コクマーの弱点を知ってから二日が経過しました。忍者からは自分達でデバフ用の道具を作るから心配するなと言われます。Bクラスと違い、クラス全体で行動するようなことはしないそうですね。
「あれは、綾小路君」
山の中で爆弾を探していると、防護服を着ていない綾小路君を発見しました。爆弾を探しているという感じではなさそうです。
「何をしているのですか? こんな所で」
「……いや、自由な時間が中々取れなくてな。今は堀北と茶柱先生に無理を言って休暇をもらっている」
「なるほど、本音は『無人島で遊ばずにいるのは嫌だ』ということですか。私は遊ぶことは難しいのでそこまで考えが至りませんでした。交渉して、明日辺りに休暇を求めますか」
「……じゃあ、今日のところは帰って仕事をするしかないな」
遊ぶことに考えが至っていなかったのは私のミスですね。最近は爆弾も見つかっていませんし、いつまでもあるか分からない爆弾に拘る必要はないのかもしれません。
「それはそうと、少し話しませんか? 聞きたいこともあるので」
「聞きたいこと?」
「櫛田さんの様子についてです。堀北さんや軍部が黙っていたことも気になりますが、それは後回しにしましょう。それで、彼女に何かおかしなところはありませんでしたか?」
「おかしなことか……それはコクマーの弱点を伝えたこと以外でだよな?」
「それは勿論」
綾小路君は顎に手を当てて考え始めます。櫛田さんとは何回か話したことがある程度ですが、何か闇を抱えていることは分かっているつもりでした。
しかし、預言者だったとは驚きです。佐倉さんと同様に警戒対象と認定し、場合によっては排除する作戦を考えたいところですが、資料は部室にあるので今は無理でしょうね。
「櫛田の行動で怪しいと思ったのはオレが撃たれた時のことくらいだ。それは以前にも報告しているな。だが、逆にそれ以外は怪しいと思ったことはない」
「なるほど、尻尾を隠すのが上手なのですね。それでは引き続き、警戒をお願いします。くれぐれもケセドの時のようにはならないでください」
「あぁ、分かっている。この前の襲撃で身に染みたばかりだ。二度と一人で挑むような真似はしないさ」
聞きたいことは聞けましたので、そろそろ解散しようとしたその時。話題にしていた櫛田さんがこの場に姿を現しました。やけに息が切れている様子から全速力で走って来たのでしょう。
「綾小路君、大変だよ! 軽井沢さんが撃たれたらしくて! 今は船で治療を受けているみたい!」
「軽井沢って平田の彼女の?」
「その軽井沢さんで間違いないよ」
軽井沢という人と平田という人が誰なのかは分かりませんが、櫛田さんが慌てて伝えに来るということはDクラスの人なのでしょう。
「誰に撃たれたのかは分かっているのか?」
「それが周りにいた人達の証言によると、船が見えたかと思ったら、その船の方向から発砲みたいな音が聞こえてきたんだって。気づいた時には軽井沢さんは倒れていたみたい」
「それでその船は今、どちらに?」
「もう通り過ぎちゃったみたい」
この島は小さいですから、簡単に通り過ぎることができるでしょう。問題はどのくらいの距離があったのか、ですね。その発砲がオカルトによるものなのか、それとも人によるものなのか判断しなければなりません。
「それと同時刻に犯人らしき人からこの島に向けてメッセージが送られてきたの。詳しい話は全員が揃ってから話すみたいだから、とにかく一度戻ってきて」
「分かった、すぐに戻ろう。というわけでオレは戻るが、明星も戻った方が良いんじゃないか?」
「一応、先生に連絡して聞いておきます。綾小路君も念の為に確認しておいてください」
もしかしたら、櫛田さんの罠である可能性もあります。二人っきりで移動することになりますから、そこで襲うことも充分に考えられるでしょう。
「キヴォトス人なのに随分と警戒心が強いんだね。これはコクマーも大変だ。私が言うべきことじゃないけど」
「……貴方の目的は何ですか? 何故、私達に有利になるようなことを?」
「あれ、伝わってない? コクマーには痛い目を見てほしいんだよね」
「そのことは知っています。たったそれだけのことで何故、仲間を売るような真似をするのですか?」
コクマーにどのような特徴があるのかは分かりませんが、少なくともケセドと同じようにいなくなると困る存在でしょう。そのような存在を何故、売り飛ばすような真似をするのでしょうか。櫛田さんは私の質問に苦笑いしながら答えます。
「まず一つ目はコクマーが負けそうになれば、正体が知られている私が救助することになっているから、死ぬ心配はないということ」
「お前を事前に拘束しておいても同じことか?」
「拘束なんて意味ないよ。手錠をされたところで引きちぎることくらいはできるし。それに堀北さんの証言だけで拘束できるほど、クラス内の私の地位は低いとは思えないんだけどな」
「確かに櫛田さんのことを無条件に信頼している人というのは結構いそうですね」
預言者が人の中で地位を確立しているということは、取れる手段が減ってしまうということです。つまり、どうあがいても今回の試験で討伐はできないのですね。
「二つ目はこちら側としても噴火することは避けたいということ。コクマーがあの火山を最大限の威力で噴火させたら、日本中に火山の冬が訪れることは確定だしね」
「日本中に? そのようなことは聞いていませんが」
「そりゃあ、軍の上層部には伝えてないもん。もし、聞いていたら保身のために普通に軍隊を向かわせていただろうね。まぁ、気づいていると思うけど、軍の上層部はほとんど機械兵だから私達の命令に逆らうことはできないんだけど」
「逆らえる機械兵もいるんじゃないか?」
「それはあれのことを言っているのかな? 確かに命令に背く機械兵もいるみたいだけど、それは私達と戦うようにプログラミングされているからであって、自由意志によるものじゃないよ」
誰のことを言っているのかは分かりませんが、どうしてデカグラマトンと戦うようにプログラミングされていたのでしょうか。普通に考えれば、スパイとして潜り込ませるためだと思いますけど。
「それを解除する気はあるのか?」
「言っておくけど、私には無理だよ。それができるのは死んだケセドだけだから」
「では何故、ケセドはそれを解除しなかった?」
「さぁ、私には分からないかな。それよりも返事は来た? 早く戻りたいんだけど」
私達は携帯を確認すると、先生から返信が来ていることが分かりました。その内容も櫛田さんの言葉を肯定するようなものであり、罠ではなかったようです。
「……今回は疑ってすみませんでした。最後になりますが、望んでもいないのに大規模な火山噴火を引き起こそうとする理由をお聞きしたいのですが」
「今回の目的は火山噴火を防ぐという目的で特異現象捜査部をコクマーと戦わせること。つまり、懲罰なんだ。前回、ケセドを助けなかった……ね」
この言い方からすると、前回の戦いに正体がコクマーである人物がいたように聞こえます。私は現場に行っていないので分かりませんが、一番怪しいのは近くにいた人でしょうか。
「今更だが、そんな簡単に目的を話して良いのか?」
「今回はあくまで懲罰。つまり、茶番なんだよね。だから、計画も別にない」
「じゃあ、この無人島や船に爆弾を仕掛けた理由は何だ?」
「それはただの時間稼ぎ。この島に特異現象捜査部が留まる理由付けにもなる。爆弾は本物だから、放っておくと普通に爆発するけど、その方がリアリティがあるもんね」
つまり、預言者の掌の上で踊っていただけということですか。しかし、櫛田さんの話を聞いていると、いくつか気になることができてしまいました。
「じゃあ、もう行くね。まだ聞きたいことがあるのなら、綾小路君にメールで送ってよ。今回のことならいくらでも答えてあげる」
「貴方のメールアドレスは教えてくれないのですね」
「私達と人間は敵同士。敵に連絡先を渡すわけないじゃん」
向こうが慢心してくれていることを期待していましたが、そうはなりませんでしたか。仕方ないので、綾小路君に気になったことを送っておきましょう。
◇
私がペンションに戻った時には既にほとんどの生徒が席に着いていました。後は私くらいでしたか。
「遅くなってしまい、申し訳ありません。それで犯人からのメッセージというのは?」
「メッセージはシンプルなものだった。『早く出発しろ。さもなくば、一時間につき一人ずつ撃つ』」
「なるほど、その発言から察するに犯人はこの島の近くにいそうですね。そして、犯人像も見えてきました」
「あぁ、おそらく犯人は避難した島民の一部だろう」
「何で分かるんですか?」
真嶋先生の言葉に疑問を呈する生徒が出てきます。そのことに真嶋先生はどこから説明しようか迷っているご様子。それも仕方ありません。上がオカルトと繋がっている可能性が高いという話はしていませんからね。
「犯人のメッセージはオカルトがここに留めておくために仕掛けた爆弾と矛盾した内容だ。つまり、オカルトではない」
真嶋先生の代わりに葛城君が説明し始めました。リーダーとして、推理力の高さを見せつけるのは求心力が上がる良い機会です。
「となると、次に浮かび上がってくるのは早くオカルトを退治してほしい人達だ。愉快犯の可能性もあるが、そうだとしたらこんな要求はしないだろう。そして、それに当てはまり、こんな方法でしか要求できないのはオカルトから避難した島民しかありえない」
「ですが出発してしまえば、船もしくは無人島に残された可能性のある爆弾が爆発するでしょう。それがなくとも巻き込まれたくないと考えた船員が船を出発させてしまうと、私達はここに取り残されてしまいます。つまり、ただ死を待つ状況になるというわけですね」
まぁ、船に爆弾が残っている以上、勝手に逃げ出すことはないでしょうが、船に爆弾を仕掛けた犯人が船員であれば話は別です。自分達が逃げている最中に爆発させなければ良いだけですからね。
「つまり、船員を何とか説得した方が良いってこと?」
「いえ、一時間後にやってくる犯人を捕まえる方が良いと思います。その方が船員を説得するよりも楽ですし、捕まえてしまえば船員が逃げ出す口実もなくなりますから」
「だが、どうやって捕まえる? 相手は船にいるんだぞ」
「捕まえること自体はとても簡単です。もっとも、全てのクラスで協力する必要がありますが」
私はクラスの人達に考えていることを話しました。と言っても、船から狙撃してくることはキヴォトスでは想定できることですから、そのための対策についてなのですが。
「キヴォトスではそれで良いかもしれんが……いや、生徒達の安全が最優先か。分かったその案で行こう」
「では早速、行動開始ですね」
今回の話は我慢できない人ならこの行動に出てもおかしくないと思い、書きました。