前世が大魔道士だった俺、宇宙戦艦を魔改造して銀河を成り上がる 〜退役寸前のゴミ艦隊ですが、魔法で動かせば最強です〜   作:オカノヒカル

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第25話 第一艦隊、棺桶の隊列に入る

 第一艦隊の六隻は、《アーク・ロズベル》へ近づいていた。

 

 白く整った軽巡洋艦が二隻。その周囲を、細身の駆逐艦四隻が進んでいる。

 

 どれも《アーク》より新しい。

 

 焼け跡も、継ぎ接ぎの装甲も、むき出しの配管もない。第一艦隊旗艦から移した白い外骨格だけが、こちらにも同じ艦隊らしさを与えていた。

 

 ただし、六隻は指定した位置へ入らなかった。

 《アーク》から少し離れた場所で速度を合わせ、そのまま艦隊会議回線へ接続してくる。

 

 指定位置へ入る様子はない。

 

『第一艦隊戦闘艦六隻、回線接続を確認』

 

 艦橋正面に、第一艦隊の艦長たちの映像が並んだ。

 中央に映ったのは、四十代ほどの男だった。制服の襟元まで乱れはなく、ほかの艦長たちより一歩前へ出ている。

 

〈第一艦隊司令官代行、マティアス・クレイン大佐です〉

 

 男は硬い表情のまま敬礼した。

 

〈負傷した司令官に代わり、第一艦隊残存艦の統制を預かっています。本作戦では、第一艦隊各艦への命令伝達と部隊指揮を担当します〉

「レオン・ロズベルだ。今回の作戦指揮を預かった」

〈承知しています〉

「何か質問はあるか?」

〈作戦開始前に、編成について提案があります〉

「聞こう」

〈第一艦隊の軽巡洋艦と駆逐艦を、海賊迎撃へ先行させます〉

 

 クレイン大佐の視線が、こちらの艦橋をまっすぐ見ていた。

 

〈《アーク・ロズベル》は本星軌道に残り、後方から指揮を執られてはいかがでしょうか〉

 

 セラがわずかに眉を動かした。

 無礼な提案ではない。

 

 《アーク》は通常航行試験を終えたばかりだ。戦闘加速は禁止。主砲も撃てない。

 速さだけを見れば、第一艦隊の艦を先に出す方が合理的だった。

 

「理由は?」

〈敵は本星へ接近しています。迎撃には速度が必要です〉

 

 クレイン大佐は言葉を選びながら続ける。

 

〈本艦隊の六隻であれば、短時間で外周警戒圏へ到達できます。《アーク》には本星防衛の指揮中枢として残っていただく方が安全です〉

 

 安全。

 便利な言葉だ。

 

 通信回線のどこかから、小さな声が漏れた。

 

〈白い骨を貼った棺桶で、何をするつもりだ〉

 

 声はすぐに途切れた。

 

『発言者を特定可能です』

「必要ない」

 

 艦長たちの映像がわずかに動く。

 

 聞こえなかったことにはできないが、いま探し出して叱っても船は速くならない。

 

「第一艦隊の六隻は、すべて作戦行動可能だな」

〈はい〉

「壊れているものを教えろ」

〈……壊れているもの、ですか〉

 

 クレイン大佐の表情が固まる。

 

「条件付きで動けると聞いた。条件を知りたい」

 

 しばらく返事がなかった。

 

 艦長たちが互いの表示を確認している。

 最初に口を開いたのは、もう一隻の軽巡洋艦長だった。

 

〈本艦は、戦闘加速後の冷却に時間を要します〉

「どの程度だ」

〈短時間の加速は可能です。ただし、連続使用した場合、冷却が追いつきません〉

「一度走ったら休ませる必要があるわけだな」

〈……その認識で問題ありません〉

 

 次に、駆逐艦長の一人が報告する。

 

〈本艦は長距離センサーの一部に、断続的な空白があります。艦首方向の探知は正常ですが、左後方の遠距離走査に不安が残ります〉

「別の艦から情報を受ければ補えるか」

〈可能です〉

 

 もう一人の駆逐艦長が続けた。

 

〈本艦は、対艦誘導弾発射区画の一部を封鎖しています。残る発射区画と迎撃火器は使用可能です〉

「近くへ来る誘導弾は落とせるか」

〈お任せください〉

 

 声に迷いはなかった。

 故障箇所が分かっていれば、まだ使える。

 

「残る三隻は?」

 

 クレイン大佐が答える。

 

〈本艦と駆逐艦二隻には、作戦行動へ影響する異常は確認されていません〉

「分かった。使えるものだけ使う」

〈修理を待つ時間はありません〉

「待たない」

 

 クレイン大佐が、こちらの意図を測るように目を細めた。

 

〈では、この状態で出撃させると?〉

「壊れた場所を隠して航行するよりは安全だ」

 

 艦長たちから返事はなかった。

 

 俺が第一艦隊の整備不良を責めると思っていたのかもしれない。

 壊した者を探すのは必要だ。

 

 だが、海賊はその間も待ってくれない。

 

「揚陸艦と補給工作艦は本星へ残せ」

〈領主命令では、八隻すべてが作戦指揮下にあります〉

「指揮下にあることと、最前列へ並べることは別だ」

 

 揚陸艦は、兵と装備を運ぶ船だ。

 補給工作艦は、壊れた船を直し、動けなくなった船を引く。

 

 どちらも大切だが、海賊を追う速さはない。

 

「揚陸艦は軌道港の警戒と臨検に回せ。補給工作艦は第一艦隊旗艦の修理を手伝わせろ」

〈戦闘後の救援準備も命じますか?〉

 

 クレイン大佐から出た問いだった。

 

「冷却材、交換部品、曳航装置を用意させろ。備えがあれば存分に戦える」

〈了解しました〉

 

 今度の返事は少し早かった。

 

〈ですが、戦闘艦六隻をすべて出せば、本星軌道に動ける主力艦が残りません〉

「敵はどちらへ向かっている」

〈本星です〉

「なら、俺たちが防衛線だ」

 

 星図へ本星外周警戒圏を表示させる。

 赤く縁取られた範囲は、民間船が多い軌道港から十分に離れている。

 

「海賊がここへ入ってから撃ち合えば、本星のそばに流れ弾を撒くことになる」

 

 俺は警戒圏の外側を指した。

 

「入る前に止める」

〈敵が退いた場合は?〉

「艦隊全体での深追いは禁止する。本星へ向かう敵を優先しろ」

〈二手に分かれた場合は?〉

「本星側を止める。逃げる船はあとだ」

 

 クレイン大佐が短くうなずく。

 少なくとも、本星防衛については異論がないらしい。

 

「駆逐艦は二隻ずつ組ませる」

 

 四隻の表示を二組に分ける。

 

「第一駆逐隊は先任軽巡の支援下。第二駆逐隊はもう一隻の軽巡が支援しろ」

〈本艦が前方部隊を指揮します〉

「任せる」

 

 クレイン大佐の眉が、ほんの少し動いた。

 

「第二軽巡は連続加速を避けろ。駆逐艦に追いつこうとして無理をするな」

〈了解〉

「センサーに空白のある駆逐艦は、必ず相方の観測情報を受け取れ。誘導弾発射区画を封鎖している艦は、近接防御を優先しろ」

〈了解しました〉

〈了解しました〉

「《アーク》は中央。正面を押さえる」

 

 主砲は使えない。

 だが、副砲のレールガンと対艦誘導弾、近接迎撃火器は動く。

 

 撃てる武器まで飾りにするつもりはない。

 

「第二艦隊のフリゲートは後方だ。通信中継と記録、本星との回線維持を任せる」

〈駆逐艦を前方へ出しすぎるのでは?〉

「単独では出さない」

 

 俺は四隻の駆逐艦を示した。

 

「敵を見つけても、一隻で追うな。相方が遅れたら待て」

〈一隻の方が早く救難地点へ到達できます〉

「前回、それで分断された」

 

 第一艦隊の艦長たちが黙る。

 救難信号へ駆逐艦を向かわせ、残った旗艦を別の敵が襲う。

 

 海賊が一度成功させた手だ。

 

〈救難信号が入った場合は?〉

「艦はすぐに向かわせない」

 

 俺は駆逐艦の表示を指した。

 

「各地点へ哨戒ドローンを二機出せ。一機を救難船へ近づけ、もう一機で周囲を探る」

〈確認項目は?〉

「生命反応、推進器の状態、周囲の熱源。救難信号の内容と一致してから、艦を向かわせる」

〈了解しました〉

 

 会議を終える。

 

「指定位置へつけ。出るぞ」

 

 第一艦隊の六隻が動き始めた。

 軽巡洋艦二隻が左右へ開き、その前へ駆逐艦が二隻ずつ並ぶ。

 後方からは、第二艦隊の旧式フリゲートが近づいてくる。

 

 八隻。

 

 第一艦隊から見れば、旗艦だけがやけに古く、大きく、四角い。

 それでも六隻は、今度こそ指定された位置へ入った。

 

『混成艦隊八隻、隊列位置を確認』

「通常出力で前進」

〈通常出力、了解〉

 

 《アーク》の主推進器が光を伸ばす。

 

 第一艦隊の艦なら、もっと速く航行できるだろう。

 だが六隻は先へ出なかった。

 

 白い船体が、《アーク》の速度へ合わせて星の海を進む。

 

 艦隊回線の端で、いくつかの私的通信が短く交わされていた。

 

〈本当に通常出力だけで行くのか?〉

〈戦闘加速で蛇行した艦だぞ〉

〈近くにいる方が危険じゃないのか?〉

 

 すぐにクレイン大佐の声が割り込む。

 

〈不要な通信を切れ。作戦中だ〉

 

 私語は止まった。

 信用はなくても、規律は残っている。

 

〈この速度では、敵が加速した場合、本星警戒圏へ入られる可能性があります〉

 

 クレイン大佐から通信が入った。

 

「ノア、現在の接触予測」

『双方が現在の進路と速度を維持した場合、接触地点は本星外周警戒圏の外です』

「敵が戦闘加速した場合は?」

『接触地点が警戒圏境界付近まで移動する可能性があります』

「聞いての通りだ。その時は駆逐隊を前へ出す。いまは隊列を崩すな」

〈了解しました〉

 

 わざわざ急いで会いに行かなくても、海賊の方から近づいてくる。

 

『混成艦隊、隊列を維持』

 

 ノアの投影が淡く明滅した。

 

「最初から信用がないのは気楽ですね」

 

 セラが言った。

 

「減るものがないからな」

「増やしてください」

 

 そのつもりではいる。

 

 ただし、信用は命令して増えるものではない。

 

 しばらく進むと、通信士が顔を上げた。

 

「救難信号を受信しました」

 

 星図に黄色い表示が現れる。

 

 一つ。

 続けて、もう二つ。

 

「三地点です。左前方、右前方、正面奥」

 

 救難通信が艦橋へ流れた。

 

「海賊の攻撃を受けた。主推進器が停止。負傷者あり。至急、救助を求む」

 

 三つの信号は、少しずつ言葉が違う。

 

 内容は同じだった。

 襲われた。

 動けない。

 助けてほしい。

 

 軽巡艦長がすぐに命じた。

 

〈第一、第二駆逐隊。救難確認手順を実行。哨戒ドローンを発進させろ〉

「手はず通りだ。艦隊は進路と速度を維持」

〈了解しました〉

 

 第一艦隊の軽巡洋艦と駆逐艦から、小さな光が離れていく。

 

 艦艇よりはるかに小さい無人機が、三つの救難地点へ向かった。

 一機が救難船へ接近し、もう一機が距離を置いて周囲を監視する。

 

 艦隊は分かれない。

 八隻のまま、進路と速度を維持する。

 

『第一地点、哨戒ドローン接近』

 

 正面表示に映像が出た。

 

 小型の輸送船らしき船体が、暗い宇宙に浮かんでいる。

 外装の一部が破れ、艦尾には黒い損傷跡があった。

 

「砲撃を受けたように見えます」

 

 セラが映像を拡大する。

 

「生命反応を確認中です」

 

 別の表示に、推進器と船体の観測値が並ぶ。

 それを見ていたクレイン大佐が口を開いた。

 

〈……おかしいです〉

「何がだ?」

〈推進器を止めてから、かなり時間が経っています〉

 

 艦長が観測値を送ってくる。

 

〈直前まで航行していた船なら、推進器に使用した形跡が残ります。この船には、それがありません〉

『生命反応、検出できません』

〈乗員区画にも反応なし〉

 

 クレイン大佐の声が低くなる。

 

〈無人船です。救難信号だけを送っている〉

『第二地点、同様の状態を確認』

『第三地点、生命反応なし』

 

 三隻とも、損傷の形がよく似ている。

 

 救難文も似ている。

 

 誰が負傷したのか。何人乗っているのか。そうした情報だけが抜けていた。

 

「罠……」

 

 セラがつぶやいた。

 

 その直後、第一地点の映像が白く弾けた。

 

『哨戒ドローン一機、通信途絶』

「攻撃です!」

 

 消える直前の映像が巻き戻される。

 

 一本の光が、救難船の横を通ってドローンを撃ち抜いていた。

 

 砲撃元は救難船ではない。

 

 少し離れた残骸群の奥だ。

 

『砲撃位置を特定』

『救難信号発信地点と一致しません』

 

 救難船を餌にして、近づいた艦を残骸群の奥から撃つつもりだった。

 

 クレイン大佐が、消えた映像を見つめている。

 

〈駆逐艦を向かわせていれば、待ち伏せの正面へ出ていました〉

「前回も、それで引っかかったのだろう」

 

 大佐は苦い表情を浮かべる。

 

〈……同じ手を、もう一度使うとは思いませんでした〉

「同じ手でも、状況しだいではまた使える。現に、こちらも駆逐艦を出しかけただろ」

〈否定できません〉

「救難地点へ向かえば待ち伏せに入る。避ければ、今度はそちらへ動かされる」

 

 俺は三つの救難信号を示した。

 

「敵は、どちらでも構わない。こちらを自分たちの望む場所へ動かせればいい」

〈では、隊列を維持したまま、敵の方を動かすべきだと?〉

「そうだ」

 

 罠は踏ませるだけが使い道ではない。

 右へ罠があると見せれば、相手は左へ行く。

 そこへ次の網を張ればいい。

 

 前世の森でも、獣はよく似たことをした。

 木々がない分、こちらの方が見やすい。

 

『全救難信号、同時に停止』

 

 黄色い表示が、星図から消えた。

 代わりに、暗かった宙域へ赤い光点が浮かび上がる。

 

「複数の推進反応!」

 

 索敵士の声が響く。

 

「正面に四。左側に三。右側にも三!」

『確認できる敵艦、十隻』

 

 残骸や漂流船の陰で、隠れていた推進器が次々と光を放つ。

 

 前回より多い。

 クレイン大佐が息を呑む。

 

〈第一、第二駆逐隊。単独行動は禁止! 指定位置を維持しろ!〉

 

 俺の命令を待たず、大佐が自分の部下へ指示を飛ばした。

 

 悪くない。

 

「全艦、隊列を維持」

〈第一軽巡、了解〉

〈第二軽巡、了解〉

 

 左右の駆逐隊からも返答が続く。

 

 敵艦隊が、ゆっくりと包囲を狭めてくる。

 

 その中の一隻から、全周波数通信が届いた。

 

『外部通信を受信』

「開け」

 

 短い雑音のあと、男の声が艦橋へ流れた。

 

〈ようやく出てきたな、《アーク・ロズベル》〉

 

 クレイン大佐が、通信画面越しにこちらを見る。

 

〈我々ではなく、《アーク》を……?〉

「こちらの出撃を待っていたんですか」

 

 セラの視線が、星図上の敵艦へ戻る。

 

 海賊は、《アーク》が出てくるのを待っていた。

 

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