前世が大魔道士だった俺、宇宙戦艦を魔改造して銀河を成り上がる 〜退役寸前のゴミ艦隊ですが、魔法で動かせば最強です〜   作:オカノヒカル

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第24話 第一艦隊、棺桶の指揮下へ

 《アーク・ロズベル》は、ようやく狙った方向へ曲がれるようになった。

 

 本星軌道港の外縁。

 

 民間船の航路から離れた試験宙域で、《アーク》の鈍重な船体がゆっくりと旋回していく。

 以前なら、右へ向こうとして一度左へ流れ、遅れて姿勢制御スラスターが噴き、船体を揺らしながら修正していた。

 

 今日は違う。

 白い外骨格を継ぎ足した灰色の巨体が、不格好ながらも狙った軌道をなぞった。

 

『第六姿勢制御スラスター、応答正常』

 

 ノアの報告に続き、機関管制席から声が上がる。

 

「噴射出力、安定。冷却系も規定範囲内です」

「通常加速」

「了解。通常加速へ移行します」

 

 艦尾の主推進器群から青白い光が伸びた。

 加速は緩い。

 第一艦隊の艦なら、とっくに試験区画の端まで到達しているだろう。

 

 だが、《アーク》の船体は傾かなかった。

 艦首は予定された方角を向いたまま、軌道港から静かに距離を取っていく。

 

「減速」

「通常減速へ移行」

 

 推進光が弱まり、船体各部の姿勢制御スラスターが短く噴いた。

 

 《アーク》は指定された停止位置をわずかに越えたものの、修正噴射一度で戻った。

 

『通常航行試験、終了』

『姿勢誤差、許容範囲内』

『第六姿勢制御スラスターを含む姿勢制御系統に、重大な異常なし』

「止まれたな」

「そこを成果のように言わないでください」

 

 隣に立つセラは、端末から目を上げなかった。

 

「止まれない船よりはいい」

「つい先日までの本艦ですね」

『通常航行能力、復旧と判定します』

 

 艦橋の空気が緩んだ。

 

 機関担当の兵が息を吐き、操舵士が椅子の背へ体重を預ける。

 艦内の整備班からも、作業回線を通じて小さな歓声が届いた。

 

 焼けた配管を交換し、古い制御器を調整し、第六スラスターの周囲へ何度も潜り込んだ連中だ。

 歓声くらい上げてもいい。

 

 ただし、セラは端末を閉じなかった。

 

「通常航行は可能です。ただし、戦闘加速は禁止します」

「補助炉もか」

「試作一号は封鎖しました。再起動させません」

「主砲は?」

「それも禁止です」

 

 俺はセラを見た。

 

「砲身は直したはずだが」

「砲身だけで撃つ兵器ではありません」

 

 艦橋正面に、《アーク》の構造図が表示された。

 

 艦首から中央区画へ伸びる主砲。その支持構造は、船体を前後に貫く主骨格へ直接つながっている。

 そこへ第一艦隊旗艦から移した白い外骨格が加わっていた。

 

 リーネの顔が、構造図の端へ小さく映る。船体監視区画から回線をつないでいるらしい。

 

「外骨格の固定位置も、船体の重量配分も変わっているわ」

 

 図上の数か所が赤く光った。

 

「発射時の負荷が、以前と同じ経路を通るとは限らない。計算はできるけれど、実測値が足りないの」

「撃てば測れるか」

「禁止です」

「禁止です」

 

 セラとリーネの声が重なった。

 

『本艦も反対します』

「三対一らしい」

「多数決の問題ではありません」

 

 セラは主砲の項目へ赤い封鎖表示を重ねた。

 

 戦闘加速も使えない。試作炉も封鎖。主砲まで禁止。

 歩けるようにはなったが、走ることも杖を振ることも許されていないらしい。

 

『領主府より通信を受信』

 

 青白い箱舟型の投影が明滅する。

 

『緊急戦略会議への参加命令です。領主府会議室との暗号回線が指定されています』

「ここから出ろという話ではないらしいな」

「航行試験の直後です。むしろ、戻ってくるなという意味かもしれません」

 

 港へ戻り、連絡艇へ乗り換え、地上へ降りる手間が省ける。

 

 政治のために船を降りるより、よほどいい。

 

「リーネは?」

「わたしは外骨格を見ているわ」

 

 構造図の端で、リーネが片手を上げた。

 

「政治の話をしている間に、最終調整をしておくわ」

「助かります」

 

 セラの返事は早かった。

 

「ノア、回線をつなげ」

『暗号会議回線へ接続します』

 

 正面の構造図が消えた。

 代わりに、大きな画面が五つ開く。

 

 中央には兄上。

 その隣には、細い眼鏡をかけたルシアン・ヴェイルが座っている。

 ほかの画面には、領主府の作戦担当官、港湾担当官、第一艦隊司令官代行のクレイン大佐が映っていた。

 

「遅いぞ、レオン」

「《アーク》を止めていた」

「何?」

「航行試験だ」

 

 兄上は不快そうに眉を寄せた。

 

「その程度の報告は、あとでよい」

「止まれないまま会議へ出るよりはいいだろう?」

「もう結構だ」

 

 兄上が手を振る。

 ルシアンが画面越しに一礼した。

 

「お忙しいところ、申し訳ありません。ですが、ロズベル領の治安維持に関わる重要な協議です」

 

 会議画面の中央へ、複数の文書が表示された。

 

 交易路警備計画。

 本星港警備強化案。

 第一艦隊修復支援。

 緊急治安協定。

 

 最後の文書だけ、すでに署名欄まで用意されている。

 

「まず、第一艦隊の状況をご報告します」

 

 クレイン大佐が口を開いた。

 

「旗艦は主推進器および艦尾冷却設備を開放し、軌道港修理区画にて作業中です。短期間での航行復帰は困難です」

「司令官は?」

「生命に別状はありません。ただし、艦隊勤務への復帰は早くても半年先と診断されています」

「おまえが指揮を執ればいい」

 

 兄上が言った。

 

「現在も司令官代行として残存艦の統制は行っています。ただ、私の軽巡にあるのは指揮補助設備です。旗艦のような艦隊司令機能はありません」

「旗艦以外は大した損害を受けていないのだろう? なら、何とかなるはずだ」

「旗艦を除く八隻は、条件付きで作戦行動可能です」

「条件?」

「各艦の冷却、索敵、兵装の一部に制限があります。詳細は各艦長から――」

「出撃できるかどうかを聞いている」

「出撃は可能です」

 

 兄上は満足そうにうなずいた。

 

 何が壊れているかより、書類に出撃可能と書けるかの方が大事らしい。

 

「第一艦隊司令官が復帰するまで、残存艦を無理に動かす必要はございません」

 

 ルシアンが穏やかな声で言った。

 

「旗艦を失い、指揮系統も暫定の状態で艦隊戦を行えば、さらなる損害を招きます」

「では、海賊が戻ってきたらどうするんだ?」

「そのための共同治安支援です」

 

 文書の内容が切り替わる。

 

 外部警備艦による交易路巡回。

 

 本星港への臨時寄港と補給。

 

 第一艦隊および《アーク》への技術監査。

 

「ロズベル領軍を否定するものではありません。一時的に生じた治安上の空白を、外部の力で補うだけです」

 

 セラが手元の端末で協定書を開き、すぐに眉を寄せた。

 

「この監査範囲、本星港の軍用区画全体になっています」

「事故原因が港湾設備にある可能性も否定できませんので」

「《アーク》の改造記録も対象です」

「第一艦隊旗艦へ転用された技術との比較が必要になります」

 

 言っていることは正しい。

 だから面倒だった。

 

 修理に必要な部品は決まっていないのに、艦の中へ入る人間だけは決まっている。

 

「ずいぶん準備がいいな」

「危機への備えは、早いほどよいものです」

 

 ルシアンの表情は動かなかった。

 

「外部の武装艦を、私の港へ入れろというのか」

 

 兄上の声には、不快感がにじんでいる。

 

「領主閣下の許可を受けた共同治安部隊です」

「名前を変えても、他人の艦だ」

「もちろん、ロズベル領軍だけで治安を回復できるのであれば、この協定は必要ございません」

 

 ルシアンはそれ以上勧めなかった。

 

 返事を急かしもしない。

 兄上が自分で署名するのを待っている。

 

 その時だった。

 

『警告。外周監視網より緊急情報』

 

 ノアの声と同時に、会議画面の中央へ赤い表示が割り込んだ。

 領主府の作戦担当官が端末へ身を乗り出す。

 

「未登録武装船を確認! 数、複数!」

 

 星図が開く。

 本星から離れた第三交易路外縁に、赤い光点が次々と現れた。

 

『前回の海賊船団と一致する通信妨害波を検出』

 

 ノアが領主府の報告へ独自の解析結果を重ねる。

 

『複数艦の推進反応が、第三交易路戦の記録と一致します』

「一致率は?」

『推定七十二パーセント』

 

 作戦担当官が別の情報を表示する。

 

「商船三隻が航路上で停止。複数の救難信号を受信しています」

「第一艦隊が逃がした連中か」

 

 兄上が言い、すぐに表情を歪めた。

 

「……取り逃がした敵主力だ」

「敵船団は、通常の離脱方向へ向かっていません」

 

 星図上に予測進路が伸びる。

 その先にあるのは、ロズベル本星だった。

 

「現状の進路を維持した場合、本星外周警戒圏へ到達します」

 

 誰もすぐには口を開かなかった。

 

「共同治安支援の受諾を急ぐべきです」

 

 ルシアンが言った。

 

「外部警備艦であれば、すぐに出動できます」

「どこからだ」

「近隣航路で待機しております」

「もう来ているのか?」

「支援要請に備えております」

 

 飯を頼む前から、空いた皿を下げる者が隣に立っている。

 親切なのかもしれない。

 俺は、そういう親切をあまり信用しない。

 

「必要ない」

 

 兄上が言い切った。

 外部の艦に本星を守らせたと知られることが、よほど気に入らないらしい。

 

「レオン。第二艦隊司令官として、直ちに迎撃へ向かえ」

「二隻でか」

「海賊には一度勝っているだろう」

「本星側にいる第二艦隊艦艇は、《アーク》とフリゲート一隻だけです」

 

 セラが画面へ向かって答えた。

 

「《アーク》は修理を終えたと聞いた」

「通常航行が可能になっただけです。戦闘加速も、主砲も使えません」

 

 ルシアンがわずかに首を傾げる。

 

「それでは、迎撃戦力として不足しているのでは?」

「出ることはできるが……」

 

 俺は星図を見る。

 赤い光点は、ゆっくりと本星へ近づいている。

 

「だが、二隻では敵を囲めん。逃げる船にも追いつけない」

 

 兄上が声を荒げた。

 

「逃がすつもりか!」

「逃がさないために、足の速い船が要ると言っている」

「外部警備艦であれば、高速迎撃にも対応できます」

 

 ルシアンの言葉に、兄上の顔が険しくなった。

 外部艦を入れれば、ロズベル領軍では本星を守れないと認めることになる。

 《アーク》だけを出せば、失敗した時の責任は兄上にも及ぶ。

 

 第一艦隊には動ける艦があり、クレイン大佐も司令官代行として残存艦をまとめている。

 

 兄上はしばらく黙り、第一艦隊の一覧を呼び出した。

 

「第一艦隊司令官は、負傷からの回復と旗艦損傷事故の調査に専念させる」

 

 クレイン大佐が顔を上げる。兄上はさらに指示を出した。

 

「第一艦隊旗艦を除く残存八隻を、今回の海賊迎撃作戦に限り、第二艦隊司令部の作戦指揮下へ置く」

「領主閣下、それは――」

「艦籍、人事、恒常的な所属は第一艦隊のままだ。作戦終了後、指揮権は返還する」

 

 兄上は俺を見た。

 

「第一艦隊の優秀な艦艇を、お前に使わせてやる。これで戦力不足とは言わせん」

「旗艦以外は動けるのか?」

「第二艦隊の鉄屑よりは、はるかにな」

 

 クレイン大佐が、わずかに視線を伏せた。

 

「全八隻、条件付きで作戦行動可能です」

「条件は?」

「各艦に個別の制限があります。詳細は、艦長から報告させます」

「分かった。書類ではなく、壊れている場所を報告させろ」

 

 クレイン大佐が一瞬だけ黙った。

 

「承知しました」

 

 会議画面へ、領主権限による指揮権移管の承認表示が出る。

 

『領主権限による臨時作戦指揮権の移管を確認』

 

 ノアの声と同時に、星図上の表示が変わった。

 本星軌道上に散らばっていた六つの白い光点が、第二艦隊と同じ青へ変わる。

 

 軽巡洋艦二隻。

 駆逐艦四隻。

 

 個別の警戒区域に留まっていた艦が、一つの指揮系統へつながった。

 

『第一艦隊揚陸艦および補給工作艦は、軌道港に係留中』

「八隻すべてを出せ」

 

 兄上が言った。

 

「必要なら出す」

「何?」

「迎撃に要らない船まで連れていけば、守る船が増えるだけだ」

 

 揚陸艦に海賊を追わせても仕方がない。

 壊れた艦を直す補給工作艦まで最前列へ出せば、帰りに困る。

 

 実物を見てから決めればいい。

 

「ノア、全艦を作戦回線へ」

『第一艦隊残存艦との暗号回線を接続します』

 

 通信窓が順番に開いた。

 

〈臨時作戦指揮命令を受領〉

〈作戦回線への接続を確認〉

〈出撃準備へ移行します〉

 

 先任の軽巡洋艦からだけ、返答が遅れた。

 数秒後、通信画面に制服姿の男が映る。第一艦隊司令官代行のクレイン大佐だ。

 

〈臨時作戦指揮命令を確認しました〉

 

 言葉は正しい。

 だが、ふてくされた顔をしていた。俺の下に付くのがよほど屈辱なのだろう。

 

〈一点、確認を求めます〉

「何だ」

〈今回の作戦旗艦は、本当に《アーク・ロズベル》なのですか〉

「俺が指揮するなら、そうなるだろう」

 

 男は短く息を止めた。

 

〈……了解しました〉

 

 納得した声ではなかった。

 その直後、星図上の敵進路が赤く更新された。

 

「敵船団、進路を変更!」

 

 領主府の作戦担当官が声を上げる。

 

「新たな推定進路、ロズベル本星です!」

 

 通信画面の中で兄上が何かを言いかけたが、俺は会議回線を副表示へ移した。

 

「兄上。あとの話は帰ってからだ」

「勝手に切るな、レオン!」

「海賊が待っている」

 

 セラが俺の隣へ戻る。

 

「司令、主砲は禁止ですからね」

「分かっている」

『記録しました』

「信用がないな」

「実績があります」

 

 それは否定しにくい。

 

「全艦、出撃準備」

 

 星図の端で、六つの青い光点が動き始めた。

 

 白く整った第一艦隊の軽巡洋艦と駆逐艦が、それぞれの軌道警戒区域を離れる。

 ばらばらだった六隻が、本星軌道上を横切り、《アーク》の周囲へ集まりつつあった。

 

 その先では、海賊を示す赤い光点が本星へ向かっていた。

 

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