前世が大魔道士だった俺、宇宙戦艦を魔改造して銀河を成り上がる 〜退役寸前のゴミ艦隊ですが、魔法で動かせば最強です〜 作:オカノヒカル
第一艦隊の六隻は、《アーク・ロズベル》へ近づいていた。
白く整った軽巡洋艦が二隻。その周囲を、細身の駆逐艦四隻が進んでいる。
どれも《アーク》より新しい。
焼け跡も、継ぎ接ぎの装甲も、むき出しの配管もない。第一艦隊旗艦から移した白い外骨格だけが、こちらにも同じ艦隊らしさを与えていた。
ただし、六隻は指定した位置へ入らなかった。
《アーク》から少し離れた場所で速度を合わせ、そのまま艦隊会議回線へ接続してくる。
指定位置へ入る様子はない。
『第一艦隊戦闘艦六隻、回線接続を確認』
艦橋正面に、第一艦隊の艦長たちの映像が並んだ。
中央に映ったのは、四十代ほどの男だった。制服の襟元まで乱れはなく、ほかの艦長たちより一歩前へ出ている。
〈第一艦隊司令官代行、マティアス・クレイン大佐です〉
男は硬い表情のまま敬礼した。
〈負傷した司令官に代わり、第一艦隊残存艦の統制を預かっています。本作戦では、第一艦隊各艦への命令伝達と部隊指揮を担当します〉
「レオン・ロズベルだ。今回の作戦指揮を預かった」
〈承知しています〉
「何か質問はあるか?」
〈作戦開始前に、編成について提案があります〉
「聞こう」
〈第一艦隊の軽巡洋艦と駆逐艦を、海賊迎撃へ先行させます〉
クレイン大佐の視線が、こちらの艦橋をまっすぐ見ていた。
〈《アーク・ロズベル》は本星軌道に残り、後方から指揮を執られてはいかがでしょうか〉
セラがわずかに眉を動かした。
無礼な提案ではない。
《アーク》は通常航行試験を終えたばかりだ。戦闘加速は禁止。主砲も撃てない。
速さだけを見れば、第一艦隊の艦を先に出す方が合理的だった。
「理由は?」
〈敵は本星へ接近しています。迎撃には速度が必要です〉
クレイン大佐は言葉を選びながら続ける。
〈本艦隊の六隻であれば、短時間で外周警戒圏へ到達できます。《アーク》には本星防衛の指揮中枢として残っていただく方が安全です〉
安全。
便利な言葉だ。
通信回線のどこかから、小さな声が漏れた。
〈白い骨を貼った棺桶で、何をするつもりだ〉
声はすぐに途切れた。
『発言者を特定可能です』
「必要ない」
艦長たちの映像がわずかに動く。
聞こえなかったことにはできないが、いま探し出して叱っても船は速くならない。
「第一艦隊の六隻は、すべて作戦行動可能だな」
〈はい〉
「壊れているものを教えろ」
〈……壊れているもの、ですか〉
クレイン大佐の表情が固まる。
「条件付きで動けると聞いた。条件を知りたい」
しばらく返事がなかった。
艦長たちが互いの表示を確認している。
最初に口を開いたのは、もう一隻の軽巡洋艦長だった。
〈本艦は、戦闘加速後の冷却に時間を要します〉
「どの程度だ」
〈短時間の加速は可能です。ただし、連続使用した場合、冷却が追いつきません〉
「一度走ったら休ませる必要があるわけだな」
〈……その認識で問題ありません〉
次に、駆逐艦長の一人が報告する。
〈本艦は長距離センサーの一部に、断続的な空白があります。艦首方向の探知は正常ですが、左後方の遠距離走査に不安が残ります〉
「別の艦から情報を受ければ補えるか」
〈可能です〉
もう一人の駆逐艦長が続けた。
〈本艦は、対艦誘導弾発射区画の一部を封鎖しています。残る発射区画と迎撃火器は使用可能です〉
「近くへ来る誘導弾は落とせるか」
〈お任せください〉
声に迷いはなかった。
故障箇所が分かっていれば、まだ使える。
「残る三隻は?」
クレイン大佐が答える。
〈本艦と駆逐艦二隻には、作戦行動へ影響する異常は確認されていません〉
「分かった。使えるものだけ使う」
〈修理を待つ時間はありません〉
「待たない」
クレイン大佐が、こちらの意図を測るように目を細めた。
〈では、この状態で出撃させると?〉
「壊れた場所を隠して航行するよりは安全だ」
艦長たちから返事はなかった。
俺が第一艦隊の整備不良を責めると思っていたのかもしれない。
壊した者を探すのは必要だ。
だが、海賊はその間も待ってくれない。
「揚陸艦と補給工作艦は本星へ残せ」
〈領主命令では、八隻すべてが作戦指揮下にあります〉
「指揮下にあることと、最前列へ並べることは別だ」
揚陸艦は、兵と装備を運ぶ船だ。
補給工作艦は、壊れた船を直し、動けなくなった船を引く。
どちらも大切だが、海賊を追う速さはない。
「揚陸艦は軌道港の警戒と臨検に回せ。補給工作艦は第一艦隊旗艦の修理を手伝わせろ」
〈戦闘後の救援準備も命じますか?〉
クレイン大佐から出た問いだった。
「冷却材、交換部品、曳航装置を用意させろ。備えがあれば存分に戦える」
〈了解しました〉
今度の返事は少し早かった。
〈ですが、戦闘艦六隻をすべて出せば、本星軌道に動ける主力艦が残りません〉
「敵はどちらへ向かっている」
〈本星です〉
「なら、俺たちが防衛線だ」
星図へ本星外周警戒圏を表示させる。
赤く縁取られた範囲は、民間船が多い軌道港から十分に離れている。
「海賊がここへ入ってから撃ち合えば、本星のそばに流れ弾を撒くことになる」
俺は警戒圏の外側を指した。
「入る前に止める」
〈敵が退いた場合は?〉
「艦隊全体での深追いは禁止する。本星へ向かう敵を優先しろ」
〈二手に分かれた場合は?〉
「本星側を止める。逃げる船はあとだ」
クレイン大佐が短くうなずく。
少なくとも、本星防衛については異論がないらしい。
「駆逐艦は二隻ずつ組ませる」
四隻の表示を二組に分ける。
「第一駆逐隊は先任軽巡の支援下。第二駆逐隊はもう一隻の軽巡が支援しろ」
〈本艦が前方部隊を指揮します〉
「任せる」
クレイン大佐の眉が、ほんの少し動いた。
「第二軽巡は連続加速を避けろ。駆逐艦に追いつこうとして無理をするな」
〈了解〉
「センサーに空白のある駆逐艦は、必ず相方の観測情報を受け取れ。誘導弾発射区画を封鎖している艦は、近接防御を優先しろ」
〈了解しました〉
〈了解しました〉
「《アーク》は中央。正面を押さえる」
主砲は使えない。
だが、副砲のレールガンと対艦誘導弾、近接迎撃火器は動く。
撃てる武器まで飾りにするつもりはない。
「第二艦隊のフリゲートは後方だ。通信中継と記録、本星との回線維持を任せる」
〈駆逐艦を前方へ出しすぎるのでは?〉
「単独では出さない」
俺は四隻の駆逐艦を示した。
「敵を見つけても、一隻で追うな。相方が遅れたら待て」
〈一隻の方が早く救難地点へ到達できます〉
「前回、それで分断された」
第一艦隊の艦長たちが黙る。
救難信号へ駆逐艦を向かわせ、残った旗艦を別の敵が襲う。
海賊が一度成功させた手だ。
〈救難信号が入った場合は?〉
「艦はすぐに向かわせない」
俺は駆逐艦の表示を指した。
「各地点へ哨戒ドローンを二機出せ。一機を救難船へ近づけ、もう一機で周囲を探る」
〈確認項目は?〉
「生命反応、推進器の状態、周囲の熱源。救難信号の内容と一致してから、艦を向かわせる」
〈了解しました〉
会議を終える。
「指定位置へつけ。出るぞ」
第一艦隊の六隻が動き始めた。
軽巡洋艦二隻が左右へ開き、その前へ駆逐艦が二隻ずつ並ぶ。
後方からは、第二艦隊の旧式フリゲートが近づいてくる。
八隻。
第一艦隊から見れば、旗艦だけがやけに古く、大きく、四角い。
それでも六隻は、今度こそ指定された位置へ入った。
『混成艦隊八隻、隊列位置を確認』
「通常出力で前進」
〈通常出力、了解〉
《アーク》の主推進器が光を伸ばす。
第一艦隊の艦なら、もっと速く航行できるだろう。
だが六隻は先へ出なかった。
白い船体が、《アーク》の速度へ合わせて星の海を進む。
艦隊回線の端で、いくつかの私的通信が短く交わされていた。
〈本当に通常出力だけで行くのか?〉
〈戦闘加速で蛇行した艦だぞ〉
〈近くにいる方が危険じゃないのか?〉
すぐにクレイン大佐の声が割り込む。
〈不要な通信を切れ。作戦中だ〉
私語は止まった。
信用はなくても、規律は残っている。
〈この速度では、敵が加速した場合、本星警戒圏へ入られる可能性があります〉
クレイン大佐から通信が入った。
「ノア、現在の接触予測」
『双方が現在の進路と速度を維持した場合、接触地点は本星外周警戒圏の外です』
「敵が戦闘加速した場合は?」
『接触地点が警戒圏境界付近まで移動する可能性があります』
「聞いての通りだ。その時は駆逐隊を前へ出す。いまは隊列を崩すな」
〈了解しました〉
わざわざ急いで会いに行かなくても、海賊の方から近づいてくる。
『混成艦隊、隊列を維持』
ノアの投影が淡く明滅した。
「最初から信用がないのは気楽ですね」
セラが言った。
「減るものがないからな」
「増やしてください」
そのつもりではいる。
ただし、信用は命令して増えるものではない。
しばらく進むと、通信士が顔を上げた。
「救難信号を受信しました」
星図に黄色い表示が現れる。
一つ。
続けて、もう二つ。
「三地点です。左前方、右前方、正面奥」
救難通信が艦橋へ流れた。
「海賊の攻撃を受けた。主推進器が停止。負傷者あり。至急、救助を求む」
三つの信号は、少しずつ言葉が違う。
内容は同じだった。
襲われた。
動けない。
助けてほしい。
軽巡艦長がすぐに命じた。
〈第一、第二駆逐隊。救難確認手順を実行。哨戒ドローンを発進させろ〉
「手はず通りだ。艦隊は進路と速度を維持」
〈了解しました〉
第一艦隊の軽巡洋艦と駆逐艦から、小さな光が離れていく。
艦艇よりはるかに小さい無人機が、三つの救難地点へ向かった。
一機が救難船へ接近し、もう一機が距離を置いて周囲を監視する。
艦隊は分かれない。
八隻のまま、進路と速度を維持する。
『第一地点、哨戒ドローン接近』
正面表示に映像が出た。
小型の輸送船らしき船体が、暗い宇宙に浮かんでいる。
外装の一部が破れ、艦尾には黒い損傷跡があった。
「砲撃を受けたように見えます」
セラが映像を拡大する。
「生命反応を確認中です」
別の表示に、推進器と船体の観測値が並ぶ。
それを見ていたクレイン大佐が口を開いた。
〈……おかしいです〉
「何がだ?」
〈推進器を止めてから、かなり時間が経っています〉
艦長が観測値を送ってくる。
〈直前まで航行していた船なら、推進器に使用した形跡が残ります。この船には、それがありません〉
『生命反応、検出できません』
〈乗員区画にも反応なし〉
クレイン大佐の声が低くなる。
〈無人船です。救難信号だけを送っている〉
『第二地点、同様の状態を確認』
『第三地点、生命反応なし』
三隻とも、損傷の形がよく似ている。
救難文も似ている。
誰が負傷したのか。何人乗っているのか。そうした情報だけが抜けていた。
「罠……」
セラがつぶやいた。
その直後、第一地点の映像が白く弾けた。
『哨戒ドローン一機、通信途絶』
「攻撃です!」
消える直前の映像が巻き戻される。
一本の光が、救難船の横を通ってドローンを撃ち抜いていた。
砲撃元は救難船ではない。
少し離れた残骸群の奥だ。
『砲撃位置を特定』
『救難信号発信地点と一致しません』
救難船を餌にして、近づいた艦を残骸群の奥から撃つつもりだった。
クレイン大佐が、消えた映像を見つめている。
〈駆逐艦を向かわせていれば、待ち伏せの正面へ出ていました〉
「前回も、それで引っかかったのだろう」
大佐は苦い表情を浮かべる。
〈……同じ手を、もう一度使うとは思いませんでした〉
「同じ手でも、状況しだいではまた使える。現に、こちらも駆逐艦を出しかけただろ」
〈否定できません〉
「救難地点へ向かえば待ち伏せに入る。避ければ、今度はそちらへ動かされる」
俺は三つの救難信号を示した。
「敵は、どちらでも構わない。こちらを自分たちの望む場所へ動かせればいい」
〈では、隊列を維持したまま、敵の方を動かすべきだと?〉
「そうだ」
罠は踏ませるだけが使い道ではない。
右へ罠があると見せれば、相手は左へ行く。
そこへ次の網を張ればいい。
前世の森でも、獣はよく似たことをした。
木々がない分、こちらの方が見やすい。
『全救難信号、同時に停止』
黄色い表示が、星図から消えた。
代わりに、暗かった宙域へ赤い光点が浮かび上がる。
「複数の推進反応!」
索敵士の声が響く。
「正面に四。左側に三。右側にも三!」
『確認できる敵艦、十隻』
残骸や漂流船の陰で、隠れていた推進器が次々と光を放つ。
前回より多い。
クレイン大佐が息を呑む。
〈第一、第二駆逐隊。単独行動は禁止! 指定位置を維持しろ!〉
俺の命令を待たず、大佐が自分の部下へ指示を飛ばした。
悪くない。
「全艦、隊列を維持」
〈第一軽巡、了解〉
〈第二軽巡、了解〉
左右の駆逐隊からも返答が続く。
敵艦隊が、ゆっくりと包囲を狭めてくる。
その中の一隻から、全周波数通信が届いた。
『外部通信を受信』
「開け」
短い雑音のあと、男の声が艦橋へ流れた。
〈ようやく出てきたな、《アーク・ロズベル》〉
クレイン大佐が、通信画面越しにこちらを見る。
〈我々ではなく、《アーク》を……?〉
「こちらの出撃を待っていたんですか」
セラの視線が、星図上の敵艦へ戻る。
海賊は、《アーク》が出てくるのを待っていた。