ラブコメって付き合うまでが面白いじゃん?でも告白しても成功するとは限んねえよな!?
ゴメンね。最初に言っとくと、ギター関係ないんだ!
まだ春だってのに、地上の物全てを刺し殺してしまうのではと錯覚するような日差し。激しくアスファルトを擦るタイヤの音を響かせて、車は我関せずと大通りを走り去っていく。空はどこまでも青く抜け、桜木は、最後の祭りだと言わんばかりに自慢の花弁を豪快に巻き散らかしていた。
滴る汗を拭おうともせず、ただひたすらギイギイ悲鳴を上げるボロ自転車を漕ぎ、坂道をゆく。……俺は、一体全体何だってこんな事してんだっけか?
三日前、通ってた中学校の卒業式があった。仲間たちとは仲も良く、ガッコのイベントも楽しくて、良いクラス、良い中学生活だったと思うよホント。楽しかった。これは間違いない。
思えばこれが勘違いの始まり。何もかんも上手くいってたからこれも上手くいくんじゃね?これ上手くいったら最高じゃね?みたいなヨケーな考え。この勢いを利用して、俺は三年間片思いしたあの子に告白してみようと考えたんだ。
死ねよ痩せ馬。
「あ、えーっ?あ、うん。あ、ありがと…。そんなふうに思ってくれてたんだ…」
曖昧に笑う。困惑をふんだんに織り交ぜて。
「う、嬉しいよ?でもさ…君のこと、そんなふうに見たことなくて」
「出来ればさ、友達のままがいいのかな〜って、思ってるんだ……」
「ごめん」
あーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!
馬鹿野郎が。最後の最後。ヨケーなケチつけやがって。
最高だった中学生活これでパアだよ。何っも楽しくねえ。
飯食っても味しねえ。お笑い番組見ても笑えねえ。好きだったミュージシャンの歌詞が煽りにしか聞こえねえ!
傷跡は何しても塞がんねえまま少しずつ膿んでいった。兎に角ナニするにしたってあの言葉が、表情が、チラついて。
気が付けば、漕ぎ出してた。
彼女がいつか行きたいと言っていた、海沿いの温泉街。夏になったら花火があるから、いつか一緒に見たいと、そう思っていた。
漕ぐ。漕ぐ。吐き出しながら。
なんで俺はこんな必死こいてんだ。
分っかんねえ。何一つ。
じっとなんかしてらんなかった。そんな事してたら多分死んじまう。
最低限の物だけリュックに詰めて後ろに縛り付けて、片道何キロになるかも分かんねえ温泉街へと自転車を走らせていた。
自分の脚だけでそこに辿り着いてさ。港から朝日でも夕日でもどっちでもいいけど拝めたら。なんか変わんじゃねえかって。そんな感じ。
にしてもどこまで続くんだよこのクソ坂!そろそろ乳酸も限界だっての!
……あの子は今、何してんのかな?卒業旅行行きたいねー!なんて話してたから、女子達と行ってんだろな。多分。あ〜。ホントマジなにやってんだよ。同窓会とか超行き辛いじゃねーか。
彼氏とか。いたのかな。もしそうなら少しだけ救われる。それじゃもうしょーがねえもん。むしろいなくてあんな感じだった方がヘコむね。
あの子は、俺を見てくれなかった。
あの曖昧な笑顔も、チラチラ送る伺うような視線も、全部嘘っこ。
好きなお笑い芸人のネタで笑い合ったあの日も。授業中に回ってきたメモを渡してくれた時の悪戯っぽい顔も。体育の授業の時、振り返してくれた手も。
他に、向ける相手がいるんだよな。
俺じゃ、ないんだよな。
なんでか俺はあの時、悲しくはなかった。
ただただ、感情が追いついてきた時に、真っ先に思ったのは。
この先あの子は恋をして、彼氏を作る。あの子の手料理は美味しい。弁当ちょっとだけわけてもらったことあるから分かるんだ。ちょっとじゃなくて、完成品を受け取る相手がいること。
感動的な映画を見て、潤む瞳を。好きな和菓子を頬張るときの幸せそうな顔を。ズボラで三日連続おんなじ事を注意されて、本気で怒った顔を。そして、なにより。クリスマス、欲しがっていた椅子をプレゼントされて、いやデカすぎんだろ!なんて突っ込みながらも、笑い過ぎて眦から落ちそうになるものを拭いながら、ありがと、大事にするね。なんて言葉と共に向けてくれる笑顔も。
なんで俺じゃねえんだよ!!
「ちっくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」
感情を全て脚に込めて漕ぐ。オラどうしたボロ自転車!全く進まねーじゃねーかもっと気合を入れろゴラ!!
(青春だね)
(青春ねえ)
(青春だなあ…、俺も君ぐらいの時は……)
叫びながら自転車を漕ぎ散らす少年を、周りの人たちは生暖かく見守っていた。むろん、少年は気が付いていない。
気が付きゃ日も沈みかけ。西の空にクラゲみたいに蕩けていく赤と、降りかけている帷が空を二分する。
「あ〜。遠い!遠すぎる!!後何キロだ……!?いや、スマホは駄目だなんかズッこい!青看板…!後30キロか…!大分近づいてきたな…!!」
最早独り言がデカくても気にしない。いつの間にか周りに人もなく、車もたまに通りかかるだけになっていた。静かになった大通りをひたすら目的地に向けて走らせていたが、ついに脚に限界がきた。
「だあ〜!もう無理!!限界!!休憩!!」
叫びながら自転車をいつの間にか近付いていた海の手前の石堤防に立て掛けて、自分はそこによじ登る。海風が頬を叩き、鼻孔には磯の香りが存分に侵入してきた。
「……凄え」
まるで、巨大な線香花火が自身に染まり上がった海へと蕩けていくようだ。自分の街から少し足を伸ばすだけで、こうも違うのかと、思わずにはいられなかった。その光景に圧倒されるように、上体を倒して寝そべり、空を見上げる。
息を呑んだ。
朝から続いていた遮るものがない空。いつ発したか分からない大小さまざま色とりどりの古い光たちが、まるでお祭りみたいに夜を囃し立てていた。
多分さ。俺は君のことが好きだったんだと思う。どうしようもないほど。
だというのに、君は俺を見てくれなかった。大袈裟でもなく、命懸けるくらいの覚悟でした告白を、何の気なしに返されてさ。それがきっと悔しくて、惨めで、寂しかったんだと思うんだ。
飛沫を上げる白波。波音と、後ろの雑木林から響く虫のオーケストラだけが、この世界の全て。少し前から視界が滲んでいる。今更ながらその理由が、分かった気がした。
でも、何でだろうな。少し前まで考えもしなかったんだこんな事。……もういいんだ。ヨケーな事考えねえで脚をひたすら動かしてさ、空っぽになって初めて。
君を好きになって、良かったって。そう思えた。
中学時代、あんなに色々楽しかったのは、きっと俺は君のことを好きで。君にこんなことしたらどう思うのかな?とかさ。知らない街にいても、君とここに来たら、君はなんて言うかな?なんて考えて。気付けばいつも頭の片隅に君がいて。
君とは付き合えなかったけど、君を好きになって、凄く楽しかった、中学時代まで嫌いになりたくはないから。むしろ、君を好きになったからこそ、凄く楽しかったのだから。だから、俺は君を好きになったことを、今や誇らしく思えるように、なったのだと思う。
「……帰るか」
ここまで連れて来てくれた相棒に独り言ち、引き出すと相変わらずキイキイと悲鳴を上げる車体を見ながら、帰りは少しだけ安全運転で行くか。と、俺は今までの短い旅路を振り返るのだった。
「お〜い。きょ〜こ〜」
「…うん?」
「どしたのさ?外見ながら黄昏れちゃって〜。お刺身全部たべられちゃうよ〜?」
「はぐはぐっ!ごっくん!!」
「がっつきすぎだろコイツ。刺身そんな感じで食うもんじゃねーから!!」
「…。ふふ。相変わらず食い意地張ってるね。……別に。ただ少し、もったいなかったかな。って。そう思ってただけ」
「もったいない?なにが?」
「こっちの話っ!コラ!架純!私にも刺身残しときなさいよ!?」
「あっちょっときょ〜こ〜!?」
青い春は行き過ぎる。少年の胸に棘と花束を残して。
川を渡る。何のことはない。でも、君が昔住んでいたあの街へ。