窓の外を流れていた青白いハイパースペースの光が、弾けるような旋律と共に一瞬で収束していく。
超空間のトンネルを滑らかに滑り出たガントレット・スターファイターの眼前に広がったのは、目的地の都市惑星クリストフシス——そして、その蒼い星体を包み込むように展開する独立星系連合(セパラチスト)の巨大な封鎖艦隊であった。
ルクレハルク級ドロイド司令船の巨大な円環状のシルエットが重々しく横たわり、その周囲を無数のプロヴィデンス級駆逐艦やムニフィセント級スター・フリゲートが取り囲んでいる。艦隊は広大な宙域に配置されており、その巨大な艦体と艦体の間には、一定の空間的距離が存在していた。
コックピットの後方シートに深々と腰掛けていたアソーカ・タノは、メイン・ビューポート越しに視界いっぱいに広がったその光景を目にした瞬間、息を呑んで体を硬直させた。
アソーカ「うわ……! なにあの数……!? クリストフシスの惑星上を完全に封鎖するように陣を敷いてるじゃない!」
アソーカの素朴な驚愕と緊張が交じる声がコックピット内に響く。
これほどまでに広大な領域を網羅する巨大な封鎖艦隊を目前にすれば、熟練の星系防衛軍のパイロットであろうと絶望感を抱かずにはいられない。
だが、操縦席に腰を下ろしている正道と、副操縦席で淡々と各種センサーの操作を進める詩乃に、動揺の気配は微塵もなかった。
正道「なるほどな。惑星全体を抑え込むような布陣か。わかりやすい配置だ」
ヘルメットのバイザー越しに放たれる正道の声は、どこまでも冷静で、むしろどこか楽しげな不敵さを孕んでいた。
詩乃「正道、敵艦隊のセンサー群が本機を捕捉したわ。各主力艦のターボレーザー砲身がこちらへ向けて旋回を開始……射撃シークエンスに入ったわ」
正道「了解だ。詩乃、敵の砲撃周期と艦隊配置の傾斜を読み込め」
詩乃「了解。戦術センサー、フル稼働。時間断層工廠で強化した演算ユニット、火網の展開パターンと空隙を算出中……」
詩乃の手指が、流れるような滑らかさでコンソールの上を滑る。
次の瞬間、宇宙の暗闇が鮮烈な赤と緑の光によって激しく引き裂かれた。
独立星系連合の主力艦群から、一斉に解き放たれた極太のターボレーザー光線。
何百、何千という閃光の束が、宙線を描きながらガントレット・スターファイターの向かう空間へと殺到してくる。ひとたまりもなく艦体を蒸発させるほどの破壊の奔流。直撃すれば、ベスカーの装甲であろうと船体ごと消し飛ぶ猛砲火だ。
アソーカ「来たっ……! ターボレーザーの弾幕!!」
アソーカが反射的にシートのグリップを強く握りしめた。
しかし、正道は焦る様子もなく、不敵な笑みを口元に浮かべながら操縦桿を静かに握り直した。
『人間の身体能力限界強化』——神様の手違いによってもたらされたその規格外の能力は、正道の知覚速度と空間把握能力を次元の異なる領域へと引き上げている。
迫り来る無数のターボレーザーの光線。常人には光の壁にしか見えないその弾幕も、正道の拡張された知覚は、どの砲弾がどの角度から飛来し、広大な艦列のどこに密度の薄い間隙が生まれるのかを正確に識別していた。そのすべてが、完璧な立体映像のように頭の中でリアルタイムに構築されていく。
正道「いくぞ」
正道が操縦桿を極限まで精密に、かつ力強く操作する。
ガントレット・スターファイターのスラスターが猛烈な噴射を上げ、機体は物理法則をあざ笑うかのような鋭角な旋回を描いた。
交差する巨大なターボレーザー光線のラインと、主力艦同士が距離を置いている空隙。
正道は迷うことなく機体を滑り込ませた。右へ、左へ、時には機体を垂直に立たせるように旋回させながら、迫り来る破壊の光をことごとく紙一重ですり抜けていく。
光線が機体のベスカー装甲にかすり、青白いシールドの残光が火花となって散る。だが、直撃は一発として許さない。
アソーカ「嘘……!? あんな激しい砲火の中を、全部かわしながら突き進んでるの……!?」
アソーカは目を限界まで見開き、絶句していた。
ジェダイがライトセーバーでブラスター弾を弾くような感覚とはまるで違う。巨大な宇宙船を駆り、何百という巨砲の火網の中を、精密極まる操縦で突き抜けているのだ。
詩乃「敵艦隊の一次火網を突破。……ただし正道、封鎖艦隊からの距離を一定に保ったところで、敵の第二次防衛行動が開始されたわ!」
詩乃の声と同時に、コンソールの警告音がより高い音調で鳴り響いた。
前方のルクレハルク級ドロイド司令船およびプロヴィデンス級駆逐艦から黒い虫の群れのような影が吐き出されていく。
ヴァルチャー・ドロイド——独立星系連合の誇る主力無人戦闘機(ドロイド・スターファイター)の群れだ。
数にして百を超えるヴァルチャー・ドロイドが、幾何学的な陣形を組みながら、推進スラスターを全開にしてガントレット・スターファイターへと猛烈な速度で飛来してくる。
アソーカ「ドロイド・スターファイターの群れ……! あんな数、正面から相手にしたら包囲されちゃうよ!」
正面からは無数のヴァルチャー・ドロイド、背後からは依然として放たれ続ける主力艦のターボレーザー。挟み撃ちの構図だ。
しかし、正道の不敵な笑みは失われない。
正道「いい練習相手だ。詩乃、敵機の射撃タイミングを合わせろ」
詩乃「了解。ヴァルチャー・ドロイド隊、誘導ミサイルおよびブラスターのロックオンを確認。回避ルート、左上方へ三度」
正道「よし……抜けるぞ!」
飛来したヴァルチャー・ドロイドの群れを一斉にブラスター砲火が包み込む。
だが、正道は機首を激しく翻し、最小限の挙動でその射線を回避。それどころか、向かってくるドロイド機群の懐へと自ら突っ込んでいった。
押し寄せるドロイド機たちの配置の偏り。
正道は『人間の身体能力限界強化』による超絶的な反射神経を発揮し、飛来する敵機の合間をすり抜けるように機体を滑り込ませる。ドロイドの人工知能(AI)が予測するドッグファイトの標準パターンを完全に逸脱した、あまりにも無謀で、しかし完璧に計算された飛行ライン。
ドロイド・スターファイターたちは、突如として自陣の真ん中を擦り抜けていったガントレット・スターファイターの動きに対応できず、お互いの射線を遮り合って自滅的な回避運動を余儀なくされる。
正道「もらった!」
ガントレット・スターファイターの翼端に搭載された重ブラスター砲が火を噴いた。
正面から迫り来る数機のヴァルチャー・ドロイドが、回避運動すら取れずに一瞬で爆炎へと変わる。爆発の火柱の中を、正道の機体は一切の減速なしで突き抜けていった。
アソーカ「すごい……! ドロイドの攻撃を誘い込んで、自分たちの射線を潰させたの!?」
詩乃「ええ。正道の操縦は、敵の思考の先を行くのよ。……正道、ドロイドの第一陣を突破したわ! このまま大気圏突入コースへ向けて最短ルートが開いた!」
正道「一気に行くぞ! 舌を噛むなよ、アソーカ!」
正道はスラスターの出力を最大へと引き上げた。
ガントレット・スターファイターは追撃しようとするヴァルチャー・ドロイドの群れを置き去りにし、圧倒的な加速で封鎖艦隊の展開宙域を完全に脱出。目の前に迫るクリストフシスの蒼い大気圏へと滑り込んでいった。
一方、その頃——。
巨大なルクレハルク級ドロイド司令船の薄暗いブリッジでは、異様な光景が広がっていた。
何十台ものOOMパイロット・ドロイドが整然と並び、オペレーション・コンソールに光る文字を無機質に打ち込んでいる。その中央で、黄色の識別マークが施されたコマンド・バトル・ドロイドが、立体ホログラムに映し出される一機のガントレット・スターファイターの軌跡を凝視していた。
コマンド・ドロイド「報告しろ。小型船一機に、我が方の主力艦隊の一次火網およびヴァルチャー・ドロイド第一陣が突破されたというのは本当か?」
パイロット・ドロイド「ラジャー、ラジャー。敵機の回避運動パターンを解析中ですが、標準的な航空戦術のプログラムに該当しません。ターボレーザーの射線を極限の至近距離ですり抜けています」
コマンド・ドロイド「直撃率はどうなっている?」
パイロット・ドロイド「ゼロパーセントです。さらに、展開したヴァルチャー・ドロイド百二十機のうち、十四機が撃墜、三十二機が相互の射線を遮られて回避運動中に接触・大破しました」
コマンド・ドロイド「……なんだと? ドロイド・スターファイターが自滅したというのか?」
パイロット・ドロイド「ラジャー。敵機は我が方のAIが予測する回避アルゴリズムの死角へ正確に進入してきました。パイロットは正気ではないか、あるいは極めて高度な演算能力を持った戦闘用ドロイドと思われます」
コマンド・ドロイド「バカな。あの急旋回と加速に耐えられる生体組織が存在するはずがない……いや、あるいはジェダイか?」
パイロット・ドロイド「敵機、大気圏突入コースへ侵入。……封鎖網、完全に突破されました」
コマンド・ドロイド「……大変なことになったぞ。上官になんと報告すればいいのだ……」
パイロット・ドロイド「『一機取り逃がしました』と報告しますか?」
コマンド・ドロイド「やめろ。分解されてクズ鉄にされたくないなら、次は地上部隊に引き継いだと記録を書き換えろ!」
パイロット・ドロイド「ラジャー、ラジャー……」
ドロイドたちの無機質でどこか間抜けた困惑をよそに、ガントレット・スターファイターは大気圏を突破していた。
機体の表面が大気圏突入の摩擦熱によって熱せられ、眩いオレンジ色の光の膜がメイン・ビューポートを覆う。
激しい振動が船内を揺らすが、正道の安定した操縦と船体のベスカー構造により、機体は一切の揺らぎを見せることなく、摩擦熱の層を突破した。
大気圏を抜けた先には、結晶構造の美しい高層ビル群が立ち並ぶ都市惑星クリストフシスの地表が広がっていた。
幾何学的な美しさを誇る結晶の街並み。だが、街のあちこちには焦げ痕や崩落した建造物の破片が散らばっており、戦争の爪痕が深く刻まれていることが窺える。
しかし、現在この直下のエリアでは交戦は行われておらず、周囲には不気味なほどの束の間の静寂が漂っていた。
広大な都市の中央広場には、共和国軍が防衛陣地を構築している。装甲歩兵戦闘車(AT-TE)や各種砲台が配置され、クローントルーパーたちが警戒態勢を維持したまま、周囲の警戒に当たっていた。
正道「降下地点を確認した。前線基地の広場へ降りる」
正道は慣れた手つきで出力を絞り、ガントレット・スターファイターを静かに垂直降下させた。
エンジンの重低音が広場に響き渡り、着陸脚が結晶の石畳へと着地する。無事に封鎖網を突破し、地表への着陸を果たした瞬間だった。
船内の振動が収まると、アソーカは深く息を吐き出し、シートから立ち上がった。
アソーカ「はあ……すごかった……。あんな突破、見たことないよ……」
正道「無茶じゃない。計算通りだ」
正道はシートから立ち上がり、詩乃と視線を交わした。
詩乃「システム、オールグリーン。着陸完了よ。……さあ、アソーカ。あなたの新しいマスターが待っているわ」
正道「よし、降りるぞ」
正道がコンソールのハッチオープン・レバーを操作すると、圧力の開放音と共にリアハッチが滑らかに開いていった。
外部の焦げ臭い風と、結晶都市独特の冷ややかな空気が船内へと流れ込んでくる。
広場に陣を敷いていたクローン・トルーパーたちが一斉に銃口を向けたが、降下してきた船のシルエットと、そこから姿を現した二人の存在を確認すると、即座に警戒を解いた。
ハッチのステップから最初に降り立ったのは、全身を鈍色に輝くベスカーアーマーで包んだ正道だ。一切の隙を見せない重厚な足取りで地表へ踏み出す。続いて、背中に巨大な漆黒の対物ライフル「ヘカートⅡ」を担いだ詩乃が、正道の背後を護るように滑らかに降り立った。
そして、その二人の間から、アソーカ・タノが勢いよく飛び出してきた。
広場の中央では、急に降下してきた見知らぬスターファイターに対し、二人のジェダイが歩み寄ってきていた。
一人は青いライトセーバーを腰に指し、不敵さと警戒を交えた眼差しを向ける若きジェダイ・ナイト——アナキン・スカイウォーカー。そしてもう一人は、整えられた髭に手をやり、落ち着いた佇まいで全体を見渡すジェダイ・マスター
——オビ=ワン・ケノービだ。
アソーカはアナキンの真ん前まで一気に駆け寄ると、胸を張り、ハッキリとした元気な声で言い放った。
アソーカ「初めまして、マスター! あたしはアソーカ・タノ。派遣されたの、あなたの新しいパダワンよ!」
アソーカの突然の宣言に、アナキンは目を見開き、一瞬思考が停止したように固まった。
次の瞬間、アナキンは両手で頭を抱え、大声を上げた。
アナキン「はあ!? パダワンだと!?冗談だろ、俺はパダワンなんて頼んでないぞ! マスター、一体どういうことです!?」
オビ=ワン「落ち着きなさい、アナキン。マスター・ヨーダが君にパダワンをつけると言っていたのは本当のようだね」
アナキン「聞いてないぞ! 俺は一人で十分だって何度も言ったはずだ!」
頭を抱えて抗議するアナキンに対し、オビ=ワンは苦笑を浮かべつつも、アソーカの背後に控える正道と詩乃へと視線を向けた。
ヘルメット越しではあるが、二人から漂う圧倒的な武の存在感と、隙のない佇まいにオビ=ワンの目にも深い感嘆の色が走る。
オビ=ワン「君たちが、マスター・ヨーダの依頼を引き受けてくれたというマンダロリアンだね。……驚いたよ。あの敵の猛烈な封鎖網とターボレーザーの砲火を、一機の被弾もなく潜り抜けてくるとは」
正道「無駄な交戦で時間を潰す理由がないからな。依頼された通り、パダワンのアソーカ・タノを無事に送り届けたぞ」
正道は腰のベルトに手をあて、オビ=ワンへ向けて低く落ち着いた声で返した。
アナキン「……ん? 待て、その声……まさか、正道か!?」
抗議していたアナキンがハッと顔を上げ、正道の姿を凝視した。
正道「久しぶりだな、アナキン。相変わらず賑やかなことで何よりだ」
正道がそう言ってヘルメットのロックを解除し、脇へと抱えると、アナキンの表情が一気に晴れやかになり、親友との再会を喜ぶ笑顔が浮かんだ。
アナキン「正道! 詩乃も一緒か! なんだ、ヨーダが送ってきた助っ人ってのはお前たちのことだったのか!急に音沙汰がなくなったと思ったら、こんなところで会えるとはな!」
アナキンは大股で歩み寄ると、正道の肩を力強く叩いた。二人の間に漂う空気は、過酷な戦場の中にあっても変わらない確固たる友情のそれだった。
詩乃「お久しぶりね、アナキン。元気そうでよかったわ。……それと、仕事はアソーカを届けるだけじゃないのよ。船の貨物室には、依頼されていた急用の医療品と補充用のエネルギーパックが満載してあるわ」
オビ=ワン「それは実に素晴らしい! 地上での防衛戦が長引き、物資の枯渇に悩まされていたところなのだ。感謝するよ、お二人とも」
正道と詩乃は、手際よくガントレット・スターファイターの貨物室のハッチを開放した。
内部に整然と積み上げられていたコンテナ群を目にしたクローン・トルーパーたちが、感嘆の声を上げながら速やかに搬出作業へと入っていく。
アナキンは搬出される大量の物資を見送りつつ、正道の隣に立ち、アソーカの方をチラリと見やった。
アナキン「しかし正道……物資も助かるし、お前たちが来てくれたのは心強いが、このガキまで連れてくるとはな。俺は弟子なんて育てる気はないぞ」
正道「そう言うな、アナキン。船内で少し話したが、アソーカは根性のあるいい奴だ。お前と同じで少々威勢が良すぎるきらいはあるがな」
アソーカ「ちょっと! 少々威勢が良すぎるってなにさ!」
抗議するアソーカを見て、詩乃がクスクスと小さく微笑んだ。
詩乃「いいじゃない、アナキン。あなたにそっくりな可愛い弟子じゃない。きっと良いコンビになるわ」
アナキン「俺に似てるだって……?勘弁してくれよ……」
アナキンは呆れたように息をついたが、正道と詩乃が太鼓判を押したことで、アソーカを見る目がわずかに柔らかくなったのは確かだった。
オビ=ワン「さて、これで救援物資の引き渡しと、新たな戦力の合流は完了した。正道、詩乃、君たちの協力には心から感謝する。だが、セパラチストのドロイド軍がいつ次なる攻勢を仕掛けてくるか分からない状況だ。基地の幕僚テントで、今後の作戦について共有させてもらいたいのだが、いいだろうか?」
正道「ああ、構わない。俺たちも受け取った報酬分以上の働きはするつもりだ。ドロイドどもの動きについても、何か力になれるかもしれない」
詩乃「ええ。私たちの装備と経験が役に立つなら、喜んで協力するわ」
硝煙と静寂が交錯する都市惑星クリストフシスの地表で、救援物資の無事な搬入と、アソーカの合流は完遂された。
迫り来る独立星系連合の脅威を前に、親友であるアナキン、そしてジェダイたちと共に、正道と詩乃は次なる戦術の策定へと足を進めるのだった。