神崎 side
昨日の夜、堀北からコクマーに対する情報がもたらされた。そして、情報源は櫛田桔梗。つまり、奴らの仲間だ。
この情報を与えた意味は何だろうかと考えてしまう。ポイントを無駄に使わせるため? そんな小さなことは考えないだろう。奴らにとってポイントなどどうでも良いはずだというのは前回の事件でも証明されたことだ。
「何を悩んでいるの?」
「……あぁ、リーダーか。オカルトに対する追加の情報が手に入ってな。その情報が奴らの仲間から与えられたものだから対処に困っていた」
「へぇ、どんな情報?」
リーダーである忍者に堀北からのメールを見せる。それを見た上で忍者は迷うことなく、発言した。
「じゃあ、相手にデバフをかけるような武器を用意すれば良いってことだね」
「そのためにはポイントを使う必要がある。今回の試験は人数が多いほど不利なものだ。Aクラスがこれ以上、協力するとは思えない」
「ポイントで用意できるものは軍が持っている装備だけ。先生もそう言っていたでしょ? でも、元々持っている武器などにはポイントを払わなくても良い。なら、デバフをかけるような武器を自力で用意すれば良いってこと」
「つまり、忍者が使っているような道具を用意するということか。それはウチのクラスだけで行うのか、それとも全クラスを巻き込んで行うのか、どちらにする?」
「勿論、全クラスを巻き込むつもりだよ。それに作るのは爆弾処理をしている私達じゃなくてバカンスで遊んでいる全生徒にやってもらう予定」
なるほど、暇なら手伝わせたほうが良いということか。それにクラスのために協力する人間なのかどうかも見極められる。
「その案には賛成だが、何を作る? それに材料はどうするつもりだ?」
「材料に関してはこっちで用意する。皆にやってもらうのは調合書通りに調合してもらうことだけ。何を作るのかに関しては秘密ってことで納得してもらえないかな?」
「忍者の技を教える気はないということか。それでも軍の利益になるのなら良いとしよう」
「軍の上層部をまだ信じているの?」
「信じる信じないの問題ではない。従わなければならないのだ。それが下の者として正しい在り方なのだからな」
「それ、本気で言ってる?」
当たり前のことなのだから本気に決まっているだろう。忍者はどんな任務だろうと忠実にやるのだから、分かっているものだと思っていたが。
「まぁ、いいや。それよりも私は今から材料を用意しないと。用意するまで一日はかかるから、それまで爆弾処理をよろしくね」
そう言って姿を消してしまった。忍者はどんなことをしているか把握はできないから、今回は事前に言ってくれただけマシと思うしかないな。
俺は爆弾の解体作業を始めるために外に出ると、そこにはCクラスの王である龍園がいた。防護服を着ていないことから、作業中ではないことが分かる。作業は放棄したのだろうか?
「爆弾の解体作業はどうした?」
「俺は爆弾の解体技術がねぇから戦力外だとよ。同じクラスの軍人にそう言われた」
「なるほど、入ったばかりでろくに訓練もしてないそうだからな。それは仕方のないことか。それで、何をしに来た?」
「椎名ひよりの情報を貰いに来た。軍人はあいつなんだろ?」
言い方が気になるな。まるで、軍人の正体を知らないようだ。だが、接触していること自体は本当だろう。なら、こちらのすべきことはただ一つだけだ。
「断る。何の条件もなしにそんなことをしてはこちらが殺される。上層部ではなく、椎名ひよりにな」
「つまり、認めるんだな。あいつが軍人だと」
「それ自体は隠すようなことではないからな。あいつの何が知りたいんだ?」
「決まっているだろ。全部だ」
それを利用して椎名を手下にしようということか。確かに脅迫によって軍に入った者もいる。神室や堀北が良い例だ。だが、俺と椎名は違う。そんなことでは手下にできないぞ。
「先ほども言ったが、何の条件もなしに情報を渡すことはできん。やるとしたら、俺から一本取ってからだな」
「軍人は考えることが一緒なのか? あいつも同じことを言ってたぞ」
「なら、椎名に挑めば良い……いや、表の顔は大人しい優等生だと聞いたな。そんな奴に一回でも負けたのなれば、恐怖で支配ができなくなる。それを恐れたか」
「御託は良い。さっさと始めるぞ」
「あぁ、だがルールを決めよう。流石に銃などの武器を使うわけにはいかないからな」
話し合って決めたルールは、武器や防具を使わないこと。そして、龍園は何回でも仕掛けてもよく、俺は一本を取られた時点で全てを話すことの二つだ。
龍園に何回でも仕掛けても良いとしたのは、軍人とろくに訓練をしたことのない人間では差がありすぎるからである。俺が防護服を脱ぎ、地面に置いている最中に龍園が仕掛けて来た。
「チッ」
「こうしてくると思っていた。不意打ちは俺に勝てる方法の一つだからな」
実力差がある相手に勝つためには不意打ちをするのが手っ取り早い。俺でもそうしただろうからな。
「次はどうする? 隠れている仲間でも呼ぶか?」
「それすら、お見通しか。お前ら、出てこい!」
龍園に言われて出てきた連中の顔は資料で見たことがある。確か小宮に近藤、そして石崎だったか。ケセドに襲われた被害者だったが、もう復帰したのだな。
「そいつらはまだ傷が痛むだろうに。奇襲用として使わされるとはな。本当に哀れだな、お前達は」
「うるせぇ! 見下してんじゃねぇぞ!」
「この人数だ! 怪我なんてしていてもテメェに一本取るくらい簡単に決まってる!」
どうやら、こいつらには俺のことを伝えていないようだな。その方が逃げないと思ったからかもしれないが。
「龍園さん、こっちは四人もいるんです! 早いとこ、やっちまいましょう!」
「焦るな、相手は格上だって教えただろうが。俺達四人で突っ込んだところで負けるだけだ。だから、お前達はあいつの周りを囲め」
「分かりました!」
龍園を除いた三人は俺の周りを囲い始めた。おそらく、俺が動ける範囲を狭める目的のためだろう。だが、俺がそれに従うつもりはない。近くにいたら、無理にでも突破すれば良いだけだからな。
「何故、山田を連れてこなかった? 怪我をしているこいつらよりも、無傷のあいつの方がまだ戦力にはなるはずだ」
「あいつは色々な事情で連れてこれなかった、とだけ言っておこう」
おそらくは椎名の妨害のためだろう。あいつが爆弾の解体作業中に龍園を連れ回していたという情報は入ってきている。今も龍園を探しているのだろうな。
「時間も惜しいから、そろそろ始めるか」
「時間は貴重だから……な!」
龍園が素早く突きを繰り出すが、急所を狙って一本を取りたいのが分かりやすい。俺はその攻撃を払い除けると、そのまま龍園の胸に掌打を当てる。
「……今の一撃で分かった。お前、手を抜いてやがるな。今の技は顔への攻撃に使うもんだ」
「俺もとっとと面倒ごとは終わらせたいんでね。不満か?」
「あぁ、不満だな!」
龍園は勢いをつけて俺の顔を狙った膝蹴りを繰り出す。避けても良かったのだが、追撃される可能性があったので、掌で膝蹴りを受ける。
龍園はそのことに舌打ちをした後、膝を下ろしてから、反対の足で金的蹴りをしたものの、男同士の喧嘩では常套手段なので、すぐに反応できた。
「あの龍園さんが格上だって断言するだけはあるな。龍園さんの攻撃を全て捌いている」
「龍園さんはここ最近、トレーニングに励んでいるって聞いたが、本当だったみたいだな。あの時よりもキレがある」
「あぁ、龍園さんが恐怖で支配しようとしていたあの日を思い出すぜ」
恐怖で支配しようとしていた? その言い方だと支配できてないように感じるが。あいつらの言葉に耳を傾けながら、龍園の攻撃を捌いていると、龍園の顔が赤く染まっていく。おそらく、羞恥心だろう。
「うるせぇぞ、お前ら! 今のCクラスを俺が支配しているのは事実だ! 俺に恥をかかす暇があんなら、こいつの隙を探しやがれ!」
「そうは言ってもこいつは俺らを警戒しながら、龍園さんを相手してます。隙なんか見せちゃくれませんよ」
「それに龍園さんに皆がついてきているのは、どんなにやられても立ち上がり続けるど根性があるからです。決して恐怖からではありません」
「あいつの支配から救ってくれた龍園さんには感謝しているんです」
龍園とは別の支配者がCクラスにはいるのか。話を聞く限り、龍園達はそいつに支配されてきたようだな。だが、反逆したということか。どうやら、恐怖での支配は噂に過ぎなかったようだな。
「龍園、お前に聞きたいことができた。俺が勝ったら、今の話を聞かせてもらおう。敵の情報を誤認していたという事実は重いのでな」
「大した話でもねぇ。だが、そんなに聞きたいというのなら、椎名の情報と交換というのはどうだ?」
「そうだな……お前の目的はあくまでも椎名の情報だろうからな。良いだろう。だが、こいつらに話は聞かせたくない。こいつらをペンションに帰らせろ」
「まぁ、民間人で聞かせられるのは特異現象捜査部くらいか。おい、お前らのおかげで目的は達成した。報酬は支払うから携帯を出せ」
龍園は連れてきた三人に声をかけ、所持していた携帯をいじり始める。本当に報酬を渡すつもりのようだ。
「よし、これで約束の額は渡ったな。もう帰って良いぞ。というか、帰れ」
「はい、分かりました!」
三人は報酬を受け取ると、その場を去っていった。Cクラスのペンションは山頂にあるからあいつらは山を登っていくのか。怪我明けなのに大変だ。
「さて、お前から話してもらおうか。お前の身体能力なら俺が話さずに逃げたとしても余裕で捕まえられそうだしな」
「良いだろう。椎名ひよりは軍人としては勝手がすぎるから痛い目にあってもらおうと思っていたところだったからな。お前が勝とうが負けようがどちらにせよ、話すつもりだった」
「……ってことはお前が得をして終わりそうだな」
「ただ、戦ったという証拠が欲しかっただけだからな」
さて、どこから椎名の説明をしようか。資料を渡しても良いんだが、そのことを上に見られたら大変だ。何せ、俺がやっていることは個人情報の漏洩だからな。
「椎名ひより。一月二十一日生まれ。趣味は読書で特技は暗記。好物は━━」
「いや、確かに全部だとは言ったが、俺が一番聞きたいのは、軍に入った経緯やどのくらいの強さを持っているのかについてだ。そこを話せ」
「分かった。彼女は元々、軍の施設で育てられた人間でな。所謂、孤児って奴だ。軍の人間になることを義務付けられ、厳しい訓練を受けさせられたそうでな。似たような施設はいくつかあるようだが、彼女はその内の一つで育ったらしい」
「つまり、強さも相当なものだと?」
「俺達の中では一番強いと断言しても良い」
椎名が育った施設は子供の人権を守っているとは考えにくい施設であったため、家宅捜索が行われたと聞いたが、どうなったのかまでは聞いていない。
「さて、ざっくりではあるが、開示はしたぞ。次はそちらの番だ」
「俺が恐怖で支配しようとしていたのは事実だ。信頼よりもそっちの方がまとめやすいからな。だが、俺が行動するよりも早く、ある女によってクラスは恐怖で支配された。情けねぇ話だが、俺すらも巻き込んでな」
「そいつの名前は?」
「分かんねぇ。だから、そいつが忍者だってことくらいは今の俺には分かる。それくらい異常な光景だったからな」
恐怖で支配しようとしていた龍園からも異常な光景だったと言われるとは、Cクラスの忍者はどんなことをしたのだろうか。
「Cクラスの忍者は知らないと言っていただろ? あれは嘘だったのか?」
「忍者はともかくって言っただろうが。嘘はついてねぇよ。まぁ、少し長くなるが、勘弁してくれ」
そこから龍園はCクラスで起きたことを話し始めた。まるで、龍園自身が何かを覚悟しているかのように。
龍園の過去話は次回に持ち越します。