大いなる力には大いなる責任が伴うらしいが転生者もそれに含まれますか? 作:御船上郎
-1-
オズコープという企業のインターンのレベルは言わずもがな高い。
世界最先端を走るハイテクの技術を生み出す場所なのだから当たり前である。
故にただの学生、それもハイスクールの人間を迎え入れるのに社員の多くは困惑していた。
ノーマン・オズボーンの慈善事業であると彼らは思っていたのである。
「ハイスクール生徒だと思って見くびってましたなぁ」
「ですなぁ、非常に優秀な子たちだ」
しかしそんな見縊りは直ぐに解消された。
このインターンに来ていた少年少女はその誰もが優秀であり、並みの新入社員よりも遥かに使える。
今廊下でコーヒーを啜っている社員二人は、その事実を話していた。
「フラッシュ君はその中でも際立ってますな」
「絵に描いたような優秀さですよ、私の大学生時代とはえらい違いだ」
まず話題に上がったのはフラッシュ・トンプソンである。
青白い肌に眼鏡のオールバックの少年は、このオズコープという環境に身を置いたことでその優秀さを成長させている。
もはやMITにも楽々入れると社員二人は思っていた。
「あらゆる分野に手を伸ばし、努力しようとする姿勢は若いから出来る事でしょうか?」
「いいや彼の憧れはノーマンさんでしょうから、それを目指して努力してるんでしょう」
だが、彼の優秀さはそれを持っている本人の欠点にも目を向けさせる。
「ですがちょっと神経質な所が問題ですな」
「ううむ、若さゆえととりますか、或いは彼の置かれた環境が悪かったのでしょうか」
彼は非常に傲慢だった。
そしてチームの指揮を執りたがる悪癖がある。
自分がやればうまくいく、そしてその為に全てを管理したがるのだ。
結果はうまくいっているが、それが続くかどうかは別の話である。
「もし失敗した時に、彼の真価が問われますな」
「激昂して他責するのか、或いは冷静に失敗した要因を見つけ出すのか、出来れば後者を願いたいものです」
「そう考えると昔の我々は幸運でしたな」
「ですな」
この世界に天才と呼ばれる人種は数多くいるのだ。
しかし傲慢なだけでは早晩に潰れる。
二人の社員もそれをよく理解していたし、自分達を天才と思っていた傲慢側の人間だった。
しかし二人の天狗となった鼻はノーマンにボコボコにへし折られて現実を見つめ直している。
「そういう意味ではグウェンのお嬢さんはいい...」
「ええ、研究者としては理想的です」
満遍なく高水準なフラッシュに比べれば万能性は劣るかもしれないがグウェン・ステイシーという少女の優秀さは目を見張るものがあった。
研究に対する視点を切り替え、理想実現の為に今までの努力を一旦捨て去ることを厭わない冷静さは理想的である。
「人格面でも問題ないですし、失敗も真正面から受け止めています」
「あの年であれが出来るのは珍しいですよ」
己は優秀だから、失敗しない。
このプライドや傲慢はいかなる人間でも持つものだ。
だが彼女にはそれがない。
「どのような経験があるんでしょうな」
「無理に聞く必要は無いでしょう、心の内に秘めたものがなんであれここでは結果が全てです」
その過去が気にはなったがそれはマナー違反である。
かっこつけてるが下手に聞いたらセクハラで訴えられるかもしれないので怖いのだ。
「MJさんは優秀、というよりは要領がいいタイプですな」
「言われたこともしっかりやってくれてますし、効率をよくしてくれています」
疲れた時にコーヒーを置いておく、手詰まりになったらちゃんと話を聞く、相手の余裕を見極める。
その他様々な気遣いを職場の全員に赤毛の少女、MJはやっていた。
どれほどの観察眼があれば、或いは人の心理への理解があれば出来るのだろう。
心理学は専門ではないので二人には解らない。
「そしてピーター君は、うん...」
「優秀なのは...間違いないんですが...」
「我々より上なんでしょうが...」
そして最後の一人、ピーター・パーカーへの評価は矛盾していた。
腕はいい、知識は深く広い、そして人格面でも好感を持てる少年である。
研究者としては諸手を挙げて歓迎する。
しかし―――
「時間にルーズなのがね....」
「いやまあ結果は出していますし....」
「うん...今後改善されることを祈りましょう」
―――ちょくちょくサボっていた。
そのサボっていた時間以上の結果を出していたし、なんなら自分達正規の研究員の作業すら進めている。
しかし僅かな時間いなくなり、会議にも遅れてくることが多い。
会社としてはあまり入れたくないかもしれない。
そう片方が口に出そうとした時である。
「ガッ!」
「スミスさん!うっ」
片方がどさり、と倒れた。
それに駆け寄ろうとしたもう一方もまた、倒れ伏す。
認識すらさせず二人を気絶させた張本人は音もなく地面に降り立つ。
「潜入成功」
黒いマスクのその男は二人の職員から、社員証を剥ぎ取り奥へと進んでいった。
『――――zッ!』
「怒鳴るな、ここで職員を殺すのはリスクが高すぎる」
冷静で、そして人を傷つけたことに対しての恐怖も躊躇もない声である。
凶器であるナイフや銃器を装備しているが、それを使うつもりは今日は無いようだった。
「ノーマン・オズボーンの怒りを買うのは無謀だ」
理由はこの巨塔であるビルの王である男の存在である。
ノーマン・オズボーン、今世紀を代表する科学者を十人選ぶならば必ず選ばれる一人だ。
しかしその本性を、この黒いマスクの男は知っている。
「あの男に明確な敵意を抱かれたら不味いのはそちらもだろう」
『...』
マスクに仕込まれた通信機の奥の存在もまたその言葉に沈黙した。
それほどまでにノーマンという男は、怖い。
かつて彼の怒りを買った裏組織があったが、その組織は目を見張る速度で滅んでいったことがある。
ノーマンがその組織の個人情報、規模、そして流通経路を全て調べ上げ、潰したからだ。
これに一切の暴力行為を行ってはいない。
「間違いなくここで奴の職員を殺したら逆鱗に触れるぞ」
そう言いながら彼はビルの奥へと消えていく。
「もう一人にもよく聞かせておけ」
マスクの男がそう言った瞬間だった。
ビルが、揺れ動く。
-2-
同時刻、ぐらぐらと揺れる地面はピーター達も揺らしていた。
激しく証明が揺れて、机の上の薬品の容器は不快なタップダンスを踊る。
「何これ!?地震って奴!?」
MJが混乱したように悲鳴を挙げた。
ニューヨークで今まで生きてきた中で地震を経験したことが無かったらからである。
「机の下に伏せろ貴様ら!薬品がかかるとまずい!」
「MJ!こっちに!グウェンも!」
「ええ!」
そんな彼女をピーターは腕を掴んで机の下に一緒に隠れた。
直ぐ横にグウェンも急いで避難する。
揺れは激しく、なんども続いたが収まった瞬間フラッシュは初めに立ち上がり周囲の被害を確かめ、出入り口が無事なのを確認した。
「避難経路は頭に入っているな!」
「勿論!耳にタコが出来る程言ってきたじゃん!」
「フラッシュの言い聞かせ癖がいい方向に作用したね!」
彼らはこの場所から逃げるべく、想定されている避難経路に従い足を動かし始める。
素早く、されど転んで巻き込まれることが無いように速度で廊下を歩んだ。
研究員や事務員、警備もその道筋にそって逃げていく。
その巨大な流れからピーターはそろりと抜け出た。
「ピーター!どこへ行く!」
避難経路から外れた友人を、フラッシュは見逃さない。
「ごめん!逃げ遅れた人がいたから先に行ってて!」
その友人からの怒り交じりの質問を受け流し、彼は廊下の脇道へと進んでいく。
「愚か者!こういった場での素人の救助活動はかえって悪い結果を産むことが・・・ええい私の話を聞かんか!」
フラッシュの正論は人の波に流され消えていった。
ピーターはそれに謝りつつもある場所へと身を隠す。
彼がこの脇道へと入った瞬間から監視カメラに映ってはいない。
フラッシュが意気揚々と避難経路をMJやグウェン、そして自分へと解説している合間に彼は自分が活動するフロアの構造を理解し監視カメラの資格も理解していた。
そして服の下の隠しポケットの中から、ある物を取り出す。
「さぁ...楽しいインターンは終わり、ここからは―――」
彼の手には、マスクとスーツがあった。
「スパイダーマンの時間だ」
地震にしては断続過ぎる揺れ、そして感じた事のある衝撃、そして聞こえた悲鳴。
そして何よりも彼のスパイダーセンスは、敵の存在を告げている。
ヒーローが必要な危機が、下にあるのだ。
-3-
悲鳴と轟音が鳴り響いている一階のエントランスホールにはそんな惨劇そのものの雰囲気とは程遠い匂いが漂っていた。
「へぇ無料のコーヒーの癖にいい豆使ってるらしいじゃねぇか、金持ってんなぁ」
豊潤で眠気を覚ます紙コップに入った黒い液体、つまりはコーヒーから漂ってきているものである。
それを下品にすすり上げ、喉の奥へと飲み干していく存在こそがこの悲鳴轟く空間を生み出した存在だった。
「タランチュラの野郎、遅すぎるだろう。むかつくぜ。人を待たせるような奴は最低だ」
ばちり、と音がする。
それは空気が破裂する音だ。
静電気とは程遠い、明確に視認できる程の電流を、その男は纏っている。
本来ならば即死する筈のその電流と電圧を体内に駆け巡らせ、コーヒーの上でバチバチと火花を散らした。
「なぁ、お前もそう思うよな」
「ひゃ、ひゃい...」
そう言ってどかりと座っているのはエントランス中央に存在する受付である。
つまり男の質問に答えたのは人質として確保された受付嬢だった。
訪問者を接客する文字通りの会社の顔として配置された彼女は美しい美女である。
しかしその手入れされた美しさは涙と恐怖で崩れていた。
冷や汗は絶え間なく流れ、涙すら流していたが下が決壊していないのは目の前に座るこの男の前にしてそれをすれば死ぬと本能で理解していたからである。
「そんなにビビんなよ、俺は女には優しいぜ?」
ヘラヘラと男が軽薄に笑った。
この数分前にやって来た男には銃は通用しない。
悠然とやって来て次々と雷を放ち、警備員が銃を構えるよりも早く気絶させていた。
そんな受付嬢の常識が通用しない存在は、笑顔を浮かべ口を開く。
「そうだ、ゲームやろうぜ」
コーヒーを啜りながら、指先を二つの方向に交互に向けた。
どちらにしようかなと並ぶ子供のような動作である。
指が向けられた先には一階にいて壁に追い詰められた人々と、そして降りてきた避難者たちがいた。
「俺は今からあいつらのどっちかに向けて、雷を撃ちまくる。お前はどっちか選べ、安心しろ死にゃしねぇよクソいてぇだけだ」
嗜虐心たっぷりなその笑顔で放たれた言葉は文字通り脅迫である。
お前のせいで人が傷つくぞ、とこの男はそう言いたいのだと受付嬢は理解した。
彼女は二つの方向に目を向ける。
どちらも彼女に縋るように瞳を向けていた。
「どうする?」
息が浅くなる。
思考は洪水の様に彼女の奥から溢れて、意識を飛ばしそうだった。
自分をいつでも殺せる怪物に従わないと死ぬかもしれない。
「い、いひゃですぅ」
だが彼女はそれを拒否する。
死ぬかもしれない、だが人を傷つけた事実をこれから背負っていく方が彼女は怖かった。
「そうか、じゃあまずお前からやってやるよ」
笑みを消したその男は雷を纏った指を彼女に向ける。
―――ああ、出来れば顔が傷つかないといいなぁ
ぼんやりとそう思い、彼女は目を瞑った。
しかし、その想像していた痛みも熱も彼女を襲うことは無い。
「やぁクソ野郎まずこちらをどうぞ」
それを邪魔するものが現れたからである。
赤と青、そして黒をあしらったスーツとマスクを纏った男、スパイダーマンが拳をぶち込んで人のいない方向へと雷を纏った男を吹っ飛ばしたからだ。
「ス、スパイダーマン?」
「やあ大丈夫?勇気あるお姉さん。ここからあの迷惑客を相手するのは僕の仕事だからあっちに避難して」
背中を向けながら受付嬢に向けて壁を指差して誘導する。
それと同時に、吹き飛ばされた男が起き上がった。
「痛ってぇなクソが!」
ばじん、と先ほどよりも遥かに大きく空気を焼き焦がす雷が産まれる。
その雷を纏っている男の注意をこちらに向けるべくスパイダーマンは口を開いた。
「やぁビリビリ男君?アポが無いならさっさと帰ってくれない?」
その挑発に雷を纏った男は笑って答える。
「クハ!いいぜぇスパイダーマン!てめぇを焼き殺して!エレクトロの名を響かせてやるよ!」
雷を纏った男、エレクトロと向き合いスパイダーマンは思った。
―――これなんてアメイジング?
そう現実逃避をしながら、彼は二度目のスーパーヴィランとの戦いに身を投じる。
Tips
・ピーター・パーカー
絶対なんか起こると思ってスーツとマスクを常備していた男。
治安はどうなってんだ治安は!
あーもう滅茶苦茶だよと思いつつまた女性を救った
雷まとった相手に民間人を守りつつ挑むルナティックモードである
・黒マスクの男/タランチュラ
何者かからの指令を受けて活動している男。
諜報員として凄腕
何を狙ってオズコープに侵入したかは不明
雇い主とは完全な上下関係ではない中間管理職
・エレクトロ
ビリビリ電気マン
今のところ普通の人間みたいな感じ
雷を自在に操るやべぇやつ
タランチュラに言われて殺すレベルの電圧では放っていなかったがキレてそれを忘れている