魔法少女まどか☆マギカ [異編] 反逆のキュゥべえ   作:折無堂

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24. 前哨戦

 それは、ワルプルギスの夜ではなかったが、普通の魔女でもなかった。

 見滝原の外れ。使われなくなった高架下の一角に、結界は口を開けていた。外から見れば、ただの暗がり。壊れたフェンスと、落書きだらけのコンクリート壁。一歩踏み込めば、景色は別のものへ変わる。

 

 そこは、ねじれた劇場のようだった。

 天井から、壊れた時計がいくつも吊られている。針はばらばらの速度で回り、時々逆向きに跳ねた。床は舞台のように黒く、そこに白い線で無数の円が描かれている。客席にあたる場所には、顔のない人形たちが並び、音のない拍手を繰り返していた。

 

「趣味悪いな」

 杏子が槍を肩に担いだまま言った。

「魔女に趣味があるかは分からないけどね」

 キュゥべえは、まどかの腕の中で結界の奥を見ている。

「ただ、構造はかなり複雑だ。ワルプルギスの夜ほどではないけれど、通常個体よりは明らかに強い」

 

「前哨戦ってわけ?」

 さやかが剣を握る。

 青い光が胸元から全身へ流れていた。光は腕へ、足へ、剣へとつながっている。

 

「そう分類してもいい」

「じゃあ、ちょうどいいじゃん」

 杏子が笑った。

「試運転にはな」

 

 マミは何も言わず、手首のリボンをほどいた。黄色い光がしなやかに広がる。以前より細いリボンは、輪郭の内側に濃い光を湛えていた。

 

 ほむらは一歩後ろにいた。

 盾は左腕にある。銃もある。いつもの自分と変わらないはずだった。

 

 実際には、違う。

 胸元の紫の光が、身体の内側へ細く伸びている。盾の縁にも、同じ紫が走っていた。自分の身体が、以前より重い。動きにくいという意味ではない。今いる場所に、ちゃんと重さがある。

 

 逃げ道ではなく、足場として。

 

「来るわ」

 マスケット銃が左右に現れる。

 マミはそれを見ず、周囲の四人だけを一度確認した。

 

 舞台の奥で、時計が一斉に止まった。

 顔のない人形たちが、拍手をやめる。

 

 その中央に、魔女が現れた。人型に近い。だが頭の代わりに、大きな仮面がある。仮面には目が三つ描かれ、どれも違う方向を見ていた。背中からは時計の針のような腕が何本も伸びている。長針、短針、秒針。それらが刃のようにきらめいた。

 

「速いわよ」

 ほむらが言うより早く、魔女が動いた。

 針が飛ぶ。

 それは一直線ではなかった。空中で折れ、戻り、角度を変えて襲いかかる。

 

 マミのリボンが広がった。

 黄色い網が、まどかとキュゥべえの前を覆う。針が突き刺さる。以前なら、そこで裂けていたかもしれない。今のリボンは裂けなかった。柔らかく受け、絡め、軌道を曲げる。

 

「佐倉さん!」

「分かってる!」

杏子が前に出た。

 

 赤い槍が伸びる。魔女の針腕がそれを弾こうとするが、槍は途中で節に分かれた。一本の軌道ではない。何本もの赤い線になり、針の隙間を縫う。

 

「おらっ!」

 杏子の槍が仮面めがけて走る。

 魔女が後ろへ跳ぶ。杏子は追わなかった。

 その方向へ逃げることを、最初から分かっていたからだ。

 

 さやかも同じだった。

 魔女が着地する先へ一歩早く回り込み、剣を構える。

「逃がさない!」

 青い刃が、着地の瞬間を狙って振り下ろされた。

 

 魔女の腕が横から叩きつけられた瞬間、鈍く重い音が響き、さやかの身体が大きく揺れた。

 まともに受ければ、そのまま床を転がっていてもおかしくない一撃だった。少なくとも足は浮き、剣を構えた姿勢など保てないはずだったのに、さやかは反射的に腰を落とし、ブーツの底で黒い床を強く踏みしめる。

 

 衝撃が肩から胸へ抜け、遅れて痛みが腕の奥まで走った。

 

 それでも膝は落ちない。

 胸元の青い光が鼓動に重なるように強く脈打ち、そのたびに身体の内側へ力が戻ってくる。握った剣も下がらず、痛みで息は乱れているのに、戦うための力だけはほとんど失われていなかった。

 

「さやかちゃん!」

 まどかの声が飛んだ。

 

 さやかは返事をしようとして、そこで自分の身体の異変に気づいた。

 痛い。

 肩も腕も、さっき受けた衝撃をちゃんと覚えている。

 

 なのに、動く。

 剣を握る手に力を込めれば、まだ入る。膝も落ちていない。息は乱れているのに、身体の奥に残っている力は、自分が思っていたよりずっと大きかった。

 

 こんなに動けるとは思っていなかった。

 胸元の青い光が、強く脈打つ。

 

 その上から、まどかの声に応えるように薄い青の膜が全身へ広がった。

 さやかは一度、自分の手を見る。

 それから魔女を見た。

 

「……まだいける」

 今度は、確かめるように言った。

 剣を構え直す。

「これ、まだ全然いける!」

 

 踏み込んだ。さっきまでよりさらに速い。

 剣が下から跳ね上がり、魔女の針腕を一本、根元から斬り飛ばした。

 

 キュゥべえは何も言わなかった。

 ただ、赤い目でさやかを見ていた。

 

 魔女が、初めて動きを止めた。

 感情など、あるはずがない。

 魔女は人間ではない。魔法少女のなれの果てだとしても、そこに普通の意味での恐怖が残っているとは限らない。

 

 それでも。

 

 まどかには、魔女が一瞬、怯えたように見えた。

 ――こんなはずではない。

 そんな声にならない声が、結界の奥で揺れた気がした。

 

「興味深い」

 キュゥべえが言った。

「魔女に感情が残っているとは限らない。ただ、あの反応が恐怖に類似した揺らぎなら、あれからもアンチエントロピー性を回収できそうだ」

「今それ言う!?」

 さやかが叫ぶ。

 

 その瞬間、キュゥべえがまどかの腕の中から飛び出した。

「キュゥべえ!」

 まどかが叫ぶ。

 

 白い身体が、舞台の前方へ着地する。

「観測位置を近づける必要がある」

「馬鹿!」

 杏子の怒鳴り声が響いた。

 

 魔女の三つの目が、キュゥべえを見た。

 針腕が一本、異常な速度で伸びる。

 

 まどかの息が止まった。

 キュゥべえは動かなかった。いや、動こうとしていなかった。

 自分が攻撃を受ければ死ぬかもしれない。その可能性を、理解していないようにすら見えた。

 

「危ない!」

 ほむらの身体が、考えるより先に動いていた。

 

 ほむらは、そのとき五人の中でキュゥべえから一番離れた位置にいた。

 

 魔女を挟んで、ほとんど戦場の反対側。

 キュゥべえまでは二十メートル以上ある。その間には崩れた足場と、伸びた針腕、それに魔女自身の巨体まで挟まっていた。

 

 以前の自分なら、盾を回す前に一瞬ためらった距離だった。

 時間を止めれば間に合わないわけではない。

 

 けれど、止まった時間の中で動けるのは自分だけだ。そこまで走り、回り込み、キュゥべえの前へ身体を入れるには、自分の脚で戦場を端から端まで横切らなければならない。

 

 だから以前なら、まず銃を使った。

 あるいは爆薬で軌道を逸らす方法を考えた。

 

 自分自身が走って割り込むという選択は、最後まで残らなかったはずだ。

 

 そのキュゥべえへ、魔女の針腕が振り抜かれる。

 

 ほむらの左腕で盾が回り、世界から音が消えた。

 

 針の先端が空中で止まる。

 舞い上がった破片も、杏子の髪も、さやかの振りかけた剣も、その瞬間の形を保ったまま動かない。

 

 ほむらだけが動く。

 キュゥべえは遠い。

 

 そう認識したまま、ほむらは床を蹴った。

 そして、一歩目で違和感を覚えた。

 身体が、思っていたより前へ出る。

 

 二歩目で確信した。

 

 速い。

 

 自分が知っている自分の身体より、明らかに。

 足が床を蹴るたび、景色が後ろへ流れていく。止まっているはずの魔女の巨体が横を過ぎ、さっきまで遠かったキュゥべえが、数歩ごとに急速に近づいてくる。

 

 以前なら十数歩は必要だった距離を、ほむらは半分ほどで詰めていた。

 息も乱れないし、脚も重くならない。

 止まった世界の中を走っているのに、身体の方が先に次の一歩を要求してくる。

 

 ほむらは驚きを処理しきれないまま、キュゥべえの手前で足を止めた。

 

 そこで初めて時間を戻す。

 

 ほんの一瞬だけ。

 世界が息を吹き返し、針腕がわずかに前へ進む。

 

 軌道を確認し、再び停止させる。

 半歩だけ左へ寄り、盾を上げる。

 

 再開。

 針が進む。

 停止。

 

 角度を変える。

 再開。

 

 コンマ一秒にも満たない時間を細かく刻むたび、魔女の攻撃が少しずつ読み解けていく。

 

 今までのほむらは、時間を止めたら、その間に必要なことを全部済ませていた。

 武器を置き、爆薬を仕掛け、位置を変える。

 

 今は、止めて、見る。少しだけ流して、また止める。

 それができる。

 身体が、その細かな切り替えについてくる。

 

 次に時間が動いたとき、ほむらは完全にキュゥべえの前へ入っていた。

 

 針腕が盾へ激突する。

 金属が裂けるような音が響いた。

 

 衝撃は重い。

 それでも、ほむらの膝は落ちなかった。

 

 足が床を滑りながらも踏みとどまり、盾も下がらないことにも驚いていた。

 だが、それ以上に、戦場の反対側から、本当にここまで走ってこられたことの方が、ほむらには信じがたかった。

 

「暁美ほむら」

 キュゥべえが、ほむらの後ろから言った。

「今のは、時間遡行を極小単位で制御した結果だね。完全な巻き戻しではなく、瞬間的な未来位置補正に近い。以前よりも丁寧に使えている。時間停止と再配置の中間のような――」

 

「……あなた」

 ほむらは盾を構えたまま言った。

「今、解説している場合なの?」

「重要な観測結果だ」

「あなたが死にかけたのよ」

「その可能性はあった」

「可能性ではなく、現実になりかけたの」

「でも、君が防いだ」

 

 ほむらは一瞬だけ黙った。

 

 本当に、どこまで行っても、こいつはキュゥべえなのだ。

 それがおかしくて、腹立たしくて、少しだけ救いでもあった。

 ほむらは小さく苦笑した。

 

「下がっていなさい、マスコット」

「僕は戦闘用ではないからね」

「分かっているなら最初から下がりなさい」

「了解した」

 

 キュゥべえは、ようやく後ろへ下がった。

 ほむらは前を向く。

 

 魔女は、動きを変えていた。

 針腕を広げ、距離を取ろうとしている。

 さっきまで、こちらを狩る側だった魔女が。

 今は、逃げ道を探しているように見えた。

 

「マミさん!」

 さやかが叫ぶ。

「ええ!」

 マミのリボンが四方へ走った。

 ただ拘束するだけではない。床の円に沿い、舞台の上に防衛線を描く。魔女の針腕が触れた瞬間、黄色い光が絡みつき、動きを鈍らせる。

 

「杏子!」

「任せろ!」

 杏子の槍が途中で三つに分かれた。

 最初に動いたのは、正面の一本だった。

 赤い穂先が仮面めがけて一直線に伸び、魔女が反応した。上体を逸らし、背中から伸びた腕が正面の槍を払おうと動く。

 

 杏子は、それを見ていた。

 わずかに遅れて、二本目が床すれすれを走る。

 槍の節が舞台を這い、魔女の足元へ回り込んだ。正面を避けようと重心をずらした、その先へ絡みつくように伸びる。

 魔女が足を引く。

 

 そこで三本目が動いた。

 杏子の手元から大きく弧を描き、魔女の視界の外を通って背後へ回り込む。

 

 正面の槍を払う腕と足元を避けるために崩れた姿勢。

 その両方を見てから、最後の一本が仮面の裏へ食い込む角度を取った。

「そっちだ」

 杏子が槍を引き、三方向から伸びていた赤い軌道が、一斉に締まった。

 

 三方向から締められた魔女が、唯一空いている方角へ身体をひねった。

 そこだけは、杏子の槍が届いていない。

 逃げ道に見えたが、杏子は追わなかった。

 

 最初から、そこだけを空けていたからだ。

 

 魔女が跳ぶ。

 その先に、ほむらがいた。

 

 銃口はすでに上がっている。

 以前なら、時間を止めて武器を並べ、爆薬ごと押し潰していた。

 今は違う。

 必要なのは一発だけだった。

 

 魔女の針腕が動き始める。

 ほむらは、その先端ではなく、振り抜かれたあとに通る場所へ銃口を向けた。

 

 引き金を引き、弾丸が銃口を離れた、その直後。

 銃声が戦場へ広がりきるより先に、ほむらは時間を止めた。

 

 世界が静止する。

 

 弾丸は空中に留まり、その少し先では、針腕が振り抜かれる途中の姿勢で止まっていた。

 

 ほむらは二つを見比べる。

 このまま時間を戻せば、針腕はさらに前へ出る。

 

 その軌道、いずれ交差する位置に、弾丸がいる。

 ほんのわずかだけ時間を流す。

 

 そこでもう一度、止める必要はなかった。

 ほむらは時間を完全に戻した。

 

 遅れて銃声が響く。

 次の瞬間、振り抜かれた針腕が弾道へ自ら飛び込み、根元近くで砕け散った。

 

 杏子はそれを見て、口の端を上げた。

 逃がしたのではない。

 ほむらの射線へ、追い込んだのだ。

 

「魔力量消費は想定より少ない」

 後ろでキュゥべえが言う。

「細分化した時間操作は、全体停止より効率が良い可能性がある。暁美ほむら、君の現在の運用は――」

「あとで聞くわ」

 

 ほむらは撃つ。

 一発、二発、三発と重ねていき、魔女の逃げ道を削る。

 

 その直後にさやかが正面から踏み込む。

「これで!」

 青い剣が魔女の仮面を叩き割った。

 

 だが、まだ終わらない。

 仮面の奥から、もう一つ小さな仮面が現れる。針が一斉にさやかへ向く。

 

「甘い!」

 杏子の槍が横から入る。

 針腕をまとめて絡め取り、床へ叩きつける。

 

 マミのリボンがそこへ重なる。

 黄色と赤が、魔女の身体を縛る。

「美樹さん!」

「はい!」

 

 さやかが剣を両手で握る。

「さやかちゃん!」

 まどかの声が届いた。

 胸元の青い光が、今度は強くなるのではなく、すっと形を整えた。

 呼吸の乱れに合わせて揺れていた光が落ち着き、身体を包んでいた薄い膜が輪郭へ沿うように引き締まる。その光は腕を伝い、最後には握った剣まで一本につながった。

 

 さやかは短く息を吐く。

 力が増えたというより、今ある力を全部使える。

 そんな感覚だった。

 

 ほむらは、その間に最後の逃げ道を撃ち抜いた。

 

 それでも、三つの目だけがぎょろぎょろと動く。

 まるで、理解できないものを見ているように。

 

 こんなはずではない。

 これは、獲物ではない。

 これは、魔法少女ではない。

 

 そんな断末魔が、声にならないまま結界を震わせた。

「終わり!」

 

 さやかの剣が振り下ろされ、仮面が砕けた。

 時計が一斉に逆回転する。

 

 人形たちが音のない拍手を再開し、すぐに崩れて紙片になる。床の円が割れ、舞台が沈む。

 

 結界がほどけていく。

 最後に、グリーフシードが落ちた。

 

 杏子がそれを拾い、軽く投げて受け止める。

「前哨戦にしちゃ、なかなかだったな」

「なかなか、じゃないでしょ」

 

 さやかが息を弾ませながら言う。

「けっこうやばかったよ」

「でも勝った」

 

 マミが静かに言った。

「誰も、大きな怪我をしていないわ」

 

 ほむらは盾を下ろした。

 胸元の紫の光は静かだった。

 濁っていない。

 

 それどころか、前よりも少し、落ち着いている気がした。

 

 キュゥべえが、まどかの腕の中へ戻ってきた。

 まどかは反射的に少し強く抱きしめた。

 

「キュゥべえ、勝手に飛び出しちゃだめ」

「観測位置の変更は必要だった」

「だめ」

「……分かった」

 

 キュゥべえは、まどかの腕の中から四人を見た。

「僕が思った通りだった」

 まどかは、まだ少し怒った顔で聞く。

「本当に?」

 

 キュゥべえは、少しだけ黙った。

「いや――」

 珍しく、言い直した。

「思っていた以上だった」

 

 四人が振り返る。

 キュゥべえは続けた。

「四人の新方式は、単独強化ではなく、相互補助として機能している。魔女の反応も、従来の魔法少女に対するものとは違った。恐怖に類似する揺らぎがあるなら、非破壊型感情変動運用だけでなく、魔女側からも新しい観測値が取れる可能性がある」

 

「またそういう話」

 さやかが呆れる。

 

 キュゥべえは気にせず続ける。

「これなら、僕がいなくても実験が続けられる可能性があると思う」

 まどかの腕が止まった。

「キュゥべえ」

「なにかな、まどか」

 

 まどかは、白い獣を抱えたまま見下ろした。

「そういうこと言わないで」

 キュゥべえは黙った。

 今度は、すぐに返事をしなかった。

 

 論理的には反論できたはずだった。

 実験継続性の評価は必要だ。

 自分の個体喪失時の代替可能性を考えるのは合理的だ。

 自分が死んでも続く設計にしておくことは、長期収支に有利だ。

 たぶん、いくらでも言えた。

 

 でも、言わなかった。

 まどかは、キュゥべえを抱え直した。

「いなくてもいい、じゃないよ」

 

 キュゥべえは、まだ黙っている。

 ほむらが、少し離れたところでそれを見ていた。

 そして、低く言った。

「そうね」

 全員がほむらを見る。

 ほむらはキュゥべえを見ていた。

「あなたがいなくても続けられるかもしれない。でも、あなたがいない方がいいとは誰も言っていない」

 

 キュゥべえは、赤い目でほむらを見る。

「それは、非合理ではないのかい」

「非合理でもいいわ」

 ほむらは小さく息を吐く。

「あなたがいないと、困る」

 キュゥべえは、また黙った。

 

 杏子が肩をすくめる。

「だから言ったろ。残機ねえなら、後ろ下がってろって」

 さやかも頷く。

「マスコットは守られる側」

 マミが微笑む。

「保護対象が勝手に前へ出ると、困るわ」

 

 キュゥべえは、まどかの腕の中でじっとしていた。

「この扱いは、やはり想定していなかった」

「慣れて」

 

 まどかが言った。

 キュゥべえは少しだけ考えた。

「努力する」

 それだけ言って、白い獣はもう一度、ほどけていく結界の跡を見た。

 

 四人の魔法少女は想定以上に強かった。

 魔女が怯えたように見えるほどに。

 だが、キュゥべえが最後まで見ていたのは、それだけではなかった。

 

 勝った後、誰も一人になっていなかった。

 それが、この実験の一番大きな値なのかもしれない。

 キュゥべえは、それを報告書にどう書くべきか、まだ分からなかった。

 

 

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