ヒロアカにDCコミックのドゥームズデイをぶち込んでみました。続きはありません
神野区の夜空が、破滅の光景を映し出していた。
「聞こえるかオールマイト……志村転弧の泣き声が!」
オール・フォー・ワン(AFO)が残忍な笑みを浮かべ、無数の「個性」を膨れ上がらせた異形の右腕に集約させる。対するオールマイトは、限界を迎えた筋肉に最後の灯火を絞り出し、右腕に『ワン・フォー・オール』の全エネルギーを再点火させようとしていた。
世界の命運を懸けた両者の激突——その決定的な瞬間に、空が裂けた。
隕石のごとき重圧とともに落下の衝撃波が吹き荒れ、二人の真ん中に巨大なクレーターが穿たれる。巻き上がる煙の奥から立ち上がったのは、無数の骨の突起を身にまとった灰色の巨躯。言葉も思想も持たぬ破壊の絶対者——ドゥームズデイ。
「不快な割り込みだね」
AFOが顔を歪め、『空気を押し出す』+『筋骨発条化』+『瞬発力×4』+『膂力増強×3』を組み合わせた壊滅的な衝撃波を解き放つ。市街地を一瞬で更地に変える威力がドゥームズデイを飲み込んだ。しかし、怪物の歩みは止まらない。肉体が焼かれ剥離したそばから、細胞が超適応を起こし、より硬質な骨の装甲へと進化を遂げていく。
「個性を……奪うまでもないか」
AFOの顔に焦燥が走った瞬間、視界が歪んだ。ドゥームズデイの巨腕が音速を超えて彼の顔面を捉える。個性の強奪どころか、あらゆる異能を拒絶する「純粋な物理の力」。生命維持装置のマスクが粉々に砕け散り、悪の象徴の体は地表深くへと力なく叩きつけられた。一秒の抗いすら許されぬ絶倒。
「待て……! その男は……私が……!」
吐血しながらも、オールマイトが立ちはだかる。痩せこけた体に宿る最後の炎を燃やし、限界を超えた渾身の一撃を振り下ろした。
「ユナイテッド・ステイツ・オブ・……スマッシュ!!」
大地を揺るがす気圧の渦。しかし、ドゥームズデイはその拳を正面から真手で受け止めた。骨の突起がカチリと音を立てて噛み合い、ワン・フォー・オールの威力を「即座に適応」して無効化する。
「な……っ!?」
絶望に目を見開くオールマイトの腹部に、凶神の死の拳が深く打ち込まれた。平和の象徴の体が弾丸のように吹き飛び、瓦礫の山へと沈んでいく。その胸の炎は、完全に潰絶した。
闇と光、二つの頂点をわずか数秒で踏みにじった破壊の怪物は、咆哮すら上げず、静まり返った神野区の廃墟を見下ろしていた。
神野区の瓦礫の上に響くのは、もはや激闘の狂騒ではなく、生存者のすすり泣きと風の音だけだった。
上空を旋回する報道ヘリのカメラが、震えるレンズ越しにその絶望を捉え続けている。テレビ画面の向こう側で、お茶の間の誰もが息をのんだ。崩れ落ちた悪の帝王と、胸の炎を消されて動かない平和の象徴。画面に映し出されたのは、ヒーローの勝利でもヴィランの支配でもなく、人類の理解を超えた「死そのもの」だった。
「おい……嘘だろ……オールマイトが……」
遅れて現場付近に到着したエンデヴァーは、眼前で繰り広げられた惨劇に足止めを喰らい、拳を握りしめたまま硬直していた。全身を覆う熱い焔が、恐怖で不気味に揺らめく。ベストジーニストも、グラントリノも、誰一人として怪物へ近づく一歩を踏み出せない。個性の相性や戦術といった概念が、あの灰色の装甲の前ではあまりに無力であることを、生命の生々しい本能が告げていた。
ドゥームズデイは、足元で血を流し倒れ伏す二人の超人を視界の端にも留めず、ゆっくりと夜空を仰ぎ見た。赤い瞳が上空の雲を捉えた、次の瞬間。
重音が爆ぜ、怪物は空を穿つような跳躍一閃、暗闇の彼方へと消え去った。
跳躍の衝撃波だけで周囲の瓦礫が粉塵と化し、跡形もなく去った怪物のあとに残されたのは、破滅した街と、信じがたい現実に涙を流すことすら忘れた警察たちの悲鳴だけだった。
「救護班……! 早く、オールマイトを救護班へ……!!」
瀕死の二人がかろうじて搬送されていく映像が、絶望の序曲として世界中へ流れ始めていた。
神野区の悪夢は、生中継の映像を通じて瞬く間に日本全国、そして世界中へと拡散された。絶対的な「平和の象徴」オールマイトと、裏社会の支配者オール・フォー・ワン。光と闇の双璧が、言葉すら持たぬ異形の怪物——ドゥームズデイによって一瞬で叩き潰された光景は、超常社会の根幹を根底から粉々に打ち砕いた。
日本を覆ったのは、かつてない「完璧な無秩序と絶望」だった。
ヴィランの支配すら始まらない。ただ街を歩き、眼に映るすべてを破砕する「生ける天災」の前では、どんな強力な「個性」も無力でしかなかった。警察組織は機能を失い、死の恐怖に怯えるプロヒーローたちの辞職届が相次いだ。市民のヒーローへの依存心は深い人間不信へと裏返り、各地で暴動と略奪が頻発。秩序という名の虚飾は一夜にして霧散した。
政府は神野区周辺を完全封鎖区域(レッドゾーン)に指定。海外からの軍隊派遣も検討されたが、あらゆる攻撃に適応して進化する怪物の脅威に対し、世界各国は日本という国家そのものを「隔離」する冷酷な決断を下しつつあった。
雄英高校は民間人を保護する巨大な要塞へと変貌を余儀なくされ、緑谷出久をはじめとする生徒たちは、学生という保護を強制的に剥ぎ取られた。オールマイトという巨大な傘を失い、さらに「個性の理屈が通用しない怪物」が徘徊する世界で、彼らは明日をも知れぬ防衛戦線へと駆り出されていく。
「僕たちが、次の象徴にならなきゃいけないのに……」
ボロボロになったヒーロー分析ノートを握りしめ、出久は暗闇の街を見つめる。継承した『ワン・フォー・オール』は未だ不完全。だが、世界の崩壊は待ってくれない。
光も闇も消え去り、黄昏を迎えた日本の空に、怪物の地鳴りのような足音が、静かに、確実に響き渡っていた。
神野区周辺の警戒アラートが、赤く染まった空の下で絶え間なく鳴り響いていた。
隔離された死の領域から、ゆっくりと迫り来る地鳴り。ドゥームズデイが動き出したのだ。目指す先は、避難民がひしめく雄英高校の要塞シェルター。プロヒーローたちの辞職が相次ぎ、海外からの支援も絶たれた今、怪物の侵進を食い止める「大人の壁」はどこにも存在しなかった。
「……正気か、お前たち」
出撃拠点となった防衛前線基地の格納庫。傷だらけの相澤消太が、暗い眼差しで生徒たちを見つめる。その背後には、コスチュームに身を包み、鋭い目つきで装備の最終調整を行う1年A組、そしてB組の生徒たちの姿があった。
「相澤先生。誰かが止めなきゃ、この国は……世界は本当に終わります」
緑谷出久の言葉に、迷いはなかった。ワン・フォー・オールの重圧と、オールマイトを失った絶望。それらをすべて抱えた上で、彼はボロボロのグローブを固く締め直す。
「ふざけたバケモノに、これ以上好き勝手させられるかよ」
爆豪勝己が爆破の火花を散らし、轟焦凍が左右の手から氷と炎を同時に立ち昇らせる。B組の拳藤一佳と物間寧人もまた、不敵な覚悟を胸に前に出た。
「A組だけの独壇場にするつもりはないよ。僕たちは『ヒーロー科』全員で、あの天災を叩き潰す」
大人が逃げ出し、秩序が崩壊した世界で、最後に残されたのは英雄の卵たちの絆と不屈の覚悟だった。
四十人が出撃のゲートを潜る。崩壊した神野区の街並みを見下ろす最終防衛線へ到着すると同時に、地平線の彼方から空気を歪めるほどの重圧が押し寄せてきた。黒煙を突き破り、灰色の巨躯が姿を現す。
言葉を交わす必要はなかった。四十人は静かに各々の足場へと散り、立ち向かうための第一陣形を組み上げていった。
神野区の廃墟を臨む最終防衛線。迫り来る灰色の絶望に対し、かつて競い合った英雄のヒナたち——雄英高校ヒーロー科1年A組とB組の全四十名が集結していた。
「個性が通じない? なら、適応の隙すら与えない連鎖攻撃で叩き潰すまでだ!」
物間寧人の叫びを合図に、前代未聞の四十人同時総力戦が幕を開ける。
まず動いたのは、大地を流動化させる骨抜柔造と氷結を繰り出す轟焦凍。足元を底なしの泥濘に変えて怪物の機動力を奪うと、拳藤一佳の的確な指揮のもと、B組の広域攻撃が叩き込まれた。吹出漫我の擬音文字が物理的な質量となって頭上から降り注ぎ、柳レイ子の『ポルターガイスト』によって飛散する数千の巨大瓦礫が弾幕と化す。
だが、ドゥームズデイの皮膚が異形に硬化し、文字と瓦礫を力任せに砕いて前進を再開する。その絶望的な進化に対し、A組とB組は陣形を交錯させた。
黒色支配の『黒 (ブラック)』と常闇踏陰の『黒影(ダークシャドウ)』が闇の同調を起こし、怪物の視界を完全に遮断。視覚を失った怪物へ、切島鋭児郎と鉄哲徹鐵の「硬化」タッグが肉弾戦で泥臭く食い下がり、コンマ数秒の猶予を稼ぎ出す。
「今だ、全火力叩き込めぇぇ!!」
爆豪勝己の爆破を皮切りに、上鳴電気の広域放電、角取ポニーの角砲、酸に粘液、熱線と衝撃波が一点へと集中的に叩きつけられた。四十人分の個性の飽和攻撃が、神野の夜空を灼熱の白色に変える。
咆哮が空を切り裂く。極限まで追い詰められたドゥームズデイの肉体が、熱と衝撃に対する「完全耐性」を獲得しようと不気味に膨張し始めた。
その肉体変化の僅かな隙を、緑谷出久は見逃さなかった。
麗日お茶子の『無重力』で質量を消し、飯田天哉のエンジンと黒鞭の伸縮で音速の壁を突破。一人では届かない領域へ、全員の個性がデクの背中を強烈に押し出す。
「みんなが繋いでくれた……僕たちの全部を!!」
解き放たれた『ワン・フォー・オール』のエネルギーが暴風となり、適応の速度すら凌駕する一撃となって怪物の胸元へ穿たれる。四十人の絆が紡いだ閃光は、絶望の巨体を神野の地表深くへと力強く突き立てた。
「やったか……?」
誰かがそう呟いた、その刹那だった。
爆煙が渦巻くクレーターの底から、不気味な脈動が響き渡る。瓦礫が崩れ落ち、ゆっくりと、しかし確実に、灰色の巨躯が再び立ち上がった。デクの全身全霊の一撃によってぐしゃぐしゃに潰れたように見えた右手は、気味の悪い骨鳴りを響かせて蠢くと、破裂した皮膚を突き破って異形な骨のスパイクが幾重にも生えてくる。胸元の傷も不気味に熱を帯び、真っ赤に溶融しながら脈動していた。
「嘘だろ……あの野郎、適応どころか、受けたダメージをエネルギーに変換しやがった……!」
爆豪が冷や汗を流す。
ドゥームズデイの赤い瞳が、かつてない憎悪を宿して生徒たちを捉えた。次の瞬間、その目と、裂けた口から、超高熱のエネルギー波が解き放たれた。
「総員、防御体制ィィ!!」
拳藤の悲鳴のような叫びも、怪物の灼熱の前では無力だった。
轟の氷結壁は一瞬で蒸発し、切島や鉄哲の硬化も皮膚を灼かれる。常闇の『黒影』は光に霧散し、麗日の『無重力』で浮かせていた瓦礫は逆に熱線に灼かれ、火球となって生徒たちを襲った。
「あ、がぁああっ!」
四十人の生徒は連携を完全に粉砕され、灼熱の爆風と衝撃波に、塵芥のように吹き飛ばされた。神野の瓦礫の山に、ボロボロになった彼らの体が次々と叩きつけられる。
静寂が訪れた。
煙と灰が舞う中、誰も動かない。動けない。
だが、瓦礫の下から、血に濡れた手が這い出た。
「まだ……僕たちは……負けて、ない……!」
緑谷出久。全身の骨が軋み、コスチュームは裂け、血まみれになりながらも、彼は『ワン・フォー・オール』の残火をかき集め、震える脚で立ち上がった。
彼の声に呼応するように、瓦礫が動く。
「クソが……あんなもん、効くかよ……!」
爆豪が爆破を手に宿しながら、片膝をついて立ち上がる。
「……僕たちも、まだ……戦える……!」
轟が半分焼けた顔で、氷と炎を同時に燃え上がらせる。
拳藤、鉄哲、物間、切島、麗日……意識を取り戻した生徒たちが、一人、また一人と、傷ついた体を支え合いながら、ドゥームズデイの前に立ち塞がった。彼らの瞳には、恐怖ではなく、不屈の闘志が宿っていた。
立ち上がった彼らを捉えたドゥームズデイの赤い目が、更なる憎悪に燃え上がる。異形に進化し、長大で鋭利なスパイクの塊と化した右手を振り上げ、怪物は咆哮すら上げず、ただ大地を蹴った。
瞬間、音速を超えた死の質量が、立ち上がった彼らに向かって飛びかかってきた。