綾小路 side
無人島での生活も三日目。初めは新鮮だった無人島での生活も段々と慣れてくる。爆弾の解体作業をさせられるという通常では考えられないこともやる羽目になったがな。
今日は朝から爆弾の解体作業をさせられて、オレに自由な時間は飯時しかなかった。そんな貴重な自由時間である昼飯が終わると、堀北と共に茶柱先生から声をかけられる。あの人も爆弾の解体作業があるから割と暇じゃないはずなんだがな。
「来たか。入れ」
茶柱先生の部屋に入ると、既に堀北もいたようでどれだけ待たせるのかとでも言いたげな表情でオレを睨んできた。
「堀北、そう睨んでやるな。お前が来るのが、早かったのだと考えれば良い」
「呼び出されたら、すぐに向かうのは常識です。ましてや、上官の命令であれば尚更」
「いや、オレにとっては上官じゃないからな」
「教師は上官みたいなものでしょう? まぁ、そんなことはどうでも良いわね。茶柱先生、私達を呼び出した理由をお聞かせください」
「お前達を呼び出したのは、伝えておかなければならないことがあったからだ」
てっきり、コクマーに対する作戦を立てるために呼び出したのかと思ったが、そうではないらしい。堀北も同じことを思ったようでその言葉を口にする。すると、茶柱先生から諦めたように言葉が紡がれた。
「これは特別試験だ。試験である以上、教師が必要以上の介入をすることは許されない。今回で言えば、作戦の立案は我々ではなく、お前達に任されると言った具合にな」
つまり、茶柱先生は今回、戦力として以外では役に立つことができないということか。これは他クラスの明星にまた頼るしかないな。オレも作戦の立案はできないこともないが。
「でも、茶柱先生は中間試験に介入してきましたよね? それと同じようなことはできると思うのですが」
「だから、私は今月末でクビになる」
「もう、決定したんですね」
「あぁ、予想通りの結果ではあるがな」
試験範囲の変更を伝えなかった程度でクビになるのかと疑問に思うが、退学者が出るところだったと考えれば妥当ではある。となると、この人とはこの試験でさよならってことになるのか。
「伝えておかなければならないことというのはこのことですか?」
「いや、伝えておきたかったことは別のことなのだが、ちょうど良い機会だ。私の後任の話もしておこう」
「軍の内部で既に後任が決まっているとは……軍の内部で?」
「重要事項はそこだ。上層部の息がかかっている者が高育に来るかもしれない。私達を陥れようとしている奴らの息がかかって者がな」
茶柱先生にとってそのことは既に確定事項なのか。そうなると、オレ達にとって面倒な展開になってきたな。
「後任のことを他の教師が軍部に尋ねたそうだが、返答はなし。つまり、答えたら反発を招く恐れのある者というわけだ」
「そんな人に背中を任せなければならないとは……何にせよ、警戒はしておいて損はなさそうですね」
確か、軍部にはオカルトがいる可能性があるんだったか。昨日、情報共有で明星や龍園から聞いたことではあるが、そうだとしたらオレ達を殺しにくるかもしれないな。
「さて、本題に入ろう。佐倉……いや、ケセドは校内に擬態した機械兵を配置していたことは覚えているな? それを生み出して操っていたケセドは死んだが、奴らは残ったままだ。奴らへの警戒をお前達の部活でやってくれないか? 教師はそのサポートという形になるがな」
「かしこまりました。部長である明星さんにも伝えておきます」
用事はそれだけだろうか。なら、もうここに残る必要はない。さっさと爆弾の解体作業に戻らなければ。そう思い、席を立つと茶柱先生から『待て』と言われる。
「話したいことはまだある。このレントゲン写真を見てほしい」
そうやって見せられたレントゲン写真は明らかに人の身体だとは思えず、明らかに機械の身体だと思えるものだった。
「これは従業員の写真をもらってきたんですか?」
「あぁ、従業員が本当に機械兵なのか確かめるためにな。そして、これが私の写真だ」
「一緒、ですね」
「その言葉を聞けてホッとしている自分がいることに驚いている」
「つまり、茶柱先生は機械兵だということですか?」
「そうなるな」
ケセドと戦っていた茶柱先生が機械兵だったとは思わなかったが、だから何だというのか。ケセドがいなくなった以上、ケセドに操られることはないのだから、人間として生きていけば良い。そう思った時、明星や龍園からの言葉を思い出す。
「もしかして、先生が耐えているだけでケセドからの影響はまだあるのですか?」
「デカグラマトンへの忠誠心。奴はそれだけを遺していった。言葉だけを聞くと大したことはないかもしれないが、忠誠心とはその者のためならば何でもするということだ。そして、ケセドは発見されてから十年以上が経過している。軍部以外にも機械兵になってしまっている者は多くいるだろう」
「一瞬で機械兵を作れるのなら、機械兵が全国的に広がっていても不思議ではありませんからね。もしかしたら、私達が気づけていないだけで、私達自身も機械兵なのかもしれません」
「いや、お前達のレントゲンは既に確認済みだ。特異現象捜査部の全員、間違いなく機械兵ではなかったよ」
「それを聞けて安心しました」
つまり、オレも人間であることは確定というわけか。胸を貫かれても普通に動けたから、その可能性が出た時には少し疑ったのだが。
「まぁ、この件で私が言いたいのは私には気をつけろということだ。作戦中は特にな」
「移動中の船を沈没させることやコクマーの攻略中に何かする可能性がありますからね。今回のことは部で共有させていただきますが、よろしいですか?」
「あぁ、好きにしろ。私の場合は移動中、縄で縛っていても良い」
「それにしても警戒対象が二人に増えるとは」
「私と……櫛田のことか」
「櫛田?」
櫛田が茶柱先生と並ぶほどの警戒対象になっている……というよりも茶柱先生が櫛田に並ぶほどの警戒対象になったと考えるべきなのか。
「そういえば、綾小路君には話す機会がなかったわね。というよりも、話すことを避けていたのだけど、貴方にとって櫛田さんはどう映ったかしら?」
「人に優しい女の子って感じだな」
もっとも、それは表の性格で本性はおっかない少女なのだが、櫛田との約束で話すことはできない。それを話すとオレは学校から居場所がなくなるだろう。
「定期的にストレスを発散しているみたいだから、貴方なら見かけたんじゃないかと思ったのだけど。それとも言えない事情でもあるのかしら?」
「何のことやら」
前回の話し合いのように櫛田が聞いている可能性もある。いや、櫛田が聞いているなら怪しい人物として挙げられた時に出てきているか。堀北は本性を知っているらしいが、オレの生活がかかっている以上、言うわけにはいかない。
「櫛田のレントゲン写真は持ってきていないが、機械兵ではなかった」
「それなら、危険視する理由はないと思いますが」
「甘いわね、綾小路君。機械兵でなくとも危険な人物はいるわ。例えば、佐倉さん。彼女は機械兵ではなかったけれど、危険な存在だったでしょう?」
「佐倉のレントゲン写真も確認したが、機械兵のものではなく、普通の人間のものだった。つまり、預言者はレントゲンで判断することはできないということだ」
「つまり、櫛田は預言者だと?」
堀北が頷き、櫛田の話をする。櫛田がホドであることや学校を壊滅させたことなど様々なことを。この前、櫛田や佐倉と一緒に買い物に行った時に堀北が慌てた理由が分かったような気がする。預言者を二人相手にしたら間違いなく死ぬだろう。実際、死にそうになったわけだが。
「まぁ、とにかく話は以上だ。追加人員は私しかいないのが問題ではあるが、そこはお前達の選択だ。文句は言わん」
「オレ達というよりもクラスがまとまっていないが故だと思いますがね」
「あの人達は必ず成功すると思っているのよ。失敗しても私達に責任を押し付ければ良いだけだから」
こういう時にクラスをまとめてくれそうな平田が動かなかったのが不自然に感じたが、聞いていなかったから仕方ないか。クラスの奴らは橋本の言っていた不利な行動という意味を考えていないんだろうな。
「そういえば、失敗した時にどうやって脱出するんですか? 失敗するということは噴火に巻き込まれるということですが」
「噴火をするという兆候は掴んでいる。ということは噴火をするギリギリの段階は分かるのだろう。その時になったら引き上げるように指示があるはずだ」
「上からの指示というものは信用できるのでしょうか?」
「不安なら、全力で撤退や討伐を果たせば良い。そうすれば、上に命を握られる心配もないぞ」
目立たぬようにしようと思っていたが、上が信用できなくなった以上、仕方がない。どこまで通じるかは分からないが、本気を出させてもらおう。
「さてと、オレは爆弾の解体作業に戻りますね。あいつらだけがバカンスを楽しむっていうのも納得がいかないので」
「言っておくが、爆発しないという証明ができるまでお前達に自由はないぞ。そして、それは最終日まで遊ぶことはできないことを意味する」
「そして、最終日にはコクマーを倒しに行かなければいけない。つまり、遊ぶ時間はほとんどないわね」
より、コクマーを討伐したいという気持ちが強くなった。そもそも、コクマーは今まで見つかっていなかったタイプのはずだ。それが出てきたってことはケセドが討伐されたことが影響しているのだろうか。
◇
夕食後は外が暗くなっているため、外での爆弾探しはできない。そのため、ペンションでの探索が終わっていれば、貴重な自由時間の到来である。
そのペンションでの探索は夕食前に終わらせられたので、外での探索は明日以降となり、オレ達は自由時間が与えられた。と言っても外では遊べないのだが。
「綾小路君、お疲れ様。話したいこともあるしトランプでもどうかな?」
そう言って話しかけてくれたのはクラスのまとめ役である平田だ。オレ達のことを気にかけてくれたのは、須藤に続いて平田で二人目である。
「ありがたい。だが、何をする? 二人でできることなんてあまりないと思うが」
「そんなことはないよ。そうだね……スピードは知っているかな? あれをやりながら話そうか」
平田とオレは幸いにも同じ部屋だったため、秘密の話だったとしても部屋にいる人を気にすることなく話すことができる。
「本題に入る前に軽く雑談しようか。綾小路君は何か趣味はあるかい?」
「趣味か……読書は趣味と言っても良いのだろうか?」
「立派な趣味だと思うよ。僕は最近、種子集めにハマっていてね。色々な種類の種子を保管している」
「変わった趣味だな」
「よく言われるよ」
平田は笑いながら、そのように返答する。別に悪趣味というわけでもないので、気にはしていないのだろう。
「キャベツとレタスのように同じ葉っぱを食べる野菜でも種子は全然違う。そんな当たり前のことに今更気づいてね。色々な種子が見たくて最近、買っていたんだ。おかげでいつも金欠でね」
「食事は二の次にしているわけか。趣味に熱中できることは羨ましいな」
そうやって話している間にもゲームは続けられており、集中力を必要とするゲームでありながら雑談ができるのは平田の能力がすごいのだろう。
「それで本題とは何だ?」
「櫛田さんから聞いたんだけど……君達の戦う相手はコクマーっていうデカグラマトンの預言者とかいうものらしいね」
「何?」
櫛田がデカグラマトンの預言者であるホドである以上、コクマーのことを知っていても不思議ではない。問題は何故、平田に接触をしたのかだな。
「それで、櫛田さんの話によるとコクマーはある弱点があって、その弱点を突かないと攻撃がろくに通らないんだって」
「一応聞いておくが、その弱点というのは何だ?」
「まず、一つ目はバリスタによる拘束に弱いということ。と言ってもマニュアルにバリスタがないからこれはあまり意味がないんだけど」
平田もマニュアルに目を通したのか、バリスタの有無を分かっているようだ。上がデカグラマトンと繋がっているのなら、そういう弱点になるようなものは間違いなく除いておくだろうから驚きはない。
「そして、二つ目は火傷や感電などが効くということ。というよりも、これによるデバフをかけないとダメージが通らないんだって」
「ダメージが通らない?」
もしもこれが事実だとして、教えた理由が分からない。クラスポイントを確実に手に入れたいというわけでもないだろうし。
「櫛田がこのことを知っていた理由は何だ?」
「僕もそのことを聞いたんだけど、そこまでは教えてくれなかったんだ。理由については堀北さんが知っているだろうからって。ただ、一つだけ言っていたのは、コクマーに対して恨みがあったのか、『痛い目を見てほしい』ってだけだったな」
痛い目にね……コクマーがそうなることが望みだとしたのなら、あいつは何をやったんだか。ただ、討伐されてほしいわけじゃないんだろうということだけは分かる。
「櫛田は何で平田にそのことを伝えたんだ? オレ達に直接言えば良いだろうに」
「多分、クラスの人に伝えるか伝えないかを選ばせたんじゃないかな。ほら、Dクラスって今回の試験だと足を引っ張っているでしょ。こういうものでもないと、ただそれだけのクラスに思われちゃうから……だと思うんだけど」
櫛田はクラスに貢献しようという考えは全くないだろう。もしもそんなものがあれば、堀北に直接言えば良いのだから。おそらく、櫛田はクラスの人間性を試しているのだろう。どんな風に振る舞うのかを考えるために。
「おっと、スピードは僕の勝ちかな。別のゲームでもするかい?」
「いや、今の情報を堀北に伝える必要が出てきた。悪いが、ゲームは戻ってきてからだ」
「それは残念」
オレは部屋を出て、堀北に口頭で伝えたい情報があることをメールで知らせた。それにしてもゲームが終わった今になって気づいたことだが、スピードは雑談しながらやるゲームではないと思う。
今回、コクマーの弱点を出したのは、こうでもしないと勝負にすらならないと判断したからです。人数が揃っていれば勝てるほど甘い敵ではないですから。