白い少女はただ善く生きたい ――人々の瞳に映る少女は、ひとつではない―― 作:不明さん
窓から差し込む光が少しずつ弱くなっていた。リヴィアが三人と顔を合わせてから、昼食を挟んで数時間が過ぎている。部屋の様子に大きな変化はなく、セラは時折扉や窓へ目を向け、ニナはほとんど言葉を発さず、エリンはセラのそばにいた。
昼食も、最初に飲み物を置いた低い台へ三人分を置いた。すぐに手をつける者はいなかったが、しばらくするとセラが食べ始め、少し遅れてエリンも続いた。ニナだけはまだ食事へ手を伸ばさなかった。
リヴィアは気になったものの、食べるよう促さなかった。ヘレナからすぐ手をつけないことがあると聞いていたからだ。片づける頃にはニナの皿からも少し食事が減っていたが、いつ食べたのかは見ていない。三人を監視するように見続けるつもりはなかった。
昼食後、リヴィアは持ってきた本を取り出し、扉を塞がない壁際の椅子へ座った。時折三人の様子を確かめながら、本を読み進める。
最初に置いた飲み物もいつの間にか少し減っていた。誰がどれだけ飲んだのかまでは分からない。それでよいのかもしれない。
夕方になると廊下から足音が近づき、扉の外でヘレナと言葉を交わしたあと、リヴィアよりかなり年上に見える女性が部屋へ入ってきた。ヘレナがその隣に立つ。
「リタ・ランデルです。夜間と、リヴィアさんが休んでいる間の交代を担当します」
紹介された女性――リタはリヴィアを一度上から下まで見た。
「リタ。夜は私が担当するから」
「あ、はい。リヴィアです。よろしくお願いします」
リヴィアが頭を下げると、リタも軽く頭を下げた。リタが部屋の奥へ目を向けると、三人も新しく入ってきた大人を見ていた。
リタは小さく息を吐いた。
「……できれば、面倒ごとは起こさないでほしいんだけど」
誰へ向けた言葉なのかリヴィアには少し分かりにくかった。三人へ言ったようにも、自分へ言ったようにも聞こえる。
今度はリヴィアへ顔を向けた。
「夕食が終わって、引き継ぎをしたら私が見る。夜中に何か気づいても自分で何とかしようとしないで。先に私を呼んで」
「はい」
「勝手に抱え込まれる方があとで余計に面倒だから」
言い方はあまり柔らかくないが、言われていること自体は分かった。夜間に何かあれば一人で対応せず、リタへ知らせる。ここへ着いた時にヘレナから聞いた注意とも重なる。
「寝てるなら起こさないし、何もなければあまり話しかけない。変に刺激して面倒になるのも嫌だし」
「分かりました」
「じゃあ引き継ぎの頃にまた来るから」
リタが部屋を出ていくと、セラは閉じた扉をしばらく見ていた。リヴィアは本を閉じた。そろそろ夕食の時間だった。
しばらくすると三人分とリヴィアの分の食事が運ばれてきた。温かい煮込み料理とパン、それに水だった。
「夕食を置きたいのですが、昼と同じところでいいですか?」
すぐには返事がなかった。しばらくして、セラの視線が低い台へ動く。
「……そこ」
「分かりました」
リヴィアは台へ三人分の食事を置き、自分の分を持って昼間と同じ壁際へ戻った。
食事を置いてもすぐには誰も手を伸ばさなかった。リヴィアも自分だけ先に食べてよいのか少し迷ったが、皆が食べ始めるまで待ちながら見ている方が、かえって食べにくいかもしれない。
自分の前へ食事を置き、胸元で両手を組んだ。
「女神の恵みと今日の糧に感謝します」
普段通りの短い祈りを終え、パンへ手を伸ばした。三人へ同じようにするよう求めることはしなかった。今日会ったばかりなのだから、まずは自分がいつもしている通りにすればよい。
何口か食べた頃、視界の端で動きがあった。セラが周囲を見たあとパンへ手を伸ばした。少し遅れてエリンも食事へ手を伸ばした。
ニナは膝の上に手を置いたまま、食事を見ていた。
昼食の時も食べ始めるまでには時間がかかった。今すぐ何かを言う必要はないだろう。リヴィアはそのまま食事を続けた。
セラはゆっくり食べながら、何度もニナやエリンへ目を向けていた。エリンは何口か食べては手を止め、少し経つとまた食べ始めた。それでも二人の食事は少しずつ減っていった。
昼食の時より時間が経っても、ニナの皿だけは変わらなかった。
「ニナ」
一度だけ名前を呼ぶと、ニナの肩がわずかに動いた。顔は上がらない。
「夕食はそこに置いておきますね」
返事はなかった。リヴィアはそれ以上続けなかった。
お腹が空いていないのか、嫌いなものがあるのか、何か食べられない理由があるのか。聞きたいことはいくつか浮かんだ。けれど一つずつ尋ねれば、返事をするまで問いかけ続けることになるかもしれない。
今はやめておこう。
リヴィアは食事へ戻った。自分が食べ終えた後も、セラとエリンがまだ食べていたのですぐには立たなかった。
少ししてセラが食べ終え、エリンの皿にもほとんど残っていない。ニナの皿は最初と変わらないように見えた。
すぐ片づけてはいけないことは分かっている。だが、いつまで置いておけばよいのだろう。
夜までずっと置いたままでよいとは思えない。料理は冷めるし、あまり長く置けば傷むかもしれない。どこまで待てばよいのかは、まだ聞いていなかった。
ヘレナは少し離れたところで使い終わった食器を確認していた。リヴィアは立ち上がり、三人から十分離れてから近づいた。
「ヘレナさん」
「何ですか」
「ニナがまだ食べていないんですけど」
「すぐ片づけない方がいいとは聞きました。でもどれくらい置いておけばいいですか?」
「……今はそのままでいいです」
「夜までですか?」
「そこまでは置きません。もう少し時間を取って、それでも食べなければ一度下げます。ただ食べなかったことは記録してください」
「分かりました」
「何度も食べるよう言わなくていいです。一度出して、しばらく置いておく。今日はそれで十分です」
「分かりました。あとでお腹が空いたと言った場合はどうしますか?」
「その時は夜間担当へ伝えます。リタにも引き継いでください」
「はい」
必要なことだけ聞いて戻り、ニナの食事はそのままにした。
リヴィアがセラとエリンの食器を下げようとすると、セラがニナの皿へ目を向けた。
「……それは?」
「ニナの分はまだ置いておきます」
「持っていかないの?」
「はい。まだ食べるかもしれないので」
「…………そう」
リヴィアは二人分の食器を下げ、簡単な片づけを手伝った。部屋へ戻ると、三人の位置はほとんど変わっていなかった。
けれど、低い台を見るとニナの皿の煮込みが少しだけ減り、パンも端が少し欠けていた。
思わず声を出しかけ、リヴィアは口を閉じた。
ニナは一瞬だけこちらを見て、すぐに目を逸らした。
食べた……ほんの少しだけど。
それでもさっきまでは手をつけていなかった。
何か言った方がよいのだろうか。褒めるか、もっと食べるよう勧めるか、おいしいかと聞くか。いくつか考えたが、どれが正しいのかは分からない。
食べたことを大げさにされるのが嫌かもしれない。けれど、それもリヴィアの想像にすぎない。
なら決めつけない方がいい。
元の席へ戻り、ニナへ一言だけ伝えた。
「まだ少し置いておきますから、急がなくて大丈夫です」
やがてヘレナから食事を下げる時間だと声をかけられた。ニナが食べた量はほんの少しだった。リヴィアは残った食事を下げ、食べた量を記録へ残した。
しばらくしてリタが戻ってくる。ヘレナが昼間の様子を伝え、リヴィアも夕食について必要なことを引き継いだ。
「セラとエリンは食べました。ニナはしばらく手をつけなかったんですけど、あとから少し食べています」
「分かった」
リタは記録へ目を落としながら答える。
「夜に何か言ってきたらこっちで見る」
「お願いします」
「じゃあもう休んでいいから」
リヴィアは三人へ向き直った。
「おやすみなさい」
返事はなかった。それでもリヴィアはそのまま部屋を出た。
今日一日で三人のことが分かったとは到底言えない。目にした行動の理由は、どれもまだ分からない。
けれど、見えたことから急いで答えを出す必要もないのだろう。教わったことをまずやってみる。それでも分からないことが出たらまた聞く。今日はそれでよかった。
廊下を歩きながらリヴィアは先ほどの皿を思い出した。
最初のままではなかった。ほんの少しだけ減っていた。
少しでも食べられたのならそれでよかった。夕食の間ずっと気になっていたぶん、リヴィアは少しだけ安心した。