感を発している。
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《天獄の王》攻撃表示
星10 闇属性 岩石族
攻3000 守3000
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「この効果を手札から公開された状態で使った場合、《天獄の王》は追加で効果処理を行う。
私はデッキから好きな魔法・罠カード1枚をセットする。ただし、この伏せカードは2ターンの間しかフィールドに存在できず、その後はゲームから除外される。私は《苦紋様の土像》をセット」
《天獄の王》が右手を翳した先に、また1枚、カードが出現した。
攻撃力3000をいきなり呼び出すだけでなく、期限付きとはいえ何でも好きな魔法か罠を持ってくる、だと……。
《死者蘇生》、《激流葬》、あるいは《聖なるバリア -ミラーフォース-》のような、強力だが本来素引きで引き込むしかないカードが、こんな簡単に持ってこれてよいのか……? 答えは、否。
「…………強力な、カードでございますね。無論、デッキから伏せたカードが2ターンしか保たない以外にも相応のデメリットを有しているのでしょう?」
私の推理を聞いてから数秒、燦様は目を瞬かせた。
不思議そうに目を丸くしたお顔からは、その姿通りの年相応な幼さを感じられる。
何でもないように御方は告げた。
「ないよ?」
「えっ」
──
このようなカードがデッキに《天獄の王》1枚のみなら、まだわかる。デュエリストには、唯一持っている強力なカードを軸としてデッキを組むケースがままあるからだ。
しかし、先のターンの「アポピス」の展開は記憶に新しい。
冷汗が額から鼻筋、やがて顎を伝い、ぽたりと垂れた。
及びもつかない高みにいる方だとは思っていたが、そのうえで私は燦様を見誤っていたらしい……。
燦様は薄く笑い、私を手招きする素振りをした。
「お待たせ。あなたのターンを邪魔しちゃった。メインフェイズ入っていいよ」
「は、はい……私のデュエル、ぜひご照覧ください!」
宣言してから、再び手元に視線を落とす。
御方を魅せるにあたって、これではあまりにも心許ないな。
まずは、手札を整えよう。
「私は手札を1枚セットし、《手札抹殺》を発動します!」
>ジン:手札6→5→4
その効果は、「両プレイヤーは手札をすべて捨て、その枚数分だけドローし直す」。デュエルモンスターズというゲームに古くからある汎用の手札交換カードの1枚だ。
「私も燦様も手札は4枚。よって、互いに4枚捨てて4枚新たにドローします」
「チェーンして、永続罠《苦紋様の土像》を発動する」
「なっ……このタイミングでですか!? いえ、それだけではございません!」
そうだ、もっと大前提としての問題がある。
「それは《天獄の王》の効果でこのターンにセットしたカードでしょう!? 『カルダーン』や『蛇神』のような能力の説明をしておらなんだこと、このジンはしかと記憶しております……なのになぜ!?」
「それは、すでに発動済みの永続罠《護石の作庭》のもう一つの効果のおかげ。私の魔法&罠ゾーンのカードが5枚の場合、1ターンに1度だけ、そのターンにセットされた永続罠カードでも発動できる」
……ご使用になっているカード、ことごとく二つ目ないし追加の効果がございませんか?
「同じ条件でお互いへの戦闘ダメージも半減させるよ」
「まだおありなのですか!?」
そうこうしている間に、禍々しい六本足の泥塑が出現した。
これが《苦紋様の土像》。アポピス罠カードと同様の罠モンスターのようだ。
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《苦紋様の土像》守備表示
星7 地属性 岩石族
攻 0 守2500
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「チェーンの逆順処理。次はあなたの《手札抹殺》の番」
「え、ええ……」
>ジン:手札4→0→4
>燦:手札4→0→4
気を取り直して、引き直した4枚に目を通す。
……よし。悪くない。この手札ならば、このデュエルが御方を満足させる催しに──
そのとき、湿った音が響いた。
燦様のフィールドに立つ《聖神蛇アポピス》の体から、深紅の眼を光らせた無数の蛇が這い出てきたのだ。
「なっ……!?」
蛇が殺到したのは、私の場の伏せカード。
《手札抹殺》の効果から事前に逃がしていた《聖なるバリア -ミラーフォース-》だ。
「罠カードが発動したことで、《聖神蛇アポピス》の効果を発動した。1ターンに1度、相手フィールドのカード1枚を選択して破壊する」
裏側状態の「ミラーフォース」のカードが絞め上げられ、粉々になって飛び散った。
「……こ、このようなことが」
私のターンなのに。
今は、私のメインフェイズのはずなのに、一体、これは。なんで。
……いや、違う。そうではない。
そうではないぞ、私。
うろたえてばかりではいられないのだ。
燦様のお力が私の常識を超えていることは、もう十分に理解した。
此度のデュエルは、奏上のデュエル。
私がしっかりせずしてどうする?
ここより先は、一々驚くより、目の前の盤面に集中すべしと心得よ……!
「私は《悪夢再び》を発動いたします! その効果により、《手札抹殺》によって捨てられた、墓地の《レッド・シャーマン》と《オレンジ・シャーマン》を手札に加えますッ!」
>ジン:手札4→5
まずは《手札抹殺》によって負った1枚分の消費を回復する。
直後に、墓地から拾い上げたばかりのモンスターカードを盤面に叩きつけた。
「そのまま《レッド・シャーマン》を召喚し、手札より《サイキック・サイクロン》を発動いたします!」
>ジン:手札5→3
「むっ……」
燦様が片眉をピクリと上げた。
魔法・罠除去の代表カード、《サイクロン》の語に反応したのだろう。事実、《サイキック・サイクロン》も、それにちなんだ効果を持つ。
「このカードは、カード種別を宣言し、セットされた魔法・罠カード1枚を選択することで発動できる速攻魔法……。
選択したカードを破壊し、それが宣言した種類だった場合、さらに私は1枚ドローできるのです」
ゆったりとした動作で、私は燦様の魔法&罠ゾーン中央を指し示した。
「……私が選択するのは、中央にセットされた《アポピスの蛇神》! 宣言するのは当然『罠カード』ッ!」
「なら、《アポピスの蛇神》をチェーンして発動」
「当然そうなさるでしょうね……表側になれば『カルダーン』の残存効果によって守られる」
これで破壊効果は空振り。
──だが、それでよい!
「ですが、その『蛇神』の発動に対して《レッド・シャーマン》の効果を発動いたします!」
私の場の《レッド・シャーマン》がくるくると舞を踊りだした。
「相手が罠カードを発動した時、私は手札から『シャーマン』モンスター1体を特殊召喚できるのです。来なさいッ、《森羅の賢樹 シャーマン》!」
>ジン:手札3→2
巨大な人面樹が石床を割って勢いよく生えてきた。
数多の根を鞭のようにしならせて、大樹は御方と向き合う。
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《森羅の賢樹 シャーマン》攻撃表示
星7 風属性 植物族
攻2600 守2100
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「攻撃力2600ね……チェーン2《アポピスの蛇神》、自身を通常モンスターとして特殊召喚する。そして──」
「その追加効果は使えない、でしょう?」
「……そうだね。過去のルールの弊害」
私も魔法&罠ゾーンからモンスター扱いで特殊召喚するカードをデッキに入れているからわかる。
あの類のカードはモンスターゾーンに出た後も魔法&罠ゾーンを
燦様のフィールドでは《護石の作庭》、《苦紋様の土像》、《アポピスの蛇神》の3枚が発動済み。
さらに《澱神アポピス》と《護石の作庭》でセットしたカードの2枚が伏せられている。
合計すると上限いっぱいの5枚。「蛇神」の効果でさらにデッキから「アポピス」をセットすることはできないのだ。
「そして、私の《サイキック・サイクロン》による破壊は、燦様の《賢瑞官カルダーン》が遺した力によって無効となり、続くドロー効果も無効……」
しかし、《アポピスの蛇神》の追加効果による展開を防ぎ、攻撃力2600の《森羅の賢樹 シャーマン》を呼ぶことに成功した。
これなら、まだ──
「《アポピスの蛇神》が特殊召喚されたことで、《苦紋様の土像》のモンスターとしての効果が発動する」
突如、私の場の賢樹が石化し、砕け散った。
「ぐっ、ここまでやっても、まだ阻まれますか……っ!」
「《苦紋様の土像》は、魔法&罠ゾーンのカードが私のモンスターゾーンに特殊召喚される度に、フィールドのカード1枚を選択して破壊できる。《森羅の賢樹 シャーマン》には消えてもらう」
これで私の場は《レッド・シャーマン》だけ。手札は残り2枚。
それでも、まだだ。まだ可能性はある。
「ならば、このカード──《埋葬呪文の宝札》に託します! 私の墓地の魔法カード3枚を除外して発動し、デッキから2枚ドローしますッ!」
>ジン:手札2→1
「チェーンして《澱神アポピス》を発動する」
「!?」
どうしてここで《澱神アポピス》を切る?
わからない。嫌な予感がする。
しかし止まれぬ。ならば、せめて「迷うことなかれ」だ、私!
「ッ……《レッド・シャーマン》の効果は1ターンに何度でも発動できます! 《澱神アポピス》の効果を利用して、《オレンジ・シャーマン》を手札から特殊召喚です!」
>ジン:手札1→0
「次はチェーン2、私の《澱神アポピス》。通常モンスター扱いで自身を特殊召喚する」
「では、最後に私の《埋葬呪文の宝札》の効果──」
「
山札の一番上に翳した右手が……否、右腕全体が動かない。
見ると、縄で縛られた痕のようなものが袖口から見えた。目を細めて観察して、それが「蛇の鱗」の紋様であると理解する。
「《澱神アポピス》の効果処理は終わっていない。特殊召喚後、相手フィールドに表側のカードがあるなら、私のフィールドの他の永続罠カードの数まで、ターン終了時までそれらの効果を無効にできる」
燦様のフィールドの永続罠は、「澱神」以外は3枚。
私のフィールドには、「シャーマン」が2体だけ。なぜそれで、《埋葬呪文の宝札》の効果が……。
──あっ。
「気づいた?」
「……ルール上、魔法カードを手札から発動する際は、フィールドの魔法&罠ゾーンに置いて発動、します……」
盲点だった。
発動後、即座に墓地へ送られる
一縷の望みをかけたドローは、露と消えた。
全身を虚脱感が襲う。
しかし、デュエルは止まらない。
ピシリという音を耳が拾った。
顔を上げる。発生源は《オレンジ・シャーマン》だ。
《オレンジ・シャーマン》が、石化していた。
やがて、鈴を鳴らしたような声が告げる。
「言ってなかった、ごめん。《苦紋様の土像》の効果も、1ターンに何度でも発動できる」
石化した私の「シャーマン」は、さらさらと砂となってかき消えていった。
これで私の場に残ったのは、最初に攻撃表示で召喚した攻撃力0の《レッド・シャーマン》だけ……。
「~~ッ!」
頬をバシンと叩いた。
私は御二柱の忠実なるしもべなのだぞ!
最後まで、神の顔に泥を塗ることのない己でなくてどうする!
「墓地の《リベンジ・リターン》の効果を発動いたします! このカードを除外し、このターンに効果で破壊された私の墓地のモンスター1体を特殊召喚する! 蘇れ、《森羅の賢樹 シャーマン》よッ!」
石床を割り、再び大樹が天井まで高く伸びた。
その攻撃力は2600。
《聖神蛇アポピス》の2800にも、《天獄の王》の3000にも届かない。
だが、それがなんだ?
たとえ道化に成り下がろうとも、ここで踊らなければ御方からすれば興ざめもいいところだ。
諦めるな。藻掻け。戦え!
「バトルです! 《森羅の賢樹 シャーマン》で、守備力2500の《苦紋様の土像》を攻撃ッ! シャーマン・ルート・ウィップ!」
賢樹の根が、土像へ一斉に襲い掛かる。
掴み、絡めとり、押さえつけ、バラバラに捩じ切った。
「……ん、やられた」
「ゼッ……ハッ……バトルを、終了します」
けれど、ここで打ち止めだ。
本当にもう何も、手立てが残されていない。
賢樹ではなく《オレンジ・シャーマン》を蘇生する手もあった。
だが、レベル4モンスター2体で出せる有効なモンスターエクシーズを私は所有していない。
仮に持っていたとしても、己が純粋な力を曝け出すため、ナンバーズ禁止というのが燦様の御意思……。
やるだけはやった。私は腕をだらんと垂らして沙汰を待った。
返しのターン、燦様は伏せていた罠モンスターを特殊召喚し、《聖神蛇アポピス》がそれを引き金に賢樹を破壊。私は総攻撃を受け、敗れた。
……完敗だった。
*
まあ、ふつうに勝ったよねっていう。
D・ゲイザーに手をかけ、ピタリと止まる。
「……」
正直、モヤモヤしている。
だって私、今のデュエルでラーを出せてないもん。
当初の予定通りにボコボコにはしてやったけど、不完全燃焼感が否めない。
いや、その気になればわざと何もせずにジンにターンを回してラー召喚まで待つこともできたけど、そういう手抜きは、なんか違うんだよね。
「──太陽神に拝謁する栄誉にあずかるには、今の私では足りぬ……ということですか」
大の字になって倒れているジンが、くぐもった声で呟いた。
たぶん、狂信者的な文脈でラーを拝みたかっただけなんだろうけど、少し後ろめたい気持ちがある。
デュエル前に「私はふつうにラーを使う」って言った手前、ね。
ジンは覚束ない足取りで起き上がり、小刻みに震えながら恭しく頭を下げた。
「このジン、この胸に灯った切なる祈りを、奏上の儀式を通じてお届けするよう努めました。しかし、私の力量不足がために、御方に置かれましてご満足いただけないものとなってしまったこと、深くお詫び申し上げます……。
このジンの身は如何様になさっても構いませぬ──ですが! ですが、どうかカイト様との和解だけはァ……っ!」
ああ、そういえばそんな感じの流れだったか。
和解も何もないだろってのと、仮に和解とやらをしてほしいにしても「なぜにデュエルを?」って話だけども。
「カイトに関しては、向こうが私に何もしないなら別にいい。元々私は彼に敵意を抱いてなんていない」
「……!」
そこでジンは顔を一瞬上げて目を見開き、再び俯いた。
「左様で、ございましたか……」
「……」
その落ち着いた声音は、安堵によるものか、取り越し苦労だったことへの虚脱感からくるものなのか。
ま、こいつの脳内世界観に興味なんてないので、別にどーでもいいが。
さておき、もう用は済んだ。D・ゲイザーを外した。
「先輩、」
──行こうか、と言いかけて、喉奥で詰まる。
「?」
光焔先輩が不思議そうに私を見返してくる。
ああ、そうか。
ジンとデュエルした。予定通りに彼をボコボコにした。
でも、私の感情は、まだ収まりがついていない。
やっぱりラーを使いたい。
なら試すだけ試しておけ。そう思っているらしかった。
「ごめん、その……ダメだったら『ダメ』って言ってほしいんだけど」
「なんか、珍しいですね。どうしたんですか?」
「もう一戦していい?」
「……えっと?」
……。
自分でもどうかと思う。
先約は先輩だったのに。私も最初はデュエルに嫌々だったのに。
でも、だからむしろ、スッパリ却下してほしいというか。
「なんで、わざわざ聞くんですか? 有明さんのデュエル、すっごくすっごいのに」
「元々約束してた先輩との時間が大事だから」
「はぅ……また、そういうこと言う……!」
先輩は胸のあたりを押さえて、ちょっと苦しそうで、でも嬉しそうな、妙な表情をした。
私は思ったままのことを喋っただけだ。大げさである。悪い気はしないけどね。
「……いいんですよ。私、有明さんのデュエル見るの、好きですから」
「うん……ありがとう」
先輩に軽く頭を下げて、私は再びD・ゲイザーを装着し直した。
踵を返し、ジンを視界の中心に捉える。
「あ、あぁ……と、尊い……」
「何ボサッとしてんの。構えて」
「──へ、あ、燦様……? 申し訳ございません、一体どのような──」
なに呆けてんのこの人。
目の前で話してたのに全然聞いてなかったのか。
「
「ッ!! ……は、はいィッッ!!」
……あ。
一戦目みたくラーもサーチ札も引けなかったらどうしよう……?
「──ゴッド・ブレイズ・キャノン」
「ありがとうございますゥゥゥゥゥァアアァァァッッッ!!」
>ジン:LP4000→0
杞憂だった。
*
ジンの館を発ってから少し。時刻は午後三時半くらい。まだ日は高い。
しかしまあ、予定から随分と時間が過ぎてしまった。あまり歩き回る余裕もない。
先輩の発案で、目に映ったクレープ屋さんでクレープを買った。
近場にあった公園へ立ち寄る。
光焔先輩が向かったブランコの方へついていく。
ブランコの座板に腰掛ける。
一瞬キコキコと漕ぎかけ、右手にあるクレープを思い出した。
「……」
しばらくモッモッと食べながら、近くの家の屋根を眺めるだけの時間が過ぎる。
お互い黙っていると、普段は聞こえない風の音がよく聞こえた。
「ぷは……『ラーの翼神竜』を召喚した
普段通りのトーンの声で、光焔先輩は核心に踏み込んできた。
……。
そりゃ、聞かれるよね。さて、どう答えたものか。
ジンとの二戦目の後、私はあいつに耳打ちした。
「明日の日曜日、私が指定した場所に来るように」って。
別に先輩に隠し事をしたいわけじゃない。
少し逡巡し、説明できる範囲で答えることにする。
「明日、また会う約束をしたんだよ」
「え、また、あの人と会うんですか? その、どうして?」
「
あいつが「魂を奪うのは金輪際やめろ」「遊馬先生にわざと負けてこい」「私の名前を一切出すな」という命令に全部従ってくれそうなら、という条件付きでだけど。
まだジンを信用したわけじゃない。
明日また会って、使えるかどうか見定める。
本当に問題なさそうなら、長いこと悩みの種だったモロコシ船をあいつにプレゼントするつもりだ。
別にナンバーズを手放したってカイトは私をつけ狙うだろうけど、わざわざ所有し続けてトロン一家の標的にまでなる可能性を放置する意味はないからね。
「その。まさかあの人が、以前言ってたナンバーズの『本来の持ち主』…………そんなわけないか」
一瞬吹き出しかけた。あってたまるかそんなこと。
「……うん。違うよ」
「ですよね。えっと、それならまた、なんで?」
「その『本来の持ち主』へ、私の代わりに渡してもらいたいからだね」
原作主人公とは関わらない。ナンバーズは譲渡する。
両方やらなくっちゃあならないってのが、転生者のつらいところだ。覚悟はそんなにできてないけど、今回のジンを使うアイデアは妙案だと思っている。
先輩は数秒ほど口元に人差し指を当て、それから私のほうを見た。
「えっと、こういう言い方していいのかわからないですけど、渡し方が見つかってよかったですね」
その表情は、遠慮がちだったけど、素直に喜んでくれているように見えた。
でも、だからこそ、私の口は自然と動いていた。
「……先輩、もっと色々、聞きたいこととかあるんじゃないの?」
今日だけでも、先輩からすれば初見の情報の大洪水だったはずだ。
ジンの狂信、カイトとは何者なのか、私とカイトの関係、私の知識の出所……聞きたいことがあるのがふつうで、むしろ、ないわけがない。
かといって、こうして聞いている私が、すべてを詳らかに説明することも、きっとない。
真偽を証明できないうえ、信じてもらったところでじゃあ「世界の命運を懸けた戦いが起こります」という事実をどう扱えばいい? という話だ。
一方、知らないままでいれば、先輩は「日常側の人間」でいられる。なら、それが一番だ。
それでも、私には彼女に隠していることがあまりにも多くて、後ろめたくて、聞かずにはいられなかった。
「……そういうこと、気にしてくれるんですね。有明さん」
「まあ、うん……」
先輩はふわりと笑って、ブランコを漕ぎ出した。いつの間にか、クレープは食べ終わっていた。
前へ後ろへ、行ったり来たり。
彼女が聞きたいのか、そうじゃないのか、よくわからない時間が続く。
少し心臓の音がうるさかった。
「別にっ……有明さんのほうから話したくなる時が来たらでっ……いいですよっ!」
「!」
いつの間にか地面を映していた視界がバッと上を向く。
先輩はブランコの揺れの最高点で飛び降りようとして、思い直したようにそのまま降りてきた。砂とスニーカーの靴底が擦れる音の後、彼女が立ち上がる。
「……いいの?」
おずおずと尋ねる。
私にとっては、あまりにも都合のいい言葉だったのに。
「いいですよ、と言ったのです。ぜんぶ、有明さんが私のことを大事に思ってくれているからだって、わかってますから」
「あ……えと、うん」
ちょっと話を盛られた気がしないでもないが、まあ概ね正しい。こうも面と向かって言われると恥ずかしいものがあるな。
そこで先輩は「と・は・い・え!」と大げさに前置きした。
「どうして有明さんがナンバーズやアストラル世界? というのだったりWDCの裏の目的に関して知っているのか、どうしてジンさんが有明さんにあんな態度だったのか、どうして有明さんはあの態度を気味悪がりつつも受け入れていたのか、『カイト』という人が何者で有明さんとどういう関係なのか、有明さんが接触を避ける『ナンバーズの本来の持ち主』が一体どこの誰なのか……ほんっとーに、わからないことだらけです!」
お、おう。
一息で言い切ったね、すごい。
「そう列挙されると、その……つらいね」
膝の上で、両手を組み直した。
「でも、聞かないであげます」
「うん……うん、ありがとう」
「どういたしまして。えへへ」
少し肩の力が抜けた。
先輩はなんだか満足そうに笑っている。
「ねえ先輩」
「なんですか、有明さん」
「次、また休日に遊ぼ。今度はもっとこう、ゆっくりする感じで」
先輩の口元が、ふにゃりと緩んだ。
「──いいですねっ」